まず制度を知る 川崎中1事件の教訓 ひとり親家庭の就業支援

西日本新聞 2015年3月31日

ひとり親家庭の子どもが被害に遭った川崎市の中1男子殺害事件で、被害生徒の母親は仕事や家事に追われてわが子を守ってやれなかったことを悔いているというコメントを公表した。事件は、ひとり親家庭の生活の大変さも浮き彫りにし、より充実した支援策が求められるが、支援の現場には「制度が十分知られていない」とのもどかしさもある。あらためて支援策を紹介したい。
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ・福岡(福岡市)など全国のひとり親支援団体は、川崎の事件を受け「いつ私たち親子に起こってもおかしくない事件」と、子どもの育ちを保障し居場所を広げる支援を求める声明を出した。
ひとり親、特にシングルマザーの中には「働いても働いても生活が楽にならない」という実感がある人が多いようだ。離婚やDV(配偶者や恋人からの暴力)で新たな住居を探さなければならない、子育てを頼る人がおらずフルタイムの仕事が見つけにくい、相談する時間も心の余裕もない…。同法人の大戸はるみ理事長は「今の制度で十分とはいわないが、それすら知らずに孤立している家庭は多い。行政の窓口や民間支援団体に気軽に相談してほしい」と話している。
支援策を収入、住居、就労の観点からみていく。
収 入
ひとり親家庭の自立を支える基本になるのは児童扶養手当。親子2人世帯のモデルでは、おおむね年収が130万円未満なら満額支給される。現在の満額は月額4万1020円だが、4月から月額4万2千円に上がる。年収130万円以上~365万円未満は月額4万1990円~9910円の一部支給。年収365万円以上は支給されない。
従来は公的年金を受給していれば児童扶養手当はもらえなかったが、昨年12月分から年金額が児童扶養手当額より低い人は、差額分の児童扶養手当を受給できるようになった。児童扶養手当は毎年4、8、12月に前月までの4カ月分が支払われる。改定後初の支払いは4月になるので、不明な点は市町村に尋ねよう。

住 居
市や県などの公営住宅は低料金だが希望者が多くなかなか入居できない。ただ、抽せん倍率を上げる優遇措置がある例は多い。UR都市機構では保証人がいらない代わりに所得基準を設けて入居を審査しているが、ひとり親家庭は基準が緩和される。

就 労
4月スタートの「子ども・子育て支援新制度」では民家やマンションで少人数を預かる小規模保育や家庭的保育などが新設される。「どうせ認可保育所は満員だから…」と最初から諦めず市町村に尋ねよう。

安定した職に就くための公的な就労支援策は多岐にわたる。「高等職業訓練促進給付金」は看護師や保育士など国家資格を取得するための学費や生活費として月額10万円を2年間支給。ハローワークのOBらが生活状況を把握しながら個別の支援策を策定する「自立支援プログラム」もある。しかし国の支援事業のうち何を採用するかは市町村に任されるため、住んでいる市町村に確認しよう。

子どもの声は一律規制せず 改正条例施行へ

NHKニュース 2015年3月31日

子どもの声も騒音だとして保育所などに苦情が寄せられるケースが相次ぐなか、東京都は子どもの声については音の大きさで一律に規制しないとした改正条例を1日から施行します。都は「子どもの成長を地域で見守れるよう、話し合いによる解決を促したい」としています。
都内では、保育所などの空きを待ついわゆる待機児童の数が去年10月の時点で1万2447人に上り、自治体では保育所などを増やす取り組みを進めています。
一方で、保育所の近隣住民などから子どもの声も騒音だという苦情が平成20年度以降、都内の42の自治体に相次いで寄せられていて、中には、住民が保育所の運営会社に対し、都の従来の条例を根拠に騒音の差し止めを求める訴訟を起こすケースも出ています。
従来の条例は、日中は45デシベル以上の音が騒音に当たるとして一律に規制していましたが、1日から施行される改正条例は、小学校入学前の子どもの声については音の大きさで一律に規制せず、社会生活上、許容できる程度を超えた場合に勧告や命令を行うとしています。従来の条例と比べて基準はあいまいになりますが、都は条例を運用する自治体に対し周辺への影響を見極めて総合的に判断するとともに、保育所を設置する前から、近隣住民の理解が得られるよう話し合いを重ねてほしいとしています。
東京都環境局大気保全課の木村秀嘉課長は「同じ音でもコミュニケーションを深めることで苦情が軽減されたケースもあり、条例の改正をきっかけに子どもの成長を地域で見守れるよう、話し合いによる解決を促したい」と話しています。

訴訟へ発展するケースも
騒音を規制している東京都の条例を根拠に、保育園周辺の住民が子どもの声も騒音に当たるとして騒音の差し止めなどを求める訴訟を起こすケースもあります。
練馬区に平成19年に開設された認可保育園では、開設前から騒音に対する不安の声が住民から上がったため、周囲に防音壁を設置したり、子どもを園庭で遊ばせる時間を制限したりする対策を取りました。しかし、平成24年8月に「園児の声が、都の条例が定める住宅地での騒音基準の45デシベルを超えている」などとして、近隣の住民が保育所の運営会社などを相手に騒音の差し止めなどを求める訴訟を起こし、現在も係争中です。

