施設の子の就学 学ぶ機会奪わず連携しケアを 坂本輝子さん

朝日新聞デジタル 2015年9月10日

児童養護施設に通う子どもの受け入れに学校が難色を示し、「たらい回し」にされる事態が起きている。虐待などの影響で情緒不安定な子が問題児扱いされ、学ぶ機会が奪われる恐れがある。

福祉NPO法人理事長・坂本輝子さん
施設の子は、虐待などの影響で感情をうまくコントロールできない子もいる。振り向いてほしくて、たたいたりつきまとったりするなどの「問題行動」を起こすことがある。施設側も、学区域の公立小中学校に負担が集中しないよう、近隣の学校にも転入を申し込むなど配慮をしている。
だが、「ほかをあたってください。どこも駄目なら検討します」などと回答されることがある。数校同じ対応で、学校に通えない期間が発生してしまった子どももいる。拒否の理由は明らかにされないが、「施設の子は手が掛かる」という雰囲気を感じる。
問題行動がなく学力もある子なのに、転入に際して学校から「就学相談をして」と、特別支援学級への通級を暗に持ちかけられることもある。問題行動が見られればなおさらだ。
もちろん施設と連携して子どものケアをしようと努力してくれる担任もいる。だが、担任だけでは限界だ。管理職が子どもたちの状況を理解し、学校として、子どもを受け入れる状態になっていないと難しい。大人の無理解や無関心で子どもたちが不利益を被ることがあってはならない。
「手が掛かるから来ないで」ではなく、「関わっている大人全員でこの子のケアをしましょう」というのが理想。そのためには教員を多く配置するなど、国の政策も必要になってくる。
児童養護施設で育つ子の学ぶ機会が奪われることがあってはならない。
(聞き手・貞国聖子)

障害福祉サービス事業、虚偽記録で不正請求 指定取り消し処分

産経WEST 2015年9月10日

京都市は、1人の児童に2つのサービスをしたように装って虚偽の記録を作成するなどし、約85万円のサービス費を不正に請求したとして、京都市西京区の障害児サービス事業のジーク(鈴木弘美社長)が運営する障害福祉サービス等事業所「支援センターハートベル」(伏見区)に対して、7日付で居宅介護や放課後等デイサービスなどの指定取消処分にしたことを明らかにした。指定取消日は10月31日。
市によると、支援センターハートベルは、平成25年7月から26年9月までの間、同じ日に同じ児童に対し、放課後などの「預かり」と出かける際の「付き添い」のサービスをしたと虚偽の記録を作成し、サービス費の二重請求を延べ16回繰り返した。また、居宅介護や重度訪問介護の際に、介護開始月のみ請求できる初回加算を翌月以降も加算を算定し、延べ26カ月分のサービス費を不正に請求するなどし、85万4446円を受け取っていた。
市は同事業所に対し、監査を実施。不正請求が児童福祉法や障害者総合支援法の指定の取消事由に該当するため、行政処分を行った。市では、不正請求したサービス費に加算金を加えた110万8362円の返還を求める。

<学術論文>画像の使い回しチェック 東大発ベンチャーが新サービス

毎日新聞 2015年9月10日

学術論文の画像に「不正加工」がないかを、人工知能を使って検査する受託サービス「LP-exam Cloud」を開発した東大発ベンチャーのエルピクセル(東京都文京区、島原佑基社長)は、新たに画像の「使い回し」を検知する機能を9月末に加える。「不正加工」に加えて、「使い回し」の再発防止を学術面で目指している。同社は「過去に使用した画像を使い回ししていないかチェックすることで、不正を疑われる心配がなくなる」と話している。
STAP細胞の論文に使われた画像に「不正な加工」があるという指摘などをきっかけに、研究不正が社会の関心を呼んだことから、同社は今春、大学や研究機関が画像をアップロードするだけで安易な不正加工の有無を検査できる「LP-exam Cloud」を開発した。人工知能を駆使した検査をもとに、専門家による解析リポートも作成する。今まで膨大な時間がかかり敬遠されていた不正加工検査のコストを半分以下にすることができ、論文作成に画像不正が生じない環境作りに貢献している。毎月、大手企業や研究機関が利用を始めているという。
同社によると、研究画像不正には大きく「不正加工」と、過去のものを再度使い回しする「転用」の2種類があり、長い間ユーザーから求められていた「転用」もチェックする新機能の導入を決めた。研究者が過去に発表した画像を管理している画像フォルダー内に、これから発表しようとしている画像が含まれていないかが検出できる。研究機関単位で画像を管理しチェックすることで、不正を疑われる心配なく安心して研究発表が可能になることを目指す。
島原社長は「研究マネジメントの立場では、このチェックを現場に義務付けることで、研究機関のブランドと科学界の秩序も守ることができるはず」と話している。【高橋望】

