虐待受けた子に自尊心

読売新聞 2014年11月2日

発達障害を持つ子どもの子育ては困難を伴うことが多く、虐待に発展してしまうケースがある。親が子どもの障害に気づかず、「しつけ」のつもりで無理に矯正しようとするためだ。虐待が原因で別の障害が生じることもある。大阪府枚方市の府立精神医療センターでは、こうした発達障害の子どもたちの療育プログラムを実践している。

遊戯療法で使うおもちゃを手に、心理士(手前)らと打ち合わせをする柴田さん。「自由に遊ばせると、虐待の状況を自ら再現して話すようになる」(大阪府枚方市の府立精神医療センターで)=長沖真未撮影
同センターの児童思春期棟「みどりの森」(50床)は、成人病棟とは独立して設置され、発達障害などを抱える12歳までの児童が入院生活を送る「たんぽぽ」と、それ以上の年齢が対象の「ひまわり」の2ゾーンに分かれている。
数年前、小学低学年の女児が両親とともに外来を訪れた。児童・思春期科主任部長の柴田真理子(52)はすぐに異変に気づいた。
待合スペースで座って待つ両親の横で、女児は無表情で立ちすくんでいた。母親は「何度注意しても言うことをきかない」との悩みを口にしたが、柴田は女児の体中に、たたかれたあざがあることを確かめた。院内で緊急会議を開き、児童相談所に通告。女児はその日のうちに入院した。
女児は知能指数は高いものの、円滑な対人関係が築けず、コミュニケーションを苦手とする「高機能広汎性発達障害」と診断された。
虐待を受けた子どもに特徴的な症状もみられた。他人との距離感がつかめずにべたべたする傾向があったほか、「自分があかんかった」と自尊心が低く、夕方以降になっても気が休まらずに寝付きが悪かった。
柴田は、看護師や保育士、指導員、臨床心理士らとチームを組み、遊びを介して治療を行う遊戯療法を始めた。色鉛筆や粘土、人形などのおもちゃを使って心理士と一緒に過ごす時間を設けると、女児は徐々に、遊びを通じて自分の気持ちや親への思いを職員らに伝え、励ましてくれる職員を「自分のことを思ってくれる人がいる」と信頼するようになった。
生活に落ち着きがみられるようになり、1年半で退院。柴田は「神経を落ち着かせる向精神薬も処方したが、たたかれる理由もわからずに『どうせ叱られる』と恐怖心しか感じてこなかっただけに、人とかかわる温かさを知り、自尊心を回復できる遊戯療法が一番効果的だった」と振り返る。

同センターでは、遊戯療法だけでなく、入院する子ども同士で相手の気持ちを考えたり、相手との距離感を学んだりする「ソーシャルスキルトレーニング(生活技能訓練)」も実践。学校の授業に遅れないように、入院中は、病棟に隣接する府立刀根山支援学校の分教室に通学する。
「たんぽぽ」に昨年度入院した38人のうち、8割近くは何らかの虐待を経験していた。虐待を受けた子どもの多くは、大人になると加害者になるとの「負の連鎖」も指摘されており、柴田は「大人になっても引き続き関わっていく必要がある」と訴える。
同センター院長の籠本孝雄(61)は「障害のある子どもの診察だけでなく、保護者が子どもの特性を知って、接し方をしっかり身につけられるように、医療機関がサポートすることが大切だ」と話している。(敬称略、冬木晶)

遊戯療法
精神分析の創始者・フロイトの娘で児童精神分析学者のアンナ・フロイト(1895~1982)らが始めたとされる心理療法。遊びをコミュニケーションの「道具」として使い、思い出すことが困難だった苦しい状況を振り返ったり、自分の気持ちを表現したりさせて、治療につなげる。12歳以下の子どもに効果的という。

「児童虐待防止推進月間」前に対策協議会

TBS系(JNN) 2014年11月1日

11月は「児童虐待防止推進月間」です。月間を前に31日、虐待防止に取り組む関係団体の協議会が開かれました。
「児童虐待問題を広く周知して理解を深めていただくためのオレンジリボンキャンペーンを推進いたします。これがオレンジリボンでございます」(塩崎恭久 厚労相)
厚生労働省は、11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付けていて、オレンジ色のリボンがシンボルマークとなっています。月間を前に開かれた協議会には厚労省や文部科学省をはじめ、児童相談所や医師会など児童虐待防止に取り組むおよそ50の団体が参加しました。
全国の児童相談所が対応した児童虐待の件数が2013年度初めて7万件を超えた中、協議会では児童相談所の人手不足の問題や妊娠期から親を支援して虐待のリスクを減らす取り組みの必要性などが報告されました。(

