1万7千人超え、止まらない虐待被害の思わぬ傷跡

JIJICO [ジジコ]  2015年9月20日

虐待は心理的、身体的な症状だけでなく脳の発達も遅らせる
子ども、虐待虐待被害の疑いで全国の警察が今年上半期に児童相談所に通告した18歳未満の子どもの数が、1万7千人を超えたそうです。虐待のニュースを見聞きするたび、その子どもが直面している現在、将来の病理の発症、回復への機会の有無に思いがめぐります。それは、トラウマ治療を通して、愛着障害の回復への道のりの長さを日々実感しているからかもしれません。
クライエントの人々は、自己あるいは家族への否定的な感情、他者を信頼できない、あるいは人を恐いと思い集団に入れないなど、さまざまな心身症状からの解放を求めています。虐待は単に心理的、身体的な症状として表れるだけでなく、脳の発達を遅らせることが最新の研究で明らかになっています。

さまざまな反社会的な行動を起こす可能性も強まる
「福井大学 子どものこころの発達研究センター」の教授を務める友田明美氏は、2013年7月に行われたサイエンスポータル・コラムオピニオン「児童虐待と”癒やされない傷”」の中で、次のように述べています。
「小児期に受ける虐待は脳の正常な発達を遅らせ、取り返しのつかない傷を残しかねない。(中略)極端で長期的な被虐待ストレスは、子どもの脳をつくり変え、さまざまな反社会的な行動を起こすように導いていく。(中略)暴力や虐待は世代を超え、社会を超えて受け継がれていく。虐待は連鎖する。すなわち虐待を受けた子どもは成長して、自らの子どもを虐待し、世代や社会を超えて悲惨な病が受け継がれていく。数え切れないほどの幼い犠牲者たちが“癒やされない傷”を負う前に、何としてもこの流れを断ち切らねばならない」

援助や周囲の声かけが安心感につながる
私の元へトラウマ治療に訪れる方々の多くは、この連鎖を受けています。「やさしい虐待」と言われる厳しいしつけや教育を受け、虐待と同様に心を病んでいるのです。ところが、治療が進むにつれて肯定的な記憶がでてきます。
「小さい頃、近所のおばさんが時々お茶に誘ってくれました」
「おはよう、おかえりといつも声をかけてくれるおばさんがいました」など。
上記のような近所からの援助や声かけは、「誰か気にかけてくれる人がいる」という安心感につながります。若い女性から聞いた話です。「隣のお父さんの怒鳴り声がして、子どもが大声で泣いていたんです。そしたら母は、家にあったお菓子をパパッと袋に入れて隣へ行きました。『こんにちは。泣き声がしたので~。何かできることあったら言ってくださいね』って。すぐに行動した母は、すごいなって思いました」

一人の声かけが一人の子ども、時には大人を救う
「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」では、「地域を変える 子どもが変わる 未来を変える」を合言葉に、300円で夕食を提供したり、無料学習支援やシングルマザーの交流会などを開催する「子ども食堂(第1、3水曜日)」との施設を開いています。
これらは子どもへの虐待に対して、個人あるいは地域ができる具体的な援助です。一人の声かけが一人の子ども、時には大人を救います。長期的に見れば精神病理、反社会的行動の予防につながります。出来る範囲で良いのです。ささやかな声かけ、地域での支援が広がることを願っています。