「冷え切った」会社が急増?職場で孤立し精神病む若者、彼らを理解できない上司…

Business Journal 2015年9月10日

「20代の頃、僕は餓死するしかないと思っていました」
そう語るのは、現在、派遣会社に勤める佐々木章一氏だ。筆者は今回、「若者の離職の実情」を取材していた。その際、佐々木氏の語る言葉から現代の日本社会の課題を深掘りするきっかけをいただいた。佐々木氏の言葉を続けよう。
「20代の頃、東京・六本木で飲食店を始めました。たまたま居抜き物件が見つかり、私も飲食店に興味ありましたし、先輩から誘われたこともあってスタートさせました。小規模ながら苦労して店舗を運営していましたが、ある日、オーナーが店舗を他人に譲ってしまい、一気に窮地に陥ってしまいました。借金もありました」
佐々木氏は借金を返済するために派遣社員として通信会社で働くことになる。職場環境が合い、良い上司にも恵まれ、仕事観が大きく変わったという。
「今から思えば、たったひとつの失敗だけで、『自分には能力がない、未来がない』と思い込んでいたと思います。飲食店をやっている時には、『自分は飲食店が一番向いている』と思っていましたから。しかし、思いがけない逆境をきっかけにまったく新しい職場と出合い、新しい可能性が自分の中にあることに気づきました。派遣で新しい仕事との出合いがなければ、今の自分はなかったと思います」
佐々木氏は現在、派遣会社で営業を任され充実した毎日を送っている。佐々木氏の取材を通し、筆者が今回テーマにした「若者の離職の実情」の裏側には、若者と職場とのミスマッチという問題があるのではないかと考えるようになった。

企業と社員の関係性が崩壊
さらに取材を進めてみると、企業と社員の関係性が壊れてきている現実もみえてきた。
東京都内でメンタルクリニックを運営しているカウンセラーのM氏から、現在の若者の実情を聞いた。M氏によれば、若者が離職後に精神を病むケースは増えており、先の佐々木氏と同様に、たったひとつの失敗を引きずるケースが増えているという。「新型うつ」と呼ばれるような新しいうつの症状も現れてきている。
その理由をM氏は次のように語ってくれた。
「いわゆる終身雇用にみられるような日本独自の家族的経営が失われてきたため、職場での疎外感を感じるようになったことにも原因があると思います。今の若い人は、上司との飲み会に行かないだけでなく、社員旅行にも参加しない人がいます。仕事とプライベートを完全に分けることで、かえって職場での孤独感が強まり、上司の何気ない言葉でも傷つく人が増えているように思います。最近は若い人が心を病むだけでなく、若い人の行動が理解できないベテラン社員の相談を受けることも増えてきました」
さらにM氏は驚くべき事実を教えてくれた。
「企業と契約しているメンタルクリニックのなかには、『ご相談内容は会社には秘密にいたします』と謳いながら、社員の相談内容を会社の上層部に伝えているところがあります。それを人事考課に反映しているようです。
もちろん、私のところを含めてほとんどのメンタルクリニックは法令遵守していますから、このような悪質なところは例外中の例外です。これは強調しておきます。しかし、これは社員の人間関係が冷え切った企業が増えてきていることを物語っていると思います」
例外的な事例とはいえ、M氏が教えてくれた事実は、かつて日本にあった「企業と社員」の家族的なつながりの崩壊を意味しているように思う。

新卒者の3割が3年以内に離職
ここで、厚生労働省が発表している新卒者の離職率をみてみよう。

<高校>
1年以内離職率・・・19.9%(平成25年度就職者)
2年以内離職率・・・31.4%(平成24年度就職者)
3年以内離職率・・・39.6%(平成23年度就職者)

<大学>
1年以内離職率・・・12.7%(平成25年度就職者)
2年以内離職率・・・23.3%(平成24年度就職者)
3年以内離職率・・・32.4%(平成23年度就職者)
(厚生労働省「新規学校卒業者の在職期間別離職状況」より)

