「教員を減らすべき」VS「むしろ増員すべき」 財務省と文科省の意見が対立する理由

ウートピ 2015年7月2日

5月、財務省は日本の厳しい財政状況を鑑み、「2024年までに教員を4万2,000人を削減すると、国負担を780億円削減できる」と教員の削減案を示した(朝日新聞(5月12日) 小中の教職員、4万人減で780億円削減 財務省試算)。一方、文部科学省は、6月、それに反論する異例の資料を公表、「いじめへの対応など教育課題は増加しており、機械的削減でなく、戦略的充実が必要だ」と主張している。(日本経済新聞(6月5日) 教員数削減案に「教育課題は増加」文科省、財制審に反論)
財務省「教員削減は少子化に伴う合理化のため」
財務省の試算を受けてまとめられた財務省の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)の主張はこうだ。
今後の少子化見通しを踏まえて機械的試算をすれば、(1)平成36年度までに37,700人の自然減を反映した上で、(2)2,214人の加配定数を「当然減」として合理化することが可能。「定数合理化計画」を策定し、毎年度の予算編成過程で更なる合理化等を検討すべき(財政健全化等に関する建議)。
加配とは、障がいをもつ児童生徒のための特別支援教育(通級指導)やいじめ・不登校への対応、貧困による教育格差の解消、外国人児童生徒への日本語指導など、 学級数等に応じて算定される基礎定数では対応困難な教育課題に対して措置するものだ。つまり「子どもが減るんだから、今、難しい問題のためにつけている教員はなくても大丈夫でしょう」という主張だ。
文科省「時代に合わせて教育を充実させるべき」
対する文科省はこうだ。
少子化によって生じる財源については、(1)アクティブ・ラーニングやチーム学校の推進など、新しい時代の教育を実施するために活用すべき (2)加配定数は特別支援教育、いじめ問題、貧困問題など現代的な教育課題の増大に対応してむしろ増員が必要(財政制度等審議会の「財政健全化計画等に関する建議」に対する 文部科学省としての考え方)
つまり、時代に合わせた教育ニーズと、子どもたちの困難な状況の対応に充てるべきだという。
少人数クラスの効果
むしろ、教員を増やすべきだという文科省はさらに、学習集団(クラス)の人数が少ないほど、不利な家庭環境におかれた子どもたちへの教育効果が高く、自己肯定感も高まる、とする。
これは、困窮世帯の子どもたちを支援している筆者の経験でもうなずける。しかし、これは学習の問題だけではない。学級の人数は単に授業をする時に何人子どもがいるのか、という問題ではなく、何人の子どもたちの家庭生活も含めた状況を把握し、適切に支援していくかという問題でもある。
教員の人数確保だけで解決しない
しかも、これらの問題は、学校だけで解決できる問題ではなく、児童相談所や市町村の関係部署、地域の人々と連携しながら解決していかなければならない。障がいを持つ児童生徒や、外国にルーツを持つ児童生徒への対応も同様だ。アクティブ・ラーニングなど時代の要請する教育のあり方についても、外部の人材や学外の知恵を活用しながら進めていく必要があるだろう。いずれも、学校内で教員の人数を手厚くするだけでは、効果はあがらないのではないか。これは縦割り行政を超えて、学校現場に意識や組織の改編を迫るものでもあるだろう。予算を使う分、文科省や学校関係者にも、こうした覚悟が必要だ。また、地域も学校を応援することが求められる。
教育は国家百年の計。これから子どもを産み育てるかもしれないアラサー女性は未来に借金をなるべく残さない合理化と、子どもが手厚い教育を受けれらる教育の充実、どちらを支持するだろうか?

