児童虐待にもつながる「飛び込み出産」はなぜ起こるのか? “隠れ妊婦”を救済する制度とその課題

ウートピ 2015年01月22日

東京都北区は平成26年12月1日より、区内の妊娠検査薬を販売する薬局・薬店147か所(平成27年1月現在)で「妊婦向け相談カード」の配布を始めた。このカードは、妊婦・出産について不安が強い、妊婦健診を受けてない、出産時に初めて医療機関にやってくる飛び込み出産、一人で自宅出産するなど、リスクが高い妊婦等に支援の情報を届けようと始めたものだという。出産時の妊産婦・新生児の健康リスクが高いだけでなく、出産費用踏み倒しなども起こりうる「飛び込み出産」。背景に何があり、なぜこうした支援が必要なのか、妊娠・出産の仕組みと共に考えてみた。

なぜ出産前からの支援が必要なのか
北区でこの取組みを行っているのは児童虐待対策担当課だ。というのも、妊婦健診未受診や飛び込み出産に至る妊婦は、児童虐待につながる恐れがあると考えられているからだ。ウートピ編集部が北区に取材したところ、北区では平成25年に区役所にへその緒がついた女児が置き去りにされる事件が発生、それをうけて今回の取組みを始めたそうだ。産院や区役所に来ない人も妊娠検査薬は買いに来るだろうと予測したという。
全国的にも出産前から支援を行い、虐待を防ごうという動きが、児童虐待分野に浸透しつつあるようだ。例えば、大阪府は現状や背景を探ろうと調査を行っている(参照:未受診や飛び込みによる出産等実態調査報告書)。それによれば妊婦健診を受けなかった理由として最も多いのは「経済的理由」で約3割を占め、次いで「知識の欠如」、「妊娠に対する認識の甘さ」、「精神疾患の悪化や犯罪で収監されている間に受診機会を消失した」と続き、これらは児童虐待の背景要因と重なるという。

申請しなければ利用できない「出産一時金」
そもそも、出産前の妊婦の健診には国が助成を出しており、出産時の費用も「出産一時金」として健康保険から約42万円が支給される。出産費用がそれより安くおつりが来るケースもある。つまり、あまり自腹を切らなくても出産をできるようにはなっているのだ(健康保険に加入していない場合でも特定の助産施設で出産できる助産制度や、生活保護受給者なら生活保護から費用が出ることになっている)。
しかし、問題はこれらの制度が「申請したら」利用できるものだということだ。病院を受診し、出産予定日が確定したら住んでいる自治体に妊娠届を出すことで妊婦健診の助成を受けることができる。出産一時金も加入している健康保険か出産する病院窓口で申請の手続きをしなければもらえないものだ。つまり、知らなければ使えないのだ。そこで、情報を届ける北区のような取組みが重要になる。

制度を活用しても、自費負担の可能性も
いくら制度を使ってもカバーしきれない費用は発生する。まず、妊娠届を出す前の医療機関の受診は自分で払うことになる。また、妊婦健診も助成でカバーしきれない部分は自腹になる。国は妊婦一人当たり12万円を地方自治体に交付金として交付しているが、実際に妊婦に使われる助成金額は自治体によってばらつきがある。厚生労働省の調べでは全国で最も助成金額が大きい都道府県は岐阜県で118,042円、最低は神奈川県で63,455円と岐阜県の半分程度になっており、助成金額が低い自治体ではその分自腹で負担する金額が増える。
さらに、出産費用も産院によってまちまちである。厚生労働省の資料では概ね都市部など所得が高い地域では出産費用も高い傾向にある。都市部でも医療機関によって金額は異なるが、公立病院等の費用が安く抑えられる産院では予約が集中し、早めに予約しないと受け付けてもらえないこともあるようだ。(参照:妊婦健康診査の公費負担の状況にかかる調査結果について)

