長期化する子どもの施設入所

NHKニュース 2015年1月19日

虐待などが原因で児童養護施設に保護された子どものうち、40%余りが5年以上、施設で暮らし、12年以上施設で生活している子どもも2000人以上いることが厚生労働省の調査で分かりました。厚生労働省は「子どもが家庭的な環境で生活できるよう里親への委託を進めるほか、施設の小規模化を行っていきたい」としています。

厚生労働省は、おととし2月、虐待などで保護され施設や里親のもとで暮らしている子ども、およそ4万8000人を対象に生活の状況などについて調査を行いました。その結果、児童養護施設で暮らす子どもは2万9979人で、このうちの1万2414人、率にして41%が5年以上施設で暮らし(前回比+3ポイント)、12年以上施設で暮らしている子どもも2105人、率にして7%(前回比+2ポイント)と、前回、平成20年の調査に比べて長期にわたって施設で暮らす子どもの割合が増えていることが分かりました。
また、乳幼児が生活する乳児院に、今後の見通しについて尋ねたところ、保護者のもとに復帰する子どもは全体の23%、養子縁組や里親への委託は9%だった一方で、引き続き施設で暮らす子どもは62%に上っていました。
厚生労働省は「子どもが家庭的な環境で生活できるよう里親への委託を進めるほか、施設の小規模化を進めていきたい」としています。

虐待救済へ異例の捜査情報開示 親権訴訟で仙台地検 家裁の審理を短縮

日本経済新聞 2015年1月18日

母親と同居中の男から虐待された小学生の親権をめぐる民事裁判で、仙台地検が家裁の求めに応じ、関係者の供述調書やけがの状況を撮影した写真などの捜査情報を開示する異例の措置を取っていたことが18日、裁判関係者への取材で分かった。審理は短期間で終わり、家裁は母親の親権を停止して、離婚した実父に親権を移した。
児童福祉の専門家によると、虐待から子供を守るための親権停止の裁判は、親権者側が虐待を否定して時間がかかることが多く、通常は解決まで半年以上かかる。家庭や親族間の問題を扱う家事審判で、捜査中の資料が開示されるのはまれで、仙台地検は今回、子供の利益を優先させ、児童相談所と連携して早い段階で協力に応じていた。
関係者によると、昨年春、宮城県内の小学校に通う児童が被害者となった虐待事件があり、児相がこの児童を保護。仙台地検が男を傷害罪で略式起訴し、実父が母親の親権停止を申し立てた。
この裁判で、地検は供述調書の要旨や捜査報告書の閲覧を許可した。家裁はこれらの捜査情報を審理に活用し、児童が希望する親族宅を新たな住居に定めたうえで、親権を実父に移行した。保護以来、学校を休んでいた小学生は約3カ月で転校せずに復学できた。
さらに地検と児相が連携し、母親と加害者の男の2人と協議したうえで「児相の調査や指導に従う」「児童には近づかない」などの順守項目を取り決めた。
NPO法人「子ども虐待ネグレクト防止ネットワーク」(神奈川県伊勢原市)の山田不二子理事長は「検察が子供をいかに救うかという目線で家裁や児相と情報共有すれば、審理の短縮につながる」として、地検の対応を評価している。〔共同〕

「画期的だが運用は慎重に」
元名古屋家裁家事調停官の福谷朋子弁護士の話 捜査当局が早い段階で家裁の審理に記録を開示することは聞いたことがなく、画期的だ。子供をよりよい環境に戻すことを重視すれば本来、もっと早くから取り組むべきことだったともいえる。加害者側は家裁が改善を勧告しても従わないことが多いため、検察が順守項目を設定した点も効果的だと思う。同様のケースが増えてほしいが、プライバシー保護の問題もあるので、家裁は緊急性や必要性を慎重に判断して運用してほしい。〔共同〕