子どもの臓器提供見送り59例 虐待否定できないケースも

どうしんウェブ 2015年7月2日

15歳未満からの脳死移植に道を開いた改正臓器移植法施行から17日で5年となるのを前に共同通信が実施した全国調査で、病院が子どもからの提供を検討したものの見送ったケースが少なくとも59例あることが2日、分かった。脳死の原因となった不慮の事故で第三者の目撃がないなど「児童虐待を否定しきれない」とされたケースが7例含まれる。
虐待事例除外の手続きに関し、第三者目撃のない事故で脳死になった場合「提供対象から一律除外する」と院内マニュアルで定めている病院が1割以上を占めた。
家族の承諾による臓器提供を可能とする改正法施行後15歳未満の脳死臓器提供は7例にとどまる。

時代映す 明治の教科書

読売新聞京都 2015年7月2日

福知山・佐賀小 大正、昭和含め320冊発見
福知山市立佐賀小の前身の学校で明治時代初期から昭和20年代に使われていた約320冊の教科書が、同小の倉庫で見つかった。市教委によると、大量の古い教科書が1か所から発見されたケースは市内ではないという。市教委は「明治時代の教育事情や、当時の教育レベルの高さがうかがえる貴重な資料。保存、展示する方向で検討していきたい」としている。(大島渉)
同小は1873年、律襲校として創立。87年に報恩寺小、90年に佐賀尋常小と名前を変え、1956年9月に現在の校名となった。
佐賀小によると、6月上旬、同小PTAの資源回収に提供する不用品を探していた校務員が倉庫で、「明治の教科書」と書かれるなどしたダンボール3箱を発見。中身を確認したところ、約320冊の教科書が保管されていた。
日本史「内國史略」(明治7年発刊)や、文書の書き方を記した「初等作文稽古本」(同16年)、女子を対象にした「女子國語讀本」(同43年)など現代の国語や算数、理科、社会にあたる教科書がそろっているという。
当時の時代背景が読み取れる教科書も残っていた。「小學諸禮書」(同17年)では、あいさつの仕方から菓子の食べ方まで当時の女子の作法をイラスト付きで説明。忠君愛国を説いた「小学修身要録」(同)、「軍艦マーチ」を掲載している「小学唱歌」(同)などからは、戦時中の教育方針がうかがえる。
教科書は、一部に虫くい跡が見られるものの、大半は保存状態が良いという。同小は現在、虫干しも兼ねて校舎の廊下に展示。教科書を手にとって眺める児童もおり、6年生の荒木一斗君(11)は「漢字ばかりで難しい。昔の子は頭が良かったんですね」と感心していた。
同小は、教科書をしばらく展示した後、市教委と相談しながら、対応を検討するという。同小の衣川博校長は「昔の子供たちが大事に教科書を使ったことがよくわかり、歴史の重みを感じる。今の児童たちが、その思いを感じ取ってくれれば」と話している。

子どもの脳に化学物質が与える深刻な影響

Global Voices 日本語 2015年7月2日

この記事は当初、エリザベス・グロスマンによりEnsia.com向けに執筆され、コンテンツ共有の合意のもとにグローバルボイスに転載しています。Ensia.comは世界で取り組まれている環境問題の解決策について中心に扱うニュース・サイトです。
2015年2月16日、目を疑う数字が発表された。米疾病対策センター(訳注: 以下CDC)によると、アメリカで2006年から2008年の間に発達障害と診断された子どもは、10年前と比較して約180万人以上多いという。この間に、自閉症の患者数は300パーセント近く増加し、ADHD(注意欠陥・多動性障害)は33パーセント増加している。また同センターの統計によると、アメリカで生まれる全ての赤ん坊のうち10から15パーセントが何らかの神経発達障害を持つという。神経障害と診断されない程度の障害を持つ子どもたちはさらに多い。
そして、これはアメリカのみに留まらない。世界中の何百万という子どもたちがこうした障害の影響を受けている。数があまりに多いため、内科医であり、この分野の権威である南デンマーク大学およびハーバード大学T・H・チャン・スクール・オブ・パブリック・ヘルスのフィリップ・グランジャンと、ニューヨークのマウント・サイナイ・アイカーン医科大学のフィリップ・ランドリガンは、現状を「パンデミック」という言葉で表現した。
早期において精密な診断が下されるようになったことがこの増加の一因ではあるが、それで全てが説明できるわけではないと、カリフォルニア大学デービス校環境疫学教授であり、MIND研究所長のイルヴァ・ヘルツ‐ピッチョットは言う。グランジャンとランドリガンは、事例の30から40パーセントに遺伝的要素を認めている。しかし、調査サンプル数が急増するにつれ、子どもたちに懸念される神経障害増加の原因は環境汚染にあること がわかってきた。
今、何が起きているというのだろう?そして、私たちに出来ることは何だろうか?