すべての妊婦に情報を届けることの重要性
まず大切なのは知識を周知する取組みをして、制度を活用してもらうこと、妊婦健診の自治体間格差がなくなること、そして安い産院が選びやすくなることではないだろうか。これで経済的問題や知識の欠如をクリアしやすくなるだろう。周知は北区のように役所や産院にこない妊婦にどう情報を届けるかに取り組むだけでなく、教育段階で育児の学習等と共に学んでいくことも必要ではないだろうか。
また、妊婦が病院を選びやすくする仕組みがあってもいいのではないだろうか。一般的に病院というところは会計をするまでいくらかかるか分からない。しかし、それでは、経済的に困窮している人にとっては敷居が高い。各産院の平均的な出産費用や出産可能な方法、助産施設か否かなどが地域ごとに一覧になっているなど、産院を選びやすい仕組みを作ってはどうだろう。
さらに、リスクを抱える妊婦は経済的のみならず、望まない妊娠であったり、産後の不安などさまざまな課題を抱えている。こうした気持ちを受けとめ、必要な時には一緒に産院に行く等、寄り添った支援を充実させていくことも必要だろう。
こうしたユーザー目線の使いやすい仕組みや体制が整えば、実はリスクの高い妊婦だけでなく、妊娠出産をする全ての女性にとってメリットがあるのではないだろうか。いつかは子どもが欲しい、そんなアラサー女性こそ、今からこうした問題に関心を持ってみてはどうだろう。
(鈴木晶子)

「望まぬ妊娠」の相談低調

読売新聞 2015年01月23日

神奈川県の窓口、5か月目で8件
「望まない妊娠」に悩む人からの電話相談を受け付ける県の窓口「妊娠SOSやまと」(046・261・2948、内線42)の利用件数が低調だ。モデル事業として昨年9月に開設されたが、利用件数は22日現在でわずかに8件。県は「周知不足が原因。1人で悩まないで相談して」と呼びかけている。
「10代の娘が妊娠したが中絶費用がない」「妊娠したことを夫に伝えたら嫌な顔をされた」「避妊に失敗した。どうしよう」
電話口の向こうから聞こえてくる女性やその家族らの悩みは深刻だ。
40年近く保健師をしている相談員の畠中晴美さん(60)は「電話してくれてありがとう」と優しく語りかけながら、家族が妊娠を歓迎するようになる方法がないかを一緒に考えたり、中絶費用について説明したりしている。安易に中絶を勧めるのではなく、妊娠や出産の不安について丁寧に相談に応じ、「望まれる出産」になるよう促すことが基本方針だ。
妊娠SOSは、相次ぐ児童虐待を未然に防ごうと開設された。
厚生労働省が昨年9月に公表した調査結果によると、2012年度に虐待で亡くなった子どもの4割が0歳児だった。また、県が所管する5児童相談所で、13年度に受け付けた児童虐待の相談・通告件数は、過去最多の2484件に上り、被害者は0~6歳児が全体の4割を占めた。
県健康増進課は、虐待を受ける子どもは、経済的に苦しかったり、パートナーの理解を得られなかったりして「望まれない」状態で生まれたケースが多いとみており、電話相談で出産前から家庭環境の改善を図ることを大きな目的としている。同課によると、妊娠に特化した電話相談窓口は県内ではここだけという。
窓口は、県厚木保健福祉事務所大和センター内に設置され、保健師3人が日替わりで相談に応じている。
県はこれまで、ホームページでの告知や、駅でのポスター掲示などで周知を図ってきたが、今後はショッピングセンターや駅のトイレ個室内に名刺サイズの周知カードを置くなどのPR強化策を検討している。
厚労省の調査によると、県内の中絶件数は1万1152件(13年度)で、東京、大阪に次いで、全国で3番目に多い。畠中さんは「悩みを抱え込まないで、勇気を出して電話してほしい」と話している。
相談の受付時間は、2月26日までの水、木曜(午前9時~正午、午後1時~4時)。(岩島佑希)

<どうなるの?子育て支援~新制度を考える~> 預け先の選択肢広がる

中日新聞 2015年01月23日

「子ども・子育て支援新制度」が四月に始まる。閣議決定した二〇一五年度の政府予算案では、消費税増税分の財源を活用した約四千八百億円が計上され、優先すべき施策として位置付けられた。待機児童の解消や、女性が働きやすい環境づくりが進むと期待されるが、未就学児の預け先、預け方はどう変わるのか。政府の言う「子育てしやすい国」は実現するのか、課題を探っていく。