小中学生の暴力行為、工藤会捜査で激減? 北九州

朝日新聞デジタル 2015年9月21日

北九州市立の小中学校で昨年度に確認された暴力行為は294件で、前年度から4割以上減ったことが、文部科学省の児童生徒の問題行動調査で分かった。調査を担った市教委は、スクールサポーター制度の充実などのほか、地元の指定暴力団工藤会に対する県警の本格捜査や、その報道も影響したと見ている。
市教委によると、294件の内訳は、対教師暴力38件(小学校6件、中学校32件)、生徒間暴力184件(小7件、中177件)、器物損壊72件(小1件、中71件)。暴力行為の件数は2011年度657件、12年度658件、13年度520件(前年度比2割減)。
暴力行為が激減した要因について、市教委は「スクールサポーターの充実や学校側の暴力行為への対応、生徒との信頼関係の築き方が功を奏した」と説明した。スクールサポーター制度は県警OBが警察署を拠点に管轄の学校を訪問し、いじめや非行の相談に乗るもので、07年度から順次導入。昨年度は県内33署、市内は8署に配置された。
市教委は県警の工藤会対策の影響も大きいと指摘。市内では近年、暴力団関係者の犯行と見られる県警OBや民間人への襲撃事件が相次ぎ、12年以降、全国から数百人規模で応援派遣された警察官が街中を巡回して警戒に当たった。昨年9月11日、工藤会トップが逮捕された「頂上作戦」が動き出し、新聞やテレビも連日、暴力団の実態や犯罪捜査について報道した。
市教委関係者は「敏感な世代の子どもたちに、何かしら影響したと思われる。少なくとも大勢の警察官が街中を巡回することは、子どもたちの見守りにつながった」と話している。

悩んでる子へ「児童館に行こう」

読売新聞大手小町  2015年9月18日

「居るところがなかったら、児童館にいってみよう」――。全国に約4600館ある児童館を、困難を抱える子どもらに広く知ってもらおうと、児童健全育成推進財団がメッセージを発信し始めた。
同財団は、児童館の普及活動などを行っている。自傷や自殺、虐待、犯罪の被害、加害などが危ぶまれる子どもに対し、1人で気軽に立ち寄れる地域の居場所として利用してもらおうと、初めてメッセージを作成、今月からホームページに掲載している=写真=。
メッセージのタイトルは、「児童館にいってみよう」。「がまんできないほどしんどくなる前に」などと呼びかけ、全国の児童館を紹介するサイトのURLも載せた。
児童館は児童福祉法に基づいて自治体などが地域に設置した児童福祉施設。乳幼児から高校生までを受け入れて、職員が一緒に遊んだり話し相手になったりする。その中で不登校や虐待など、課題が見つかった場合は、相談に乗ったり、学校、児童相談所などにつないだりする支援活動も行っている。
しかし、子どもが放課後を過ごす学童保育と間違われたり、赤ちゃんや低年齢の子どもの遊び場ととらえられたりすることが多い。困難に直面した子どもの居場所としての機能もあることを広く知ってもらおうと、メッセージの発信を決めた。
同財団の担当者は、「フラッと立ち寄ってぼんやりするだけでもいい。学校や家庭以外にも子どもが自由に出入りできる場があることを覚えておいてほしい」と話す。
子どもの居場所を巡っては、8月に神奈川県鎌倉市図書館の公式ツイッターで同市の女性司書が投稿した「つぶやき」が話題になった。「死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい」といったもので、転載して紹介するリツイートが10万回を超えている。

神奈川県の不登校改善率、6年間で最高値…神奈川・埼玉速報値

リセマム 2015年9月18日

文部科学省が9月16日に「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査結果」を公表し、神奈川県・埼玉県では速報値を公表。神奈川県は長期欠席を「不登校では」と積極的にとらえたため不登校者が前年度より増えたが、改善率は最近6年間でもっとも高い数値となった。
神奈川県の小・中・高等学校での暴力行為の発生件数は、公立が6,461件(前年度比929件減)、私立学校では243件(前年度比132件減)だった。公立中学校では、暴力行為の形態別でもっとも多い「生徒間暴力」2,371件が、前年度より231件減少した。また、加害生徒に対する学校の対応として、「友人関係を改善するための指導」「当該児童生徒が意欲を持って活動できる場を用意」など、生徒の自尊感情や人間関係の形成につながる指導が増加している。
神奈川県の公立小・中学校の長期欠席児童・生徒数は1万3,024人、うち不登校児童・生徒数は前年度より365人増加の9,363人。学校が欠席の理由を「不登校ではないか」と積極的にとらえており、不登校者の割合が増えた。なお、「指導の結果、登校できるようになった」「好ましい変化があった」児童生徒の割合は67.8%(前年度比4.5ポイント増)で、最近6年間ではもっとも高い改善率となっている。私立小学校の改善率も大きく上昇しており、前年度比13.8ポイント増の66.7%だった。
埼玉県の小・中・高等学校での暴力行為の発生件数は、前年度より133件減の1,823件。減少した133件のうち、中学校が117件を占めている。形態別では「生徒間暴力」が1,202件ともっとも多く、学年別の加害児童生徒数では中学3年生488人が最多。加害生徒に対する学校の対応では、「被害者に対する謝罪指導」「ルールの徹底や規範意識を醸成するための指導」が多い。
埼玉県の小・中学校における不登校児童生徒数は5,292人。前年度に比べ、小学校が62人増、中学校が96人減となっており、全体では34人の減少となった。不登校のきっかけ(複数回答可)を見ると、「無気力」「不安など情緒的混乱」のほか、小学校では「親子関係をめぐる問題」、中学校では「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が上位となっている。

