潜在保育士は「即戦力」

(2013年12月3日  読売新聞)

待機児童解消計画で注目

 保育士の資格を持ちながら、保育現場で働いていない「潜在保育士」の再就職を支援する動きが広がっている。

 保育所に入れない待機児童を解消しようと、国が保育定員を拡大していることが背景にある。潜在保育士は子育て経験がある場合が多く、即戦力としても期待されている。

 「2児の母になり、子どもの命を預かる仕事の責任と誇りを再確認した」。保育士として8年働き、6年前に結婚退職した滋賀県彦根市の女性(35)は10月、復職を目指し、県保育士・保育所支援センターが主催する研修会に参加した。

 研修は計4日。保育園長らから、2009年に改定・施行された国の保育所保育指針や災害、食物アレルギーなどに関する新たな対応を学び、市内の保育所も見学。「以前に比べ、年齢の違う子同士が遊ぶ時間が長くなり、保育士の力量が試されると感じたが、現場に臨み、復帰への思いが強まった」と話す。

 県は、同センターの前身となる「保育人材バンク」を09年に開設。100人以上の再就職を仲介してきた。5月に私立草津保育園(草津市)に週4日のパート職員として復職した鹿島佳美さん(42)は「希望に合う園を紹介され、背中を押してもらえた」。園長の小泉弘子さんも「バンクには熱意ある人材が登録するという安心感がある」と話す。

 同様のセンターは各地で設置が進む。国が今年度から取り組む「待機児童解消加速化プラン」で、「保育定員を2年で20万人分、5年で40万人分増やす」としたためだ。厚生労働省の試算では、実現のために保育士が新たに7万4000人必要。そこで約70万人いるとされる潜在保育士に注目が高まった。

 保育士の求人は、待機児童の多い都市部を中心に急増。福岡市の人材サービス会社は「2~3年前から保育士の派遣依頼が急増し、保育園に営業で足を運ぶ必要がなくなった」。横浜市などで保育所を運営する社会福祉法人も「ハローワークに求人を出して待っているだけでは、人材を集めきれない」と、保育士養成コースのある短大などへの個別訪問を行っている。

 各地で就職相談会も開かれている。待機児童8117人(今年4月現在)を抱える東京都は11月、世田谷区で「保育園就職相談会」を開催。男女約90人が、33事業者が構えたブースで勤務の説明などに聞き入った。同区で来夏に保育所を新設する社会福祉法人「種の会」(神戸市)の担当者は「潜在保育士は即戦力。職員が幅広い世代で構成されれば、多様な保育ができる」と利点を挙げる。

 人材サービスのパソナグループ(東京)は昨年から、首都圏で保育士の就職・復職セミナーを計4回開催。広報室は「保育士の働く場は以前より広がった。ベビーシッターなど短時間の仕事で復帰し、勘を取り戻したら保育所に移るといった、キャリア形成の道も開けている」と話す。

 日本総合研究所主任研究員の池本美香さんは「保育士の量的確保は急務だが、質の充実も欠かせない。潜在保育士を掘り起こすだけでなく、早期離職を防ぐため、働きやすい職場環境についての議論を深めるべきだ」と話している。

人材確保へ 賃金改善…資格手当、昇進制度を整備

 保育士が不足する一因に、待遇面の課題がある。担い手確保のため、働きやすい環境やキャリアアップの仕組みを整える動きも出ている。

 厚生労働省によると、保育所に通う子どもは増え続け、2011年は約212万人。一方、保育所で働く保育士は約38万人で、ここ数年は微増にとどまる。

 愛知県の女性(29)は昨年、幼稚園から私立保育所に転職したが、3か月で辞めた。保育は夜8時までだが、子どもが帰った後も親の苦情対応や翌日の子どもたちの遊びの準備に追われた。手取りは月20万円足らず。「サービス残業は当たり前。朝、夜食持参で出勤し、帰りは終電間際ということも多かった」。今は喫茶店でアルバイトをしている。

 同省の09年の調べでは、年間離職者は約3万人。今年5月に同省が実施した求職者意識調査では、保育職を望まない有資格者958人が挙げた理由(複数回答)として最も多かったのは「賃金が希望と合わない」(48%)だった。

