千葉の福祉施設、入所の19歳が虐待死か 職員5人関与

日本経済新聞 2013年12月13日

 千葉県は12日、知的障害がある子供たちが入所する同県袖ケ浦市の福祉施設「養育園」で11月下旬、職員の虐待を受けた19歳の男性入所者が意識不明となり、病院で死亡したと明らかにした。県警によると、入所男性の死因は小腸から出血したことによる腹膜炎で、職員らに事情を聴くなどして、死亡原因と虐待との因果関係を調べている。
 施設の男性職員5人が、亡くなった入所男性の他に、入所している11~26歳の男性9人にも継続的に腹を蹴ったり殴ったりする虐待を加えていたことも判明した。
 県と施設によると、5人のうち1人が11月24日午後、ソファに横になっていた入所男性の腹を数回蹴り、入所男性は同日夜に2度嘔吐(おうと)していた。25日夜には意識がなくなり心肺停止となり、病院に搬送されたが26日に死亡した。
 県は障害者総合支援法に基づき今月11日、施設に立ち入り調査し、入所男性を蹴った職員は「亡くなった方に申し訳ない」と謝罪。5人は「支援がうまくいかず手を出してしまった」などと話し虐待を認めている。
 入所男性は2004年から利用しており、遺族には既に事情を説明。約80人の入所者を5グループに分け、少年を含む約20人のグループは約10人の男性職員で担当していたという。
 施設を運営する千葉県社会福祉事業団の近藤敏旦理事長は、記者会見で「指導や教育が不十分だった。親族に大きな悲しみを与え、深くおわび申し上げる」と謝罪した。〔共同〕

養護施設元職員谷さん「子どもの心を知って」絵本で理解を訴え

タウンニュース 2013年12月13日

 児童養護施設川崎愛児園(宮前区)の元職員、谷浩子さんが描いた絵本「かーくん」が話題を呼んでいる。11月の児童虐待防止推進月間で紹介された他、市民館などで読み聞かせイベントも開かれた。谷さんは「施設の子どもたちの心を知ってほしい」と話す。
 「かーくん」は今夏、芸術で子どもたちの成長をサポートする一般社団法人ソーシャル・アーティスト・ネットワーク(S・A・N/江口義実代表理事)主催の児童養護施設をテーマにした絵本コンペで最優秀賞を受賞した作品。
 担当したS・A・Nの加藤孝子さんは「施設の子どもたちの心情を見事に描いている。谷さんだからこそ描けた」と話す。
 主人公かーくんは実際に谷さんが出会った園児がモデル。絵本では職員へのいたずらや父親に対する「あかんべー」など、かーくんの行動とその裏側にある満たされない思いを温かな絵とシンプルな言葉で表現。
 「愛情を受けられず施設に入った子どもたちは感情表現が苦手。大人が理解してあげることが必要」と谷さん。
 加藤さんは「まだ施設の子どもたちへの偏見や差別がある。この絵本をきっかけに地域で育む環境を作ってほしい」と訴える。
 絵本は各区図書館にある他、S・A・N(【電話】03・6740・1650)で販売(1冊1300円)。売上は施設支援に使われる。 

<要保護児童>居所不明800人超 対策組織と教委ばらばら

毎日新聞 12月13日(金)

 劣悪な環境に置かれた子供を関係機関が連携して早期発見、保護するために自治体に設置されている「要保護児童対策地域協議会」(要対協)について、主要都市の要対協の半数以上が、居場所が確認できない小中学生の情報を集約していないことが、毎日新聞の調査で分かった。児童虐待を個別に検討する会議も、相談件数の約4分の1にとどまっていた。期待された連携や情報共有が進んでいない実態が明らかになった。【篠原成行、遠藤拓】

 家庭環境が複雑になるほど各機関の個別対応では解決が困難になるが、虐待死が発覚したケースでも連携が取られていないことが多い。厚生労働省は今年7月の通知で構成機関の情報共有を図るよう求めた。

 調査では道府県庁所在市、政令市、東京23区の計74要対協に2012年度の活動内容を尋ね、京都市を除く73要対協から回答を得た。学校と教育委員会が、在籍しているはずの小中学生の居場所を把握していない「居所(きょしょ)不明者」数については、さいたま、横浜、名古屋、大阪市などの30要対協が「把握していない」と回答。千葉、福岡市、江東区など8要対協は教委が文部科学省に居所不明者がいると報告しているにもかかわらず「0人」と答えた。

 京都市を除く政令市と東京23区の計42教委が文科省に報告している居所不明者は845人だが、この42市区の要対協が把握していたのは136人(16%)。虐待や事件に巻き込まれた可能性がある子供の情報が、教委と他機関で共有されていないことがうかがえる。

 また、児童相談所などから報告された計2万4588件の虐待相談のうち、具体的な対応を話し合う「個別ケース検討会議」が開催された事例は計6625件にとどまった。

 名古屋、川崎市など9要対協は開催件数を「把握していない」などと回答。青森市(相談件数167件、開催件数4件)▽水戸市(同1332件、同18件)▽金沢市(同386件、同4件)など8要対協は、開催件数が相談件数の1割未満だった。会議を開かない理由(複数回答)は「個別の連絡調整などで対応した」(29要対協)「覚知した機関が独自に処理できると考えた」(18要対協)--が多かった。

