どこまでが「教育」で、どこからが「虐待」なのか

シェアしたくなる法律相談所 2015年6月7日

虐待と聞いて、あなたはどのような行為を想像しますか?
殴ったり、ご飯を与えなかったり、酷い言葉を投げかけたり……などを想像する人が多いと思います。おおよそ合っているのですが、法律では平成12年に制定された児童虐待防止法により、細かくは4つ、大きくは2つに規定されています。
保護者がその監護する児童に対し(1)その身体に外傷が生じ又は生じるおそれのある暴行を加えること(身体的虐待)、(2)わいせつな行為をすること又はわいせつな行為をさせること(性的虐待)、(3)保護者としての監護を著しく怠ること(ネグレクト)、(4)著しい心的外傷を与える言動を行うこと(心理的虐待)の4つを「児童虐待」と定義しています。(1)、(2)、(4)を支配型、(3)を放任型として、大きく2つに分類することもあります。
しかし、時に子供にビンタをしたり、厳しい言葉を投げかけたり、ベランダに閉め出すということを教育として行う家庭もあることでしょう。このような行為は教育(躾)と虐待どちらになるのでしょうか?

躾(しつけ)や教育とは?
これに対し、躾や教育は、児童が社会の一員として自立して生きていくために必要なマナーやルールを身に付けさせること、知識や技能などを教えることを意味します。

どこに違いがある?
では、虐待と躾・教育の違いはどこにあるのでしょうか。躾と称して体罰を加えることは、虐待にならないのでしょうか。
両者の境界を明確にすることは難しいのですが、よく言われるのが、躾・教育は、愛情をもって、児童の人格を尊重しながら、自らを理性的・自律的にコントロールできる力を育てようとするもので、内容に一貫性があるうえに、児童の言い分にも耳を傾ける余裕があるものとされます。
それに対し、虐待、特に支配型のものは、「愛情をもって、児童の人格を尊重しながら」という部分を欠落させ、親の圧倒的な力を悪用して児童をコントロールしようとするものです。
文部科学省が公表している「虐待の基礎的理解」という資料によりますと、「何をしたら誉められ、何をしたら罰せられるのか、子どもにも理解、予測できる」ものが躾であり、「大人の気分や理解し難い理由で罰せられる」ものが虐待であるとされています。
そうすると、躾と称する体罰も、実は、児童を思うようにコントロールできない自分の苛立ちを児童にぶつけているに過ぎないものであったり、児童からみて、なぜ親からそのようなことをされるのか理解できないというものであれば、虐待の範疇に含まれてくることになります。
児童への悪影響を考えたとき、暴力的な行為はたとえ躾であっても許されないと考えるのが今では一般的になっています。

児童虐待の現状
厚生労働省の統計によりますと、全国の児童相談所で児童虐待に関する相談対応をした件数は、毎年増加しており、法律も度々改正を重ねてきているところですが、平成25年には7万3,000件を超えて、児童虐待防止法が定められる前の平成11年度の約6.3倍に増加してしまったことを受けて、現在、児童相談所による強制的な立入調査ができる方向での改正が検討されているようです。
悲劇が繰り返されることのないよう祈るばかりです。

幼少期の性的虐待に立ちはだかる“時効の壁” 法改正で泣き寝入りを防げるか?

産経新聞 2015年6月6日

幼少期に性的虐待を受けた被害者の救済のため「時効」を見直そうという動きが広がっている。加害者が近親者で相談できる人もいないことなどから、性的虐待は被害の訴えが遅れがちになる。声を上げた時点では「時間の壁」に阻まれることもあり、被害が表面化しにくいとされる。「被害を受けたときが時効のスタートというのはあまりにも酷」。被害者らの悲痛な叫びが響く。

誰にも言えない…約30年後に“告白”
「今の法律では、多くの被害者が泣き寝入りするだけ。加害者にとってのメリットしかない」
北海道釧路市出身の40代女性はこう訴える。
女性は3歳~8歳まで、叔父にあたる男性から性的虐待を受けた。当初は添い寝をするだけだったが、行為は徐々にエスカレート。体を触られ、性行為を強要されるようになった。女性は中学生になって初めて、自らが受けた行為が性的虐待だったと知り「頭を殴られたようなショックを受けた」という。それでも「広まったら大変なことになると思い、誰にも言えなかった」。
女性は6、7歳ごろから視界にもやが掛かったようになり、現実感が薄れる「離人症」の症状が出始める。後に鬱病も発症。悪夢にうなされる日々が続き、自殺も考えた。
平成23年、30代後半になった女性は東日本大震災を機に「自分の命とも向き合わなければ」と考え、性的虐待被害を医師に相談。心的外傷後ストレス障害(PTSD)との診断を受け、叔父を相手取り、慰謝料などの損害賠償請求訴訟を決意した。
提訴の数日前、初めて両親に被害を告白した。返ってきたのは「公にするのは身内の恥。目撃者もいない。お前が黙っていればなかったことになる」との言葉だった。

