子供の貧困対策、なぜ政府は「寄付」を呼びかけるのか?

THE PAGE 2015年10月31日

政府が子供の貧困対策に「子供の未来応援基金」を設置して民間からの寄付を呼びかけていることが、議論を呼んでいる。国が重要政策として位置づける子供の貧困対策で、なぜ政府は「民間からの寄付」という形を取るのだろうか。

子供の貧困対策全体の予算は8742億円
政府が子供の貧困解消に向けた政策の一つとして「子供の未来応援基金」を設置したのは、10月1日。政府は10月19日の子供の未来応援国民運動会議で、「国民の力を結集して、社会全体で子供の貧困対策に取り組み、貧困の連鎖を解消する」ものとして、民間からの寄付の協力を呼びかけた。
子供の貧困対策は、安倍政権が「新三本の矢」の一つとして掲げる重要政策の一つだ。日本の子供の貧困率は1990年半ばから上昇傾向にあり、2013年は16.3%。一人親世帯にいたっては同年、貧困率は54.6%に達している。OECDによると、2009年の日本の子供の貧困率は34カ国の中でワースト10で、一人親世帯の貧困率は最下位だった。
そこで政府は2013年、「子どもの貧困対策法」を制定。2014年には具体的な対策を示した「子どもの貧困対策に関する大綱」を決定した。大綱を受けて今年度、子供の貧困対策は主に文部科学省、厚生労働省、内閣府が担っている。今年度予算では、文科省が学校へのスクールソーシャルワーカーの配置や、地域の無料学習支援塾を設置する事業などに5150億円。厚労省が、児童相談所の相談態勢の強化や児童養護施設の学習支援などに3591億円。内閣府が、支援情報を集約する事業などに1億2千万円。計8742億2千万円の予算が子供の貧困対策に使われている。

なぜ寄付なのか?
民間に寄付を募る「基金」の設置も、この大綱に沿った事業だ。大綱には「官公民の連携等によって子供の貧困対策を国民運動として展開する」という項目が明記されており、民間資金を用いた支援が例示されている。国の予算とは別に設置されたこの「基金」は、子供の貧困対策に取り組むNPOや民間企業などの事業の運用に用いられる計画だ。
なぜ、「寄付」なのか。内閣府の担当者は「国は国として大綱に基づいて政策を推し進めるが、それと並行して、政府だけでなく社会全体で子供を支えていくような運動が必要だと考えた」と説明する。「子供の貧困問題は深刻であるにもかかわらず広く認識されておらず、『自助努力の範疇ではないか』と言われることもある。しかし、子供は社会全体の財産。貧困を社会全体の問題と捉え、国民一人ひとりが誰でも活動に参加できる事業の一つとして、まずは『基金』という象徴的な方法を選んだ」と説明する。
内閣府の担当者は、民間の寄付を集めることによる別の利点も主張する。「国の予算で行う事業の場合はどうしても画一的な支援方法になり、特定の地域や分野に偏った支援はできない。その点民間の基金であれば、NPOなどが特定の地域や分野に特化して行う事業でも自由に使うことができる。子供の貧困対策には、地域に密着して子供に寄り添う草の根活動こそが必要で、柔軟に用いることができる民間の基金が適している部分もある」

支援現場の声は
実際に支援の現場にいる支援者は、どう感じているのだろうか。子供の貧困対策に取り組む「一般財団法人あすのば」の小河光治代表理事は「民間の資金には、困窮している子どもを一定の支援条件に当てはまらないからといって差別することなく、柔軟に運用できるメリットがある」として、民間の基金を活用する方法自体は否定しない。しかし「国がより具体的な政策を示して必要な支援を拡充してからでなければ、民間の理解を得るのは難しいのではないか」と指摘する。
「児童扶養手当や給付型奨学金などの現金給付の拡充が実施されるようになれば、貧困世帯にとっては『社会から見捨てられていない』と感じることができる大きな支援策になる。政府がパフォーマンスではなく、貧困解消に実効的なこうした具体策を示すことができれば、『政府も一肌脱いだのだからみんなでやっていこう』という気運が高まり、『基金』への批判も少なくなるのではないか」
来年度予算の概算要求では、関係する3府省全てが子供の貧困対策に関わる予算の増額を要求している。内閣府によると、今月19日までに集まった「子供の未来応援基金」への寄付金は160万円。政府がスローガンに終わらずに効果的な政策を打ち出していくことが、寄付を始めとした民間運動の盛り上がりにもつながるだろう。