全ての子育て世帯対象に
新制度では幼稚園と保育所の強みを生かした認定こども園や、従来の幼稚園、保育所など市町村が認可する施設に加え、地域型保育が認可に加わる。
地域型保育は〇~二歳児対象の少人数保育で、定員五人以下の家庭的保育や、同六~十九人の小規模保育、会社の事業所内保育などがある。
名古屋市では、認可外だった六園が新たに小規模保育事業に認可された。だが、新制度の枠組みに入るのを望まない一部の私立幼稚園があるほか、自治体が独自に補助を出している東京都の認証保育所なども制度外だ。
新制度では共働き世帯だけでなく、全ての子育て世帯が支援を受けられる。保育所などでの一時預かり、保護者宅で保育する訪問型の預かり(利用条件あり)などが、共働き世帯でなくても利用でき、預け先の選択肢が増える。
妊娠から子育てまで、母子の心身を支える相談拠点「子育て世代包括支援センター」が、一五年度は百五十市町村に広がる。

地域型保育が認可へ
就労などにより、保育を希望する保護者は各自治体に申請し、保育の必要性がどの程度あるかの認定を受ける。認定は一~三号の三区分で、区分により利用できる施設や時間が決まる=図。
新制度では就労はフルタイムに限らず、パートタイムや夜間、在宅勤務も対象に。起業準備を含む求職活動や職業訓練などの就学中でも保育所を利用できる。認定されたら、これまで通り自治体に申し込み、どの施設に入るかは自治体の調整を待つ。認定こども園での保育を希望する場合も同じ流れとなる。
一方、幼稚園の教育を希望する場合、願書を出した後、園を通じて認定を申請し、園と直接契約する。認定こども園での教育を希望する場合も、幼稚園と同様の手続きを踏む。
四月入所に向けて、既に申し込んだ保護者は結果待ちの状況。年度途中の入園はいつでも申請でき、一六年度入園は十月以降に申請する。認定は三年間有効なので、認定証は保管をしよう。

【保育料は?】
いずれも現在の利用者負担の水準とほぼ変わらない。国が示す上限額の範囲内で、保護者の所得に応じ、自治体ごとに利用料が決められる。同じ自治体、同じ認定なら、認可外だった小規模保育も認可保育所と負担額は同じとなり、負担が軽くなる場合もある。
(福沢英里)

事業者と直接契約導入
「子ども・子育て支援新制度」の大きな特徴は、介護保険をモデルに利用者と事業者の「直接契約」を取り入れたこと。保育所は従来通り、市町村の責任で保育が行われるが、認定こども園や地域型保育は、利用者と事業者が直接契約し、保育の責任は事業者が負う形になる。
「介護保険で営利企業の参入が進んだように、保育の市場化を目指すのが新制度。保育が当事者任せになり、自治体の役割は後退する」と保育研究所(東京都新宿区)の常務理事逆井(さかさい)直紀さん(54)は懸念する。
具体的には「貧困や障害など困難を抱えた子どもが保育を受けられない恐れがある」。内閣府は「事業者には応諾義務があり、正当な理由がない限り申し込みを拒めない」と説明するが、逆井さんは「事業者が正当な理由があると主張すれば、市町村は契約を強制できない」と実効性を疑問視している。市町村が直接的な責任を負わないため、事故が起きた場合の補償にも格差が生まれる可能性が指摘されている。
また、現行制度では、私立保育所などの民間事業者に市町村から「委託費」が支払われ、保育事業以外には使えない。新制度でも私立保育所はこの仕組みが維持されるが、認定こども園など施設型で直接契約した事業者は、保護者に代わって「給付費」を受け取る仕組みになる。この給付費は委託費と異なり、使い道に規制がかからなくなる。
「株主配当や他事業への出費が可能になり、事業者は利益を上げやすくなる。市場化で競争が進み、人件費が抑制されれば、保育の質の低下につながる」と逆井さんは説明する。
保護者の負担の面では、保育料は現行と変わらないか軽くなるとされるが、スイミング指導料や送迎代など上乗せ・実費徴収が可能で、実質的な負担が増える可能性もある。
私立も含めた認可保育所の利用者は現在、約二百三十万人に上る。これに対し、直接契約による保育の利用者数は四月以降、数十万人程度にとどまり、「少数派」となる見込み。ただ、政府が認定こども園への移行を促しているほか、自治体でも公立保育所の統廃合が進んでおり、直接契約の占める割合が今後増えることも予想される。
「認定にも問題がある」と話すのは保育に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さん(49)。認定する市町村は保護者の就労のほか、出産や病気、介護、求職活動などの状況を考慮して、保育所などでの保育が必要かどうかを判断。二・三号の場合は就労時間に応じて必要な保育時間を標準時間、または短時間に区分する。
「都市部では短時間に区分されると、認可保育所にはまず入れない。認定を申請しない親も出てきている」と猪熊さん。「申請がなければ自治体はニーズを把握できない。認可外に預ける場合でも認定を申請した方がいい。保育の質の部分でも、今後の改善につながるよう、保護者は意見を伝えていくべきだ」としている。
(小中寿美)