 一方で、台東区(相談件数234件)▽新潟市(同202件)▽葛飾区(同165件)など5要対協はすべての相談について会議を開いており、対応に違いが出ていることも分かった。

◇要保護児童対策地域協議会

 児童相談所、保健所、学校、教育委員会、警察などが連携して虐待や非行児童への対応を検討する組織。2004年の児童福祉法改正で自治体に設置が求められ、07年に設置努力義務が定められた。現在はほぼ全ての自治体に置かれており、担当者が事例を報告する「実務者会議」(年数回)や、個別事案について各機関が支援内容を検討する「個別ケース検討会議」(適宜開催)などが開かれる。

◇千葉明徳短大の山野良一教授(児童福祉論)の話

 今回の調査は、居所不明者を巡る参加機関の連携が不足していることと、それが深刻な問題につながりうるとの認識を共有できていない可能性を示している。虐待相談でも、マンパワーがあればもう少し多くの個別ケース検討会議を開く余地があるだろう。会議を中学校区単位で開き、きめ細かな虐待予防につなげている自治体もあるが、規模の大きな自治体では要対協が形骸化しており、在り方を見直すべきではないか。

「昔はよかった」は本当か? 戦前の日本人のマナーがひどかった!

ダ・ヴィンチ電子ナビ 12月10日

『「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える』(大倉幸宏/新評論)

 アルバイトがTwitterで悪ふざけした写真を投稿する“バイトテロ”や、相次ぐ食品偽装に対し、「日本人のモラルが低下した」と嘆く人は多い。なかには「戦後の民主主義教育のせいだ」「戦前の日本人はすばらしい道徳心を持っていた」と言う人もいる。だが、それは果たして本当なのか。そう疑わずにいられなくなる本が、『「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える』(大倉幸宏/新評論)だ。というのも本書には、現代人なら仰天必至の、戦前の日本人のマナーの悪さ、モラルの欠如が露わになっているからだ。
 たとえば、多くの人が行き来する駅や電車の中でのマナー。現代は混雑するホームで列をつくって電車を静かに待つ日本人の姿に、外国人から「さすが礼儀正しい」と称賛の声があがるが、大正時代のその光景は“傍若無人の見本市”。1919(大正8)年に発行された電車でのマナー向上のための小冊子には、「無理無体に他を押しのけたり、衣服を裂いたり、怪我をさせたり、まことに見るに堪えない混乱状態を演ずるのが普通であります」とある。こんな有様なのだから、電車が出発した後も車内はカオス。現在のようにお年寄りや病気の人に席を譲るという習慣はなく、先に座った者勝ちの状態。床には弁当の空き箱やミカンや柿の皮、ビールや日本酒、牛乳、サイダーの瓶などが捨てられ、ときには窓の外へ弁当箱やビール瓶などのゴミを投げ捨て、線路の保安員が重傷を負う事件もあったという。
 しかし、道徳心がなかったのは市井の人々だけではない。「天長節」という、かつての天皇誕生日に行われた政府主催のパーティーでさえ、出席者である国内外の“身分の高い人たち”によって、食器やフォーク、スプーンなどが持ち去さられたのだ。当時はこうした“窃盗行為”も、「日常的な光景」だったという。
 こうしたモラルのなさは、海外との貿易の場でも問題となった。戦後は日本の製品は質が良く安全だと評価されるようになったが、戦前は儲け重視で不正行為のオンパレード。とくに大正前期は「特許権の侵害や商標の盗用を繰り返し(中略)粗製濫造を重ねて」いたといい、油に水を混ぜたり、大豆に石を混ぜたりと、その手口も超ズサンだ。
 現在、深刻な問題となっている児童虐待も今に始まった話ではない。戦前の記録によれば、貧しくもないのに息子を学校にも通わせず、家事一切を強制し体罰を続けた父親や、女中と共謀して息子2人を全身に大やけどを負わせながらも幽閉状態にした母親など、虐待例は数多くある。なかには0歳の娘を犬小屋のような箱に寝かせたまま納屋に投げ込んで、5か月間ものあいだ満足に食事を与えなかったというネグレクトの事例も。
 「昔は近所づきあいが濃密だったけれど、今はそれもないから虐待を止められない」とはよく言われることだが、戦前も、虐待に気付かなかったり、知っていても通報をためらったり、単純に見て見ぬ振りをするなど「人間関係の希薄さ」が見えてくる。これについて著者は、「かつての地域社会に対する今日のイメージは、単に美化されているだけの部分が少なくないのかもしれません」と述べている。
 このほかにも、高齢者に対する虐待や、子どものいたずらの横行、しつけの甘さなど、戦前のモラルのなさを浮き彫りにする本書。こうして見ていくと、日本人のモラルは「もともと低かった」としかいいようがない。いや、むしろ今のほうがずっとマシ……というのが事実なのではないだろうか。
 それにしても、大正時代には東大の教授が“第一次世界大戦の終結後から道徳心が低下している”と著書で嘆き、明治時代には貴族院議員が“明治維新以降、日本人の道徳は破綻してしまった”と述べていることからもわかるように、つねに「昔はよかった」と昔を回顧し現状批判をするのが日本人の特性、なのかもしれない。