「イライラして叩いただけ」が虐待につながる可能性

日経DUAL 2015年4月27日

神戸少年の町版コモンセンス・ペアレンティング(CSP)という手法を伝授する「怒鳴らない子育て練習講座」を開設した立役者、茅ヶ崎市役所こども育成相談課職員の伊藤徳馬さん。伊藤さんは、2013年夏に『どならない子育て』を出版しました。CSPについて詳しく教えてもらうこのインタビュー。初回のテーマは、伊藤さんがCSPに出合った日、です。
最初は自分が“対・子ども”の仕事をするなんて思っていませんでした。大学を卒業すると、まずは証券会社に入社。その後は、システムコンサルタント業に転職。その後、縁あって茅ヶ崎市の公務員試験を受けて、26歳で入庁しました。
配属されたのは職員課。「採用試験で点数がいい人を採るのではなく、民間企業と同じようにエントリーシートを導入しましょう」「リクナビに求人広告を載せましょう」など、前例の無い提案をどんどん出していきました。今思えば、転職してきてから間もないペーペーが生意気ばかり言っていたなあと思います。新人は当時「3年で異動」と言われていましたが、その通り、異動になりました。そこで、配属されたのが今の部署、「こども育成相談課家庭児童相談室」でした。

児童虐待問題の悪循環に直面。有効な予防策を模索し、CSPに出合う
家庭児童相談室という部署の主な業務は、市民から寄せられる子どもの育て方や子ども関連の手続き・サービスの利用の仕方など、子育て全般についての相談に乗ることです。2005年からは法制的に児童虐待の対応も市町村で始まっていたのですが、私が配属された2007年には、まだ役所は「どう対応すればいいか分からない」状況でした。
ただし、児童虐待の認知度が世間で高まってきた時期でもあり、何か問題があったときには、市役所にも通報が来るようになっていました。私は現場でノウハウは持たないながらも、児童相談所の人に教えてもらいながら、何とか児童虐待への対応をしていました。
例えば、「朝、保育園に行く前にあまりにも忙しくて気が立って、初めてちょっとだけ子どもを叩いてしまった」というケース。園の先生が園児から話を聞いたり、園児の顔にあったひっかき傷に気づいたりして通報してくれることも少なくありません。日々対応していく中で、そういった「虐待とまでは言えないけれど、少しサポートが必要かもしれない」という“グレーゾーン”があることに気付きました。これを見逃して放っておいてしまうと、1~2年、早いケースでは数カ月後には、大きな虐待問題へと進んでしまう可能性があるんです。

深刻な虐待に対応しているうちに、小さい案件が大きくなる
児童虐待への対応はとても時間がかかるものなんです。小さい虐待が何件もあって、深刻な案件に対応しているうちに、小さかったはずのものが大きくなってしまう。いたちごっこです。それを痛感する経験を何度もするうちに、市役所として虐待対策をするためには、目の前の案件への対応をしつつも、それ以前の虐待予防、つまり子育て支援にいかに力を注ぐかが重要だと思うようになりました。
我々は小さい案件でも大きい案件でも、保護者の方を責めるつもりは全くありません。「やむにやまれずやってしまったんだと思います。同じ問題が起きないように、困っていることがあったら教えてください。一緒に考えていきましょう」という支援路線でいくのですが、保護者は“虐待”という単語を耳にしただけで拒否反応を起こしてしまう。
虐待を受けても、頑張って普通に生活していくお子さんもたくさんいらっしゃいますが、中にはやはり、生活のしにくさ、子育てのしにくさが引き継がれていき、自分が親になったあとにも子どもを虐待する……という“虐待の連鎖”もあります。我々がうまく関わることができて、ご家族と事態を改善できたケースもあります。でも残念ながらその数はそんなに多いとは言えません。
そういった悪循環を断ち切るには、虐待が起きてからではなく、子育て支援を先行させるしかない。
その方法を模索する中で、私が出合ったのがCSPでした。最初は、「そんなに効果があることなら、もっと世間に知れわたっているはずだろう」と私もCSPに対してやや懐疑的でした。でも、「疑う前にまず実践してみよう」と思い、自分の娘を叱るときその方法を一度試してみたんです。すると、いつもとは全く異なる実感があり、目から鱗が落ちる思いがしました。
(ライター/大友康子、撮影/稲垣純也)

従事者の虐待を「加速」させるもの

by 田中元 (介護福祉ジャーナリスト) 2015年4月24日

愛知県名古屋市の介護施設で、職員3人が入居者に暴行した容疑で逮捕されました。容疑者の一人は、暴行の様子をスマートフォンで撮影していたといいます。ちなみに、この施設は未届けの有料ホームで、こうした行政の目が届かない環境下での問題の根は深いといえます。さまざまな観点から、こうした虐待ケースを防ぐための方策を考えてみます。