<認定こども園>補助金引き上げを決定 減収回避へ

毎日新聞 2015年1月22日

今年4月から始まる子ども・子育て支援新制度をめぐり、認定こども園の一部から、大幅減収となることを理由に認定を返上する動きが出ている問題で、政府は22日、認定こども園の運営補助金を引き上げ、減収を避けるための対応を、同日開かれた「子ども・子育て会議」で正式に報告し、返上問題への国の対応策が決まった。
認定こども園については、政府は当初、既存の園で幼稚園部分と保育所部分それぞれに施設長がいる場合、1人分の人件費しか支給しない方針だった。それを、経過措置として5年を限度に、現行通り2人分の人件費を補助するとした。
また、当初は園児数が大規模な園が配置基準より多い保育士や教諭を配置しても、最大4人分の補助金しか加算しないとしていた。これを、定員規模に応じて最大6人分まで加算できるよう拡充する。
一方、保育士の処遇改善策として、民間保育所に勤める保育士の今年度の給与を、国家公務員給与改定に準じて2%加算するとした。昨年4月にさかのぼって適用し、2015年度にも引き継ぐ。保育士の給与は子ども・子育て支援新制度スタートに伴い今年4月から3%引き上げられることが決まっている。これと合わせ民間の保育士給与は新制度施行から現状より計5%加算されることになる。【細川貴代】

WHO、インフルエンザはワクチンで予防不可と結論 病院は巨額利益、接種しても感染多数

Business Journal 2015年1月23日

インフルエンザが猛威を振るっており、昨年後半から1月16日までに病院で受診した患者は600万人を超えた(厚生労働省調べ)。
そんなインフルエンザへの感染を避けるため、ワクチンを接種する人も多いが、実はワクチンは感染を防ぐ効果はほとんどないことが判明した。
厚労省のホームページを見ると、「インフルエンザワクチンの予防接種には、発症をある程度抑える効果や、重症化を予防する効果があり、特に高齢者や基礎疾患のある方など、罹患すると重症化する可能性が高い方には効果が高いと考えられます」と書いてあり、ワクチンの効果を「ある程度」認めている。
しかし、国立感染症研究所の調査によって、昨シーズンA香港型のワクチンを接種した人でも、A香港型のインフルエンザに感染した人が多くいたことが明らかになった。以前からワクチンの効果について疑問視する声は医師の間から上がっていたが、同研究所は、効果が低かった理由を製造工程にあるとし、見直しを検討している。
国は、シーズンごとに流行する型を予測し、ワクチンをつくるウイルスを選定する。ワクチンメーカーは、そのウイルスを鶏の有精卵で培養して免疫成分を取り出す。
同研究所が調べたところ、実際に流行したA香港型と、ワクチン用に培養したウイルスでは、遺伝子配列が大きく異なっていたという。卵を使って培養すると、その工程で変質することが知られており、昨シーズンのウイルスは特に大きく変質したことで効果が下がったと同研究所はみている。

ワクチンには予防効果がない
その一方で、東京都内で内科医を開業する医師は、ワクチンそのものに疑問を投げかけている。
「世界保健機関(WHO)のホームページを見ても、『ワクチンで、インフルエンザ感染の予防はできない。また有効とするデータもない』と書いてあります。そもそも、インフルエンザはA香港型、Aソ連型、B型などと分類しますが、同じ型であってもウイルスは細かく変異を続けているため、ぴったりと当てはまる型のウイルスを事前につくり出すことは事実上不可能です」(内科医)
つまり、流行するウイルスの型を正確に予測することはできないのに、ワクチンを製造して希望者に接種しているということになる。
「インフルエンザ予防にはワクチンが有効だと考えている人は多いですが、はっきり言って妄想です」(同)
ではなぜ、効果がないにもかかわらず、ワクチン接種が定着しているのだろうか。その理由について前出の内科医は次のように述べる。
「ワクチンは毎年約3000万本製造されています。また、巨額の税金をつぎ込み、輸入もしています。5年前、国内の在庫が足りずに慌てて輸入したところ、ワクチンが届くころにはインフルエンザが終息し、大量の在庫を抱えたことがありました。毎年一定量のワクチンを使用することで、備蓄量をコントロールしたいとの政府の思惑も働いていると考えられます。また、インフルエンザがはやる季節には、ワクチンだけで小さな病院でも数百万円、大病院では数千万円の利益になります。病院にとってワクチンは安定収入を得る手段になっているのです」
国立公衆衛生院(現・国立保健医療科学院)の疫学部感染症室長を務めたこともある医師の母里啓子氏は、著作『インフルエンザワクチンは打たないで』(双葉社)の中で、衛生研究所の調査によると予防効果はないと断言している。一部の医師は20~30%は予防効果があると主張しているが、母里氏はそれすらも否定しているのだ。また、老人ホームで行った調査で、50~60%重症化を防ぐ効果があったとするデータがあり、それをワクチン接種の意義と唱える医師も多いが、母里氏は脳症などの重症化を防ぐ効果はまったくないと述べている。
つまり、ワクチンを打つことの是非は意見が分かれるところだが、予防効果には多少疑問がある。それどころか、毎年ワクチンの副作用によって死者も出ている。惰性で接種するのではなく、熟慮の上で判断するようお勧めしたい。