働きやすい保育の職場に

日本経済新聞 2015年1月19日

2017年度末までに6万9千人の保育士確保が必要――。厚生労働省がこんな推計をまとめた。国や自治体は待機児童をなくそうと保育施設の整備を急ぐが、「箱」ができても人がいなければ子どもを預かることはできない。
意欲を持って保育の仕事を始めても、数年で離職する人は少なくない。新たに就業する人を増やすことも必要だが、やりがいをもって働き続けられる環境を整えることが不可欠だ。国、自治体、事業者は一層知恵を絞る必要がある。
保育施設の拡充は急ピッチだ。13~17年度の5年間で40万人分を増やす予定で、4月からは量、質の両方を高めることを目指した新しい子育て支援制度も始まる。それだけに担い手の確保は必須だ。
国も新たな対応方針を打ち出した。保育士試験を受験する人への学習費用の援助や、現行は年1回の試験を年2回にするよう都道府県を後押しすることなどだ。他の福祉資格を持つ人には試験科目の一部免除も検討する。より受験しやすくすることは妥当だろう。
他の産業に比べ低いと指摘されてきた民間の保育士の給与も、15年度予算案で3%の処遇改善加算などが盛り込まれた。
とはいえ、それだけでやりがいが高まるわけではない。保育の現場では、子どもや保護者に対してよりきめ細かな対応が求められるようになっている。研修で力を伸ばす機会を増やす、キャリアアップができる仕組みを整える――。意欲を持って働き続けられるよう、日々の就労環境を向上させる工夫が事業者には必要だ。
より柔軟な勤務体系を工夫する余地もあるだろう。資格を持ちながら保育士として働いていない「潜在保育士」は60万人以上といわれる。働きやすい職場づくりは復職を支援する意味でも重要だ。
政府は「女性の活躍」を成長戦略の柱に掲げる。保育はその基盤ともなるサービスだ。そこで働く人たちがどうすれば働き続けやすくなるか。事業者や自治体の好事例を共有することも大事だろう。

【社説】保育所トラブル 関係構築し問題解決を

神奈川新聞 2015年1月18日

待機児童解消に向けて、各自治体で保育所の整備が急ピッチで進む一方、保育所が地域で「迷惑施設」と捉えられるケースが出てきた。保育中の子どもの声が騒音だとして訴訟が起きたり、近隣住民の反対で新設が難航したりと、保育所への風当たりは強まっている。
理由はさまざま考えられる。核家族化や地域の人間関係の希薄化が進み、高齢者世帯を中心に、幼い子どもが身近とはいえない存在になりつつある。かつての保育所が地主や寺社などによって開設されることが多かったのに対し、近年は地域と関係の薄い社会福祉法人や株式会社による参入も増え、保育所は地域の“新参者”として事業を展開せざるを得なくなっている。
横浜国大大学院の田中稲子准教授らの調査では、2011年4月以降に開設した横浜市の認可保育所、横浜保育室、家庭的保育事業などの約6割が、近隣に対して保育時間中の室内の子どもの声を気にしていた。
保育所の多くは具体的に苦情を受けておらず、田中准教授らが調査したいくつかの施設の騒音レベルはそれほど高くはなかった。
しかし、「迷惑施設」と捉えられがちな風潮に、保育所側も過敏になっている。園庭遊びや楽器演奏を控えるなど、実際に保育活動に影響が出ている施設もある。
子どもにとって、元気よく走り回ったり、大きな声を上げたりして、思い切り遊ぶことは、心身の成長に欠かせないものだ。子どもの体力や運動能力の低下も問題視されて久しい。社会全体で子どもを育てる視点を持ち、互いに歩み寄りたい。
音は実際の音量よりも、相手との関係によって、うるさく感じたり、気にならなかったりすると専門家は指摘する。人間関係の構築は、騒音問題を中心とするトラブル解決のヒントになりそうだ。
保育所側も町内会の行事に参加するなど、積極的に地域と関わってみたい。また行政も新設を急ぐばかりでなく、保育所と地域が良好な関係を築けるよう橋渡し役を担い、開設後もサポートしてほしい。
地域と保育所の関係づくりの効果は問題回避だけにとどまらない。住民と子どもたちが顔見知りになり、日常的にあいさつや会話を交わすことは、防犯対策や災害時の備えにもつながる。それは子どもにも住民にも望ましい環境となるはずだ。