化学物質と脳
例えば、鉛 、水銀、有機リン系農薬などのいくつかの化学物質は、子どもたちの神経系の健康に生涯に渡る影響を及ぼしかねないことが昔から知られていた、とサイモン・フレイザー大学健康科学部教授のブルース・ランパールは言う。アメリカは現在、鉛を含有する塗料を禁止しているが、 多くの人がこういった塗料が塗られた住宅に住んでいるし、世界ではなおも使用され続けている。合衆国法によって使用が禁止されている現在においても、子どもたちがペンキや、おもちゃに使用された塗料や金属などを通じて鉛に触れる可能性がある(きかんしゃトーマス事件を忘れないこと)。安定剤として鉛が使われたプラスチックや、汚染された土など環境要因への接触も同様だ。水銀の場合は、ある種の魚や汚染された大気、水銀の使われた古い温度計やサーモスタットが汚染源となっている。これらに触れる機会を減らし、無くしていくために多大な努力が費やされてきたが、不安が去ることは無い。なぜならば私たちは今、これらはごくごく微量でも悪影響を及ぼし得ると知っているからだ。
At early stages of development — prenatally and during infancy — brain cells are easily damaged by industrial chemicals and other neurotoxicants. Photo by Flickr user Jason Corey. CC-BY-NC-SA 2.0
発達段階の早期、つまり妊娠中から幼児期にかけて、脳細胞は工業用化学薬品や他の神経毒物によってたやすくダメージを受ける。写真提供: FlickrユーザーのJason Corey。CC-BY-NC-SA 2.0。
しかし科学者たちはいま、化学化合物は屋外の空気中の排気ガスや細かい粒子状物質などと同様に、屋内の空気中や日用品においても普通に存在し、出生前後の脳の発達に悪影響をもたらす可能性があることを明らかにしつつある。
脳の発達への悪影響が特に懸念されるとしてランパールがリストアップした化学物質の中には、難燃剤やプラスチック、パーソナル・ケア用品や他の家庭用品に使用されるものも含まれる。
ホルモンの変化を促す化学物質が神経系に影響を与える可能性はますます強まっていると国立環境衛生科学研究所(訳注: 以下NIEHS)と国家毒性プログラムのディレクターであるリンダ・バーンバウムは言う。発育の初期段階において神経に影響を与える化学物質として現在研究中のものには、家具の詰め物や電気製品など多くの製品に幅広く使用されているPBDEと呼ばれる難燃剤、プラスチックの安定剤や合成香料として広く使用されているフタル酸エステル、ポリカーボネートプラスチックの原料であり一般にBPAとして知られるビスフェノールA、汚れや水や油脂をはじくコーティング材に使用されるペルフルオロ化合物や、様々な殺虫剤が含まれる。

振り付けどおりのダンス
グランジャンやランドリガンが説明するように、容易に胎盤を通過してしまう環境化学物質に対し、胎児は十分に守られてはいない。彼らによると、 神経幹細胞が神経毒物に対して非常に敏感であるということは生体外実験で証明されていると言う。

