【児童虐待・DVを考える】家庭という密室で 身体、精神、経済的な「暴力」多岐に

西日本新聞 2015年11月9日

11月は、児童虐待とドメスティックバイオレンス(DV、家庭内暴力)防止の啓発月間だ。2014年度の児童虐待の対応件数は約8万9千件、DV相談は約10万3千件と、いずれも年々伸び、過去最高を更新している。家庭内で起きる二つの「暴力」は、相関関係が深い。家庭という密室で、いったいどんな暴力が起きているのか。

発達障害 本人や周囲にいつ、どう、伝える?
九州のある児童相談所(児相)に、小学校教員からこんな相談が寄せられた。
高学年の男児が携帯電話に自分の裸の写真を保存している。男児によると「父親が撮影した」。児相職員は性的虐待の疑いがあると判断した。性行為だけでなく、性的な目的で裸の写真を撮影したりポルノを見せたりすることも性的虐待だ。
この性的虐待のほか、児童虐待防止法は、児童虐待として身体的虐待、心理的虐待、ネグレクト-を定義している。身体的虐待には、乳幼児の体を強く揺らし脳に損傷を与える「揺さぶられ症候群」も含まれる。

「産まなければよかった」などの暴言や無視は心理的虐待に当たる。親がDV被害を受けている様子を見せる「面前DV」も、子どもに大きなショックを与える心理的虐待だ。DVの通報で警察が駆け付けた現場に子どもがいた場合、児相に通告する例も増えている。
ネグレクトには食事を与えない、家に閉じ込める、身体や住居が不衛生な状態が続く‐などがある。近年は子どものアルバイト代を搾取する「経済的虐待」など、新たな概念も生まれている。
「虐待かな」と感じたら、どこに連絡したらいいのか。7月に全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」が創設された。最寄りの児相につながる仕組みだ。

「能なしだ」「かい性なし」-。一見夫婦げんかのような言葉も、DVとなる場合がある。大きく分けて身体的DV、精神的DV、性的DV、経済的DV-がある。
身体的DVは暴力を振るうこと。性的行為を強要したり、避妊に協力しなかったりするのは性的DVに当たる。
精神的DVは、行動や交友関係を監視したり、子どもに危害を加えると脅したりすることも含まれる。十分な生活費を渡さない経済的DVもある。DVは配偶者間だけでなく、恋人間でも起こりうる。
DV被害の相談には、都道府県や市町村にある配偶者暴力相談支援センターや児相などが応じ、シェルターなどで保護されることもある。

不足が懸念される保育士の待遇改善・人材確保に向け、検討会議

フジテレビ系(FNN) 2015年11月9日

政府は、希望しても保育所に入れない「待機児童」の数を、2017年度末までにゼロにすることを目指しているが、これにともなって、新たに保育士6万9,000人が必要になる見通しで、保育士が、全国的に不足することが懸念されている。
こうした中、厚生労働省が、保育士の待遇の改善や人材確保に向けて、検討会議を立ち上げた。
保育士の現状を取材した。

さいたま市の保育園で働く、猪木 佳奈美さん(23)。
この保育園で、働き始めて2年目。
午前7時すぎに出勤し、0歳児クラスを担当している。
子どもたちのお昼寝の時間に、事務作業をしようと思ったが、猪木さんは、「お昼寝したんですけど、(子どもが)早く起きちゃって…」、「朝から晩まで、子どもと関わっているので、資料をやる時間とか、学習する時間っていうのが、なかなかないんですね」と話した。
猪木さんが言う、「資料」とは、子どもの様子を細かく記録し、保護者に見せるためのもの。
「絵本を見ながら3つのものを名前を言える」など、1人ひとりの成長過程を記していくが、この作業のため、子どもたちが帰ったあとも、しばしば残業しなければならない。
そんな猪木さんの1カ月の給料について、猪木さんは「15万6,945円です。(月に20万円いくことは?)ないですね」、「仕事をしてる量に対しては、見合ってないかなっていうか」などと話した。
この日、仕事が終わったのは、午後7時すぎ。
自転車で、40分かけて帰宅する。
保育士の平均給与(月額)は、21万6,000円。
幼稚園の教諭や看護師に比べても、低い水準となっている。
猪木さんは、「この仕事が大好きだし、誇りに思っているので、長く続けたいんですけど…。仕事の責任だったり、そういうのに対して、処遇が見合っていない」と語った。

保育士の資格を持ちながらも、出産や育児などを機に職を離れるなどしている人は、「潜在保育士」と呼ばれ、全国に、およそ76万人いると推計されている。
厚労省の検討会では、こうした人の活用も含めて、待遇改善の対策を急ぎ、年内にも具体策をとりまとめる方針。.