「密室」となる未届ホームが虐待の温床にも
厚労省が毎年実施している「高齢者虐待に関する対応状況等の調査」によれば、最新の平成25年度調査における「養介護従事者等による虐待」の件数は、虐待と判断されたもので221件にのぼります。前年度が155件だったので、年間66件の増加(+42.6%)となります。養護者(親族など)による虐待件数に比べればわずかですが、こちらが頭打ち傾向にある一方で、従事者による虐待件数の増加が目立つ結果となっています。
ただし、これは市町村が相談・通報を受理したもののうち、虐待判断にいたった件数に過ぎません。今回のケースのように未届ホームなどで密室状態となり、しかも身近で気づく親族などがいない場合もあることを想定すれば、潜在的な虐待ケースはまだまだ増えることも考えられます。国は「自治体による未届ホームの把握が進んでいる」としていますが、行き場所のない要介護者の受け皿自体が急速に増えている可能性もある中では、実態調査をさらに加速する必要があるでしょう。

職員への倫理教育はどこまで効果があるのか
今回のような事件が起こるたびに、職員の倫理観や人権意識をどのように高めるかが課題として上がります。しかし、今回容疑者となった職員のように25歳以上となれば、社会的な倫理観などはある程度完成されています。こうした年齢から、事業所・施設で教科書的な人権教育などを行なっても、大きな上積みをほどこしていくことは難しいでしょう。
大切なのは、個々の職員の倫理観が「ある程度固定されている」ことを前提としたうえで、1.足りない部分を組織としてどう補っていくか、2.非倫理的な部分が(一時的にでも)拡大させないような環境をどうやって整えていくかという点です。サービス提供の主体としてのリスクマネジメントの問題といえます。
たとえば、若い世代と接していると、一人ひとりはやさしく、礼儀正しいケースが目立ちます。ただ、「その場の空気に過剰に順応する」という傾向を感じることがあります。つまり、行為自体の良い・悪いにかかわらず、集団の流れに乗ることへのリミッター(抑止力)が働きにくくなる瞬間が生じるわけです。
今回のような事件も、容疑者のうちの一人でも「この行為はおかしいのではないか」という意思表示があれば、ここまでエスカレートしたでしょうか。言い換えれば、その場の「流れ」に無抵抗となることが、事態をさらに悪化させるリスクとなってくるわけです。

地域単位で「未届」の実態把握を加速させる
この点を考えたとき、1.一人の利用者に対応するチームを固定させない、2.管理者が現場をラウンドして利用者の異変を早期に察知する機会をもつ、3.職員が過剰なストレスや疲労を抱えて「流されることが楽」となってしまわない状況を作ることが必要です。日々の記録をしっかり書かせることで、「自分がやったことの振り返り」へとつなげて「我に返しやすい」状況を作ることも必須でしょう。
とはいえ、未届ホームのように「密室化」(つまり、流されるままになりやすい環境)が組織的に進むようなケースでは、常識的なリスクマネジメントなど機能しません。
たとえば、地域ケア会議に地元の不動産業者・オーナー、そして自治会・民生委員の人々も巻き込みながら、「あそこは未届ホームなのではないか」といった情報を地域で共有し実態把握を進めていくことが求められます。また、入居者が相当に悪化した状態で救急搬送されるなどのケースも考えられる中、(児童虐待における通報のような)医療機関からの情報提供を求めるしくみも検討したいものです。

風邪薬と栄養ドリンクの「同時飲み」は危険!

東洋経済オンライン 2015年4月28日
医者に行く時間なんてなかなか取れない、体調が悪くなったらとりあえず常備薬を飲む、という社会人は多いはず。しかし、そのときの薬の飲み方が間違っている人が多い! と薬剤師の小谷寿美子氏は指摘します。
いったい何がどう間違っているのか?  今回の記事では「薬の危ない飲み方」について紹介します。
気温の変化が大きい今の季節、風邪を引いている人も少なくないのではないでしょうか。
しかし、薬剤師から見れば、ちょっと困った飲み方もよく見かけます。3月に『その薬があなたを殺す!』(SBクリエイティブ)という本でいくつかをご紹介させていただきましたが、心の中で「そんな飲み方をすると、体を壊すのに……」と思うこともたくさんあります。 そこで、今回は「多くの方がやっているけど、意外と怖い薬の飲み方」について紹介させていただきたいと思います。

その風邪薬の飲み方、大丈夫?
「治らないから」といって、食後1錠ずつ、というところを、2錠飲んだり、症状が出るたびにいい加減に飲んだり、という方がけっこういます(頻繁に同じ薬を買い求めにこられるので、薬剤師にはわかるのです)。これは、絶対にダメです。
薬には決められた用法用量というものがあります。用法用量は動物実験から始まり、臨床試験に至るまでの膨大なデータの中から決められています。この量なら効果が最大に出る、この量になると死亡例が増えてくる、ではこの量ならどうだろうか?  1日1回なら?  1日3回なら? ……などと、試行錯誤のうえで決められているのが、「効果が最大に出て、副作用が最小に出る」用法用量です。
風邪薬で用法用量を守らない場合に心配なのは、肝臓への負担です。多くの風邪薬は解熱鎮痛効果があるアセトアミノフェンを使っており、肝臓に負担のある成分でもあります。このアセトアミノフェンという成分は薬効を発揮したのち、肝臓に集められて解毒されます。
しかし、肝臓には、解毒する酵素があるものの、その量には限りがあります。必要以上に飲んだ薬は、解毒できずに残ってしまいます。それが肝臓を痛めつけるのです。