児福法、対象年齢の引き下げ議論 「18歳問題」対応を

朝日新聞デジタル 2015年10月31日

児童福祉法の対象年齢を18歳未満から引き上げる議論が、厚生労働省の有識者委員会で本格的に始まった。現在は18歳になると原則として児童養護施設や里親の家庭から出なければならず、自立できなければ貧困に陥りかねないためだ。少なくとも20歳未満とすることを軸に検討している。
「支援が必要かどうかで判断するのではなく、一定の年齢に達したことで支援が終わってしまう」
30日の有識者委で、北海道大大学院の松本伊智朗教授は、こう問題提起した。
別の委員は、関東の里親のもとで暮らす女子高校生が昨年、卒業後の生活の見通しが立たないとして4年制大学への指定校推薦を取り消されたと指摘。児童相談所が引き続き里親のもとに暮らし続けることを確約しなかったことが理由という。委員は「18歳以降も必ず支援するしくみがあれば防げた」と話す。
施設や里親家庭にいられる期間は、児童福祉法で原則18歳になるまでと定められている。例外的に20歳まで延長できるが、多くは高校卒業まで。厚労省によると、昨年3月に高校を卒業した児童養護施設の子ども1721人のうち、4月以降も施設に残ったのは231人(13%)だった。
東京都内で児童養護施設を運営する社会福祉法人の理事長は、施設を退所する子どもたちがアパートや携帯電話を契約する際、親の代わりに契約書などに署名することがある。民法の規定で未成年者は保護者の同意がなければ契約行為ができないが、虐待を受けるなど親に頼れない子どももいるためだ。理事長は「社会人生活が軌道に乗るまでは、身近なところで様子をみてあげたい」と話す。
仕事が続かなかったり、金銭管理ができなかったりして支払いが滞り、理事長に請求がくることも少なくない。数十万円の負債を抱えて音信不通になる子もいる。施設への寄付金で対応しているが、個人負担では限界もある。
この日の有識者委では「一律に全員の支援を続ける必要があるのか」「(議論となっている民法改正で)成人年齢が18歳に引き下げられても、支援を続ける根拠を保てるのか」という意見もあった。有識者委は対象年齢の引き上げを含め、年内に社会的養護のあり方に関する報告書をまとめる。これを踏まえ、厚労省は法改正の必要性を判断する方針だ。(伊藤舞虹)

<認可保育所>「保育士最低2人配置」の基準緩和継続の方針

毎日新聞  2015年10月31日

厚生労働省は、全国的な保育士不足の深刻化を受け、認可保育所について、保育士を最低2人配置するよう定めた国の基準を緩和し、子どもの少ない朝と夕方は1人に減らす措置を来年度以降も続ける方針を固めた。もう1人は、保育士資格はなくても無認可保育所などの勤務経験がある人で代用することを認める。今年度、保育士確保が難しい地域で特例措置として時限的に導入していた。
同省は11月上旬に有識者による検討会を設置し、基準緩和の対象になる保育所などを議論する。今後、保育施設の設置が進めば、保育士不足はさらに深刻になる恐れがあるため、対象拡大も検討する。
認可保育所は1日11時間(午前7時~午後6時台)の開所が基本で、さらに数時間の延長保育をしているところもある。保育士の朝晩の勤務負担を軽減すれば、長時間労働による離職の抑制や、自分の子どもを持つ保育士の職場復帰を促すなどの効果が期待できる。
希望しても保育所に入れない待機児童の数は増えており、政府は2017年度までに保育の受け皿を40万人分増やす計画を立てている。これに伴い、17年度までに6.9万人分の保育士が不足する見込みだ。
昨年12月の保育士の有効求人倍率は全国平均で2.06倍、東京では5・37倍。都市部で高い傾向にあり、必要な保育士数を確保できずに開園が遅れる施設が出るなど既に弊害が生じている。
同省は、保育士の処遇改善▽資格受験者への学費支援▽現行年1回の保育士試験を16年度から2回に増加▽離職した保育士の再就職支援強化--などの対策を進めており、こうした施策の効果が表れるまで、基準緩和措置を継続する方針だ。ただ、「専門職でない人が対応することで、子どもに十分、目配りできなくなるのではないか」という指摘もあり、検討会で慎重に議論する。【細川貴代】