子供に十字架を背負わせる「キラキラネーム」命名辞典〈週刊新潮〉

BOOKS&NEWS 矢来町ぐるり 2015年1月22日

不自然な漢字の羅列が、実は仰天すべき読み方を強いられた人名であった、というケースが増えている。しかし、親の一時の思いつきで「キラキラネーム」を背負わされた子供たちは、人生の様々な局面で困難に直面せざるをえないという。事態は深刻であった。

笑々寿、朱隆、未桃、巴愛灯、師類羽――。場末のスナックの店名か、はたまた暴走族の落書きか。読み方の見当がまったくつかないこれらの漢字は、すべて実在する人名だ。順に「え一す」「しゅうる」「みんと」「はあと」「しるば」と読むのだという。
こうした、一体どこの国の出身なのかすら判別できない珍妙な名前、いわゆるキラキラネームが増加の一途をたどっている。ベビー用品を専門に扱うチェーン店「赤ちゃん本舗」がおこなったアンケートによると、今や5人に1人が、2人として同じ名の人間がいないオンリーワンの名前の持ち主だという。「この世に一つだけの名前」といえば聞こえはいいが、言い換えれば、それだけ突飛な名前だということだ。
「あまりに奇抜な名前を付けることは、子供への虐待に近いと言っていい。赤ん坊が無抵抗であるのをいいことに、わけのわからない名前を付けるなんて、親の裁量の範囲をこえて、単なる身勝手です」
と憤るのは、これまで10万人以上の子供の名付け相談をおこなってきた命名研究家・牧野恭仁雄氏である。たしかに、瑠有久(るうく)、来楽(らら)、輝(きら)、一二三(わるつ)、獅子王(れお)、緑輝(さふぁいあ)、里羅楠(りらっくす)など、悪ノリとでもいうべき名を見せつけられると、虐待という言葉も大げさには聞こえない。今鹿(なうしか)や伸太(のびた)といったアニメの登場人物そのままの名前は序の口で、如来(みき)、女神(さやか)など、突飛な読み方もさることながら、荘厳な字面が子供にとって重荷でしかないのではないか、と思われるものまで登場しているのだ。
こうした名がもたらす影響については後述するとして、そもそもキラキラネームはいつ頃から存在しているのか。牧野氏によれば、
「実は、明治期から珍妙な名前はちらほら見られました。特殊な名前が減って、読みやすい安定した名前が定着したのは、昭和になってからです」
明治時代に、自分の子供に奇妙な名前を付けた代表格は森鴎外だろう。長男の於菟(おと)をはじめ、茉莉(まり)、杏奴(あんぬ)、不律(ふりつ)、類(るい)と、揃ってドイツ風である。軍医としてドイツ留学した鴎外ならではだが、似たような命名はほかにも見られた。昭和24年に刊行された『名乗辞典』をひもとくと、明治から昭和初期に付けられた“キラキラネーム”が数多く見つかる。武良温(ぶらうん)、保羅(ぽーろ)、丸楠(まるくす)、弥玲(みれー)など、今見てもインパクトたっぷりで、十二分にキラキラしている。
「音を優先する命名法は昔からありました。名前にローマ字を使うことは大正時代に禁じられ、使用できる漢字も、戦後すぐに当用漢字などに制限されましたが、読み方については、今も一切規制がありません。漢字と読み方の乖離は、1990年代に入ってますますひどくなりました。93年創刊の有力なマタニティ雑誌が、漢字の意味を無視して音だけを拾った名前を特集してからです。かつて奇妙な名前は“DQN(ドキュン)ネーム”と呼ばれ、付けた親の見識が疑われたものです。ところが、その雑誌は構わず珍奇な名前を紹介しつづけ、さらにはキラキラネームという、一見ポジティブな呼称が生まれ、DQNネームという呼び名を駆逐してしまった。こうして日本における命名法は、完全に野放しになってしまったのです」(同)
かくして、月下美人と書いて「はにー」と読ませるような、度肝を抜く名前が生まれていったのである。