大卒社員の3割が3年で退社、「最近の若者は我慢がない」は本当か?

THE PAGE 2015年11月9日

厚生労働省が大卒の3割が3年で会社を辞めてしまうという調査結果を発表しました。「最近の若者は我慢する力がない」といった声も出ているようですが、実は3年で会社を辞めてしまうという傾向はずっと昔から変わっていません。
厚生労働省は10月30日、新卒就労者の離職状況調査の結果を公表しました。新卒で3年以内に会社を辞めた人の割合(離職率)は32.3%でした。前年調査からは0.1ポイント低下していますが、30%を超えたのは3年連続です。この結果だけを見ると、最近の若い人はすぐに会社を辞めてしまうというイメージを持ってしまいますが、長期的に見るとそうではありません。
確かにリーマンショック後の2009年には28.8%と30%を切った時期がありましたが、これはむしろ例外的です。1996年は33.6%と現在とほぼ変わらず、2000年には36.5%に上昇するなど、ほぼ一貫して離職率は30%を超えています。在職期間が短い転職の場合、よほど前向きなものでない限りキャリア形成において不利になることが多いですから、定着率を上げる努力は必要でしょう。しかし、短期間で離職してしまうことについて、最近の若者に特有な現象として捉えてしまうと状況判断を誤る可能性もあります。
ちなみに3年の間に離職する率は、1年目が13.1%ともっとも高く、2年目は10.3%、3年目は8.9%と下がっていきます。とにかく会社が嫌で辞めてしまうというのは1年目に多いことが分かります。3年目の離職者の中には、もしかするとかなり前向きな転職もあるかもしれません。当たり前のことですが、社会人1年目は、学生時代の常識が通用せず、ショックを受けることも多いですから、企業としてはこの時期のケアが重要ということになります。
3年以内の離職率を学歴別で見ると、短大卒が41.5%、高卒が40%、中卒が65.3%となっており、いずれも大卒者より高い数字になっています。特に中卒者の離職率が高いことが分かります。また企業規模別では、大卒の場合、1000人以上の会社は22.8%であるのに対して、5人未満の会社は59.6%とかなり高い数値となっています。企業規模が大きいほど、離職率が低いという傾向は顕著です。
若者が離職しないように社会全体として工夫すべきという考え方もありますが、短期間で自分に合う仕事を探すのは容易ではありません。3年程度の間に、何度でもチャレンジして自分に合う仕事を探せる環境を提供した方が、若者にとっても企業にとってもメリットがあるという見方もできます。いずれにせよ、若者の3割はすぐに会社を辞めてしまうということを前提に物事を考える必要があるでしょう。

非正規雇用比率「4割大台乗せ」の正しい見方

東洋経済オンライン 2015年11月9日

ついに、賃金労働者の4割が非正規になった――。11月4日に厚生労働省が発表した、「就業形態の多様化に関する総合実態調査」ショッキングな数字が踊った。パートや派遣など、いわゆる「非正社員」が占める割合が、初めて全体の40%に達したのだ。1990年には20%だった(総務省「労働力調査」)ことを考えると、25年間で実に倍増である。
ネット上では、「アベノミクスがこうした事態を招いた」「これでは1億総活躍どころか、1億総貧困社会だ」といった悲観的な反応が多い。朝日新聞も、11月5日付朝刊で「高齢世代が定年を迎えて正社員が減るなか、人件費を抑えたい企業が非正社員で労働力を補っている実態が浮き彫りになった」と報じている。
しかし、実態を分析すれば、これらの見方は偏っている。どういうことだろうか。

