虐待疑わしい脳出血事例、児童相談所通告3割強

カナロコ 2014年6月7日

頭蓋内出血で横浜市内の地域中核病院などに入院した乳幼児のうち、児童虐待が疑われる事例でありながら、児童相談所へ通告されたのは3割強にとどまっていたことが、これらの病院の医師らでつくる「横浜市児童虐待防止医療ネットワーク」の調査で明らかになった。同ネット立ち上げ人の一人で、横浜労災病院小児科の佐藤厚夫医師(44)は「医療現場の認識不足で、虐待防止対策に結び付いていない」と警鐘を鳴らしている。
同ネットは同院や県立こども医療センター、横浜市大、昭和大北部など市内の地域中核病院など11施設から、各院が設けた虐待防止委員会の医師らが参加して昨年9月に発足。児童虐待に関する情報交換などを行っている。
調査は同ネットの11施設を対象に昨年末に実施。結果は6日にパシフィコ横浜(同市西区)で開かれた日本小児救急医学会で発表された。
それによると、11施設で2011年1月~13年12月の3年間に、急性硬膜下血腫などの頭蓋内出血で入院した2歳未満の乳幼児は51例あった。
このうち31例が室内で発生。通常、乳幼児の室内事故で頭蓋内出血を起こすほど重症化することはまれなため、これらは虐待が疑われるケースだが、児相に通告されたのは11例(35%)にとどまった。
乳幼児揺さぶられ症候群の特徴的な症状である網膜出血や、やけど痕など虐待を強く疑わせる皮膚所見も併せて見られた事例は15例あったが、これも児相に通告されたのは8例(53%)だった。いずれのケースも児相を経て、警察通報に至ったのは1例のみだった。
児相通告以前に、院内の虐待防止委員会に報告していなかったり、虐待がないか確認するための全身レントゲンや眼底検査を行っていなかったりしたケースも多かった。
児童虐待防止法では、病院は児童虐待を発見しやすい立場とし、早期発見に努めるよう定めている。だが調査結果からは、虐待が強く疑われる症例であっても、医師や院内の虐待防止委員会の認識不足から、児相などとの連携に至らず、早期発見に結び付いていない現状が明らかになった。
佐藤医師は「医療現場全体で虐待への認識と感度を高め、早期発見に結び付ける体制を早急に整える必要がある」と話している。

認識不足、医療現場に警鐘、医師らネットワーク発足
横浜市児童虐待防止医療ネットワークは、近年の児童虐待の増加に危機感を抱く医師らの発案で発足した。市内の地域中核病院など11施設が参加。いずれの病院も小児科などの医師や看護師、医療ソーシャルワーカーらで構成される「虐待防止委員会」を持つのが特徴だ。
各病院では、けがなどで受診した子どもに虐待が疑われた場合、主治医が院内の虐待防止委員会に報告。委員会メンバーが保護者への聞き取りをするなどして虐待の恐れがないか確認し、必要があれば児童相談所に通報する流れを想定している。
しかし、今回の調査結果からは、虐待が疑われるケースの頭蓋内出血でも、院内の虐待防止委員会自体への報告が6~7割、さらに児相への通報は3~5割にとどまった。
調査結果を分析した佐藤厚夫医師は「主治医はけがや病気の治療に専念する必要があり、その背景にある虐待の可能性まで察知する余裕がない。虐待防止委員会もまだ十分な機能を果たせていない」と指摘。
同ネットでは年3回程度の会合を開き、各病院の虐待防止委員会が事例を報告し合うなどして、互いにレベルアップを目指す。
【神奈川新聞】