年を重ねるごとにふくらんだ「被害意識」
それでも提訴に踏み切った女性だが、立ちはだかったのは「時間の壁」だ。1審・釧路地裁は、不法行為に対して損害賠償を請求できる除斥期間(20年)が経過したとして請求を棄却。2審の札幌高裁は鬱病の発症を新たな被害ととらえ、請求の一部を認めたが、叔父側が上告し、現在、最高裁で係争中だ。
「心の傷は時間が解決してくれることもある。でも、私の場合、性的虐待は年齢を重ねるごとに被害意識がふくらんだ。被害を受けたそのときが時効のスタートというのはあまりにも酷だ」。女性は現在も週1回、PTSDで通院を重ね、1時間1万円の治療費を自ら支払うという。
女性の代理人の寺町東子(とうこ)弁護士は「幼児期の性的虐待被害者は防御反応で自らの記憶を封じ込めがちだ。心の折り合いがつくのは一握りの人で、それも30代、40代になってからだ」と指摘する。
だが、こうした人々が被害を訴えても損害賠償請求権は消滅、刑事事件としても強制わいせつ罪なら公訴時効(7年)にかかる。被害女性や寺町弁護士らは刑事事件と損害賠償請求訴訟の時効を被害者が成人するまで停止することなどを求め、1万人を目指して署名活動を展開する。

独、仏などでは対策、遅れる日本の法整備
児童虐待件数は増加の一途をたどっている。厚生労働省によると、全国の児童相談所が平成25年度に対応した児童虐待件数は前年度比で10・6%増の7万3802件。一方、「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4分類のうち、性的虐待は2・1%(1582件)にとどまる。性的虐待と時効の問題に詳しい立命館大学の松本克美教授(時効論)は「性的虐待は実態が見えにくく、数字は氷山の一角だろう。大人になってPTSDなどの症状が出ても、訴え出ない人が多くを占める」として、その一因を「日本の法制度の遅れにある」と分析する。
松本教授によると、ドイツでは、性的虐待被害者が満21歳になるまで損害賠償請求権の時効が停止し、さらに30年間(満51歳まで)権利行使ができるよう段階的に法改正された。フランスでも満18歳まで時効が停止するなどの規定がある。松本教授は「実際に訴訟を起こすかどうかは別にして、法的な権利を持つことが精神的な被害回復の一助となる」と話す。
こうした声の高まりを受け、自民党は4月「女性の権利保護プロジェクトチーム(PT)」を設置。今後、専門家や児童相談所からヒアリングを重ね、児童虐待防止法を改正するなどし、時効の起算点を18歳か20歳とする方向で検討している。
PT座長の馳浩衆院議員は「幼少期の性的虐待は、密室で子供と密接な関係にある者が行うことが多く、『どうせ発覚しない』と、たかをくくっている傾向がある。時効停止により、改めて許されない行為だということを示せば、性的虐待の抑止にもつながるはずだ」と話している。

学校のイジメが「事件」として扱われない理由

シェアしたくなる法律相談所 2015年6月6日

イジメと言われる行為でも、仲間外れにしたり、無視したりする程度であれば、刑法に違反することはありません。
しかし、教科書を隠したり壊したり(器物損壊罪、3年以下の懲役)、お金を脅し取ったり(恐喝罪、10年以下の懲役)、殴ったり(暴行罪、2年以下の懲役)、怪我させたり(傷害罪、15年以下の懲役)したら、刑法上の犯罪です。
ところが、多くの人は、このような明白に刑法上の犯罪になる行為まで、「イジメ」という一言で片付けようとします。
仮に、児童の保護者が警察に被害届を出しても、警察が動いてくれるのは稀です。それはなぜでしょうか?

なぜ警察は学校に介入しないのか
警察は、学校内の事件や事故にあまり介入したがりません。その理由は不明ですが、多分、学校の自主性をおもんじているからだと思われます。しかし、明白に刑法上の犯罪になるものであれば、警察が積極的に介入すべきだと思います。
私は新米弁護士のころから、学校内の問題に取り組んできました。学校長や教育委員会にかけあったこともありますが、ほとんどが責任逃れに終始します。
その経験から、いまでは、すぐに警察に捜査を求めます。学校の自主性を重んじていれば、被害者が救われないからです。警察が捜査すれば、イジメの加害者だけではなく、その他の関係者に対する事情聴取も迅速に行われ、被害者の救済が早いです。
とはいえ、警察や家庭裁判所が出来ることは限られています。やはり、教育の問題は教師や教育委員会がしっかりとした対応をすることだと思います。また、子供の保護者もしっかりと子供を守るべきだと思います。