率を押し上げた背景に、高年齢者雇用安定法の存在
使用者側の代理人として労働問題を扱う倉重公太朗弁護士は「『企業が人件費節約のために、さらに非正規を多く用いている』というのは、誤りなのではないか」と指摘する。率の増大を招いた大きな要因として考えられるのは、2013年4月1日に施行された、改正高年齢者雇用安定法だ。
急速な高齢化の進行や、2013年から厚生年金の受給開始年齢が引き上げられたことに対応し、定年後に年金も給料も受け取れない人が増えることを防ぐ目的で作られた。もともと、全体の8割近くの企業は、継続雇用制度を整備し、希望者を定年後も雇用していたが、その対象者は労使協定の基準を満たす人などに限っていて、一定程度の絞り込みがされていた。
改正高年齢者雇用安定法は、企業が労使協定で対象者を選別することを禁止。また、義務に違反した場合は企業名を公表する規定も設けられており、企業も無視はできない。その結果、もともと正社員として勤務していた人は、定年後も幅広く仕事を得るチャンスを手にすることになった。企業側は、むしろ負担を増やしているとの見方もできる。
実際、今回の調査でも、定年退職者の再雇用者の割合は、前回調査の2010年の15.3%から17.5%に増加している。また、定年前に関係会社やグループ会社に移る事例は、厚生労働省では明確に追跡し切れておらず、そのような人は、今回の統計では、「パートタイム労働者」としてカウントされている可能性が高い。そして、この「パートタイム労働者」の割合も、前回の57.6%から60.6%に増加している。
こうしたデータを総合してみると、結局のところ、元正社員の高年齢者の再雇用などが増えたことが、4割の大台に乗った大きな要因なのではないか、という実態が浮かび上がってくる。

ポジティブな非正規雇用が増えている
つまり、4年前と比較して「非正規」の割合が増加したことは確かだが、追いつめられた労働者がやむを得ず、というステレオタイプな「非正規」のイメージとは異なり、法によって企業に義務づけられた制度により、労働者にとってポジティブな「非正規」雇用が増加している可能性が高い。
「改正高年齢者雇用安定法が、非正規割合を押し上げた一つの原因と言えることは確かだ。昨今の景気の回復によって、65歳以上の就業割合は上昇傾向にあることを示している。メディアでは少し歪められた形で報道されているのではないか」(厚生労働省雇用・賃金福祉統計課 山口美春氏)
確かに、今回の調査結果は、前回と大きく異なる点もある。非正規を利用する理由のうち、「正社員を確保できない」という理由が、前回の17.8%から26.1%と大幅に上昇している。企業が正社員を確保する意欲は高いのに、人材が不足しているという現実もあるようだ。他方で、約30%の非正規社員が、正社員に変わりたいとの希望を持っている。この部分がマッチングすれば、高年齢者の非正規が増えた分を相殺してもよさそうだが、現実にはそうなっていない。
労働者側の代理人となって労働事件を多く扱う佐々木亮弁護士は、「全くの想像だが、たとえば、非正規社員として10年、15年働いていた労働者を、雇う側が積極的に正社員として迎え入れるのだろうか、という疑問がある。おそらく雇う側が正社員として雇い入れたいのはこうした属性の労働者ではないのだろう」と話す。長期の雇用を前提に考えると、企業のファーストチョイスになるのは、やはり20代。雇う側が求める正社員像と、正社員になりたいと願っている労働者の属性に、大きなズレが生じている。
また、依然として企業が「賃金の節約」を非正規雇用の目的に掲げていることに大きな変化はない。これは、前回調査よりも5%割合を落としているものの、全体の38.8%と今回も非正規を利用する最大の理由となっている。非正規は、相変わらず企業にとって雇用調整の手段になっていることが分かるだろう。
高年齢者雇用安定法も、結局もともと正社員だった人だけが恩恵を受けられる仕組み。順調に正社員を続けてきた人と、レールから外れてしまい従来から非正社員だった人との間で、「非正規」の枠の中でも、格差が生じる状態になってきているということが、本質的な問題なのではないだろうか。
「限られた賃金原資を元正社員の高齢者に取られ、非正規の方はさらに追い詰められている。65歳までトータルで見たときの身分保障、生涯賃金格差は、ますます顕著になっているというのが現実。やはり、特権的な地位が法的に保障されている正社員と、不安定で保護が極めて乏しい継続的な非正規社員という、『労労対立』の問題を真剣に議論するべきだ」(倉重弁護士)