目指せ「虐待死ゼロ」 警察OBの弁護士が法改正求め署名活動

産経新聞 2014年11月1日

子供の虐待死ゼロを目指し、警察OBの弁護士が児童虐待防止法の改正を求める運動を始めた。元警察官僚の後藤啓二氏(55)=兵庫県弁護士会=で、これまでの豊富な経験から、現行法について「虐待の疑いのある子供の情報共有や見守り、関係機関の連携が義務付けられていない」と指摘する。趣旨に賛同する支援の輪は犯罪被害者の会や医師らにも広がり、2日には児童虐待防止推進月間(11月)に合わせ、神戸・三宮センター街で署名活動が行われる。
後藤氏は、警察庁でストーカー規制法や児童ポルノ禁止法の立案、制定に携わり、大阪府警生活安全部長などを歴任。退官後はNPO法人「シンクキッズ-子ども虐待・性犯罪をなくす会」を立ち上げ、「法律家が書いた子供を虐待から守る本」(中央経済社)を著すなど、子供にまつわる問題の専門家だ。
これまでにも、児童相談所(児相)の人手不足を補う方策として、全国に約8万人いるとされる地域警察官を活用し、虐待家庭の見守りを行うことなどを提唱している。
こうした中、現行の児童虐待防止法が定める児相や市町村、警察の連携は臨検・捜索など場面が限られており、普段の活動については言及がないと指摘。関係機関が虐待情報を共有し、人手を出し合って対応するよう法改正を求める。
また虐待家庭が引っ越した場合に、転居先で対応できるよう全国的なデータベースの整備も要請。子育てにリスクがある妊産婦の支援や、虐待を受けた子供の無償のケアや治療も義務づけるよう訴える。
この活動に、日本医師会などさまざまな団体・組織が賛同を表明している。2日の街頭署名には、犯罪被害者の保護に力を尽くしてきた「全国犯罪被害者の会(あすの会)」のメンバーも参加。後藤氏は「子供を虐待から守るのはすべての大人と社会、国の責任」と強調。署名は、シンクキッズのホームページ(http://www.thinkkids.jp/)でも募集しており、集めた署名は12月、安倍晋三首相宛てに提出する。

【用語解説】児童虐待防止法
平成12年に施行され、虐待の4類型(身体的、性的、ネグレクト、心理的)を定義し、禁止した法律。予防や早期発見に向けた国や自治体の責務を定め、虐待を発見した者に通報を義務づけた。虐待の疑いのある児童を保護するために児童相談所が行う臨検・捜索を許可する裁判官の役割や、警察署長への援助要請についても規定している。

「親の収入」に頼る「非正規社員」の若者たち――この現実から抜け出す方法はあるか?

弁護士ドットコム 2014年11月1日

厚生労働省が15歳から34歳までの若者を対象に実施している「若年者雇用実態調査」が、若者の厳しい労働環境を浮き彫りにしているとして、話題になっている。
今年9月末に発表された2013年調査の結果によると、非正規雇用で働く人たちの40.3%が、「主な収入源」を問われて「親の収入」と回答した。一方、正規雇用者では、長時間労働が目立った。週50時間以上の長時間労働をしている人は、全体の22.5%もいた。また、時間外労働が月80時間の「過労死ライン」を超えている人が全体の7.2%に達していた。
非正規雇用されている人が低賃金に悩む一方で、正規雇用だと長時間労働に苦しんでいるという構図が見られたわけだが、このような現実を解決する方法はないのだろうか。労働問題に取り組む弁護士は今回の調査結果をどう見ているのか。吉成安友弁護士に聞いた。

非正規雇用者の低賃金は「深刻」
「非正規雇用者の事情は、人によって色々と違うでしょう。ただ、自分の収入で生活できない方がそれだけ多いとなると、やはり事態は深刻だと思います」
非正規雇用者は、不当な環境下で働かされていると言えるのだろうか。
「たとえば、有期契約だからといって、正規雇用の人と比べて不合理な労働条件を押し付けることは、昨年改正された労働契約法20条で禁じられています。
もっとも、厚労省の通達でも言われていることですが、労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、不合理かどうかは、業務の内容や責任の程度などを考慮した上で判断されます。
そもそも有期労働者の場合、重要な業務を任されず、『業務内容が違うから賃金も違う』と主張される場合も少なくないと思います。そういったことも含めて、有期労働者の低賃金問題の解決は簡単ではないように思われます」
単純に「正規雇用の人と条件が違うから不合理だ」とキッパリ言いきれるなら、話は早いのだが・・・。そのあたりの判断が難しいポイントなのかもしれない。

正規社員が抱える「長時間労働」の問題
「正規社員の長時間労働の問題も、深刻だと思います。長時間労働をすることは、健康にとって大きなリスクです。
たとえば、厚労省が定めた『心理的負荷による精神障害の認定基準』によると、『発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合』や『発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合』には、心理的負荷の強度が『強』とされます。
心理的負荷の強度が『強』ということは、精神障害を発症した場合に労災認定される可能性が高いということです」
長時間労働はそれだけリスクが高いと、考えられているということだ。長時間労働を防ぐための法規制はどうなっているのだろう。
「法定の労働時間は原則として週40時間が上限です。ただし、雇用者と労働者との間で労使協定――いわゆる『36協定』です――が結ばれると、この上限を超えて労働をさせることが可能となります。
その場合も原則として限度時間が決まっています。たとえば、1週間だと15時間、2週間だと27時間、1か月で45時間、2か月だと81時間です。
これを超える場合には、『特別の事情』が必要ですが、この『特別の事情』は臨時的なものに限るとされています。たとえば、ボーナス商戦で業務が特に繁忙な時期だったり、大規模なクレームに対応しているような場合です」
長時間労働を規制するために、ルールは定められているわけだが・・・。吉成弁護士は「ただ、今回の調査結果を見てもわかるとおり、なかなかその通りにはいっていないのが実情だと思われます」と述べていた。
労働ルールを守ろうという意識は、近年高まっているように思える。しかし、社会全体の意識が変わるには、まだまだ課題があるのかもしれない。