536万人「ギャンブルの衝動抑えられず」 厚労省推計

朝日新聞デジタル 2014年8月21日

ギャンブル依存症の疑いがある人が推計で536万人に上ることが、厚生労働省研究班の調査でわかった。成人全体で4・8%、男性に限ると8・7%を占め、世界的にみて特に高かった。安倍政権の成長戦略では、観光立国を目指し、カジノを備えた統合型リゾート構想が盛り込まれた。構想にも影響を与えるデータだ。
調査は昨年、全国の成人約7千人を無作為に選び、このうち4153人が回答した。「意図していた以上にギャンブルをしたことがある」など、いくつかの質問に一定以上当てはまる人を、ギャンブルしたい気持ちを抑えられない「病的賭博」(ギャンブル依存症)の疑いがあるとした。
推計の結果、病的賭博の疑いがある人が成人男性で438万人(8・7%)、女性で98万人(1・8%)いた。08年の前回の調査とほぼ同じだった。

身だしなみ学んで社会へ 養護施設の中高生に教室

愛媛新聞ONLINE 2014年8月20日

社会に巣立つ児童養護施設や自立支援施設の中高生を対象にした身だしなみセミナーが19日、愛媛県松山市持田町3丁目の県総合社会福祉会館であった。県内7施設から参加した男女13人が、社会人としてのマナーやメークの基本を学んだ。
愛媛児童福祉施設連合会の梶原淳一会長は「姿勢や笑顔などを身につけ、社会人の第一歩として自覚を持ってほしい」と激励。
講師は「背筋が伸びていると頼りがいがある」「幸せな人生には笑顔が欠かせない」とアドバイスし、お辞儀や笑顔を練習した。
女子生徒は化粧水や乳液の正しい使用法を学び、鏡をのぞき込んでチークやアイシャドーで好感をもたれるメーキャップに挑戦。男子生徒は洗顔の仕方などを身につけた。

森担当相「全国に広げたい」 三重の「名張版ネウボラ」見学

産経新聞 2014年8月20日

森まさこ女性活力・子育て支援担当相が19日、名張市を視察した。県内の自治体では初めて妊娠期から育児の相談まで一括して相談に乗る総合的な出産・子育て支援システム「名張版ネウボラ」制度などを見学した。
森担当相らは鈴木英敬知事らとつつじが丘公民館の子育て広場で子供たちとふれあった後、システムの一環で市防災センター内にある鴻之台・希央台まちの保健室を見学。システムが7月に保健室で最初に始まったことや今後、市内14カ所の公民館などの市の施設で相談を受けることなどの説明を受け「少子化に歯止めをかけるため、名張をモデルケースに出産などを安心してできるような制度を全国的に広げたい」と話していた。
システムは内閣府のモデル事業としてスタート。これまで乳幼児らの相談事業は、妊娠期に病院、育児は市内唯一の市保健センターで受け付けていたが、各地区の保健室で看護師資格をもったチャイルドパートナーや母子保健コーディネーターらが乳幼児の病気から母親の不安まで総合的に相談を受け付ける。また、家族構成や就労状況に応じ児童相談所や保育所などとも連携して対応することにしている。
「ネウボラ」はフィンランド語で「アドバイスする場所」を表す。フィンランドは福祉先進国として昭和19年から妊娠、出産、就学前まで総合的に切れ目なく子育てを支援するワンストップサービスを取り入れ注目を集めている。