開園を延期するケースも
東京・世田谷区では、1つの認可保育園の開園が、住民の反対などによって1年半余り延期になっています。この保育園は、世田谷区下馬の公務員宿舎の跡地に新たに施設を建設するもので、定員100人の規模で去年7月に開園する計画でした。しかし、地域の住民から、子どもの声や保護者の送り迎えで起きる混雑などに対する反対意見が相次ぎ、すでに2度にわたって開園が延期されています。現在は来年4月の開園を目指して住民と協議が続いており、建設工事はまだ始まっていません。
世田谷区によりますと、毎年、新たに開園する予定の保育園の1割から2割ほどが、地元の住民の反対によって開園を延期せざるをえない状態だということです。

厚労省「自治体が責任もって対応を」
厚生労働省によりますと、保育所の空きを待っている「待機児童」の人数は、去年10月の時点で全国でおよそ4万3000人で、このうち、東京都は全国で最も多い1万2447人に上っています。
1日にスタートする「子ども・子育て支援新制度」では、定員が19人以下の「小規模保育」や自宅で子どもを預かる「保育ママ」など多様な形態の事業を認めることで待機児童の解消を目指します。国は平成29年度末までの5年間に合わせておよそ40万人分の保育の受け皿を確保するとしていて、各地で保育所の整備が進んでいます。
こうしたなか、住民の反対で保育所の開設の延期が起きていることについて、厚生労働省は、自治体が責任を持って周囲の住民を説得したり保育所の運営者と協力したりして事業を進めてもらいたいと話しています。 そのうえで、こうした事態がほかの地域で起きていないか状況を把握するとともに、自治体の相談に乗るなどして保育事業が適切に行われるよう支援していきたいとしています。

マタハラ深刻 「退職して」「1年妊娠するな」

東京新聞 2015年3月31日

妊娠・出産を理由に職場で不利益な扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)の被害者のうち、社内で防止策を担うはずの人事部門の担当者から被害を受けた人が24%に上ることが、市民団体「マタハラNet」(ネット)の実態調査で分かった。ネットは、法知識の不足や法令順守意識の低さを指摘。今後、事例集を作って企業研修を行う予定で、小酒部(おさかべ)さやか代表(37)は「被害の深刻さを企業に受け止めてもらい、ともに解決したい」と訴える。 (小林由比)
「期待に応えていない」。NPO法人に勤めていた東京都江戸川区の女性(30)に、雇用契約打ち切りの理由を説明したのは、人事を担当する総務部門の担当者だった。出産を間近に控えた昨年七月のことだ。妊娠後も連日、午後十時までの残業や土日の自宅作業をこなしていた。
大手銀行総合職からNPOに転職したのは一昨年。東日本大震災の被災地での母子支援を担当し、やりがいを感じていた。しかし、半年後に妊娠すると「出産後はいったん退職して。保育園が確保できたらまた入って」と言い渡された。
待機児童の多い都内では、いったん退職すれば認可保育所の入所も絶望的だ。育児休暇を取りたいと訴えたが「保育園に入れず復職できなかったらどうするの」と断られた。「経済的にも自立できず、社会的な価値がなくなったと思い、つらかった」
かつて銀行を辞めたのも、「この会社で子どもは産めない」と判断したからだった。「一年間は絶対に妊娠するなよ」。入行三年目、異動の際に上司からこう言われた。営業店から広告宣伝などを担当する部署への異動を喜んだが、その言葉に驚いた。
職場では妊娠中でも夜遅くまで残業する人や、産後短時間勤務制度を利用しても実際には帰れない人がいた。産休・育休で社員が抜けても補充がなく、しわ寄せを受けた他の社員らは妊婦や子育て中の人への不満を募らせていた。
「妊娠したら、仕事は続けていけるのか」。地方出身で両親にも頼れず、夫も長時間勤務。上司に不安な気持ちを相談したが、先輩から「そういう発言はしない方がいい。評価に響く」と注意された。「キャリアを積みながら、子どもを産むのは悪いことなのか、という気持ちになった」
八カ月になった長女は予想以上にいとおしく、子育ての喜びも感じる。四月から長女は都の認証保育所に入れることになり、求職活動する予定だ。だが、妊娠によって職を失った心の傷は深い。「就職できても、二人目の子を出産することは無理だと思います」

「Net」調査
調査は一月、インターネット上で実施。過去にマタハラを受けた二十~七十代の女性百八十六人が回答した。
ネットが三十日に公表した「マタハラ白書」によると、被害に遭った年齢は二十九歳から三十四歳が多かった。回答者の雇用形態は正社員七割、非正規社員三割。企業の社員数は、十~百人が32%、百~五百人が19%、千人以上が13%。東証一部上場企業も19%あった。
マタハラをした人物として、男性上司を挙げたのは53%で最多。女性上司(22%)、女性の同僚(18%)など同性からの被害もあった。人事担当者を挙げた人が約四分の一いる一方、被害を人事に相談した人は4%とわずかだった。
社内で相談しても「対応されずそのままにされた」(56%)、「よけいに傷つく言葉を言われた」(15%)などの回答が目立った。
職場環境について、38%が「残業が当たり前で八時間以上の勤務が多い」と回答。「サポートしてくれる職場同僚の労働条件の改善」を課題解決のカギとして挙げた人も一割いた。