「ひとり親」だから事件が起こるわけじゃない―教育カウンセラーが語る、子どもを守れない日本

ウートピ 2015年3月19日

凶悪な少年犯罪や痛ましい虐待事件が起こるたびに報道される加害者、あるいは被害者の家庭環境。子どもの保護者がひとり親だった場合には、ことさらセンセーショナルに書き立てられることも多い。ひとり親の子育てとは、いったいどうあるべきなのか。
心理学者で明治大学教授でもある諸富祥彦さんが、『男の子の育て方』『女の子の育て方』など子育てシリーズの最新刊として『ひとり親の子育て』(WAVE出版)を刊行。子育てにまつわる日本の制度の歪み、そして孤独な子育てを強いられているひとり親に対し、私たちができることとは?

子育てをどうしたらいいのかわからない
諸富先生が『ひとり親の子育て』を出版された背景とは?

諸富祥彦さん(以下、諸富):担当編集者と話していた時、ひとりきりの子育てで苦しんでいる人が身近にいる、と聞きました。シングル、あるいは夫がいてもひとりきりで育児をしている「実質シングル」を含めると、日本にはひとりきりで子育てを担っている人がいかに多いか。その観点から「ひとり親」で括ってみよう、ということになりました。
私は千葉県市川市でスクールカウンセラーもやっていて、シングルの方がいらっしゃることもありますが、皆さん本当に大変です。時間の余裕は全くありませんね。

カウンセリングにいらっしゃる方は、どういった悩みを抱えているのですか?

諸富:子育てをどうしたらいいのかわからない、という悩みが多いです。シングルマザーには真面目で熱心な方もたくさんいて、思春期のお子さんを持つ方から、「子どもに『死ね』と言われると、悲しくて死にたくなります」という相談を受けたことがあります。思春期の子どもの反抗や親を責める言葉は、その時期の子どもの務めのようなものです。自立に向けた一歩ですから。それを真に受けてしまい、自分を責めているんです。

子育て問題は「不足」でなく「過剰」が原因なことも
何か気になることが起こると、「自分がシングルだから」と結びつけてしまう人もいるのでしょうね。

諸富:こういった反抗期に父親と母親がいる場合には、お互いに愚痴をこぼすこともできますが、ひとりで考え込んで追い詰められ、うつになってしまう人がいます。これは性格が真面目であるほど危ない。あるいは、父親の代わりもしなくては、と気負い過ぎた結果、厳しくしすぎて子どもを追い詰めてしまうのです。これは母性が薄れて父性が強く出ている状態です。

そもそも、両親が揃っていれば父性と母性のバランスが整っている、ということになるのでしょうか?

諸富:そうとは言えません。父親がいても忙しくて一緒にいられなかったり、逆に母親が厳しくて父親が優しい、という家庭もありますよね。これは、父親が子育てにあまり関わっていない分、厳しくすることができない、という側面もあるのかもしれません。もっと悪いのは、子育てにはほとんど参加しないのに、「お前が悪い」と母親を追い詰めるような父親。これでは、実質シングルどころか“マイナス”です。でも、残念ながらそういう家庭も多いんです。

「ひとり親だから」と自分を責めないこと
今、川崎中1殺害事件の捜査が進行中ですが、報道で被害者の男の子の家はひとり親家庭だった、という点が強調されているのを見ると考えさせられます。

諸富:川崎の事件に関しては、詳しいことがわからないので何とも言えませんが、もし親御さんにできることがあったとすれば、「援助希求(えんじょききゅう)」ですね。親が周囲に対してSOSを出すこと、そして子どもが辛いときに、親や周囲に対してSOSが出せる関係を作っておくことが大事なんです。

しかし、はっきりと言っておきたいのは、この事件は被害者の親が問題なのではありません。

この本には、ひとり親が自分を責めないように、とも書いてありますが、2月には、育児に疲れた“実質シングル”の母親が2人の子どもを殺害した柏市での事件もありましたね。

諸富:カウンセリングでも、「私にはもう子育ては無理」と漏らす方は多いです。しかし、事件が起きれば児童相談所が親と子を引き離すことはできても、その寸前の家庭を救済する手段は、現状ではありません。

あるとき、私のところに相談にいらした親御さんが、ボロボロ泣きながら「もう子どもを育てていく自信がない」と話していました。そこまで追い詰められている人々を一時的にでも保護する施設がないのは問題です。

子どもを守るセーフティーネットがない
こういった事件や限界を感じる親たちは増えているのか、あるいは表面化しているだけなのか、どちらだとお考えですか?

