「面前DV」子に被害 心身に影響、県内も増加

琉球新報 2015年10月30日

全国の児童相談所が2014年度に対応した児童虐待の件数が過去最多を更新した。このうち、暴言などの心理的虐待が増加傾向にある。県内でも、子どもの前で配偶者らに暴力を振るう心理的虐待「面前DV」が増えてきた。子どもはDVのもう一人の被害者だ。虐待対応に当たる児童相談所とDV加害者対策を行う機関の話を通して、「面前DV」が子どもに及ぼす影響と、子どもの安全を大人がどう確保するか考えたい。(新垣梨沙)

児童虐待は「身体的虐待」「育児放棄(ネグレクト)」「性的虐待」「心理的虐待」に区分され、児童虐待防止法では、家庭内のDVを見て子どもが心に傷を負う「面前DV」も虐待と定義している。
14年度の全国の虐待通告件数は8万8931件で、初めて8万件を突破した。通告の内訳は29日現在で未公表だが、警察が12年ごろから「面前DV」を積極的に通告し始めたことや、13年度の「子ども虐待対応手引き」の改訂によって、虐待を受けた子どものきょうだいも新たに「心理的虐待」で通告されるようになり、全国的に心理的虐待の件数は増加している。
県内の場合、同年度に対応した児童虐待件数478件のうち「面前DV」を含む心理的虐待は、前年度比75件増の134件となり、増加の傾向を示している。県内でDV加害者の更生事業などに取り組んでいる更生保護法人がじゅまる沖縄は、今後「面前DV」に絡んだ加害者の相談が増えると予測する。
県中央児童相談所は児童虐待の対応に当たり、家庭の背景に見えてくる問題として「家庭に飲酒の問題がある場合が多い。周囲はお酒が入ったせいだと言ったりもするが、飲酒をしていようがいまいが、暴力や暴言があること自体が配偶者や子どもに大きなダメージを与えている」と指摘する。
さらに、DVや虐待被害者が保護され、それまでの生活を制限される一方で、加害者側はこれまでの生活を続けている状況があるとし「加害をした者が家庭から離れ、更生プログラムを受ける仕組みや、被害者のそれまでの社会生活が保障される仕組みが必要だ」と訴える。

長引く被害者の苦しみ
「面前DV」を受けた子どもは、不安や恐怖などのストレス下に置かれることで、身体や心にさまざまな影響が出る。県中央児童相談所によると「面前DV」を受けた子どもは一般的に不安や心配が大きくなり、親への恐怖心が出てくる場合が多いという。
逆に親から離れられなくなり、口げんかでも過剰に反応することがある。他者と人間関係を築くことが困難になり「自分なんて価値がない」と自己肯定感が低くなる場合も多い。
がじゅまる沖縄によると、今まで誰にも話せず、心の中にしまい込んでいた子ども時代の経験を40代や50代を超えて初めて話す人もいる。多くが現在もトラウマを抱えている。工事現場の重機の音など日常の物音を耳にした途端、幼少のころの出来事がよみがえる「フラッシュバック」を起こす人もいる。DVや虐待の影響は長期間に及んでいる。

福祉司や心理司 ケアに手回らず/負担感大きく
警察が児童虐待防止の取り組みに力を入れる一方で、通告を受ける児童相談所はマンパワー不足が指摘されている。
県内児童相談所の場合、児童虐待を担当する児童福祉司1人当たりが受け持つ件数は平均30~40件。中央児相によると、終結後に再び保護者からの連絡が入り、継続して対応する「目に見えない件数」を含めた場合は、平均60~70件になるという。1人当たり150件を超えるケースを担当していた職員もいる10年前と比較すると改善されたものの、依然、児童福祉司の負担感は大きい。
厚生労働省がことし10月の「児童虐待防止対策のあり方に関する専門委員会」で公表した報告書によると、13年度の相談対応件数が1999年度比で約6・3倍だったのに対して、児童福祉司の配置数は約2・3倍。件数の伸びに対して、福祉司の配置が全国的に追い付いていない実態がある。
また、子どものケアに当たり、福祉司と同数程度いることが望ましいとされる児童心理司の配置人数は14年4月現在で、福祉司配置の44・5%にとどまる。中央児相は「福祉司と心理司はペアを組み対応に当たる。子どものケアはとても大事だが、心理司が少なくケアに手が回っていない」とし、心理司の増員も必要との認識を示した。