なんでもオーケー
実は、キラキラネームの波が発生しているのは日本だけではない。『恋におちたシェイクスピア』でアカデミー主演女優賞を受賞したグウィネス・パルトローは、娘をApple(アップル)と名付けて話題になった。パルトロー自身によれば「リンゴは聖書にも出てくるし、響きがかわいい」のだそうだ。「フルーツ系の名前の先駆者になろうとしている」という呆れ半分の報道もあったが、まだAppleという名は、世界で100人にも満たないといわれている。
おなじく俳優で『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を獲得したニコラス・ケイジは、息子をKal-El(カルエル)と命名した。これはアメリカン・コミックの『スーパーマン』で、主人公の本名として登場する名前である。幼いうちはともかく、長じてから自分の名前が宇宙人のそれだと知った息子の気持ちは、いかばかりだろうか。
ほかにも、カニエ・ウェストというアメリカの歌手が、娘にNorthという名前を与え、North West(ノース ウエスト)という駄酒落のような姓名にして話題になった。彼らはいずれもショービズ界の世界的なスターだが、日本の芸能人にも、この傾向は共通している。歌手で俳優のダイアモンド☆ユカイは双子を頼音(らいおん)、匠音(しょおん)と命名しているし、女優の土屋アンナの長男は澄海(すかい)。最近ではタレントの松嶋尚美が娘を空詩(らら)と名付けて話題になった。いずれ劣らぬ迫力である。
だが、海外の一般人となると、少し事情が違う。諸外国には命名に関し、法規制が日本よりも厳しいところが多いのだ。スウェーデンでは、市民が家具小売チェーンからとってIkea(イケア)、ヘビーメタルのバンド名からメタリカMetalica(メタリカ)という名前を付けようとして、拒否されたことがある。オサマ・ビン・ラディンと名付けようとして、ドイツで拒否されたトルコ系夫婦もいる。
ひるがえって日本。93年に東京都昭島市で、息子を「悪魔」と名付けようとした親の出生届が不受理となった例があるが、裏をかえせば、「悪魔」に匹敵するほど残虐性を感じさせる名前でなければ、なんでもオーケーというのが、この国の名付けの実情なのである。
真九州(まっくす)、翠(えめらるど)、卓留(たっくる)、明日(ともろう)など、トンチを働かせれば読めるものは、まだ大人しいほうで、今や遊女(ゆめ)や心中(ここな)など、普通に読めばあらぬ誤解を生む名前もまかりとおっている。
しかも、こうしたキラキラネームは、それを背負った子供たちに負の影響を与えることが多いという。
「私自身、自分の名前を他人にちゃんと読んでもらえなかったことが、命名研究を始めたきっかけです。今日も電話でホテルの部屋を予約するのに、名前の漢字表記が伝わらず、15分もかかってしまいました」
そう語る牧野氏の名前は「恭仁雄」と書いて「くにお」。たしかに難読ではある。ホテルの予約ですら苦労するのだから、人生の転機には、もっと大きな不利益をこうむる人もいるかもしれない。