氷河期世代の非正規問題は、何も解決していない
正社員といっても、大企業で極めて安定的な身分が保障された人もいれば、実質的には労働法が守られていない「ブラック企業」のような会社にいる人まで様々であるから、正社員という枠組みで一律に区切ってしまうことには、もちろん議論もあるだろう。ただ、正社員の80%にはある退職金制度が、非正規では10%にも満たず、賞与についても正社員の86%にはあるのに非正規には31%しかない。そして、この数値は、正社員については前回調査より微増しているが、非正規は減少している。
佐々木弁護士も「非正規の立場は、制度上正社員より不安定であることは明らかである上、月々の賃金だけでなく、生涯収入にも大きく関わる格差が広がっている」と指摘する。10月10日配信の「中年フリーター」の残酷すぎる現実でも指摘されているとおり、新卒での就職活動で氷河期にぶつかってしまった世代が、非正規として追い詰められたまま歳を重ね、完全に取り残されているという現実は、確かに存在する。 4割という数字は一見するとインパクトが強いが、表面的にヒステリックな反応することは生産的ではない。真に解決しなければいけない課題は、まだ何ら解決していないということを、改めて認識することが重要ではないだろうか。

衣服に汚物・手回らず無視…老人ホームの質、見分け方は

朝日新聞デジタル 11月8日

有料老人ホームをめぐる問題が相次いで明らかになっています。高めの料金を支払うかわりに快適な手厚いケアを受けられるはずなのに、何が起きているのでしょうか。
神奈川県の40代女性は、有料老人ホームに入居していた祖母の部屋を訪ねたときのショックが忘れられない。昨年9月のことだ。
臭いが鼻についた。認知症の祖母が着ていたカーディガンや寝具には便がこびりついていた。トイレの便座、手すりも便で汚れていた。洗面台に水あかとかび、テレビ台にはほこり。ナースコールを押しても反応はなかった。
まだ暑さを感じる気候だったが、窓は閉め切られ、エアコンもついていなかった。足元のおぼつかない祖母がきちんと水分補給できているのか気になったが、ホームのスタッフには「ご自分で摂取できています」と返された。
部屋や衣類の汚れを指摘すると、「すぐ確認します」という返答があった。気になって翌日に再訪問すると、祖母は前日と同じ汚れた服を身に着け、部屋は清掃されていなかった。施設側は「人手不足で、できませんでした」と平謝りだった。
入居費用は月額25万円程度。祖母の年金だけでは足りず、息子である女性の父親(70代)の年金も投じた「終(つい)のすみか」だった。
祖母のお金で日用品の買い物をする際、職員が自分のポイントカードにポイントをためていたことも発覚。不信感が高まって転居先を探し、今年1月になって空きがあったグループホームに転居した。
有料老人ホームで起きた一連の問題と、自ら目撃した現場の実態が底流でつながっているように思えてならない。「あのとき私が気づいていなかったらと思うとゾッとする。泣き寝入りの人はたくさんいると思います」

ネグレクト常態化
東京都内の有料老人ホームで介護職員として働く50代の女性は「人手不足で、ネグレクト(放置)と言っても過言ではない状況が常態化している。質のよい介護などしたくてもできない。それが月30万円近くを入居者から受け取る有料老人ホームの実態です」と打ち明ける。
入居者の大半が認知症だ。身体的介助が必要な人も数多くいる。排泄(はいせつ)介助と歯みがき、自室誘導などが重なる食後の時間帯や、夜勤帯は特に忙しい。個室やトイレの複数のナースコールが同時に鳴る。「早く来てー」と叫ぶ入居者たち。対応が追いつかず、ナースコールを引き抜きたい衝動をこらえながら「待ってくださいね」と言い続ける。「そのうち鳴っている状態に心身がまひしてしまう。最後は(入居者が)叫んでも無視しています」
夜勤がきついから、と「妊活」のため職場を去った優秀な女性職員がいた。穴埋めに来るのは経験の浅い新人だ。中堅の介護福祉士でも夜勤手当などを含めて手取りは月20万円台前半。「募集しても人が集まらない」と上司も不機嫌だ。介護施設の現場は慢性的な疲弊状態にあるという。
おむつを外してしまった認知症の入居者を「だめじゃない!」と子どもを怒るように叱責(しっせき)する同僚の姿を時折見かける。「心を鬼にするか、まひさせないと、今の現場では生きていけません」

