小児用補助人工心臓承認へ 移植待つ子供たちの命綱

産経新聞 2015年6月12日

厚生労働省の専門部会は12日、ドイツの医療機器メーカー、ベルリンハート社が開発した小児用補助人工心臓「EXCOR」の国内販売を了承した。来週にも厚労省が正式に承認する。国内で小児用の補助人工心臓の承認は初めてとなる。
EXCORは、重症の心臓病の子供が心臓移植を受けるまでの「つなぎ」として使われる。欧米では1990年代から千例以上の使用実績があるため、海外では使用可能な医療機器なのに日本で使用できない「デバイス・ラグ」の象徴的存在とされてきた。
今年1月には、EXCORを装着できなかった6歳未満の女児が、代わりに使った簡易型補助人工心臓を使用中にできた血栓で脳の血管が詰まり、脳死になった。女児の両親は早期承認を求めるコメントを発表し、日本小児循環器学会も厚労省に要望書を提出していた。
平成21年に厚生労働省が「早期導入が必要な医療機器」と選定してから約6年。これまで容体が悪化したら死を待つしかなかった重い心臓病の子供たちにとって、心臓移植までの間、低下した心機能を補い、命をつないでくれる小児用補助人工心臓の承認は、まさに“一筋の光”となる。
「私の脳裏には、この医療機器があれば助かったはずの多くの子供たちとそのご家族の顔が浮かんでいる。『これまで』と『これから』では、子供の心不全治療に大きな違いがある」。国立循環器病研究センター小児心臓外科の市川肇部長は今回の決定に喜びの声を上げた。
日本臓器移植ネットワークによると、4月末時点で心臓移植を待つ0~9歳の子供は15人。承認に向けた治験を統括してきた東京大の小野稔教授(心臓外科)は「この中にも今後EXCORを装着できる子供がいるだろう」とした上で、「ようやく子供にも補助人工心臓が使えるようになる。承認後、できるだけ早く保険償還も行われることを願っている」と話す。
ただ課題は残る。補助人工心臓の長期使用には血栓が生じて脳梗塞などを発症させるリスクがあるため、臓器提供者が現れなければ、いずれ命を落とすことになる。子供たちを救うには臓器提供者の存在が不可欠となる。
心筋の一部が硬くなる難病「拘束型心筋症」を患う金沢佳代ちゃん(1)=千葉県流山市=の両親は、佳代ちゃんを救うため、米国に渡航して心臓移植することを希望し、現在募金活動を行っている。
移植ネットにも移植登録をしているが、拘束型心筋症では、補助人工心臓の効果が十分得られないケースが多い。肺高血圧症も合併し、長期の待機は難しいため早期の移植が必要だが、これまでに6歳未満の心臓提供は2例しかない。
父、輝宏さん(38)は「国内で治療を続けたいが、娘の容体は厳しく時間がない。娘を救うためには渡航移植しかない。多くの方の支援をお願いしたい」と苦しい胸の内を語る。
佳代ちゃんが入院する東京女子医大病院循環器小児科の朴仁(ひと)三(み)診療部長は「佳代ちゃんのような患者を国内で救うには臓器提供者の増加が必要だ。そのためには移植医療に対する社会の意識改革や理解が深まらなければ」と指摘。小野教授は「心臓移植を受けた子供が元気に生活している姿を、多くの方々に知ってもらいたい」と話している。

治験「娘、驚くほど元気に」 小児補助人工心臓、承認へ

朝日新聞アピタル 2015年6月13日

厚生労働省の専門家会議が12日、重い心臓病の子どもが使う補助人工心臓の承認を了承した。来週にも正式承認され、早ければ夏にも保険適用される見通し。臨床試験(治験)1例目となった女児(4)の母親(40)が朝日新聞の取材に体験を語った。
ドイツのベルリンハート社製で、神戸市の企業が昨年11月、承認申請した。心臓移植までの間装着する。乳児から使える人工心臓の承認は初めて。心臓移植のハードルはあるが、重い心臓病を抱える子どもと家族には希望の灯となりそうだ。
「心臓移植以外では助からない」。2012年3月、生後10カ月を過ぎたころに拡張型心筋症の疑いが強いと言われ、母親は「頭が真っ白になった」という。治療のため転院した東大病院でも状態が悪化。「1カ月先、どうなっているかわからない」と言われた。
補助人工心臓は血液の循環ポンプの部分に血栓ができ、脳梗塞(こうそく)を起こすリスクがある。感染症を起こすこともある。だが、移植がいつ実現するかはわからず治験参加に望みを託した。「リスクはあっても可能性がある方を選ぼうと」
同年8月、埋め込み手術を受けた。血液循環が健康な子と同程度になり、手術後1カ月を過ぎたあたりから様子が変わった。ベッドで寝ていたのが、病室内を歩き回るようになった。体重は約7キロから9キロに。音楽に合わせて手をたたいて喜ぶこともあった。
見舞いに来た7歳上の兄に会うため、電源コードが届くエレベーター付近まで移動したことも。「想像できないくらい元気になって、家に一緒に帰って普通の生活を送らせてあげたいなと思うようになった」
女児の両親は海外移植の道を選んだ。記者会見を開き、計2億円を超える費用が寄付で集まった。装着から9カ月後の13年5月、心臓移植が実現した。
厚労省によると、治験では9人に使われ、女児を含めた4人が移植に至った。移植を待機している5人も経過は良好で、装着してまもなく2年になる患者もいる。承認されれば、年間で平均10人ほどに使われる見込みだ。

厚労省、小児用補助人工心臓を承認 国内で初

フジテレビ系(FNN) 2015年6月19日

重い心臓病の子どもが移植を待つ間に使う小児用補助人工心臓の国内販売を、厚生労働省が初めて承認した。
承認されたのは、兵庫・神戸市の医療機器販売会社が承認申請していたドイツ製の小児用補助人工心臓で、厚労省は、医療上の必要性が極めて高いとして、通常1年かかる審査をおよそ7カ月で実施した。
国内で、小児用の補助人工心臓が承認されるのは初めて。
小児用補助人工心臓をめぐっては、2015年1月、重い心臓病で移植手術を待っていた女の子が、補助人工心臓を使えず、脳梗塞を起こして脳死となっていた。.