「少女と遊ぶなら長野。捕まらないから」“淫行処罰規定”なし、県が上げた重い腰

産経新聞 2015年1月12日

全国の都道府県で唯一、淫行処罰規定を含む青少年健全育成条例を制定せずに子供たちの健全育成に取り組んできた長野県が、条例制定をめぐる議論で今、揺れに揺れている。インターネットが急速に普及し、子供たちが出会い系サイトやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にアクセスすることが日常化し、大人からの性被害に遭うケースが急増しているためだ。これに危機感を抱いた同県の阿部守一知事は、条例のモデルを作成したうえで、議論を前に進めたい考えだ。一方、従来通り条例には頼らずに健全育成運動で対応すべきだとする地元紙・信濃毎日新聞や県弁護士会などは、条例制定反対を主張。一般の県民の間でも意見は賛否両論真っ二つに割れている。

条例拒み続けた風土
長野県が青少年健全育成条例を制定してこなかったのは、県民総ぐるみの運動で子供たちの健やかな成長を見守るとしてきた伝統があるからだ。「脱ダム宣言」などで県政を混乱させた田中康夫元知事も含め、歴代知事は「青少年健全育成条例は制定しない」と明言してきた。こうした気風は、警察権力の拡大に反対する共産党県議団などにとどまらず、保守的立場をとる自民党県議団の県議の間にも根強い。条例がないことを、県政界があたかも長野県の「美徳」や「誇り」にしているかのようだ。
風向きが変わったのは、県内77市町村で唯一、淫行処罰規定を含む青少年健全育成条例を制定した東御(とうみ)市で平成24年、男性教諭2人が相次いで同条例違反(みだらな性行為などの禁止)容疑で逮捕される事件が起こってからだ。県警が「条例がなければ現行法だけでは摘発できなかった」との見解を示したことから、県も同様の条例を制定すべきだとの議論が巻き起こった。それまで条例制定に慎重な姿勢を示していた阿部知事も、子供を取り巻く環境の変化という現実を突きつけられ、「今の対応だけで本当にいいのか考えていく必要がある」と、条例制定も含めた対策を検討する考えを表明した。
そして、阿部知事は25年5月、法律やインターネット、子供の成長に関わる専門家らで構成する「子どもを性被害等から守る専門委員会」(委員長・平野吉直信州大教育学部長)を設置。子供を性被害から守るための施策の検討が始まった。

条例制定に傾いた専門委
あえて白紙の状態からスタートした専門委の議論は当初、条例制定に慎重な意見が多かった。しかし、県内で過去15年間に18歳未満人口当たりの性被害にかかわる摘発者数が3・8倍も増加し、全国平均(1・6倍強)より深刻さが際立つ実態が報告されたことや、子供たちを取り巻く現状について各種団体などから聞き取り調査を行ったことで、議論の風向きは変わっていった。
25年12月の第5回会合では、幼い頃に知人男性から性被害を受けた女性が報道陣に非公開で証言に立った。事務局によると、女性は「こんなことになったのはずっと自分が悪いと思い込んで、周囲に相談できないまま悩み続け、体調を崩すこともあった」と明かした。そして、委員らに対しては「子供の成長を大人が阻害しないでほしい」と訴えかけ、子供の性被害防止のための条例制定を求めたという。これを受け、専門委の議論は法的規制が必要との意見に傾いていった。

条例制定を批判する信濃毎日新聞
一方、専門委の議論を報じる長野県の地元紙・信濃毎日新聞は「条例化だけが先行している」「淫行処罰規定によって青少年の自由な恋愛に捜査機関が介入する可能性もある」「条例に頼らず県民運動で青少年健全育成を進めてきたこれまでの努力に逆行する」などと批判する論調を強めた。
これに対し、専門委で証言した女性は事務局宛に反論の手紙を送付。26年1月の第6回会合では「『条例が独り歩きしている』という報道の扱い方に、自分は何のためにあの場面で発言したのか、結果、分からずにいます」などと苦しい胸の内を吐露した女性の手紙が、事務局によって読み上げられた。
しかし、この会合を報じた翌日付の信濃毎日新聞は、女性の手紙の内容には一切触れなかった。それどころか、「条例制定を前提とした検討の進め方は、全国で唯一、処罰で押さえ込む発想の条例を持たない長野県民の取り組みを否定することにもなる」「公権力の介入を伴う条例の制定に歩を進めている専門委の現状は危うい」などと相変わらずの主張を展開した。
県弁護士会の主張も基本的には同紙と同じだ。専門委が開いた公聴会で、県弁護士会子どもの権利委員会の上條剛弁護士は「(法規制は)児童買春禁止法や児童福祉法などで十分だ。淫行処罰の規定は曖昧で、捜査する警察のさじ加減一つで冤罪(えんざい)も生まれる」と意見陳述し、条例制定に反対した。