<識者談話>大前提は子どもの安全
名嘉ちえりさん(がじゅまる沖縄 DV加害者更生相談室研究員)
講演で関わった子どもたちの数は、2007年度からことし9月までで述べ6万人になった。中には「面前DV」を受けていると相談してくる子もいる。家での出来事を、親に強要されなくても口に出せず、心にしまい込んでいたケースが多い。子どもは、学校で楽しいことがあっても家で喜びを分かちあえず、不安な気持ちの時も、親に心配をかけまいと話せないことが多い。心の中は常に孤立している状態だ。
両親の仲が悪いのは、自分のせいだと思い込み、感情を押し殺していい子を演じる子もいる。自分に注目を向けるために何らかの問題行動を起こす場合もある。早くから子どもらしい感情を奪われ、その状態が長く続いてしまうと、いつか子どもの心は壊れてしまう。
子どもをDVや虐待から守るためには、仲が悪くても両親は一緒に暮らすべき、子どものために離婚は踏みとどまるべき、という社会の概念を、子どもに安全と安心を与えるために、暴力のない家庭環境をつくるべきだ、という社会概念に変える必要がある。例え、子どもが両親に離婚してほしくないと言う場合でも、その大前提は「両親の仲がよく笑顔が絶えない家庭」で、憎み合ったままで一緒にいてほしいわけではない。
夫婦仲の改善が難しく面前DVを防ぐために離婚を選択したとしても、子どものことを考え、協力して子育てをすることはできる。それができる環境になるためにも、加害者は「怖い人」から脱却しなければならない。例え離婚したとしても、子どものために変わる必要がある。
子どもの健やかな育ちで根底にあるべきは、安全を守り、いい環境を与えること。両親がそろうことが前提ではない。ひとり親でも祖父母でも、里親でも子育てをする皆が笑顔で愛情を注げばいい。子育てが困難な家庭がある場合は、足りないものを社会が補うべきで、社会の皆で子どもと親を支えていければいい。

インフル 1回投与で治療 塩野義、3年後にも新薬

産経新聞 2015年10月30日

塩野義製薬が開発中の世界で初めてインフルエンザウイルスの増殖を抑える効果のある飲み薬が、平成30年にも発売される見通しとなったことが30日分かった。1回の投与で1日以内に症状を抑える効果を目指して実用化に向けた臨床試験(治験)を進めており、厚生労働省も画期的な新薬候補として優先的に審査する対象に指定している。
スイス製薬大手ロシュの「タミフル」など従来のインフルエンザ治療薬はウイルスの拡散を抑えるもので、増殖そのものを抑えることはできなかった。このため、発症後48時間以内に服用しなければ効果が得られず、タミフルの場合は5日間程度服用を続ける必要があるといった不便さがあった。
塩野義は国内での治験を開始しており、11月以降に数百人規模の患者を対象にした第2段階の治験を行い、有効性などを確認する。
早ければ29年にも承認申請を目指している。
厚労省はすでにこれを画期的な新薬候補として、世界に先駆けて優れた新薬を発売するために優先的に審査する「先駆け審査指定制度」の対象に指定した。塩野義が承認申請すれば、通常1年程度かかる審査を半年程度に短縮することになり、30年にも発売される見通しだ。

わが子と全部同じ 養育里親に理解深める

長野日報 2015年10月30日

「わが子と里子。かわいらしさも、育てるのが難しいことも全部同じ」―。実親の病気や虐待、経済的理由などで家庭で暮らせなくなった子供を一定期間預かる養育里親に理解を深めてもらう「里親推進フォーラム」(県諏訪児童相談所主催)が29日、岡谷市カノラホールであった。諏訪、上伊那地方などから約50人が参加。里親登録者から動機ややりがいを聞き、家庭的養護の重要性を知った。
伊那市高遠町の「うずまきファミリー」は、県内に3カ所あるファミリーホームの一つで、社会的養護を必要とする生後4カ月~19歳の6人を預かる。
管理者・養育者の宇津孝子さんは、小学3年の時に父親を亡くした。女手ひとつで育ててくれた母親は「頼りになって、守ってくれて、考えてくれる大きな存在だった」と語り、「母親と一緒に暮らせない子たちが育つとは思えない―。その思いが(里親登録の)動機の一つになった」と話した。
4月に東京から高遠へ移り住んだ大髙洋子さん。小学生の2人の子を持つが、テレビ番組の「大家族のおかあちゃん」への憧れもあり、養育里親に登録してこれまでに3人を預かった。
「おんぶに、抱っこと大変だったけれど、それ以上にかわいくて、短期間だったけれど幸せな体験をさせていただいた」と、涙ながらに3人との生活や思い出を振り返った大髙さん。「実子は帰る場所があるだけで幸せと思う。里子にも家族の愛を味わわせてあげたい。家族皆が次の出会いを心待ちにしている」などと語った。
同所管内の諏訪地方と上伊那4市町村の里親登録は31家庭(4月1日現在)で、大きな増減なく推移する。フォーラムは制度を周知し、子供たちの受け皿となる登録家庭を増やそうと初めて開催した。
県の担当者は「特定の大人との愛着関係の下で養育されることで、子供が自己肯定感を育むことができる。将来家庭生活を築く上でのモデルにもなる」と里親委託の意義を強調。宇津さん、大髙さんの2人は「仲間が増えればうれしい」と望んでいた。