科学者たちはこの30から40年来、子どもや乳幼児は成人に比べ、遥かに科学物質による悪影響を受けやすいというという事実を次々に発見している。

乳幼児の脳もまた、そのような汚染物質に対して脆弱である。発達段階の初期である胎児期や幼児期において、脳細胞は産業化学物質や他の神経毒物によって簡単にダメージを受けてしまう。これは脳の構造上・機能上の発達を阻害し、生涯に渡る悪影響を及ぼす結果につながりかねない。
「脳は外界からの刺激に対してこの上なく敏感である」とグランジャンは言う。
従来、化学物質の神経毒性は成人を対象に調査されてきた―たいていは仕事中の大量曝露を通じて。しかし科学者たちはこの30から40年来、子どもや乳幼児は成人に比べ、遥かに科学物質による悪影響を受けやすいというという事実を次々に発見している。加えて、発達段階初期おける汚染は、ごく微量でも生涯にわたる深刻な影響をもたらしかねないことが判明した。ほかにも重要な発見がある。乳幼児や子どもが化学物質から受ける影響の大きさは、彼らを単に体の小さな成人として計算した予測値を大幅に上回ることがわかったのだ。発育段階や曝露のタイミングもまた、必ず考慮する必要がある。コロンビア大学メールマン・スクール・オブ・パブリック・ヘルスの環境健康科学科教授フレデリカ・ペレラの説明によると、脳の発達は初期に「振付どおりにダンスする段階(a very precise choreography)」を含む。「この段階で(脳内の)化学反応を阻害する化学物質は、何であれとても有害なものとなり得る」と彼女は言う。
例えば、カルガリー大学カミング校医学部助教授で神経学研究専門のデボラ・カーラッシュは、脳の発達初期段階で神経細胞が形成される際、「タイミングによって神経細胞の行き先が決まる」と説明している。
BPAが神経発達過程にどのような影響を及ぼすかを調査 したカーラッシュの最新の研究を見れば、彼女の言わんとすることがわかる。2015年1月に発表された研究において、カーラッシュとその共同研究者らは、BPAと、BPAの代替物としてよく利用されるビスフェノールS(訳注: 以下BPS)の神経発達への影響を調査した。これは、BPAやBPSによる被曝の影響を調べたものだ。具体的に言えば、神経細胞が形成されて脳内の適切な場所へ移動する時期、つまり、人間の妊娠中期に当たる発達段階のゼブラフィッシュが、カーラッシュの住む地域に供給される飲料水と同レベルの被曝をした場合の調査である。

脳の発達への影響が調査されている化学物質のうち多くが、健康な脳の発達に不可欠なホルモンの働きを阻害するとみられている。

カーラッシュはこう説明している。「目的地へ向かうバスに神経細胞が乗り込んでいくとして」、BPAとBPSに曝された後は、「早く出発するバスに乗る細胞の数がこれまでの2倍に、遅く出発するバスのほうは半分になるようなものだ」。このような曝露が原因で魚の神経発達に変化が生じ、結果として行動過多になったようだと研究者たちは考えた。今回「ごく微量のBPA」によって生じたこのような変化でも、恒久的な影響を残す可能性があるとカーラッシュは言う。
BPA、フタル酸エステル、ペルフルオロ化合物、臭素系難燃剤や様々な殺虫剤など、脳の発達への影響が調査されている化学物質のうち多くが、健康な脳の発達に不可欠なホルモンの働きを阻害するとみられている。そういったホルモンの一つが、生殖や睡眠、のどの渇き、食事や思春期など多くの生命機能に関わりを持つ脳の一部を制御している甲状腺ホルモンである。
妊娠初期の間、胎児は自身で甲状腺ホルモンを作っているのではないとマサチューセッツ大学アマースト校分子・細胞・内分泌学研究室長のトーマス・ゼラーは言う。もしこの期間に母親が、例えば汚染水を通じてポリ塩化ビフェニル(訳注: 以下PCB)や化塩素酸塩などの物質に触れる環境にあり、甲状腺ホルモンの生成が阻害されれば、今度は脳の発達の臨界期にある子どもが影響を受けるかもしれない。
ゼラーが内分泌かく乱物質への曝露について考慮すべき事項として他に指摘するのは、アメリカの妊娠適齢期の女性のかなりの割合が、なんらかのヨウ素欠乏状態にあり、これが甲状腺ホルモンを抑制している可能性があるという点だ。このような欠乏状態は診断を受けるほどの副作用にはつながらないかもしれないが、胎児の神経発達を阻害するには十分であるかもしれない。「安全基準をはるかに下回るレベルで影響が出る可能性がある」とゼラーは言う。そして、甲状腺ホルモンに影響を与えかねない化学物質は非常に多く、妊娠適齢期の女性が触れる可能性があるものとしては、PBDEsやPCBs、BPA、様々な殺虫剤、ペルフルオロ化合物や、ある種のフタル酸エステルなどがある。