建前だけでは防げない
専門委は26年3月、検討を行ってきた結果として、「淫行処罰に限った限定的な条例が必要」とする報告書を阿部知事に提出した。その中で、専門委は判断能力が成熟していない子供への真摯(しんし)な恋愛ではない大人の性行為は「許されざる行為」と断じた。
また、青少年健全育成運動を中心になって進めてきた「県青少年育成県民会議」も同年4月、内部に検討チームを設置して運動の抜本的見直しに着手した。設立から40年余りがたつ中で子供を取り巻く環境が大きく変化し、運動の形骸化が指摘されてきたためだ。約4カ月間の議論の末、検討チームも子供を大人による性被害から守るためには「(新しい県民運動と)条例との両輪の上に、県民の自主的な活動や行政的な対応が必要」として、淫行処罰規定を含む条例の制定を求める報告書を阿部知事に提出した。
今は携帯電話やゲーム機など保護者の目が届かないところで、子供が簡単にインターネットに接続することができる時代だ。大人が悪意を隠して近づき、好奇心をくすぐって子供を思うように操ることは難しいことではない。専門委も県民会議もその現実を目の当たりにし、大人のゆがんだ欲望から無防備の子供たちを守るには、建前だけの運動では不可能なことを感じ始めたわけだ。

大人の欲望に無防備な子供たち
26年9月定例県議会で、山崎晃義(てるよし)県警本部長は、県警が25年1月から26年10月末の間に子供の性被害16件19人を認知したにもかかわらず、現行法では検挙できなかったため、「行為者に対して道徳的な観点からの指導、説諭にとどめざるを得なかった」と明かした。
インターネット上ではいま、「10代の女の子と遊びたいなら、長野へ行けばいい。警察に捕まらないから」という趣旨の書き込みが横行しているという。「条例は未成年の真摯な恋愛に公権力が介入することを許す」という信濃毎日新聞や県弁護士会などの主張は、大人による子供の性被害が急増している実態から目を背けた議論としか言いようがない。「権力は法律を使って常に人民を抑圧する」という時代錯誤的な思考が、その根底にあるのではないだろうか。
さらに、「恋愛なら子供の性行為も許される」という考え方も注意が必要だ。狡猾(こうかつ)な大人が精神的に未成熟な子供に「性行為のないところに恋愛はない」と言い聞かせて、新たな性被害を生みかねない危険性をはらんでいるからだ。
刑法や児童売春・ポルノ禁止法、児童福祉法といった現行法だけで処罰するには、(1)行為者自身が被害者の年齢が18歳未満であることを知っている(2)性行為などを行う前に金品のやり取りやその約束をしている(3)行為者が親、教員、会社の上司など被害者に対して事実上の影響力(支配性)がある-という要件が立証されなければならない。
つまり、淫行処罰規定を含む青少年健全育成条例がなければ、これらの要件を立証できない子供の性被害は防止できないのだ。その手立てを持たない長野県で、子供たちは性被害から無防備な状況に置かれている。建前の精神論で子供たちの健全育成を図れるならそれに越したことはないが、現実には子供たちが大人たちのゆがんだ性欲の対象とされているのだ。

現実を直視した議論を
また、子供たちの性被害と自由恋愛を同列に議論すべきではない。「自由な恋愛を守るために、性被害から子供たちを守る条例は必要ない」という主張はバランスを欠いている。自由な恋愛を守る代償として、子供たちが性被害に遭っても仕方がないと言っているようなものだ。淫行処罰の条例があっても、自由で健全な恋愛は十分成り立つ。
幼い頃に受けた性被害は、筆舌に尽くしがたい苦悩を与え、その後の人生を左右しかねない。その重大さを考えれば、あらゆる手段を使って子供たちを性被害から守る必要性があるし、そうした仕組みを早急に構築すべきだ。
県青少年育成県民会議常任理事として条例によらない健全育成運動の先頭に立ってきた田口敏子さんは「条例は必要ないといいたいが、今の子供たちが置かれた状況をみると、そうはいい切れない。忸怩(じくじ)たる思いだ」と語る。
子供の性被害を防ぐには、建前の精神論や見栄(みえ)ではなく、現実を直視して具体的な対策を考える議論が必要だ。長野県には今、それが求められている。(長野支局 太田浩信)