遊びながら「大人」を知って 児童養護施設の小学生が豊洲で運動会

オルタナ 2014年8月19日

NPO法人BLUE FOR TOHOKU(ブルーフォートーホク)は18日、福島県内の児童養護施設の子どもたちを対象に、東京で就業支援とミニ運動会を行う「おいでよ!東京2014」を開催した。ボランティアスタッフとして参加した社会人と交流することで、子どもたちに将来の「キャリア」について考えてもらうことが狙いだ。子ども一人ひとりにボランティアスタッフが付き添い、ひと夏の思い出をつくった。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
当日参加したのは、福島県内の4施設から来た60人ほどの小学生。午前中は、職業体験施設「キッザニア東京」で遊び、午後は豊洲公園でミニ運動会を行った。同企画へのボランティアスタッフとして、社会人80人ほどが集まった。子どもたちには、最初から最後まで、ボランティアスタッフが一人ずつ付き添い、交流を図った。
ブルーフォートーホクが同企画を開催したのは、今年で3回目。企画の目的は、子どもたちに「将来就きたい職業を考えてもらうこと」だ。同団体の小木曽麻里代表は、児童養護施設の子どもたちの課題として、「将来の夢が描けないこと」と指摘する。
理由は、大人と接する機会が少ないことや、親からの虐待を受けて施設に入った子どももおり、「大人」に抱くイメージが悪いということがある。小木曽代表は、「遊びながら大人と話すことで、少しでも大人に対するイメージが変わるきっかけになればうれしい」と話す。
さらに、施設卒園後の進路も課題として挙げる。児童養護施設で保護されている児童は18歳になると卒園しなくてはならない。施設を卒園するに当たり、生活支援として日本財団や新聞社などから200万円を受け取る。だが、この200万円だけでは、資金的に自立していくことへの不安は消せず、大学や専門学校に進学する割合は18.2%(厚生労働省2008年調査)と低く、73.4%が就職をする。
しかし、就職をしても離職率は高い。幼少の頃に受けた虐待や、施設に入ることで大人との接点が少なくなり、 コミュニケーションを避けてしまい、存分に就職活動ができないことや、大学や専門学校に通えないので、自分の適正な職業が分からないことが原因とされる。
また、頼る親がいないことや、転職を繰り返すうちに、保証人との距離を子どもたちの方からとっていくようになり、お金を借りることすらできないこともある。
この社会的問題の解決のために、「企業や大人たちの支援が必須」と小木曽代表は訴える。同企画が成立した背景には、有給休暇を取って参加した80人ほどの社会人ボランティアと、協賛企業の存在が大きいという。
たとえば、徹夜で準備をしたボランティアスタッフがいたり、協賛企業の1社である伊藤忠商事は、キッザニア東京へのチケット人数分と、参加した4施設へそれぞれ25冊ずつ、伊藤忠記念財団が選ぶ児童図書100冊を提供した。また、グローバルに事業を展開する同社が今回協賛するにあたり、10人の外国人ボランティアを初めて招集し、次代を担う子どもたちへ異文化に触れる機会を提供した。
小木曽代表は、「人と資金の問題を解決できる仲間を募集しています」と呼びかける。目標は、福島県内にある全7施設の子どもたちに、同企画を体験してもらうことだ。

<難病>慢性疲労症候群 実態調査開始へ

毎日新聞 2014年8月20日

神経の機能障害などにより激しく疲労する難病「筋痛性脳脊髄炎(せきずいえん)(慢性疲労症候群)」について、患者の日常生活の困難さや症状の経過を把握する調査を厚生労働省が月内にも始める。患者の多くは寝たきりなど深刻な状況にあるが、実態を示す公的データはなく、福祉・医療制度の谷間に置かれている。多くの患者に調査に協力してもらうため、患者会は呼びかけを始めた。
筋痛性脳脊髄炎の国内の患者は推定約30万人。4分の1が寝たきりとされるが、専門医が少なく、大半は障害者手帳を取得していない。難病患者を福祉サービスの対象に広げた障害者総合支援法(昨年4月施行)でもサービス支給の対象外とされ、患者会が国に実態調査を求めてきた。
調査は厚労省が1200万円を計上し、聖マリアンナ医科大に委託。患者の食事や排せつなど日常生活での介助の必要性や、発症時からの症状の経過などを分析し、来年3月までに報告を受ける。実施責任者の遊道和雄・同大難病治療研究センター長は20日記者会見し、「福祉や医療で患者に何が必要かを把握したい。100人以上の患者に参加してもらうことが必要だ」と話した。同席したNPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」(東京都)の篠原三恵子理事長(56)も「多くの患者に調査を知ってもらい、参加してほしい」と呼びかけた。
調査対象は医療機関で筋痛性脳脊髄炎と診断された人。参加を希望する患者は10月末までに氏名、住所、電話番号、メールアドレスを遊道センター長に連絡する。連絡先は電話(044・977・8111、内線4029)またはメール(yudo@marianna-u.ac.jp)で受け付ける。

地方公務員の給与減を提言 15年度から平均2%

共同通信 2014年08月20日

地方公務員の給与制度を見直していた総務省の有識者検討会(座長・辻琢也一橋大院教授)は20日、給与水準の引き下げが必要とする中間報告を公表した。地元の民間企業を上回る水準の地方自治体もあると指摘。人事院が今月、2015年度から国家公務員の基本給を平均2%カットするよう勧告しており、地方も足並みをそろえるべきだと強調している。
政府が人事院勧告の実施を決めた場合、総務省が中間報告に基づき自治体に引き下げを要請する。多くの自治体で給与が減る可能性があり、地方から「地域経済に悪影響が出る」といった反発も出そうだ。

