「保育士になる夢かなえて」 埼玉の企業が返還不要の奨学金

福祉新聞 2015年12月11日

「保育士になる夢かなえて」-。児童養護施設を退所する若者を応援したいと、埼玉県に本社がある株式会社ハーベス(前田知憲代表取締役)は今年度末に高校卒業見込みの人から返還義務のない奨学金を給付する制度を設けた。1日には初の奨学生に内定している県内の児童養護施設に入所する生徒やその施設長らを招き、認証式を行った=写真。
一般的な家庭で育つ子どもの大学などへの進学率は8割に上る一方、県によると、県の児童養護施設退所者では14%にとどまるという。
「ハーベス育英奨学金」は、4年制大学に進む場合、最大で750万円を給付。文系・理系によって授業料などの給付額は変わる。入学金は30万円を上限に給付し、一人暮らしをする場合は月5万円の生活援助金も出す。
対象は県内の児童養護施設か里親のもとで暮らす、今年度末に高校卒業見込みの人。
奨学生になる予定の女子生徒(18)は保育士資格が取れる短期大学に合格している。「小さい頃から保育士になるのが夢だった。一度は就職しようと思ったが、夢を諦めきれず、奨学金を借りてでも進学しようと決めた。資金を貯めるためアルバイトも始めた。そんな時、この奨学金に出会った。生活支援金まで出してもらえることに感謝している」と話した。
続けて、「経済的な理由で進学を諦めて就職する人もいる。私はこの奨学金で救われた。夢を諦めずに済む人が増えるよう、このような制度が増えてほしい」と訴えた。
前田代表取締役は「全国には中小企業がたくさんある。同じ方法でなくても、支援の輪が広がるといいなと思う」と語った。同奨学金の奨学生の募集は毎年度実施する方針。

県内虐待通報、9割超切断 案内長く通話料懸念か

琉球新報 2015年12月12日

児童虐待の通報を促すため、7月に導入された3桁の児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」に関し、11月末までの県内のダイヤル件数は1741件だったものの、実際に児相とつながったのは8・3%の144件のみだったことが11日までに分かった。9割以上が、最寄りの児相に転送するための音声ガイダンス中に電話を切っていることから、「有料通話であることや、長いガイダンスが影響しているのでは」と懸念する声が上がっている。
共通ダイヤルでは、固定電話からの通話で市外局番が分かれば、県の中央またはコザ児童相談所につながる。
一方、携帯電話の場合は、ガイダンスに従い郵便番号を入力する必要があり、転送までに短くとも1分ほどの時間がかかる。
これについて、厚生労働省は「ガイダンス中は利用料金は発生しない」と説明。「他の理由も考えられるので調査していく」と話す。
県子ども生活福祉部青少年・子ども家庭課は「始まったばかりで試しにかけている人もいるのではないか。利用料金などに関して、県に苦情は届いていない」と話す。
今後の対応として「児相の直通番号や、市町村、保健所の窓口も幅広くPRし、柔軟に対応してもらえるようにしたい」との考えを示した。
一方、県ファミリーサポートセンター連絡協議会会長で、困窮世帯などを支援している與座初美さんは「勇気を出して電話したが、長い間があると、いろいろ考えて切ってしまうこともあるのではないか」とみている。
與座さんは「困窮して、着信番号だけ残して連絡を取る人もいる。通話料金を気にしている人はいるはずだ。一人でも多くの子どもを救うために改善が必要だろう」と指摘した。

安藤哲也「子供は葛藤させるべき」

R25 2015年12月12日

[対談]乙武洋匡×安藤哲也「父として、社会を考える」(2)
教員経験もある作家の乙武洋匡氏と、ファザーリング・ジャパンなどのNPO代表理事を務める安藤哲也氏。ともに3児の父である2人が、今の時代の子育てについて語り合った――。

安藤哲也:今の時代って自己責任論が強いのですが、子育てについてもそんなムードがあると思うんですよね。ママたちやパパたちのなかには、必要以上に「ちゃんとやらなきゃまわりから何を言われるかわからない」っていうプレッシャーを感じ続け、潰れそうになっている人がたくさんいます。

乙武洋匡:私もその風潮は感じますが、なぜそんなふうにギスギスし始めたんでしょうね?