貧困と生活保護(15) 扶養義務の強化は、悲劇をもたらす

読売新聞 2015年10月30日

生活保護と親族の扶養をめぐって、「子どもが老親の面倒をみるのは当然だ」」「生活保護に頼る前に家族、親族で助け合うべきだ」などと主張する人たちがいます。伝統的な家族観に立って道徳や美風の復活を説いているのだと思いますが、本当にその方向がよいのでしょうか。
現実にどんなことが起きるか、想像力をはたらかせて、よく考えてみないといけません。
親族による扶養義務を強めると、さまざまな悲劇をもたらすばかりか、かえって家族・親族の関係が壊れてしまう、と筆者は考えます。
「生活保護なんて、自分に関係することはない」と思っている人こそ、扶養義務の強化によって、足を取られるかもしれません。

もともと関係が良くない場合がある
現在の生活保護制度では、親族による扶養は、生活保護の給付に「優先」するものです。現実に親族から援助があったら、それを先に使って、足りなければ生活保護で補うという意味です。
これが、親族による扶養の追求が生活保護の「要件」になったり、それに近い運用が行われたりしたら、どうなるでしょうか。経済力を持つ親族がいるだけで保護を受けられない、あるいは親族から援助を得るために最大限の努力をしないと保護を受けられない、さらには、扶養義務を負う者が生活保護にかかる費用の一部を福祉事務所から強制的に徴収されるといったやり方です。
まず念頭に置く必要があるのは、家族・親族であっても実情はさまざまで、そもそも人間関係が良好とは限らないことです。
まだ離婚していない夫婦間でも、DVを受けていたり、憎しみ合っていたりすることがあります。親子でも、親から虐待を受けて育った、親から捨てられていた、親が失踪して長年、音信不通だったといったケース。反対に、子どもから暴力や虐待を受けていた、金の無心をさんざんされて財産を食いつぶされたといったケースもあるでしょう。きょうだい同士も、仲が悪いことはしばしばあります。
そういう関係のときに、生活に困ったなら親族だから援助してもらえ、過去は水に流して援助しろ、と求めるのは、とうてい無理がありますよね。

良かった人間関係も悪化する
もともと関係の悪くない親族なら、スムーズに援助が行われるでしょうか。
援助する側に経済的余裕がたっぷりあって、当事者同士の気持ちが通い合って自主的に援助が行われるならよいのですが、それほど裕福でない場合、親族の生活保護の利用に関連して金銭援助を求められると、おそらく良い気分にならないでしょう。援助を受ける側は、負い目を感じます。それが一時的ならまだしも、長く続くと人間関係がぎくしゃくしてくるでしょう。まして、大人になったきょうだいだと、配偶者がいたりするわけです。
ホームレス状態で野宿している人たちに対して「なぜ親、子、きょうだいに頼れないのか」という見方がありましたが、金銭の援助を求めたら関係が悪化する、家に転がり込んだら関係が悪化する、実際に住まわせてもらったけれど関係が悪化したので出てきた、という現実があるのです。

保護の必要な人が受けにくい
生活保護の申請をすると、扶養義務者に関する調査が行われます。本人から親族の生活状況を聞き取り、年齢などを確認したうえで、<1>生活保持義務関係にある人(配偶者、未成熟の子に対する親)<2>親子関係にあって扶養の可能性が期待できる人<3>本人と特別の事情のある親族で扶養能力があると推測される人――だけに、扶養できるかどうかを照会すればよい、と厚生労働省は説明しています。兄弟姉妹は原則として照会の対象外です。
しかしこれまで、福祉事務所によっては、画一的に広い範囲の親族へ照会文書を送って「この人が生活保護を申請しているのですが、あなたは援助できませんか?」と問い合わせることがありました。何十年も音信不通の親族へ照会したケースもありました。
そうすると申請した人は、自分の恥をさらすことになる、あるいは相手に負担をかけるのではないか、と気がかりですよね。それがいやで、生活に困窮していても生活保護の申請をあきらめる人が、現在でも少なくないのです。
2013年の生活保護法改正(14年7月施行)では、扶養義務者の収入・資産の調査を含めて福祉事務所の調査権限が強化され、保護を受ける当事者だけでなく、扶養義務者や同居の親族に対しても、報告を求めることができるという規定が新設されました。
さらに扶養義務が強化されていくと、保護の必要な状態にある人が、保護を申請しない、保護を受けられないという事態が大幅に増えかねません。