中2自殺「虐待への感度甘い」 西東京市教委情報共有へ

読売新聞 2014年08月20日

父親から暴力を受けていた東京都西東京市立中2年の男子生徒(14)が7月末に自殺した問題で、同市教育委員会は19日、定例会を開き、学校側の対応について「教員の虐待への感度が甘かった」などと分析、子どもの異変を察知し、情報共有する仕組みを新たに設けることを明らかにした。
市教委によると、担任らは昨年11月と今年4月、父親の暴力による顔のあざに気付いたが、虐待と認識せず、児童相談所に通告しなかった。判断を誤った原因として、▽個々の教員の虐待への感度が低かった▽学校として情報共有しながら、組織対応できなかった――などと分析。市教委幹部は「1回目の時点で通告すべきだった」とした。
市教委は今回の分析をふまえた再発防止策を報告。それによると、これまでは管理職など一部教員が対象だった児童虐待の研修会の受講を全教員に拡大、虐待に関する専門知識や対応経験を持つ教員を養成。さらに全市立小中に、虐待が疑われる事案に市教委などとも密に連携して対応できる「部会」的なものを設けるなどとしている。
市教委では、母親が、村山彰容疑者(41)と同居を始めたとされる男子生徒の小学校時代にさかのぼって当時の担任などにも聞き取りしたが、虐待の兆候はなかったという。

17歳の少年による“体験殺人”ルポルタージュから、佐世保同級生殺人を読み解く

ダ・ヴィンチニュース 2014年8月20日

「人を殺す経験をしてみたかった」

これは14年前、愛知県豊川市で老女殺人事件を起こした17歳の加害少年が捜査員に発した言葉だ。心が冷えるような言葉である。

2000年の5月、なんの前触れもなく、少年は学校帰りに見知らぬ老女を殺害した。帰宅した夫が血だらけで倒れている妻を発見。現場から立ち去ろうとした少年に出くわし、夫も首を刺された。軽症を負いながらなんとか警察に通報したが、妻は顔面や頭部をげんのう(かなづち)で殴打されたうえ、包丁で全身を40箇所以上も刺されて死亡した。非行歴もなく、知的能力の高い17歳の少年が突如起こした、残忍な犯行だった。
しかし、検察側の精神鑑定はこの事件を、恨みや金銭という動機がない“純粋殺人”と結論づける。鑑定は再度行われ、その結果を受けた家庭裁判所はやはり、刑事罰ではなく、少年には“医療と教育が必要だ”と判断した。よって、加害少年は医療少年院に送致された。捜査機関からもれ伝わる、少年の一連の不可解な供述はそのままに――。
この加害少年の膨大な“供述”をもとに周到な取材を行い、『人を殺してみたかった 愛知県豊川市主婦殺人事件』(双葉社)を上梓したのが、ノンフィクション作家の藤井誠二さんだ。
藤井さんは、先月長崎県佐世保市で起きた高1女子による同級生殺人事件の一報を聞き、加害少女が供述したとされる言葉から、すぐに14年前の豊川の事件を思い出したという。そして「あの事件に、佐世保事件のヒントになるような事実が詰まっているのではないか…」とも。そこで藤井さんに、14年前の事件のことからお話をうかがった。

自分でも動機がつかめない、特異なパーソナリティをもつ加害少年
「加害少年の“人を殺す経験をしてみたかった”という言葉は、捜査官とのやりとりの中から出たものです。僕は、彼が殺人を犯した理由は、社会へのいらだちや自己承認欲求が満たされない憤りから“幸せそうに見える人を殺したいと思った”というような、感情にもとづく動機とは、明らかに異なるものを感じました。
少年は非常に特異なパーソナリティをもっていました。ふだんから部活動にまじめに取り組み、校内での成績も優秀で、理科系の国立大学に進学を希望するほどでしたが、供述調書からは、人を殺すことに対してのハードルがあまりに低かったことが読み取れました。彼は1歳半のときに両親が離婚して父親に引き取られ、教員一家で地元の名士である祖父母の家で育ちましたが、しかしそういった生育環境や、彼自身の気質的なもの、読んでいたコミックの影響などのさまざまな要因は、殺人動機に短絡的にひもづけられるものではない。そんなふうに思えてきたのです。
今回の佐世保の事件の加害少女の場合も、両親や母方の祖父はある種エリート層であり、彼女自身も県立の進学校に通う優等生。“人を殺して解剖してみたかった”“遺体をバラバラにしてみたかった”など、供述の断片も14年前の少年ととてもよく似ていました。さらに犯行の様相も似ており、年齢も近く、そのような事柄から、ふたりのパーソナリティも類似しているのではないかと感じたのです。
実は、精神科医は豊川の事件の少年について、あるひとつの診断結果を導き出しています。その経緯は本書にも書いたのですが、当時の児童心理の専門家の中には“この鑑定は間違っている”と反論する方もいらっしゃいました。それだけ少年犯罪における精神鑑定は難しく、果たして当時の診断が妥当だったかどうなのか、その点については、今でもよくわからない部分があります」
ちなみに、精神科医の町沢静夫氏は佐世保の加害少女について、「遺体をバラバラにして快感を感じているので、“サイコパス(精神病質)”といえます。極端に冷酷で感情が欠如しており、他人に対して思いやりが乏しいのが特徴です」(『週刊朝日』2014年8月15日号)と分析している。