空気中にあるもの
子どもたちの脳の発達を阻害すると思われる化学物質の出どころとして、特に懸念されているのが大気汚染だ。これは、様々な化学物質や粒子状物質が複雑に混ざり合ったものである。

空気中の汚染物質が早期の神経発達や神経行動に僅かながら重大な影響を及ぼすとする調査報告は日ごとに数を増している。

ペレラと同僚は最近、多環芳香族炭化水素(化石燃料関連の大気汚染物質。訳注: 以下PAH)への暴露と、9歳時点におけるADHD発病率の関連性を調査した。結果、妊娠中に高濃度のPAHに触れた母親は、触れなかった母親に比べてADHDを持つ子どもを出産する可能性が5倍となり、しかも症状がより重くなる可能性が高いことが判明した。このような関連性に着目した研究はこれが初めてだが、これはPAH類を含む屋外の大気汚染と、それが子どもたちの脳の健康や発達に及ぼす悪影響との相関を指摘する、日々数を増す研究郡に加わるものだ。
大気汚染が脳の健康に及ぼす影響の調査は比較的新しいとアメリカ国立衛生研究所健康科学担当者キンバリー・グレイは解説する。彼女が言うには、空気中の汚染物質が早期の神経発達や行動に対し、僅かではあるが重大な影響を及ぼす可能性があるとする調査報告は日ごとに数を増している。胎児期のPAH曝露と脳機能損傷との関連性に加えて、研究者たちは現在、黒色炭素、揮発性有機化合物、微粒子状物質といった大気汚染物質に着目し、自閉症や低いIQなどの障害に関連する可能性についても調査を進めている。
2014年12月に発表された研究の中で、ハーバード大学T・H・チャン・スクール・オブ・パブリック・ヘルス環境産業疫学準教授マーク・ワイスコフと共同研究者たちは、母親がとりわけ妊娠後期に高濃度の微粒子状物質(PM2.5: 直径2.5ミクロン以下の粒子)に曝された子どもたちに注目した。調査は全米各地の千人を超える被験者を対象とし、結果としてそのような子どもたちは、そうでない子どもたちに比べて自閉症の発症率が2倍になることがわかった。PM10として知られている、2.5 から10ミクロンの大きな分子への曝露は、自閉症に罹患するリスクの増減には影響しないようだった。
「これは疫学的な視点から見て大変重要なポイントだ」、なぜならばそれは「母親の曝露に焦点を当てたものだから」とワイスコフは言う。これはまた、 曝露のタイミングが神経発達にもたらす影響の重要性にもスポットライトを当てるものである。自閉症には他にも多くの要因があるが、この研究によって、 環境暴露がその一因となり得ることがより明確になったとワイスコフは言う。このような影響について他の研究でわかったことに比べると、これはとても小さな貢献のように見えるかもしれないが、「量的に小さく見えるものであっても、脳の発達への影響においては『非常に重要なもの』であり得る」とヴァイスコフは説明する。
コロンビア大学の研究者たちは最近、一般的な大気汚染物質と子どもの認知・行動障害との関連性について追加研究を発表した。