<社会福祉法人>元理事長、1億円で市議に売却 大阪・阪南

毎日新聞 2014年6月8日

大阪府阪南市で老人ホームを運営する社会福祉法人「幸進(こうしん)会」の理事長だった男性(82)が地元の阪南市議(60)に法人理事長職を譲り、約1億円を得ていたことが、毎日新聞の調査で分かった。法人を売却した形になっている。社会福祉法人(社福)は建設や運営に多額の税金が投入されており、厚生労働省は「社福は公のものであり、理事長でも資産を個人所有できない。売買は許されない」と問題視している。
法人関係者や内部資料によると、理事長だった男性と、理事長への就任を望んでいた市議が、複数の仲介者を通じて交渉した。2009年12月、男性が理事長職を譲ることで合意し、市議は手付金を支払った。さらに約3カ月後、男性の知人が代表を務める医療関連会社(大阪市)の口座に市議が残金を振り込み、総額約1億6000万円を支払った。男性は、仲介者への手数料などを差し引いた約1億円を受け取った。
男性は10年11月に理事長を辞任し、以降は法人の運営に関わっていない。理事長には、仲介者の一人の清掃関連会社社長が一時就いた後、市議が11年8月に就任した。法人名は12年2月、レーベンダンクに変わった。
旧幸進会は00年に設立。老人ホーム(定員50人)やデイサービスなどの事業を展開してきた。大阪府は1999~00年、老人ホームの建設補助金として計約4億円を支給。01年以降は毎年約3000万円の運営助成費を給付してきた。レーベンダンクに移行後も助成費を出している。
多額の支援を受け、税制上の優遇措置もある社福は、社会福祉法で非営利団体と位置付けられている。法律に明確な売買禁止規定はないものの、営利活動につながる法人の売買はできないと解釈されている。厚労省は「売買行為は営利目的と言え、不適切だ」としている。
市議は毎日新聞の取材に対し男性側への支払いを認め、「法人の土地や施設を譲ってもらうので、何らかの対価が必要だと思った。地元の施設なので、人助けしたいと思った」と話した。
仲介者の一人は「交渉の場に同席した。(理事長だった)男性の代理人だったが、売買が禁止されていると後に指摘され、(代理人を)降りた」と認めた。元理事長の男性は「(社福を)売っていない。(仲介者に)指示もしていない。市議のことも知らない」と話している。
法人を指導・監督する阪南市は「事実関係を確認し、大阪府と対応を協議する」としている。【藤田剛、山田毅】

<医療費>訪問診療、撤退の動き 報酬減額で

毎日新聞 2014年6月8日

医師「採算合わない」
4月、医師が受け取る医療費(診療報酬)のうち、老人ホームなどを訪れて診察した場合の報酬が最大75%減額された。集合住宅の入居者をまとめて医療機関にあっせんする「患者紹介ビジネス」の排除を狙ったものだった。しかし、まじめな医師の間にも「採算が合わない」と撤退する動きが出始め、厚生労働省は苦慮している。【中島和哉、細川貴代】
2月末、大阪府の医療法人事務長が全国で数十カ所の有料老人ホームを経営する東京の業者を訪ねた。法人は、都内のホームなどこの業者が運営する2カ所の施設に医師を派遣している。対応した担当者に事務長は「専門職として患者を放り出すのは大変忍びない」と切り出し、「だが」と言葉を継いで頭を下げた。
「この報酬では事業体として持たない。4月に遠方の施設からは撤退します」
結局、業者には計三つの医療機関から撤退の通知が届いた。訪問診療を受ける5施設計350人の入居者は、平均年齢84歳。認知症で通院できない人、定期的な体調管理が必要な人も多い。仰天した担当者は全国をかけ回り、ぎりぎり3月末に別の医師を確保したものの、楽観はしていない。「4月分の報酬が払われるのは6月。第2の撤退の波が7月に来るのでは」
医師が高齢者のグループホームなどを訪れると、3月までは同じ日に複数の患者を診ても1人当たり2000円の技術料を請求できた。さらに同じ患者を月に2回以上訪れると、月5万円が加算された。ところが、4月以降はこうした「一括診察」をすると技術料は半減される。そして同じ患者を月に2回訪れる場合、2回とも一括診察であれば加算は75%カットとなった。
厳しい措置に2月以降、訪問診療からの撤退が相次いでいる。また多くの医療機関は「一括診察は月1回」「同じ施設では1日1人しか診ず、同一施設を連日訪れて患者数を稼ぐ」という防衛策に走っている。
5月末の昼。横浜市港南区の高齢者グループホーム「クロスハート港南・横浜」に入居する80代の女性は、昼食を後回しにし、区内の診療所「ホームケアクリニック横浜港南」の足立大樹院長(44)の往診を待っていた。自ら運転して回る院長の訪問先は、午前中に6軒。4月以降「1日1患者」の往診先が増えて移動が忙しくなり、到着時間が読みにくくなった。
「トイレが頻繁でぼうこう炎が心配なの」。そう訴える女性に足立院長は尿検査を勧めた。結果は問題なし。20分弱の診察に女性は「ずっと不安だったので、安心した」と笑顔を見せた。
このホームには20人弱の患者がいる。同診療所は医師を月に2回派遣し、1回で全員診察することで各患者を月に2回ずつ診ていた。それが4月以降は「一括診察」を月1回に。常勤医を1人増の5人とし、交代で連日訪れ患者全員を2回ずつ診るようにした。
それでも訪問診療先は14施設、自宅住まいの人も含めた往診患者は700人に上る。8施設の120人は従来通り月2回でまとめて診ざるを得ない。人手は足りず、月に20件前後ある訪問診療の申し込みはやむなく断っている。
八王子市など都内で三つの診療所を運営する医療法人財団「共立医療会」も、「1施設1患者」の診察を取り入れた。施設には昼休みを削って連日通う。だがすべてに対応できず、減収は年750万円に及ぶ。杉山修次理事長は「黒字は見込めず体力的にも厳しい。訪問診療をどこまで継続できるのか」と不安を口にする。
医師を受け入れる側の介護施設にも影響が出ている。兵庫県の施設では4月から、職員が事前に入居者の血圧や体温を測っておかねばならなくなった。病院側の人件費削減で、看護師が医師に同行しなくなったためだ。医師が連日訪れるようになった横浜市栄区の施設は、対応に大わらわ。担当者は「時間調整が大変。お風呂に入れなくなる人、散歩に行けなくなる人が出ている」と嘆く。