心理職初の国家資格 公認心理師法成立で、福祉や教育分野での活躍期待

福祉新聞 2015年9月21日

心理職の業務の適正化を図る公認心理師法が9日、参議院本会議で全会一致で可決、成立した。文部科学省、厚生労働省を主務官庁とした、心理職として初の国家資格が誕生する。国家試験は指定試験機関が年に1回以上行う。施行は公布日から2年以内。施行5年後の見直し規定も盛り込んだ。関係団体にとっては、半世紀にわたる悲願がようやくかなった。
公認心理師法は、衆議院文部科学委員長の提案による議員立法として成立した。衆参それぞれの委員会では、受験資格に関する留意事項など6項目の付帯決議が付いた。
公認心理師は名称独占の資格で、保健医療、福祉、教育、司法・矯正、産業などの分野で活躍することを想定。医療分野では診療補助職とせず、心理的支援の対象者に主治医がいる場合に限り、医師の指示を受けることを義務づけた。
養成ルートは三つあるが、そのうち4年制大学と大学院で計6年間学んだ人が国家試験を受けるルートが基本となる。
心理職の民間資格は多数あるが、取得者数が多いのは臨床心理士(2014年度末現在で約2万7000人)だ。資格取得者の約7割が日本臨床心理士会に入会している。
同会の11年度の会員動向調査によると、会員の17%が福祉分野に勤務している。特に、児童相談所、児童福祉施設に勤務する人が多い。
心理職の資格制度の創設運動は、1967年に始まり、90年代半ばから議論が本格化。2005年には法案の骨子が固まったが、医療関係団体の反対により国会に提出されなかった。
しかし、11年10月には関係団体の足並みがそろい、国家資格化の要望書を確定。14年の通常国会に議員立法で提出されたが廃案となり、今通常国会に再提出された。

村瀬嘉代子・日本臨床心理士会長の話
法案作成から成立まで、心理職の国家資格化を推進する議員連盟(代表=河村建夫・衆議院議員)の皆様の多大なご尽力に心より感謝を申し上げます。
本会はこの法案について数度の機関決定を行い、成立に向けて努力して参りました。法案提出に際して、議連事務局長の山下貴司・衆院議員は、年間3万人近い自殺者の存在に触れられたほか、大震災被災者の心のケア、学校、医療機関、福祉機関、司法・矯正機関などさまざまな面で心理専門職の活用が喫緊の課題であると述べられました。
公認心理師が社会に役立つ存在となりますよう、さらに研さん努力して参りたいと存じます。

増沢高・日本臨床心理士会社会的養護部会長の話
乳児院や児童養護施設に心理職の配置が制度化されたのは1999年で、当時は心理療法の提供が中心でしたが、今日では心理職も積極的に日常生活に関与するようになってきました。「生活臨床」という実践が浸透しつつあると思います。
市区町村や就学前教育・保育の現場で公認心理師が子どもとその家庭をアセスメントし、他機関・専門職に伝えることは重要です。例えば、不登校の子は「心の問題」ととらえられがちですが、その子の家庭での生活を見れば養育放棄など別の要因が見えたりします。公認心理師の養成、資格取得後の現任者研修には、こうした側面から構築するべきと考えます。