安藤:発端は今から20年ほど前、「少子化」が騒がれ始めた頃にあったと思います。1990年に1.57ショック(※厚生省発表の人口動態調査で、合計特殊出生率が過去最低の1.57になった)が起こり、1995年に当時の厚生省がエンゼルプランという少子化対策を策定しました。その頃から子育て支援事業も増え、税金が投入されるようになった。また、悲惨な虐待の事件も続いています。そうすると子育て家庭を見る目が厳しくなって、「ちゃんとやれ」というプレッシャーが高まっていきます。

乙武:なるほど。経済状況がもたらす心の余裕という側面もあるのではないでしょうか。昔は右肩上がりの時代だったから、年齢を重ねれば自分の収入は増えていくし、食うに困るかもしれないという不安を抱いていた人は少なかった。そういう時代だったから、多少保育園の子供がうるさかったり、困っている人に税金を投入しようと言ったりしても、目くじらを立てて怒る人がいなかったんだと思うんです。

安藤:そうかもしれませんね。僕は今53歳で池袋育ちなんですけど、昔の親ってそんなに子供のことをかまっていませんでしたね。父親も稼ぐために一所懸命に働いていましたし、うちは母親が家事と内職をやってましたから、とりあえず子供はその辺で遊ばせておいて、夕方になると「ご飯よ」って迎えにくるだけ。今みたいに塾や習い事に行かせなきゃというのもあまりなかったし、なんか適当でしたよね。それでも、子供はそれなりに育っていた。時代の変化で仕方がない部分はあるにせよ、今考えないといけないのは「子育て」じゃなくて「子育ち」なんじゃないかと思います。

乙武:「子育ち」というのは、どういうことですか?

安藤:父親の子育て、母親の子育て、子育て支援…「子育て」だと主体・主語が親になるじゃないですか。そうじゃなくて、子育ての主役は子供なんです。親は「子育てを一所懸命にやる」のではなく、「子供が安心・安全にすくすく育つ環境を整える」。それが可能な家庭をつくることが、まず親のしなくちゃいけないことだし、子供の成長に沿って、地域や学校、そして社会全体もそれを担う必要があるのではないかと考えます。なのに今は、自己責任のプレッシャーのなかで「子育てに失敗は許されない」と考える親が増え、リスクヘッジや「正解」だけを求めてそれを子供に強いていると感じます。教員経験もある乙武さんの前でいうのもなんだけど、僕は教育っていうのは正解を教えることじゃなくて、まず子供を「葛藤させる」ことだと思っているんです。

乙武:「葛藤させる」というのは、よくいわれる「指導」とは対極ですね。

安藤:ええ。レヴィ=ストロースだったかな。社会学の本を読んだら、かつて海外の共同体のなかで子育ちがうまくいったのは、その子供の父母の兄弟、叔父(伯父)さんが機能していたからだと書いてありました。日本でいう“寅さん”ですよね。さくらの親父である生真面目な印刷工の博と、いつも茶化しにくる自由人の寅さん。博は息子に「伯父さんみたいなフーテンになっちゃダメだぞ」みたいなメッセージを出すけど、寅さんは逆に、「お前の親父みたいな、あんなマジメなだけの人生の何が面白いんだ?」と甥っ子に匂わせる。ここで息子は「え? 自分はどっちがいいの?」と考える。そうやって葛藤しながら方向性を見出していく方が、子供は絶対伸びると思うんですけど。

乙武:いわゆる“ナナメの関係”の重要性ですね。私は都内で3つの保育園の経営に携わっているのですが、その「まちの保育園」を立ち上げた理由のひとつが、まさに子供たちをいろんな大人と出会わせてあげたいということだったんです。核家族化が進み、お父さんがずっと会社で働いている今の状況だと、基本的に保育園に通っている幼い子供が出会う大人って、お母さんか保育士さんに偏ってしまうんですよね。

安藤:核家族化するってことは、子供が成長するプロセスのなかで出会う大人が減るってことですからね。

乙武:でもこの世の中には老若男女いろんな人がいるわけで、もっといろんな人格と出会った方が考え方も豊かになるし、おそらく昔はそういう環境があったんでしょう。そう考えると、そういう多種多様な人格に出会える場をつくらないと、本当の意味で子供にとって豊かな教育環境とは言えないんじゃないかな、と。昔ながらの言い方をすれば、近所のカミナリオヤジや、無条件にかばってくれるおばあちゃん。そういう近隣の人たちと触れ合える場所にできたらいいねっていうのが、園をつくったときに話し合っていたことなんです。

安藤:まさにそれが「子育ち環境」ですよ。子供の教育は、ひとつの答えや効率主義で考えちゃだめ。まっすぐ向いている大人もいれば、斜めや横を向いている大人もいて、いろんな生き方・ロールモデルがあるんだよと示す方が、子供にとってはいいと思いますね。