ふるいにかけられる
「筆記試験と面接の出来が同じ程度の受験生が2人いた場合、キラキラネームの人は敬遠されがちです。今、学校にとって大きな問題がイジメです。キラキラネームはからかいの原因になりやすく、高じてイジメにつながる可能性がある。それに、キラキラネームを付ける親御さんには、モンスターペアレントなのではないかという予断を持ってしまうんです」
と言うのは、私立中学で長年、入試を担当してきたベテラン教諭。キラキラネームの“被害者”には、こんなケースもある。
「小学校の同級生の女子のことなんですが……」
と述懐するのは、神奈川県内の私立高校に通う男子生徒だ。ちなみに、彼の名前は日本的でオーソドックスなものである。
「彼女のご両親は、子供が世界を股にかけて活躍することを願って、ヨーロッパのある都市と同じ名前を付けたんです」
橋本聖子参議院議員が次男を朱李埜(とりの)と名付けたのは記憶に新しいが、これに似たパターンの名前だ。男子生徒がつづける。
「その名前は、たしかに文法的には女性名詞ですが、そんな名前を付ける両親だからやっぱり独りよがりで、娘が小学校に入ると“学校がやることはくだらない”“先生がダメだ”などと言いつづけた結果、娘は不登校になってしまった。その後、無理矢理海外へ留学させられましたが、ひっそりと帰国し、それ以来、自宅にひきこもっているようです。噂では、海外でも名前をからかわれたとか」
親の独りよがりの、なんと罪作りであることか。

“被害”に遭わずに成人することができても、その後にも関門が待ち受けている。就職活動でも、キラキラネームは思わぬ事態を招いているというのだ。人材研究所の曽和利光社長は、
「採用の現場では、学生の名前に直接的に言及することはできません。厚生労働省の“公正な採用選考に関するガイドライン”があり、コンプライアンスの面からも、名前のように本人の適性などと無関係のことについては、質問しないことが徹底されています」
と言うが、あくまでもそれは建て前の話。
「正直なところ、大手企業の就職活動で、ある程度の段階まで残っている学生さんの中に、キラキラネームをお持ちの方を見た記憶はほとんどありません」
と語るのは、大手企業の人事に長年かかわってきたコンサルタントの男性だ。
「世の中にこれだけキラキラネームがあふれているのに、何回もの面接を潜り抜けてきた学生さんに、そうした名前がほとんど見当たらないのは、それ以前の段階でふるいにかけられてしまったということです。企業は、その名前も、それを付けた家庭環境も気にしているわけです」
それでもなお、キラキラネームの持ち主が内定を勝ち得た時には、
「それとなく命名の由来を探りますね。やはり、突飛な名前の持ち主に対しては、“この人は大丈夫なのだろうか”というバイアスはかかりますよ」(同)
また、先の牧野氏は、こんな弊害も起こりうると予測する。日本の司法システムにまで影響をおよぼすという話である。
「変な名前を付けられてしまったお子さんが取れる最後の手段は、裁判所に申請して改名することです。家庭裁判所に“正当事由”と呼ばれる理由と希望する名を書き込んだ『名の変更許可申立書』を提出して、受理されれば改名できます。これだけキラキラネームが増えると、将来的にこうした申請は激増することが予想されます。ところが、家庭裁判所は全国に50カ所しかありません。たくさんの申請に裁判所が対応しきれるかどうか。パンクしてしまうでしょうね」
キラキラネームは、もはや個人の問題にはとどまらず、社会システムすらも揺るがしかねないようだ。

個性を求めすぎる代償
一方で、自らのキラキラネームを前向きにとらえている青年もいる。
「僕の名前は“夢有人”と書いて“むうと”と読みます。変わった名前だとは思いますが、これといって困ったことはないですよ」
こう語る夢有人くんは現在、首都圏の有名私立大学に通いながら、アルバイトに勤(いそ)しんでいる。
「学校でも職場でも、たしかに読み方がわからないと聞かれることはありますが、そこから会話が広がるんですよ。“一体どういう意味なの”と由来を問われれば、夢のある人になってほしいという親の思いだ、と説明しています。珍しい名前だから忘れられることもないし、僕は、この名前でよかったと思っていますよ」
だが、もとより名前は、共同体の中で個人を識別する社会的役割を担っている。狭いコミュニティの中では、その珍しさで利することもあるかもしれないが、
「特殊な名前のせいで、救急搬送先で患者の取り違えが起こる可能性もあります。名前が読めずに、緊急を要する際に時間を浪費することも想像できます」
と、牧野氏。全国紙の警察担当記者も言う。
「最近は警察関係者も困惑しています。被害者や加害者の名前を常識的に読んだら、実際には全然違う読み方だったなんてことが頻発しているんです。捜査段階で読み違えが起これば、重大なミスにつながりかねない。記者にこぼす警察関係者も少なくないですよ」
なにしろ、精飛愛(せぴあ)、麻楽(まら)、苺苺苺(みるきー)なんていう名が跋扈する世の中である。もちろん、名付けられた子供たちに罪はない。問題は名付けた親たちだ。ふたたび牧野氏が語る。
「名付けの相談を受けてきてよくわかったのは、キラキラネームを付けたがるのは、いたって大人しい人たちばかりだということなんです。おそらく学校でも会社でも目立たないし、集団の中で突出しない人たち。“優等生的グループ”として一括りにされることで生き抜いてきて、それがコンプレックスにもなっている。そのために個性を求めすぎて、子供に奇妙な名前を付けてしまうんです」
キラキラネームといえば、いわゆるヤンキーの専売特許のように思われがちだか、意外にも、そうではないというのだ。もっとも、
「ヤンキーも根は同じです。突出しないで群れる。それが優等生の方向に向いたか、逆を向いたか、という違いに過ぎません」(同)
親たちの、痛々しいまでの「個性願望」。その果てに多くのキラキラネームは生まれている。
だが、その結果、なんら責任がない子供たちが不利益をこうむり、社会システムにも影響を及ぼしかねない状況である以上、人名漢字の読み方に、今こそ規制を設けるべきではないのか。
それを野放しにしているのは、国家の怠慢の誹(そし)りをまぬかれないだろう。
ノンフィクション・ライター 白石 新
「特別読物 子供に十字架を背負わせる『キラキラネーム』命名辞典」より