広域に渡る汚染
グランジャンとランドリガンが指摘するように、環境暴露や発育に影響する神経毒物に関する最近の発見のうち気が滅入るものの一つは、広域汚染の現状とそういった化学物質はどこにでもあるという事実だ。「神経毒性を持つ化学物質が、 どんどん製品に使われるようになっている」とランドリガンは言う。
ポリ塩化ビニルプラスチックに含まれるフタル酸エステルは、プラスチックの安定剤として使われており、合成香料や非常に多くのパーソナル・ケア商品にも含まれている。しかしこれは、幅広く使用されながらも脳の発達に悪影響を及ぼしかねない化学物質に分類されている。コロンビア大学メールマン・スクール・オブ・パブリック・ヘルスの研究者らは最近、出生前にある種のフタル酸エステルに高レベルで曝された子どもたちは、曝露が少なかった子どもたちに比べ、平均して6から8パーセントIQ値が低いことを発見した。IQ値が低かった子どもたちは、ワーキングメモリや知覚推理に問題があることが多く、情報処理速度が遅い傾向があった。

「合衆国民全員が汚染されていると言っても過言ではない」―ロビン・ワイアット

この研究で調査されたDnBPやDiBPとして知られるフタル酸エステルは、洗面用品や化粧品を含む非常に多くの家庭用品に使用されており、その中にはシャンプー、マニキュア液、口紅、ヘアスタイリング剤や石けんはもちろん、ビニルークロスやドライヤー・シート(訳注: 乾燥機用柔軟剤)まである。研究の結果割り出された低IQに影響する被曝量は、CDCが全米で進めている全国健康・栄養調査(化学物質への曝露に関する生態影響評価)で公表したものと同レベルだった。「合衆国民全員が汚染されていると言っても過言ではない」論文共著者のロビン・ワイアット(コロンビア大学医療センター環境健康科学教授)は言う。
IQのそのような低下はたいした事でないと思えるかもしれない。しかしメールマン・スクールの疫学助教授でこの研究の第一著者であるパム・ファクターリトバックは、集団単位、またはクラス単位で見たときにこれが意味することは、知能検査で高いスコアを出す子どもの数が減少し、スコアの低い子どもの数が増加するということだと言う。「グラフの分布曲線全体が下方向にシフトする」と彼女は説明する。
「IQのスコアが5や6下がってもたいしたことは無いように思うかもしれないが、これはつまり、才能に恵まれた子どもの数が減る一方で、より多くの子どもたちが養護学校に通うようになるということだ」とアメリカ学習障害協会の健康な子どもプロジェクト責任者のモーリーン・スワンソンは言う。「経済に与える潜在的ダメージは甚大だ」とNIEHSのバーンバウムは言う。