貧困に周囲が巻き込まれる

かりに、生活保護にともなって、十分な余裕のない親族にも扶養義務による金銭援助が強く求められると、どうなるでしょうか。お金を出す側の経済状態は当然、低下します。
誰かが貧困状態に陥ると、周りの親族も巻き込まれてお金を取り上げられる、場合によっては、そちらも貧困に陥るのです。貧困の渦巻きのようなものです。そうなると、生活保護を受ける人は親族たちから白い目で見られ、やっかい者扱いされるでしょう。
いまは元気に働いて収入を得ている人でも、たとえば病気をしたら、たちまち貧困に陥ることがあります。そういうときに、裕福でない親族にまで扶養を強いるのは、親族に負担を押し付け、親族を犠牲にすることにほかなりません。
公的扶助(生活保護)が公的な責任を果たし、きちんと機能していてこそ、周りの人が貧困に巻き込まれずに済むのです。

子どもや障害者の自立を妨げる
さらに考えてほしいことがあります。まず、生活保護を受ける家庭に育った子どものことです。
就職して独立し、多少の収入を得るようになっても、生活保護を受けている親やきょうだいへの援助を義務づけられるとしたら、資格の取得、通信教育、読書など、自分を高めるのに使えるお金が減ります。結婚資金もためにくいでしょう。そうすると、貧困家庭に育った子どもは、自分を犠牲にして親きょうだいをいつまでも養い続けろということになります。まさに「貧困の世代間連鎖」をもたらし、格差の固定化を招くのです。
今年、大阪府大東市で次のような事例が判明しました。5人暮らしだった生活保護世帯の18歳の長男が高校を卒業して就職し、6月になって女性と暮らすために独立して住んだことに対し、福祉事務所が、非難する指導指示書を出したのです。長男が家に残って給料を入れ、いずれ下のきょうだい2人も働くようになれば、世帯の収入が増えて生活保護から脱却できるのに、というのが福祉事務所の主張でした。この世帯の父親は脳卒中の後遺症のため要介護状態で、母親も介護に追われていました。就職後2か月間の長男の給料は世帯の収入として認定され、保護費の支給が減っていました。独立後も長男は福祉事務所から要請され、月3万円を仕送りしていました。
弁護士の抗議を受けて、福祉事務所は8月末、指導指示書を撤回し、仕送りの要請もやめましたが、この福祉事務所のやり方は、保護費の支給を減らすことばかり考えて、子どもの自立を軽んじたものと言えるでしょう。
障害者の場合も問題が生じます。障害者は、収入が少なくて生活保護を利用することが珍しくありません。大人になった障害者についても、親に養ってもらえ、独立して住んで生活保護を受けるときでも親から援助してもらえ、と要求されるなら、いつまでたっても自立した生活を営めません。親のほうも障害者がいるために負担を強いられ、経済的に苦しい状態が続きます。
生活保護は世帯単位が原則ですが、個人の自立を助けるために「世帯分離」という扱いをすることがあります。たとえば長期の入院、施設入所、寝たきり、重度障害で医療・介護の費用がかさむ人がいれば、その人だけを生活保護にして家計の負担を減らす。反対に、奨学金やアルバイトで生活費を得ている大学生・専門学校生、結婚・独立を控えている人は、その人を保護から外して自分のために収入を使えるようにし、残りの世帯だけを保護する、といった方法です。
生活保護法の目的の一つである「自立助長」は、貧困が多くの人に波及するのを食い止める意味を含んでいます。そこを理解せずに親族の扶養ばかり強調するのは、法の目的に反するのです。

外国と比べてどうか
そもそも日本の民法が「夫婦、直系血族、兄弟姉妹、特別の事情がある3親等内の親族」の扶養義務を定めていることについては「範囲が広すぎて、現代の実情に合わない」という批判があります。たしかに、兄弟姉妹の間で扶養を求めるのは、現実に照らして、いかがなものでしょうか。また3親等内の親族というと、自分のおじ、おば、おい、めいに加えて、配偶者の父母、きょうだい、おじ、おば、おい、めいまで及びます。
外国では、どうでしょうか。近畿弁護士会連合会編『生活保護と扶養義務』(民事法研究会、2014年)は、主な先進国の民法上の扶養義務や、公的扶助にかかわる扶養義務者への求償制度(費用徴収制度)を調べた結果を紹介しています。
生活に困った人を誰が助けるかについては、親族間の私的扶養から、社会による公的扶助へ、しだいに重点が移ってきたのが歴史の流れで、欧米主要国の扶養義務の範囲は限られています。
日本の現実に即した妥当な範囲はどのあたりなのか、民法の扶養義務のあり方を含めて、見直しを行う必要があるように思います。