就職後3年で、実に3割以上が離職している。日本的経営といわれた「企業と社員」の家族的なつながりは、もはや面影もない。
最近では、ユニクロが3年で離職率5割といわれ、「ユニクロの店舗の正社員の休業者のうち42.9%がうつ病などの精神疾患」(「週刊東洋経済」<東洋経済新報社/2013年3月9日号>)という報道もあった。ユニクロを展開するファーストリテイリングは、そのようなイメージを払拭するため、10月から社員の希望に応じて週休3日制を選べるようにした。
ファーストリテイリングだけでなく、多くの日本企業が「社員との関係改善」を大きな課題として抱えている。それも、かつてはなかった「ブラック企業」という名称にみられるような新しい評価が生まれたことも要因だろう。

年金が生活保護以下で「老後破綻」 漂流し、搾取される高齢者〈週刊朝日〉

dot. 2015年9月11日

行政による特別養護老人ホームや都市型軽費老人ホームの整備が進められているが、施設に入居できない高齢者は巷にあふれ返っている。
厚生労働省などによると、一人暮らしの高齢者数は約600万人とされる。
その多くは年金などで切り詰めた生活を続け、病気、ケガなどがきっかけで介護が必要になると、たちまち赤字となり、“老後破綻”の危機に直面する。
貧困に苦しむ高齢者の実態を記した『下流老人』(朝日新書)の著者で、生活困窮支援のNPO法人「ほっとプラス」代表理事の藤田孝典さんによると、それまで普通の暮らしをしていた高齢者が病気になっても介護サービスを受けられなかったり、介護施設に入居できなかったりすることで下流化するというのだ。
下流老人とは、「生活保護基準相当(12万円前後)で暮らす高齢者」で、その数は600万~700万人と推定される。
一方、生活保護を受けている世帯は今年6月に、162万世帯と過去最多を更新した。65歳以上の高齢者世帯で増加が続き、全体の5割を占める。
こうした悪循環の中で増え続ける下流老人をターゲットにした「貧困ビジネス」がはびこっていると藤田さんは指摘する。
その温床となっているのが、生活保護受給者向けの無料低額宿泊施設だ。家族の支援が得られず高齢者向けの施設にも入居できず、行き場のなくなった高齢者がたどりつく先だ。
無料低額宿泊施設をめぐっては、利用者から生活保護費をだましとったとして08年ごろに事件化。厚労省が対策に乗り出していたが、生活保護受給者の増加にともない、再びそのあり方が問題となりつつある。
「無料低額宿泊所ビジネスの実態は、あまりにひどいです」
日本社会事業大学4年生の吉田涼さん(23)はそう訴える。吉田さんは、都内にある無料低額宿泊施設で昨年12月まで1年半の間アルバイトの非常勤指導員として勤務していて、その実態を目の当たりにした。
個人のスペースは2段ベッドの1段のみで1カ月の利用料は10万2500円。宿泊料(3万800円)、安否確認と生活相談料(1万6500円)、光熱水料(7200円)、食費(4万5900円)、日用品代(2100円)が含まれる。
お弁当を朝、昼、夕食すべて購入すると約1500円。揚げ物が多く野菜は少ない。出来立てではないので冷えて硬くなっている。
「『硬くて食べられない』という高齢者のために、揚げ物を切り分けてあげようとしたら、『ここには60人以上の利用者がいる。全員にやれないことは一人に頼まれてもやるな』と施設長から怒られました。高齢者に配慮しようとしてもできませんでした。木曜日の夜は毎週カレーと決まっていた。肉はほぼ脂身。僕らの世代でも、ちょっとなという感じで、カロリーってどのくらいとるんだろうなと思った。高齢者が大多数なのに、こんな食事を出すのかと思いました」
生活保護費から利用料を引くと、手元に残るのは1万5千円から2万円ほどだ。
「入居者はほかに受け入れてくれる施設がありません。行き場がないことを逆手にとり、利用料を多くとっていました」(吉田さん)
生活保護受給者は住宅扶助が受けられるが、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会の稲本昭二本部事務局長はこう説明する。
「生活保護を受けている人は民間アパートに入りたくても、家賃滞納の懸念などから、大家さんから断られるケースが多いです」
とはいえ、劣悪な環境に耐えきれず、施設から逃げ出す利用者も少なくない。
「1年半の間に、一度も布団を干していませんでした。職員がベッドの上に乗ることもためらわれるような不衛生な状況です。そこに利用者さんたちは毎日寝ていました。施設を飛び出し、帰ってこなくなる人も珍しくありませんでした。私が施設長に『こんなひどい運営ではいけない』と言うと、翌日解雇されました」(吉田さん)