諸富:増えているのだと思います。なぜかというと、私も含めて現代人は快適な生活に慣れ過ぎていて、不快な目、辛い目に遭ったら、追い込まれてキレやすい。クレーマーも多いですしね。耐性が低いのです。

そうしたときに、被害に遭ってしまうのは子どもなんですよ。子どもたちを守るセーフティーネットが必要なのに対し、日本は子どもを守ることに対して消極的ですよね。
諸外国に比べて、日本は遅れをとっているのでしょうか?

諸富:そうですね。これだけ食べ物や文化をアメリカから学んだのに、肝心なところを学んでいないんですよ。個人主義になりつつあるなか、そこからこぼれてしまう人が出てきます。それなのに、彼らをサポートするシステムができていません。

離婚の増加についても、何ら罪のない子どもから親が奪われないように、離婚後の面会交流を考えていかなければいけません。しかし、実質的に父親か母親がいなくなる状況があまりに多い。

そういった状況は今後変わっていくと思いますか?

諸富:今の日本の子育ては母親中心なので、そうなってしまっているのだと思います。自然には変わらないので、変えていかなければいけないですよね。

「泣かなくてえらかったね」が子どもの感情を奪う? 心理学者が指摘する、日本の子育ての問題点

ウートピ 2015年3月20日

ひとりで苦しむシングルマザーに対し、周囲ができることとは?

私の周りにも実質シングルのお母さんがいて、いつも「もうヘトヘト」と言っているんです。吐き出すことでスッキリできているのかもしれないし、本当に苦しんでいるのかもしれない。助けを求められるまで待つべきか、こちらから積極的に関わっていくべきか、ご家庭の事情には踏み込みにくいところもあり、そういったときにはどう接したらいいのでしょうか?
諸富祥彦さん(以下、諸富):その方はきっと本当にヘトヘトなんだと思います。仕事、育児、家事しかない毎日ではやはり疲れますよ。そういう場合は、まずお茶に誘ったり、ランチをしたりして、一緒に過ごす時間を増やしていくといいと思います。
日本は遠慮するのが基本なので、いきなり「助けるよ!」と核心に迫られてもきっと遠慮しますよね。しっかり関係を作ってから、「出かけるんだけど、よければお子さんも一緒に連れて行くよ」と提案してみるといいんじゃないでしょうか。月曜は誰、火曜は誰、と気楽に「ちょっと見てあげようか」と言える関係を作れるといいですよね。

援助を求めることは恥ずかしいことではない
今回、本書で「援助希求力(えんじょききゅうりょく)」をテーマに一章設けられたのは、そういう声が多かったからなのでしょうか?

諸富:そうですね。川崎の事件にしても、援助希求がされていたら救えたかもしれませんし。いじめの場合も同じです。親御さんは、援助希求をするのは恥ずかしいことではなく、「子どものためにできることをやっているんだ」というプライドの持ち方をしてほしい。親が我慢を重ね、追い詰められたりイライラしたりすることで、結果的に辛い思いをするのは子どもです。日本の親御さんは本当によくやっていますが、援助を求めてもいいんです。

本来であれば、行政が個別にサポートしてくれたらいいのですが、今はこちらから探さないと見つからない状況です。たとえば親御さん向けに、「困っていることがあれば○をつけてください」というアンケートを実施し、反応があれば「こういったサービスがあります」と紹介するくらいの手厚い支援をしていかないと。「ひとりひとりががんばって援助希求しなくては」という時点でおかしいんですよ。
残念ながらこういう現状があるので、『ひとり親の子育て』には援助希求する能力を身に付けましょう、と書きました。でも本当は、遠慮がちな人にも届く、垣根の低い世の中を作るべきです。
それから、自尊感情という言葉がありますが、自分に自信がある人の方が他人を頼れるのに対し、プライドが低く自信がない人は頼れないんです。他人に頼ると、自分がさらにダメな親のような気がしてしまう。
また、日本には、我慢することが美徳という考え方がありますよね。しかし、それで子どもにしわ寄せがいってしまうのは、やはり違うと思います。もっと大きな声を出して助けを求めていいんですよ。

泣かない「解離性障害」の子どもが増えている
公共の場で子どもが騒いだり泣いたりすることへの議論が、たびたび起こることについてはいかがですか?