保育士らの92%が「給与に不満」、理想と現実のギャップは「100万円」

エコノミックニュース 2015年6月7日

昨年9月、厚生労働省は「待機児童解消加速化プラン」をまとめた。2017年度末までの5年間で、約40 万人分の「保育の受け皿」を確保するという。が、実現への道のりは厳しい。資格を持ちながら保育士として働いていない「潜在保育士」は全国に68万人。理由のひとつが、子供の命を預かる重労働に見合わない「賃金の低さ」だ。保育士の転職支援サービスを手がけるウェルクスが、保育士・幼稚園教諭らに対し「現在の年収に満足しているか」尋ねたところ、実に92%が「満足していない」と回答した。ほとんどの保育関係者が、年収に不満をもっている。
調査は今年1~2月と、5~6月にかけて実施。回答者数は200人で、内訳は「保育士」が87.5%、「幼稚園教諭」が10%、「その他保育教育関連等」が2.5%だった。平均年齢は32.8歳で、女性が97%を占めている。
厚労省の賃金構造基本統計調査によると、13年の保育士全体の平均年収は「310万円」。全職業の平均より、約100万円少ない。一方、今回、ウェルクスが保育士らに聞いた結果では、賞与や手当を含んだ年収額の平均は「213万2500円」だった。厚労省の調査よりも約100万円少ない。派遣やパートなども含め、雇用形態や年齢で差が出た可能性もある。ちなみに、調査に回答した保育士たちが「希望する年収」の平均は「314万541円」。現実と比べて、100万ものギャップがあった。
保育士たちからは、切実な声が寄せられた。「資格を持って働いているにもかかわらず、最低賃金で働いているのに不満を感じる(20代女性)」、「基本給が低いのでボーナスが出ても安い(40代)」、「出勤日数も多く、16年続けているのに手取り15万。ありえない(30代)」など、賃金の低さ、昇給の少なさを訴える声が目立つ。「持ち帰り仕事が多いので残業に反映されない(30代)」、「毎日2~3時間の残業をしているがタイムカードを切らされる(20代)」など、労働基準法違反とみられるケースもあった。
保育士といっても、全員が「正社員」ではない。正規雇用とそれ以外の「待遇格差」も問題だ。非常勤の保育士たちからは、「常勤とほぼ同じなのに、残業しても勤務時間以外はカット。有給休暇も取らせてもらえず、常勤を休ませたいからと保育を頼まれる始末(40代)」、「給料は正規の3分の1。こんなに違うのに研修に出ろ! もっと勉強しろ! と言われても、やる気に繋がらない(40代)」など、切実な声があがっている。
この4月から、「子ども・子育て支援新制度」が始まった。政府は保育士などの給与を「3~5%」改善するという。が、それでは全く足りないだろう。そもそものベースアップはもちろん、せめて「同一労働同一賃金」を実現し、休日の行事に対する特別手当の増額など、処遇改善への課題は山積みだ。(編集担当:北条かや)

塾のブラックバイト、厚労省が改善要請 違法な例示す

朝日新聞デジタル 2015年6月7日

大学生らを酷使する「ブラックバイト」の問題で、厚生労働省が学習塾業界に、適正に賃金を支払うよう異例の要請をしていたことがわかった。「未払い賃金がある」といった相談が労働組合などに相次いでおり、業界全体で改善に取り組むよう求めている。
講師らが授業時間の前後に働かされているのに賃金が支払われていない事例があり、厚労省が調べていた。残業の割増賃金を支払わなかったり、時給が最低賃金を下回ったりする例もあったという。
厚労省は具体的な件数を公表していないが、労働基準法や最低賃金法の違反事例も目立つとして、塾業界で不適切な労務管理が広まっている可能性があると判断。労働基準局長からの改善の要請文を、全国学習塾協会や私塾協同組合連合会など関係7団体に3月末に送った。
要請文では、労働基準監督署が実際に指導した違法なケースを例示している。授業後に生徒からの質問対応をさせる際に、時間給ではなく一律「100円」だけ払っていた事例もあったという。
全国学習塾協会は、約470の塾運営会社などに内容を伝えて法令順守を徹底させるようにした。担当者は「一部の塾による賃金未払いは、業界が以前から抱える問題だ。厚労省の要請をきっかけに、見直しを進めていきたい」という。
ただ、業界団体のなかには「会員への指導に強制力はなく対応は任意」というところもある。団体に加盟していない小規模の塾も多いため、改善要請が十分に伝わらない恐れもある。
この問題ではブラックバイトユニオンを母体として、「個別指導塾ユニオン」が4日に発足。賃金の支払いなどを求め、10社前後の企業に団体交渉を申し入れていく方針だ。(高橋末菜、疋田多揚)