<米MS>ウィンドウズ10無償提供 スマホ市場挽回へ

毎日新聞 2015年1月22日

米マイクロソフト(MS)は21日、今年後半に発売する次期基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」を発売から1年間、「7」以降の利用者に無償提供すると発表した。これまでの有償提供を転換する。スマートフォンのOSとも共通化し、大きく出遅れているスマホ市場で挽回したい考えだ。

ウィンドウズ「9」を飛ばして「10」……どして?
「プライベートと職場で同じように扱えるウィンドウズを作る」。MSのサトヤ・ナデラ最高経営責任者は21日、米西海岸ワシントン州での発表会で狙いを説明した。
パソコン(PC)の世界市場で、OSのシェア約9割を占めるウィンドウズだが、スマホでは米グーグル「アンドロイド」、米アップル「iOS」に大きく水をあけられている。米調査会社IDCによると、2014年の世界シェアは2・7%に過ぎない。「スマホやタブレット端末にもウィンドウズを普及させるため」(IDCジャパンの敷田康アナリスト)、無償提供によって「10」の利用者を増やし、スマホなどに誘導したい考えだ。
従来のウィンドウズは、PC用とスマホ用で異なっており、アプリ(応用ソフト)業者も別々にアプリを開発する必要があった。これが一本化されるため、開発業者にとってもメリットは大きい。
新たな機能も盛りだくさんだ。新閲覧ソフト「スパルタン」(仮称)を搭載し、閲覧しているサイトに、キーボードだけでなく指でメモを書き込んだり、それを共有したりすることもできる。さらに、今秋にも発売するゴーグル型端末「ホロレンズ」を装着すると、実際の視界の中に、各種情報や操作ボタンの3D(立体)映像が現れ、身ぶりや音声で操作できる。MSのゲーム機「Xbox」との連携も強化しており、臨場感あるゲームなどでの活用が見込まれそうだ。
もっとも、スマホ市場では「アンドロイド」「iOS」が圧倒的な存在感を示しており、そこに食い込むのは容易ではない。OSはあらかじめ端末に組み込まれているため、端末メーカーや通信会社の動向がカギを握ることになる。
一方、PCメーカーには無償提供によって、PCの買い替えが進まなくなるとの懸念もある。OSの更新を機に買い替える利用者が多いためだ。PCメーカー担当者は「OSの出来が良ければ、PC需要が鈍るかもしれない」と警戒する。【種市房子、ワシントン清水憲司】

キーワード・ウィンドウズ
米マイクロソフト社が開発したコンピューターの基本ソフト(OS)。画面表示やメモリー管理など、コンピューターの動作を制御している。創業者のビル・ゲイツ氏らが1980年代に開発し、90年代以降に普及が進んだ。操作性を高めた95年発売の「ウィンドウズ95」は、世界中で大ヒット。それ以降も、「XP」(2001年)、「7」(09年)などの新OSを投入した。「10」は、パソコンでの利用者が使い慣れた「7」の操作方法を引き継ぎつつ、スマートフォンなどでも使いやすくしたのが特長。ハッカーに侵入されるなど、防御面での弱さが指摘された閲覧ソフト「エクスプローラー」に替え、新ソフト「スパルタン」(仮称)を搭載する。