仔という字 6月3日

産経ニュース 2014年6月3日

親から虐待を受けて病院の児童精神科に入院した3人の小学生が主人公だ。退院して17年後、再会した3人の周辺で次々に殺人事件が起こる。平成11年に刊行された長編小説『永遠の仔』は、200万部を超えるベストセラーとなった。
タイトルの「仔」という字は、仔猫や仔羊のように、動物に使われる場合が多い。動物の赤ちゃんが母親のお乳を吸おうとすがりつくように、人間も親の絶対的な愛情を求めずにはいられない。著者の天童荒太さんは、そんな意味を込めて選んだという。
神奈川県厚木市のアパートの一室で、5歳の男児、斎藤理玖(りく)ちゃんも母親の愛情を必死に求めていたはずだ。どんな事情があったのか不明だが、母親は出ていった。父親は、母親の代わりに愛情を注ぐどころか、食事や水を与える回数を減らしていった。やがて、週に1、2日程度にしか帰らなくなる。
理玖ちゃんは、ひとりぼっちで餓死した可能性が強い。「仔」という字は、「子」に「人」が寄り添っているようにも見えるというのに。むごいとしか言いようがない、仕打ちである。
今年4月に中学に入学するはずの男児の所在がわからない。児童相談所から警察に通報があり、ようやく理玖ちゃんの白骨化した遺体が見つかった。亡くなってから7年もたっていた。同じように居所がわからない児童が、全国で700人以上もいるという。
虐待事件が発覚するたびに、児童相談所や警察、学校の対応の甘さが指摘される。3年前、児童虐待についての小紙の取材に応じた天童さんは、虐待が起きた後の対策だけでは不十分だという。義務教育でセックスと出産、育児についてきちんと教え、望まぬ妊娠を減らす、予防策の重要性を訴えていた。

小学生の児童を虐待したとして男を逮捕

OBS大分放送ニュース 2014年6月2日

9歳の男子児童に対し自宅で虐待を繰り返し、全治3か月の重傷を負わせたとして、警察は別府市の37歳の男を傷害の疑いで逮捕しました。逮捕されたのは、別府市の飲食店経営、若林仁容疑者です。若林容疑者は先月25日ごろ、自宅に同居している9歳の男子児童に対し、顔を殴ったり頭をガラスコップで殴りつけたり、繰り返し暴行を加え、全治3か月の重傷を負わせた疑いです。取り調べに対し、若林容疑者は「殴ったことはまちがいない」と供述し容疑を認めているということです。先月27日、児童が通う小学校から「顔にアザがある」と市に報告がよせられ、県中央児童相談所が警察に通報しました。若林容疑者は今年4月にも虐待の疑いが通報され、警察から警告を受けていました。警察は同居している児童の母親からも話を聞き、日常的な虐待がなかったかなどを調べています。

「安心の環境」を整え対応 「強度行動障害」

中日新聞 2014年6月3日

激しい自傷行為、暴力などの問題を繰り返す「強度行動障害」の人たちは、家族や支援者を苦しめるだけでなく、虐待の被害者にもなりやすい。本人が周囲の状況や「これから起きること」を理解して安心できるように環境を整えれば、問題を防いだり、軽減したりする場合も多いことが分かってきた。その取り組みと、昨年度から始まった国の研修事業を紹介する。
障害者の生活を支援する「NPO法人ゆう」(豊田和浩理事長)が、愛知県豊川市で運営する「ゆうサポートセンターどーや」。重度の知的障害を伴う自閉症の荻野嵩大(こうだい)さん(18)は、大葉を袋に入れて箱詰めする。
大葉は他の利用者が計量して白いかごに入れる。嵩大さんは大葉を袋に入れた後、厚紙で区切られた段ボールに三十袋ずつ詰めていく。帽子や手袋などを着けることも一つ一つ練習した。見た物を覚えることが得意な自閉症の特性を生かし、混乱の少ない環境を整えていく「視覚的構造化」と呼ばれる手法だ。
さらに一日のスケジュールは、本人が理解できる形で示され、「これからやること」が見通せる。重要なのは、周囲を仕切られた専用スペースでの休憩時間。ソファに座ってペットボトルをたたいて遊んだり、音楽を楽しんだり。
発達障害者を長く支援している豊田理事長やスタッフらは、利用者ごとに「生活の支え方」を考えて、取り組んでいる。
一年前、特別支援学校の高等部に在籍していた嵩大さんは混乱の渦中にいた。怒って叫ぶ、物を壊す、服を脱いで裸になる、暴力をふるう、送っていった車に乗ったまま、二時間も降りない-など。いつも怒っていて、のどをカッカッと鳴らしていた。
「悪夢のようでした」と同法人の副理事長で、母親のます美さん。当時の嵩大さんの状態を、ます美さんとスタッフが「強度行動障害スコア」=表=で採点してみると、平均は二十六点。十点以上が半年以上続けば同障害と判定でき、かなりの深刻さだ。特別支援学校を昨夏に退学し、家庭と通所先の双方で混乱のない環境に身を置くと、次第に安定し、現在のスコアは十点前後に下がった。
強度行動障害の多くは、重い知的障害を伴う自閉症の人が、強い不安を感じる状況に置かれることから起こる。支援の研究は進んできたが、「ゆう」のような取り組みができる事業所はまだごく一部だ。同法人は米国で子育てをしてきたます美さんが帰国後、サービスの手薄さに驚き、二〇〇三年に仲間の豊田さんらと一緒に立ち上げた。
四月にスタートした「どーや」の利用者は現在四人。豊田さんは「試行錯誤の連続。地域の支援者たちで定期的に勉強会を開き、困っているケースを協議したりしている」と話す。

厚生労働省は昨年度から「強度行動障害支援者養成研修」を始めた。幼少期からの継続支援が乏しいために問題を生んでおり、施設内などでの虐待にもつながりやすいことから、一二年に障害者虐待防止法が施行されたのを機に、支援の充実に乗り出した。
昨年十月に第一回の研修が開かれ、百十三人が参加。今後も定期開催し、その参加者が地方で研修を開いて啓発する。重度知的障害者を支援する国立のぞみの園(群馬県高崎市)が同省の委託を受け、プログラムを開発した。
生活を支える基本ツールとして、(1)安定して通える日中活動(2)居住内の物理的構造化(3)一人で過ごせる活動(4)確固としたスケジュール(5)移動手段の確保-の五つを掲げ、研修でそれらの取り組みの基礎や理念などを学ぶ。物理的構造化とは棚や家具の配置、間仕切り、カーテンなどを使い、作業、遊び、食事などの場を本人に分かりやすく区別したり、余分な刺激を取り除いたりしていく工夫。スケジュールでは、一人一人の理解力に応じて文字や絵カード、写真などを使う。
のぞみの園では〇六年から、知的障害者や精神障害者の外出を手伝うヘルパー養成の研修も実施。それを土台に今回のプログラムを作成した。同園研究部長の志賀利一さんは「医療とも連携しながら、本人が安心できる環境づくりをしようと、できるだけ分かりやすいものを目指した。標準的な支援方法はほぼ固まっているが、施設などの現場での取り組みはまだまだ。虐待防止のためにも広めていきたい」と話す。
(編集委員・安藤明夫)