諸富:子どもが泣くのは当たり前ですよ。そこを思い出してほしいですね。生活の中で、自分の思い通りになることが増えて狭量になっている人が増えているのかもしれません。

それから、最近、問題になっているのが「泣かない」子どもです。「解離性障害」といって、いじめられている子だけでなくいじめている子も発症しやすいのですが、自分の気持ちを出せない、自分の気持ちがわからない、表情が乏しい、そういう子どもが増えています。小さい頃、泣くのを許されない環境で育ったために我慢するのが当たり前になり、辛いときに泣けない。臨床心理学の分野で、今、大きなテーマとなっています。

「泣かなくてえらかったね」とつい言ってしまいがちですよね。

諸富:泣かないのがえらいのではなくてむしろ、「よく泣けたね」と声をかけてほしいですね。我慢することをやめないと、より子育てしにくい社会になってしまう。

子どもの感情を取り戻すために親ができること
解離性障害は、成長に従ってどうなっていくのでしょうか?

諸富:プレイセラピーなど感情を出す訓練で長い時間をかけて治療していき、自らSOSを出せるようになれば治りますが、自分で自分の気持ちがわからなくなって、より深刻な状態になる子もいます。

感情は人間にとって原始的なもののような気がしますが、それでも一度失ってしまうと、時間をかけないと取り戻せないんですね。

諸富:母親が安定感を持って接する、スキンシップをする、愛していると伝える、そういったことで取り返しがつくこともあります。誰でも、子育てに失敗はつきものです。あのとき失敗したから、あのとき離婚したから、といちいち思い返したくなるかもしれませんが、むしろその後の子育てが重要なんです。

子どもは可塑性が高い。大人のカウンセリングでは治療に10年かかるケースでも、子どもの場合は1年で治ることもあります。いい環境を与えられさえすれば修復力が高いので、失敗したことを悔いる時間があったら、今、いい子育てをした方がいいですね。

施設側、判決不服で控訴 郡山の園児うつぶせ寝放置死

福島民友新聞 2015年3月20日

郡山市の認可外保育施設で2010(平成22)年1月、津久井りのちゃん=当時(1)=がうつぶせ寝で放置され、死亡したとして、両親が当時の園長夫妻や保育士に損害賠償を求めた訴訟で、施設を運営していた同市の「ひりゅう」と当時の作田雅明園長(66)、由美子副園長(67)夫妻は19日、同社や夫妻、保育士に計約5775万円の支払いを命じた地裁郡山支部の判決を不服とし、仙台高裁に控訴した。福島地裁への取材で分かった。
一審の地裁郡山支部の判決では、「死因はうつぶせ寝による窒息死で、回避義務や注意義務を果たしていなかった」と施設側の責任を認めた。同訴訟では、担当保育士が10日、仙台高裁に控訴している。
りのちゃんの父利広さん(44)は「反省や謝罪の意図がみられず、残念としか言いようがない」とコメントした。

<高校生・就職内定率>92.8% 22年ぶりの高水準

毎日新聞 2015年3月20日

厚生労働省は20日、3月に卒業する高校生などの就職内定率(1月末現在)を公表した。高校生の内定率は92.8%(前年同期比2.1ポイント増)となり、22年ぶりの高水準となった。求人数が前年同期より25%増加したのが要因と見られる。
ハローワークを通じて就職を希望した生徒の状況をまとめた。内定率は男子が94.1%(同1.7ポイント増)、女子が91.1%(同2.8ポイント増)。求人数は約31万2000人(同25%増)で、求人倍率は1.8倍(同0.31ポイント増)となった。
求人の産業別では、製造関連で30%以上の増加が見られた。厚労省若年者雇用対策室では「採用意欲の高まりが内定率を押し上げている」と分析している。【東海林智】