在宅医療推進に逆行
厚労省が訪問診療に切り込んだのは、高齢者住宅を管理する業者らが医師に入居者をまとめて紹介し、見返りに報酬の数%を受け取る事例が横行していたことが背景にある。1日に60の施設を回って荒稼ぎする医療機関もあったという。
減額により悪質な事例は減ったようだ。また訪問診療の現場には、新たな効果を生んだと評価する声もある。鹿児島市の「ナカノ在宅医療クリニック」の中野一司院長はその一人。「1施設で患者1人」の診察が増えたことで「顔と診療内容が一致し、診療が丁寧になった」という。施設に多くの医師が出入りするようになった点も「(多様な診察で)医療の質が上がる」と見る。
とはいえ「一罰百戒」が過ぎた感は否めない。大阪府保険医協会が5月中旬、集合住宅への訪問診療を続けるかどうかを緊急調査(回答102医療機関)したところ、「継続する」は34・3%。一方、「1年後はわからない」が30・3%、「体制縮小」は8・8%だった。東京保険医協会理事の申偉秀医師は「熱心な人たちは、歯を食いしばって頑張っている。だが、次の診療報酬改定もこの報酬のままなら、撤退が相次ぐだろう」と指摘する。
そもそも厚労省は医療費抑制を目指し、在宅医療推進の旗を振ってきた。費用のかかる重症者向け入院ベッドを減らす一方、24時間診察できる地域の診療所を厚遇してきた。今回削減された訪問診療関係費は、在宅医療推進の目玉として2012年度に増額したばかりだ。
わずか2年での減額に、ホームケアクリニック横浜港南の足立院長は「厚労省は在宅医療推進を自ら妨げている」と苦い顔をする。介護施設の関係者は「政策に一貫性が感じられない」と冷ややかだ。
訪問診療を手掛けるのは、11年時点で病院は全体の28%、診療所は20%。2年前の訪問診療費増額はこの割合を伸ばすことに狙いがあった。
厚労省幹部は「訪問診療なしに在宅医療は成立しない。今回の減額で本当に困るなら見直さないといけない」と、早々の再値上げも示唆する。