ストレス要因
子どもたちの神経障害を助長する原因は「とても複雑だ」とフレデリカ・ペレラは言う。化学物質を調査したり規制したりする際は、一度に一つの物質について調べるのが一般的だ。しかし人々は同時に複数の化学物質に曝されており、それがさまざまな要因をひとつずつ探り出すことをさらに難しくしている。脳発達に関して言えることで、このことをさらに複雑にしているのが、「脳の同じ領域に作用する」社会的ストレスであるとロチェスター大学環境医学教授デボラ・コリースレヒタは言う。彼女と他の研究者たちは、妊娠中の悩みや家庭や地域での悩みなど化学物質とは関係ないストレス源もまた、それ独自、あるいは神経毒物と関連して早期の脳発達に悪影響を及ぼし得ることを発見している。
このように、化学物質と、化学物質が原因ではないストレス源との間に明らかに相互作用が見られるのは、「とても厄介であり、かつ非常に大きな意味がある」とバーンバウムは言う。
疫学研究では、「交絡因子」と呼ばれる条件を補正するのが一般的だとデボラ・コリースレヒタは言う。交絡因子とは、観測条件に影響をもたらす可能性のある他の条件のことだ。多くの研究は、「人間を取り巻く環境を正確にモデリングしているとは言えない」という。彼女と共同研究者たちが試みているのは、「人間のコミュニティーで起こっていることを動物実験においても再現すること」であり、中でも社会的ストレス源の悪影響を最も受けやすく、鉛や殺虫剤や大気汚染などの化学汚染物質への接触が最も多いコミュニティーの再現に注力している。
鉛とストレスは脳の同じ部分に作用すると彼女は言う。そのため、これらは相乗的に働き、年少期から脳の構造に永続する変化を残す可能性がある。こうした変化は低IQや学習・行動面での問題につながりかねない。
コリースレヒタの研究室は現在ストレスと長期に渡る貧困状態を動物実験で再現することに取り組んでおり、これらは貧困状態にある共同体を模したものである。実験の目的は、こうした影響がどのように胎盤を通過し、生涯に渡る障害の基礎を胎児にもたらすのかについて理解を深めることである。彼女と共同研究者たちは、被曝と神経発達の関連性のみならず、胎児が胎盤を通じて影響を受け、生まれながらに障害を持つに至るまでのメカニズムについても調査を進めている。

どうすれば良いのか?
子どもたちの脳をこれ以上傷つけないために、これからできることは何だろうか?
次の一歩として重要なのは、神経発達に影響を及ぼす化学物質を特定する能力を高めるということだ。 新たに開発されたものを含め、人々が触れる化学物質は非常に多いため、高速スクリーニングシステムの使用が理想だとバーンバウムは言う。多くの化学物質を迅速に検査するロボット技術を用いたプログラムがNIHやEPAなどの連邦機関によって立ち上げられてはいるが、現在使用されている可能性のある化学物質は数万種にも及び、その大半がどういった影響をもたらすかについて十分に検証されていな い。
現時点での被曝量を減らすことを考えると、化学物質のいくらかは消費者の選択によって避けることができる。しかし、たいていの場合、それは難しい。なぜなら、このような化学物質の多くは、レシート用紙のBPAのように原材料表示シールが貼られていない製品に使われているからだ。大気汚染を含むその他の化学物質を避けることは、それらがどこにでも存在し、なおかつ代替物がないことを考えると一層困難である。そして、モーリーン・スワンソンが言うように、そのような選択肢は全ての経済レベルの人々にとって必ずしも実行可能なものではなく、環境正義の議論が付きまとう。
グランジャンとランドリガンは、発売前の十分な毒性検査を課していないアメリカの化学物質規制は、化学物質の安全性を事前に確保にするために十分な機能を果たしていないと指摘する。「検査されていない化学物質は、脳の発達にとって安全だと思われるべきではないし、現在使用されている化学物質や全ての新しい化学物質はそれゆえに、発達神経毒性を必ずテストされなければならない」と彼らはThe Lancetに発表した論文に書いている。
いくつかの神経毒の発生源に対しては、十分な取り組みがされてきたように思えるかもしれないが、それは思い込みである。例えばアメリカや他の国々で、鉛の被曝量の削減は、政策や公衆衛生教育を通じかなりの前進を見せてはいる。しかし実のところ、どんな少量の鉛への曝露でも被害が想定されるというのが現在の認識であり、有害な鉛被曝は続いている。これは特に、鉛入りの塗料やガソリンが現在も使用されている国において顕著である。そして、アメリカでCDCが資金提供している鉛規制のプログラムに対する予算は2012年、大幅な削減をみた[deadlink]。