風邪薬で「副作用」が出る場合もある
薬剤性肝障害という副作用があるのですが、アセトアミノフェンが原因となっている例が厚生労働省に報告されています。風邪薬なんてメジャーな薬が副作用の原因(しかも市販の薬の副作用発生件数も、それでの死亡件数も1位です)になるなんて!  でも、これが事実なのです。(※薬効群別副作用症例数の状況:厚生労働省 平成19年度から平成23年度) 薬剤性肝障害になると、どういう症状が起きるのでしょうか。
初期症状として、倦怠感、食欲不振、発熱、黄疸、発疹、吐き気・嘔吐、かゆみがおこります。これらの症状が急に表れたり持続したりします。肝臓はいろいろなことをしている臓器なので、これがダメになるとさまざまな症状が出ます。激しいケースだと劇症肝炎といって肝臓が短期間で破壊されてしまい、死亡に至る確率も高くなっています。
こんなふうに恐い薬剤性肝障害ですが、やっかいなところは、初期の症状が風邪の症状と似ているところです。
薬剤性肝障害になる患者さんのほどんどは、最初は軽い風邪で風邪薬を飲むのですが、そのときに飲みすぎたり、体質的な問題で薬剤性肝障害になる、ということが多いのです。
のどが痛い、鼻水が出る、せきが出るという症状が気になっていて、風邪だと思って薬を飲んでいるわけですから、まさか「肝臓が悲鳴を上げている」とは思わないことが大半です(肝臓をいたわろうと思うのはお酒を飲むときと、血液検査の前くらいなものですよね)。
だからこそ風邪がなかなか治らないなぁと思って風邪薬を使い続けているうちに、薬剤性肝障害の症状が進んでいることがあるのです。
風邪は大体の場合、5日もあれば治るものです。それで治らないのであれば、風邪ではありません。早く病院に行くのが基本です。

風邪薬と栄養ドリンクを一緒に飲むリスク
風邪薬と栄養ドリンクを一緒に飲むというのもあまりお勧めできません。「え?  思いっきりやっています」「風邪のときは栄養を取ったほうがいいでしょ。体力をつけたいのだから、栄養ドリンクでいいいじゃない」
という声も聞こえてきそうですが、これが要注意なのです。
確かに、風邪を引いているので栄養をつけなくてはいけないのですが、そこで必要なのは栄養ドリンクではありません。
栄養ドリンクというのは微量ながらアルコールが含まれています。「リポビタンD」に代表されるビタミンドリンクにも、「ユンケル黄帝液」に代表される生薬ドリンクにもアルコールが含まれています。「養命酒」は名前のとおりアルコールが含まれています。
「養命酒」などは風邪を引いたときに飲む方もいますよね。風邪薬を飲まないのであればこういった養生法を使ってかまいません。しかし、風邪薬を飲むのであれば同時には使わないほうがいいのです。
さて、アルコールは肝臓に悪いということは、みなさんもご存じのことだと思います。それはなぜでしょうか。
アルコールは、体に入ると、分解するために肝臓に集められます。肝臓のアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに変えられます。そしてアルデヒド分解酵素によって酢酸に変えられます。酢酸は全身のエネルギー回路の中に取り込まれ最終的に二酸化炭素と水に分解されて排泄されます。
しかしこのアセトアルデヒドという物質はたいへん不安定で、何かとくっついて安定した状態になろうとします。たんぱく質とくっついてたんぱく質を変性させ、脂質とくっついて脂質を変性させます。細胞というのはたんぱく質と脂質でできていますから、細胞を変性させてしまい、その結果、細胞の機能を失わせてしまうのです。つまり肝臓の細胞が機能しなくなるということです。
さて問題です。肝臓に悪いアルコールと、薬剤性肝障害の原因にもなりえる風邪薬を一緒に飲んだらどうなるでしょうか?  答えは「さらに肝臓が悪くなる!」です。
栄養は取らないといけないのですが、ドリンクという形状がよくないのです。
どうしても栄養剤で賄いたいなら、ビタミンドリンクの代わりに、錠剤のビタミン剤を、生薬ドリンクの代わりに錠剤やカプセルに入った生薬を飲むほうがいいのです。これも市販で売っているものです。

キーワードは「コンプライアンス」
用法用量を守って正しく薬を飲むことを、「服薬コンプライアンス」と言います。薬は「服薬コンプライアンス」があって初めて期待する効果が得られ、副作用を減らすことができるのです。
今、仕事をしていくうえで言われていることが、「企業コンプライアンス」なのではないでしょうか?  法律や内規等のルールに従って活動する。知らない方も多いかと思いますが、薬の添付文書というのは法律文書なのです。添付文書を見たことがないという人もいるでしょう。しかし、法律文書に書いてあることを守らないで健康被害が出たときは、国も製薬企業も保障しませんということでもあります。薬を飲むうえでも「コンプライアンス」の重要性が問われていると思います。