命の大切さを伝えるメッセージから“切断”されているパーソナリティの子どもたち
「両者で違いがあるのは、佐世保の加害少女の場合は、給食に漂白剤を入れたり、猫を解剖したり、父親を金属バットで殴るなど、前兆としての異常行動が多々あったこと。それがなぜなのかは、今後取り調べていくのだと思いますが、とにかく少女のカウンセリングを担当するうちに“このままではいつか人を殺してしまう”と不安に感じた精神科医が、児童相談所へ相談したほどなんですよね。ところが、明らかにおかしなサインがたくさんあったのにもかかわらず、事件を未然に防げなかった。父親を始めとする周囲の大人たちが、事件が起きるたびに、彼女が発していたSOSともいえる異常行動を、危機感をもって対応していなかったのではないかとも推測できます。
同じように事件を未然に防げなかった例としては、豊川の事件と同じ2000年5月に発生した、佐賀の西鉄バスジャック事件の少年が思い出されます。彼も17歳でした。彼はバスジャックをする前に、小学校を襲撃しようと武器を収集していたのですが、それを部屋に入った母親が見つけて、驚いて警察に相談した。なんとか医療保護入院にこぎつけたのですが、しかし、加害少年は病院内でいい子を演じてあっという間に退院。精神科の医師も、もう寛解(症状が消滅)したのだと、コロっとだまされてしまったわけです。心理鑑定なんて逆に見透かすようなところがあるくらいに、非常に知能が高い少年でした。そして彼は退院したその足でバスジャックを行い、乗客のひとりを殺害したのです。
僕は専門家ではないですが、いくら“命は大切である”と教えても、今の社会には、その区別や善悪の判断がつかない子どもたちもいるのだと思っています。友達と普通につきあうけど、一方で平然と猫殺しもしてしまう。ものごとの捉え方や解釈が、通常とは異なる子どもたちがいる。“命は大切だ”というメッセージから、あらかじめ切断されているパーソナリティの子どもたちが、ごく一部にはいると思うんですよ。
そんな緊急性を要する子どもたちから、前兆行動のようなもの、いつもとは違う異変を感じたときにはやはり、警察や児童相談所、学校や病院が連携して、場合によっては身柄を一時的に拘束するような措置も必要で、さらに薬物投与もふくめた精神医療を施すこと。あるいは、継続的なカウンセリングを受けるなどの治療プログラムが施される必要があると思っています」
14年前に老女殺人事件を起こした17歳の少年の“供述”をもとに取材を行い、『人を殺してみたかった 愛知県豊川市主婦殺人事件』(双葉社)を上梓したノンフィクション作家の藤井誠二さんが、先月長崎県佐世保市で起きた高1女子による同級生殺人事件を考察するインタビューの後編。(【前編】は本記事下の「関連記事」からお読みいただけます)。

報道が抑制される少年犯罪は、事件の真相に迫ることが難しい
本書の中で、藤井さんは、少年犯罪の真相に迫ることが難しいジレンマにも触れている。少年の内面で何が起きていたのか、いくら心の闇を探ろうとしても、加害少年は少年法のもとで守られ、各報道機関も断片情報のみしか得られないためだ。
「この事件の場合は、たまたま僕が取材を通して彼の供述を知り得たので本に書くことができましたが、少年法では犯行時に16歳以下だったら、刑事処分にならずに、家庭裁判所で審判します。そうなると少年法の精神を遵守して、事件に関する情報統制がなされるという保護主義がつらぬかれる。仮に、刑事処分が相当とされて検察官のもとへ逆送致されて刑事公判が行われても、公判はついたて越しになってしまうし、通常の事件に比べて得られる情報には限度があります。
個人的には、できるだけ裁判は公開したほうがいいと思っています。事実関係は秘匿するべきではなく、加害者の少女のパーソナリティの一断面、一側面だけでも法廷に現れるわけですから、それは多くの人が現実として受け止めたほうがいいと思います。ただ、それがまったくできないとなると、家裁で審判を何度も繰り返して、1997年の神戸連続児童殺傷事件の酒鬼薔聖斗と同じように、医療少年院送致になる可能性が高くなります。豊川事件の加害少年も医療少年院送致になりましたが、今どうしているのかはわかりません」
テレビや新聞、ネット越しに事件の展開を追う者にとっては、その全容は永遠に明かされず、そして知らぬ間に決着がつき、真相は闇の中にとざされてしまうことになる。