この上なく繊細な脳の発達過程を守るためには、化学物質のリスク評価や安全基値の設定に使用されている現行の基準値は役に立たないとコリースレヒタは言う。

一方で、世界中の子どもたちは(裕福でない国においては特に)、廃棄物投棄場所や幼年労働を通じ、産業廃棄物から発生する危険な神経毒物に曝され続けている。その例は数多く、アジアやアフリカ各地で行われている電気製品のリサイクルや、鉛や水銀の採掘活動、農薬、重金属で汚染された製品(食べ物や甘いお菓子を含む)にまで及ぶ。
この上なく繊細な脳の発達過程を守るためには、化学物質のリスク評価や安全基値の設定に使用されている現行の基準値は役に立たないとコリースレヒタは言う。「第一次予防としての役割が果たされていません」と彼女は言う。
環境医学の必要性を訴える人々の多くが感じているのは、アメリカの連邦規則では化学物質の規制が不十分だということだ。そのため近年、多くの州議会は独自に有害な化学物質から子どもたちを守るための法整備を進めている [dead link]。多くの州がカドミウム、鉛、水銀などの重金属を中心とした神経毒性を持つ化学物質への対策に取り組んでいる。いくつかの州は、妊婦を化学災害から守るための文言を法律に盛り込んでさえいるが、この暴露のタイミングについてはほとんど取りざたされていないままである。
いま、私達は発育を阻害する神経毒物について多くのことを知ってはいるが、そういったものに曝される機会は以前にも増して発生している。そして、このような汚染が世界中の子どもたちに害をもたらすという点で、多くの研究者の意見が一致している。
「私にとって明白なのは、将来の優秀な頭脳をしっかりと守るために新しいシステムを構築する必要があるということだ」とグランジャンは言う。

水筒派は注意!スポーツ飲料は入れてはいけない?

ママテナ 2015年7月2日

水分補給が欠かせない時期になった。外へ遊びに行く子に、水筒を持たせる親も少なくないだろう。水やお茶など様々な飲料を持ち運べ、とても便利だが、なかには水筒に入れると危険な飲料があることをご存じだろうか?

金属製の水筒と酸性の強い飲料は要注意
ひと口に水筒といっても、様々な種類がある。そのなかでも、人気が高いものといえば、保温機能の優れたステンレス製の水筒。頑丈で壊れにくく、子に持たすにはピッタリ。だが、ステンレスやアルミなど金属製の水筒は、使い方によっては、容器の金属成分が飲料のなかに溶け出し、中毒症状を引き起こしてしまう恐れがあるという。
東京都福祉保健局によると、金属製の水筒は、飲料と金属が直接接触しないようにするための加工がなされており、通常であれば、短時間で溶け出す金属はごく微量とのこと。しかし、水筒の内側にキズがついている場合、酸性の強い飲料を入れると、高濃度の金属成分が溶け出す可能性があるという。
実際、朝水筒にスポーツ飲料を入れた児童6人が、昼過ぎにスポーツ飲料を飲んだことにより苦味を感じ、頭痛やめまい、吐き気などの症状を訴えたという報告も寄せられているという。その際利用された水筒は、一見すると破損しているようには見えないほど軽微なキズだったとか。このことから同局では、水筒は古いものを使い続けず、定期的に新しいものに交換することを推奨している。

水筒に入れないほうが良い酸性の強い飲料ってなに?
スポーツ飲料と金属製の水筒の組み合わせは、要注意ということはわかったが、そもそも酸性の強い飲料には、どんなものがあるのだろうか? パッと思いつくものでは、オレンジやグレープフルーツなどの果汁飲料が挙げられるが、実は他にもスポーツ飲料や炭酸飲料、乳酸菌飲料も酸性の強い飲料なのだ。飲料に含まれる酸性の物質には、炭酸、乳酸、ビタミンC、クエン酸などがあり、これらを含む飲料は注意が必要。
これからの季節、水筒の出番はますます多くなる。金属製の水筒や酸性の強い飲料を扱う際は、長時間入れっぱなしにしない、内側のキズを確認するなど、十分に気をつけよう!
(文・奈古善晴/考務店)