生活保護の住宅扶助と冬季加算を削減へ 15年度から

朝日新聞デジタル 2015年1月12日

生活保護の家賃にあたる「住宅扶助」と暖房費などの「冬季加算」が、2015年度から削られることが決まった。同年度の政府当初予算案では約30億円ずつの減額となる。13年度から段階的に進む「生活扶助」(生活費)の引き下げ分をあわせ、前年度より総額約320億円の切り下げだ。
受給者の家賃の上限額である住宅扶助基準は、地域や世帯人数ごとに異なる。厚生労働省が全国の家賃実態を調べた結果、住宅扶助で借りられる民間の借家の割合に地域ごとにバラツキがあることが判明。基準見直しでこれを是正する。主に都市部で下がるとみられる。
7月からの実施を見込むが、すでに受給している人には契約更新時まで猶予する方針。全ての受給者に新基準が適用される約3年後は、約190億円の国費削減になる見通しだ。
安倍政権は13年8月から生活扶助基準額を3段階で670億円分減らす方針を決めている。この最終段階となるのが4月で、約260億円が削られる予定だ。(中村靖三郎)

「ブラック企業」対策に政府が本腰 これで若年労働者は守られるのか?

現代ビジネス 2015年1月13日

「ブラック企業」対策に、厚生労働省が本腰を入れ始めた。今月からインターネット上で求人情報の監視を始めたのに続き、26日召集予定の通常国会に関連法案を提出してブラック企業の求人広告をハローワークで取り扱わない仕組みを設けるという。その一方で、離職率の低い会社を若者が働きやすい会社と認定し、支援する制度も創設する方針だ。
労働人口が減少する中で、若年労働者が食い物にされて、将来を嘱望される貴重な戦力の成長の芽が摘まれるのを防ぐ狙いがあるという。
ここ1、2年、「ブラック企業」がネット上を中心に騒がれて社会問題化しているだけに、政府が無策と批判されることを恐れて、アリバイ作りに乗り出したとも受け取れる話だ。
しかし、次から次へと「ブラック企業」が登場する背景には、経済と経営の構造問題が横たわっている。今回のような対症療法的な政策だけで事態が改善するとは考えにくい。
厚生労働省の対策法案作りを検討してきたのは、厚生労働大臣の諮問機関である「労働政策審議会」の「職業安定分科会雇用対策基本問題部会」。
同部会は先週(1月9日)、この問題を巡る6度目の会合を開催し、ブラック企業対策を柱にした「若者の雇用対策の充実について」(職業安定分科会雇用対策基本問題部会報告書案)をまとめた。
それによると、少子高齢化が響いて、若年労働者(15~34歳)は、2030年に1439万人(2013年は1757万人)と今後も減少が続く見通しだ。その一方で、若年者が最初に就いた仕事が非正規であった割合が4割に達しているほか、新卒者の卒後3年の離職率が大学卒で3割、高卒者では4割になるなど、現状には放置できない問題が多いという。
そこで、次代を担う存在として若者が活躍できる環境の整備を図るため、若年雇用対策に体系的に取り組むべきだと、政策対応の必要性を強調している。

対症療法に過ぎない
具体策の中で最も力点が置かれているのが、ハローワークでの「ブラック企業」の求人情報の受理(提供)の問題だ。現状では、個別の求人の申し込み内容が違法でない限り、すべての求人者の求人を受理することになっているが、今後は求人者が「ブラック企業」とみなされる場合は一定期間受理しない制度を新設するという。
その判定基準として、厚生労働省は、残業代不払いなどの労働基準関係法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法などの法令違反を繰り返している企業を「ブラック企業」とみなす方針だ。
一方で、若年層の採用・育成に積極的に取り組み、経営として実力を備えていながら知名度が低く若年層の採用に苦戦している中小企業を支援するための「認定・助成制度」も新設する構えだ。具体的には、新卒から3年の離職率、育児休暇、有給休暇取得率、所定外労働時間の3つで一定の基準を満たし、社内教育制度を整備して若年労働者の育成に熱心に取り組んでいる企業を「認定」し、この認定企業を対象に助成するという。
広く知られているように、ここ数年、「ブラック企業」は深刻な社会問題と化している。それだけに、政府・厚生労働省としても、怠慢との批判を招かないように何らかの対策を打ち出したいところだろう。
そこで、「ブラック企業」の中から、過剰なノルマやパワハラ、セクハラなどと並ぶ典型例である、長時間のサービス残業の末の賃金不払いなどをやり玉にあげて対策を打ち出すというのは、政府らしいわかり易い対応と言えなくもないかもしれない。
しかし、こうした対策は、対症療法に過ぎず、原因をもとから絶つ根本的な対応ではない。