認可保育所
児童福祉法に基づく児童福祉施設。施設の広さや職員数など国の設置基準によって都道府県知事らが認可する。定員は20人以上で、小学校就学前までの子どもを預かる。職員は原則、全員が保育士。公費で運営される。
認可保育所以外には、定員が6~19人で2歳までの子どもを預かる「小規模保育所」などがある。4月に始まった新制度では、こうした施設も基準を満たせば公的支援の対象になる。

性暴力被害者を支援 24時間電話相談へ 認知件数急増の福岡

西日本新聞 2015年10月31日

2013年に開設され、強姦(ごうかん)や強制わいせつなど性暴力の被害者支援を一元的に行う「性暴力被害者支援センター・ふくおか」(福岡市)が、12月から電話相談業務を24時間化する。福岡県は性犯罪認知件数が全国でも上位となっており、特に今年は過去5年間で最悪のペース。「魂の殺人」と言われ、心身に深い傷を負わせる性暴力は被害を訴えづらいことが特徴とされる。センターは現在、増員する相談員の研修を進めており「被害者が一人で抱え込まなくてすむよう質の高い相談員を育てたい」としている。

「どこまで被害の内容を聞いていいか分からない」
17日午後。福岡市内の会議室に、相談業務の24時間化に向けて新たに採用が予定される女性約30人が集まった。9割近くが看護師や臨床心理士、社会福祉士の資格を持ち、ほかの機関での相談員経験を持つ「即戦力」(浦尚子事務局長)。この日は、6人一組になって実際に寄せられた性暴力の相談に対応する研修が行われた。
「どこまで被害の内容を聞いていいか分からない」。性暴力の相談対応を誤ると、被害者に二次被害を与えてしまう恐れもあり、30人の女性たちは手探りで模擬相談に取り組んだ。浦事務局長によると、相談があっても、実際に直接的な支援につながるケースは20件に1件程度。浦事務局長は「相談員が焦ってしまうと、かえって支援に結びつけられない」と冷静で誠実な対応を求めた。
13年7月、県からの委託事業として開設されたセンターは現在、年末年始を除く午前9時~午前0時に性暴力の被害者に対し、電話・面接による相談▽医療機関への橋渡し▽警察、行政への付き添い―などの支援を提供している。
県によると、開設1年目は248人から410件の電話相談があり、直接的支援に結びついたのは14人の35件。2年目は246人から564件の相談があり、30人に対し101件の直接支援を行った。センターによると、特に最近は「ネットを通じて出会った男性から被害に遭った」という未成年者からの相談が増えている。深夜から未明の被害も少なくないため、「いつでも受け入れられるように」と12月からは相談員2人が24時間365日常駐する体制に拡充する。
センターの運営費は県と福岡、北九州両市の委託金のほか、個人・企業の会費などで賄われている。9月には県警職員有志が寄付を行ったが、財政基盤はまだ十分ではない。浦事務局長は「中長期的な被害者の支援態勢も道半ばで、現状は(百点満点中)30点くらい。児童相談所や医療機関との連携をより強め、専門性を高めていく必要がある」と訴えている。性暴力相談=092(762)0799。