緊急性の高い子どもたちに対して脆弱すぎる日本のシステム
藤井さんによれば、2000年の豊川の事件以降に、家庭裁判所調査官研修所が少年事件の単独犯・集団犯のケーススタディを集めた『重大少年事件の実証的研究』という冊子をまとめている(ただしこの冊子には豊川事件はふくまれていない)。このような国主導によるデータ収集と専門家の考察は重要だが、そこから何を導きだし、今後同じような事例が起きた場合にどうするかなど、具体的な対策を策定するまでには、研究結果がフィードバックされていないのではないかという。
「佐世保市では、10年前に同じく佐世保で起こった小6女子による同級生殺害事件を教訓に、ずっと“命の教育”を行ってきました。それはそれでとても大切なことです。しかし、10万人の子どもに広く浅く行うよりも、ひとりかふたりの特異なパーソナリティをもちあわせる子どもの個別性に対する、手厚く徹底的な対応の必要性を導き出さなくちゃいけない。緊急性の高い子どもたちを優先的かつ重点的にケアするシステムが、とても脆弱なんです。
今回だって児童相談所に相談したけれど、未然に防ぐことはできなかった。しかし、児童相談所とて万能ではありません。児童相談所は虐待問題等の他の事案で手一杯で、ケースワーカーの数が足りないし、そもそも日本は児童相談所の数が少なすぎる。県民ひとりあたりで割ると、もう何万人にひとりくらいの数しかないですし、精神科医は大勢いても、子どもの問題のプロフェッショナルは非常に少ない。緊急の対応マニュアルをもっている学校や地域も、まだまだ少ないと思います。
その理由はやはり、日本社会の危機感が薄いことにあると思います。アメリカだったら、猫殺しや動物虐待の情報があった時点で、身柄を拘束するケースも含めて要注意人物とされます。1999年のコロンバイン高校銃乱射事件のあたりから、異常気質をもつ少年や人物に対する警戒はものすごく高まっています。徴候があったらケースワーカーを派遣して、徹底的に対応する。多少おおげさであったとしても、未然に防ぐためには重要なことです。
しかし、日本ではそうした予防策にどうも腰が引けてしまうところがある。もちろん、厳格に要件を満たさないと動いてはいけない、ということもあるとは思いますが、犯罪の予兆に対して、重大な危機感をもってあたるという意識については、日本は遅れてると言わざるを得ないでしょう」

人の生きづらさに気づき、受け止めて寄り添う心のゆとりを
「難しいテーマですが、自分とは違う人間、善悪の判断がつきにくい子どももたくさんいるんだということを、あらためて認識してほしいですね。今はネットのように、自己顕示を表出しやすいツールがたくさんあって、そのツールが変わったパーソナリティや殺意を引き出すようなところもあると思うんです。LINEでケンカしたから人を殺そうとか、通常とは違う発想をする子どもだっているんだということを、知ってほしい。
そして、周囲の人間がもし異変に気づいたら、めんどくさいと見てみぬふりをするのではなく、手をさしのべるとまではいかないまでも、大人がそれを共有して、気にかけてあげてほしい。ひとりで抱え込まないでほしいのです。緊急の対応が必要ならば、体面を気にして見て見ぬふりをするのではなく、あらゆる手だてを探ってほしいのです。こんなご時世だからこそ、人的資源やネットワークをつくっておくことや、豊かな人間関係を築いていくことが大切ですし、そのことで、心にゆとりがでてくるはずです」
14年前、センセーショナルに報じられた豊川の事件を克明に追いかけ、報道されなかった加害少年の内面に迫ろうと試みた、『人を殺してみたかった 愛知県豊川市主婦殺人事件』(藤井誠二/双葉社)は、今回の佐世保の事件を機に、にわかに注目を集めている。現代の少年犯罪や精神医学、少年法が抱えている課題、それにまつわる答えの出ないさまざまな問いに向き合うきっかけとして、ぜひ目を通してみてほしい。
取材・文=タニハタマユミ