 働く保育士の6割が勤務する私立保育所の場合、平均月給(12年)は21万4200円で、全職種より11万円余り下回る。平均勤続年数も7・8年と、全職種に比べて4年も短い。こうした現実に、保育士養成校を出て保育所に就職する新卒者は51%(11年)しかいない。

 認可保育所は、保護者が払う保育料と国や市町村の補助金で運営されるが、国が支出に際して設定する基準賃金の水準が00年から据え置かれ、実態に合わないという指摘もある。西南学院大教授(幼児教育学)の門田理世さんは、保育や幼児教育への公費支出の規模が対国内総生産(GDP)比で0・96%(09年度)と、先進諸国では最低水準だと説明。「保育職の待遇を改善しなければ、保育の質も高まらない」と話す。

 こうした中、労働環境を整えることで人材確保を図る動きも出てきた。さわらび福祉会(千葉県松戸市)は昨年から、全職員に月額1万円の資格手当を支給。主任以上を対象にした管理職手当も7~10%引き上げた。

 太陽光発電パネルやLED(発光ダイオード)照明の導入、食材の一括購入などでコストを削減し、今春には定員120人の保育園を新設。保育士20人をスムーズに確保できたという。「良い人材に落ち着いて働いてもらうことが経営の安定につながると考えた」と担当者は話す。

 保育サービス会社「サクセスホールディングス」(神奈川)は今年、勤続4年目以降の社員は本人の希望で昇進試験が受けられる制度を導入。10月の初試験には7人が挑んだ。以前なら、8~10年の職歴が必要だった「主任」になる近道が出来た格好で、経営企画室は「若くても能力に見合った待遇を保障することで、より働きやすい環境を整えた」と説明する。(辻阪光平)

地域の民生委員 どんな仕事?

(2013年12月3日 読売新聞)

地域で活躍する民生委員が、近く一斉に改選されるとか。そもそも、どんな仕事をしているのですか?

福祉と住民の「つなぎ役」

 民生委員は、近隣の住民が抱える悩み事などを解決するため、福祉事務所に働きかけたり必要な支援サービスを紹介したりする「地域のつなぎ役」だ。厚生労働相が委嘱する非常勤の地方公務員だが、基本的に無報酬で、地域福祉に取り組むボランティアだ。

 全国で約23万人が活動しており、任期は3年。今年の12月1日に一斉改選を迎える。

 委員の職務について、民生委員法は「住民の生活状態を適切に把握する」「相談に応じ助言する」「福祉サービスの情報提供を行う」などと規定。児童福祉法が定める児童委員も兼ねており、子どもや妊産婦の課題にも対応する。高齢者や障害者を訪問したり、学童の登下校を見守ったりする姿がよく見られる。

 2012年度の統計によると、委員1人あたり年31件の相談・支援に取り組み、165回の家庭訪問や電話連絡を行っていた。活動日数は年130日を超え、3日に1度は仕事をする多忙ぶりだ。

 起源は、1917年に岡山県で生まれた「済世顧問制度」。人格が優れ、慈悲心に富んだ篤志家らが名誉職として住民の貧困防止事業に取り組んだ。その精神は今に引き継がれ、委員の使命感は強い。

 東日本大震災では、被災3県で56人の委員が、安否確認などの活動中に犠牲になった。各委員に電話代や交通費などとして自治体が支給する活動費は原則年5万8200円で、実態は「手弁当」の奉仕活動となっている。

 そうしたなか、最大の課題は「なり手」の不足だ。

 全国民生委員児童委員連合会などの調査によると、委員の約8割を60歳以上の人が占め、女性の比率が高まっている。自営業者や専業農家などが全国的に減るなか、時間に余裕のある退職者や主婦が委任される傾向がみられる。

 だが、オートロックマンションの増加や個人情報保護意識の高まりなどで、住民情報の収集は難しくなっており、孤独死や児童虐待など困難な問題に直面し、任期途中で退任するケースもあるという。

 都市化や人口減少が進み、住民同士のつながりが希薄になり、「つなぎ役」の役割は重くなっている。その人たちをいかに支えていくかも、課題だ。(石原毅人)