ビジネスモデルの構築
そもそも、ブラック企業と言えば、代表例として挙げられるのが外食、小売り、エステといった業種だ。これらの業種の特色は、金融、通信、放送、電力、航空、鉄道など高い参入障壁に守られた規制産業と違い、新規参入が容易なうえにサービスを差別化しにくい点にある。
つまり、ライバル企業が次々と登場し、価格競争に陥り易いのである。それゆえ、十分な利益を確保するために人件費にしわ寄せが回り、長時間労働、サービス残業、賃金不払いといった一連の問題が発生し易いと言ってよいだろう。非正規労働者に依存しがちな業態も「ブラック企業」化し易い面がある。
人口減少が急ピッチで進む日本では、長期的に見て、消費の減少に歯止めがかかりにくい問題もある。長年にわたって、規制産業の自由化の推進や製造業の空洞化によって、雇用のサービス産業へのシフトが進み、家計にもたらされる賃金が伸びず、消費が増えない悪循環が生じている、これらは、サービス産業を、利益を確保しやすい高付加価値戦略ではなく、顧客を確保するための価格競争を追求する選択肢に追い込むことになりがちだ。
例えば、居酒屋大手のワタミは2014年度、60の既存店舗を閉鎖する一方で、新ブランド店を20ヵ所で出店、客単価の引き上げを実現して社員の労働環境の改善に繋げる戦略を打ち出した。
だが、上半期の決算を見る限り、消費者の支持を得られず、結果は惨憺たるものに終わった。客単価の上昇は「最大で3%」にとどまったのに対し、客数が「最大で12%」も落ち込んでしまったのだ。同社は2014年度上半期の決算説明の場で、「客単価アップ策はお客様の支持を得られなかった」「(社員の労働環境の改善は)改善途上」と総括せざるを得なかった。
大手でさえ、こうした厳しい現実に直面しているのだから、新たに参入してくる中小の居酒屋屋や外食チェーンが収益と雇用の両立を図るのは容易でない状況と言わざるを得ない。それが日本経済全体を取り巻く実情なのだ。
政府には、小手先の対応ではなく、人口減少とデフレに歯止めをかける抜本策が求められていることは明らかだろう。また、サービス産業には、もっと知恵を絞ったビジネスモデルの構築が求められるだろう。若年労働者にも、自己防衛のためには、自ら「ブラック企業」を見分ける眼力が必要とされているのは言うまでもない。

介護報酬引き下げ 現場で広がる不安

日本テレビ系(NNN) 2015年1月12日

高齢者の介護施設などの収入にあたる介護報酬を引き下げることになり、介護の現場には不安が広がっている。
高齢者の介護サービスを行う事業者に税金などから支払われる「介護報酬」について、政府は来年度、2.27%引き下げることを11日に決めた。特別養護老人ホームなどの収益率が高く、「もうけすぎ」との声があるため。
こうした指摘に対し、都内の老人ホームは、「多くの入所希望者に応えるため、空きがでると、すぐに次の高齢者を受け入れるなど努力した結果、収益がよくなった」という。
特別養護老人ホームなどの施設長「頑張ってきた施設・事業所もたくさんあるはずなんですよ。それがもうけすぎという形でとらえられてしまうのであれば、非常に残念なことだなと思います。(今後が)不安だなというのが一番です」
介護職員「若い方の募集をしても応募がありませんので、誰もがこの仕事に就きたいという気持ちが持てるような環境を整えてもらわないと」
待遇改善のため、政府は、介護職員1人あたり月1万2000円の賃金を補助することも決めた。しかし、対象は介護職員に限られ、施設側は、「収入が下がる中、ケアマネジャーや調理員なども含めた人件費の確保が苦しい」と訴えている。