職員が虐待、13年度221件
介護職員による虐待件数は急増している。厚生労働省によると、2013年度に自治体が介護職員らによる虐待と認定したのは221件。施設別で最も多かったのは特別養護老人ホーム(特養)の69件で、有料老人ホームは26件だった。自治体が受けた相談や通報は計962件に上った。
虐待の背景には何があるのか。介護を市民の視点から追ってきた「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」の小竹雅子さんは「施設の急増に、人材確保と行政の指導力が追いつかない」と分析する。特に近年、異業種からの民間参入が目立つ有料老人ホームの数は14年に9581件で、この10年で約10倍になった。
介護現場の人手不足は深刻だ。15年8月の有効求人倍率は全体の1・23倍に対し、介護分野は2・67倍。その理由に待遇の悪さも指摘されており、介護職員の平均月給は約22万円と全産業の平均より11万円ほど低い。平均勤続年数も全産業の半分以下の5・7年。1年間で辞める人の割合は全産業(常勤)より3割多い16%に上る。人手不足で、経験の乏しい職員で穴埋めせざるを得ないのが現状だ。
小竹さんは「介護職員を虐待まで追い込まないよう専門技術の習得が必須だが、労働環境が整っていない」と指摘する。厚労省が虐待の発生要因を自治体に調査(複数回答)すると、最多は「教育・知識などに関する問題」で66%、次いで「職員のストレスや感情コントロールの問題」が26%を占めた。厚労省は団塊の世代が全員75歳になる25年には介護職員が約37万7千人不足すると推計。安倍政権は「介護離職ゼロ」の目標を掲げるが、「介護職の離職」を減らすめども立っていない。
虐待の実態をつかむ難しさもある。13年度中に自治体が相談や通報を受けて調査した事案のうち3分の1は虐待の有無を認定できなかった。
さいたま市は家族らから通報があると、「調査に入ると施設側に入居者を特定される可能性がある」と家族の意向を確認。すると、調査を拒む家族が多いという。入居者が行き場を失うといった懸念からとみられる。
家族の了承がなければ、原則として事実確認は施設任せになる。「行政が主体的に調査できなければ、証拠をつかむのは極めて難しい」と担当者。また、千葉市の担当者は「記録を書き換えられたら見破りようがない」と話す。

有料老人ホーム選びは、老後の生活に大きくかかわります。失敗しないためには、どんな点に気をつけたらいいのでしょうか。劣悪な施設を見分ける注意点や対応策を専門家に聞きました。

職員の表情や清掃状況は
建物の外観がきれいでも、内部の介護の「質」はわからない。入居を決める前に、施設をよく知ることが重要だ。
高齢者住宅財団の高橋紘士理事長は、有料老人ホームを選ぶ際の注意点として「見学をして泊まり、食事をする。1カ所だけ見に行くのではなく、複数を比較することが大切」と指摘。焦って選ばないように早めの準備を勧める。
実際に見学する時にこそ、劣悪な施設かどうか見破るヒントがある。介護保険制度が始まる前から「特養ホームを良くする市民の会」で活動してきたNPO法人「Uビジョン研究所」の本間郁子理事長は、職員が笑顔かどうか、配膳がぞんざいでないかなどに注目するという。

退職者数もヒントに
インターネット上にも手がかりがある。介護の苦情や消費者トラブルを長年分析してきた元国民生活センター調査室長の木間昭子さんは、介護保険法に基づいてネット上で公表されている「介護サービス情報公表システム」の活用を勧める。このシステムは、有料老人ホームなど介護保険の対象となる施設を地域やサービス種別ごとに検索できる。気になる施設があれば、介護職員に関する項目のうち「退職者数」「経験年数」などを見ておきたい。
木間さんは「多くの職員が辞める施設は、労働環境に問題がある可能性がある。職員が頻繁に入れ替われば入居者の特性を把握した介護がしにくくなり、介護事故の原因にもなる。経験年数も重要です」と話す。
もちろんデータだけで判断するのは危うい。気になる点があれば、施設側に説明を求めるようにしよう。
一例として、転落死や虐待が問題となっている「Sアミーユ川崎幸町」(川崎市)の従業員情報を調べてみた。開示されている情報では、8月31日時点の常勤介護職員数は29人で、2014年度の退職者数は18人。6割ほどが入れ替わったことになる。更新前の開示情報によると、13年度には22人が退職していた。
運営会社の親会社メッセージ(岡山市)に確認したところ、系列施設への異動も「退職者」に含めており、実際に会社を辞めたのは14年度で11人だという。ただ11人でも常勤介護職員の4割近い。同社経営企画部は「離職率が高いのは事実。採用後の教育およびフォロー態勢に問題があったと思われる」と説明する。