【貧困の現場から】未婚の母 夜の街に生きる 中卒、家出、17歳で妊娠

西日本新聞 2015年12月25日

夜も9時を回ると、通りにはミニスカートのキャバクラ嬢や黒服のボーイが立ち始める。
福岡県警の捜査員が踏み込むと、店内では16歳の少女が接客していた。県警は先月、福岡市内のスナック経営者を風営法違反(無許可営業、年少者雇用)の疑いで逮捕した。珍しい事件ではない。

「今は暴力団対策の影響で警察の取り締まりが厳しく、未成年者は無許可の店で働くしかない」。九州最大の歓楽街、福岡市・中洲の事情通はこう明かし、「そういう子たちは18歳を過ぎて、九州各地から稼ぎのいい中洲のキャバクラに出てくる」と声を潜めた。
そんなとある盛り場の一角。ラウンジのボックス席で奈央(仮名)は焼酎の水割りを作っていた。

「ほんとはもっと一緒にいたい」
「君、いくつ?」
「21でーす」
正直に答えられるようになったのは最近のこと。5年前、16歳から歓楽街で働いてきた。「ハタチ」と偽って。時給は2千円。客の勧めで酒を飲めば「ドリンクバック」は1杯200円、「同伴出勤」すればさらに加算され、一晩で1万5千円以上になる。
奈央が小学2年の時、父親の暴力に耐えかねた母が自分と弟の手を引き、家を出た。縁もゆかりもない土地で、母は飲み屋で働き2人を育てた。奈央には、貧しかったことと、学校で方言が分からず苦労した記憶がある。
中学入学後に母は再婚。継父は優しかったが、新しく弟や妹が生まれると、奈央は「居場所がない」と感じるようになった。友達の家を転々とし、中学卒業後、ラウンジでアルバイトを始めた。
17歳のとき、同じ年の恋人との子を妊娠。中学時代に2度中絶手術をしており、「もうおろしたくない」と出産を決めた。客には「カクテルいただきまーす」と言いながらジンジャーエールを飲み、おなかの膨らみを隠して妊娠8カ月まで店に出た。
女児を出産。恋人とは別れ、ラウンジは週2日に減らして居酒屋、エステ店、祭りの夜店と四つの仕事を掛け持ちして娘を育てる。「ほんとはもっと一緒にいたい。超かわいい。まじ親ばかになります」
娘は昼は保育園、夜は近くに住む祖母宅で過ごす。生活保護で暮らす祖母も余裕はなく、「おむつ代」として月4万円渡す。残った分は娘の将来のために貯金に回す。もし祖母が体を壊したら、貯金が底を突いたら-。そんな不安が時折頭をもたげるが「立ち止まってはいられない」。

奈央が働く盛り場には、中卒で働き、10代で出産したシングルマザーが少なくない。彼女たちの多くもまた、母子家庭育ちだ。
行き場のない少女を、時に法を犯しながら受け入れる夜の街。「みんな頑張って育ててる。でもどうしても駄目で、乳児院や児童養護施設に預けた人もいます」
出勤前、アイラインを強調したメークの奈央に、3歳の娘が「ママー」と無邪気に駆け寄った。

若年出産と貧困
人口動態統計によると、2014年の出生児のうち母親が10代なのは1万3011人(全体の1.3%)。その約8割は婚前妊娠。労働政策研究・研修機構の調査では、出産年齢が若いほど母子世帯、低収入となる割合が高い。子の養育環境も厳しいことが予測され、児童虐待が起きやすいと指摘される。
DV被害者や子どもの支援に取り組む北九州市のNPO法人「FOSC」によると、貧困家庭で育つ少女は生活のために歓楽街に働きに出て、若年出産する傾向がみられる。野口真理子理事長は「寮を完備し、孤立した少女を迎えている性産業もある。彼女たちがそこに流れざるを得ない現状を改めなければ、貧困の連鎖は止められない」と指摘する。

不祥事質問の市議招致へ 「調査権制限」批判も

京都新聞 2015年12月24日

京都市児童相談所の相談記録が流出した問題で、京都市議会教育福祉委員会は24日、記録を基に議会で質問した村山祥栄市議(京都党)の参考人招致を決めた。来年1月6日に行う。
児童福祉法違反容疑で児童養護施設の施設長が逮捕された事件を受け、村山市議は10月の委員会で、記録を基に児相の対応の遅れを指摘。市は地方公務員法(守秘義務)違反容疑で、市職員(容疑者不詳)を刑事告発する方針を固めたが、専門家から公益通報者保護の観点で慎重な対応を求める意見も出ている。
委員会で、自民党が「村山市議以外に拡散していないか、児相の対応に遅れがあったのかを確認したい」と提案し、公明、民主・都みらい、京都維新の会が賛成した。京都党は「記録原本は弁護士に預け、他への流出はない。公開の場の議論になじまない」、共産も「議員の調査権の制限につながる」と反対した。
取材に対し、村山市議は「こんなことで参考人招致をすれば、市の不正を告発する職員がいなくなる。出席して公益通報の趣旨を理解してもらえるよう訴える」と話している。

有名大学卒に弁護士やCA、タレント…年の瀬に「生活保護」を求める人々

dot. 2015年12月25日

年の瀬、生活苦にあえぐ人たちもまた越年に向けて動き始めている。そんな生活苦に悩む人たちの最後のセーフティーネットが生活保護だ。厚生労働省の調べによると、生活保護受給者は1995年には88万2229人・58万5972世帯だった。そして約20年を経た2014年には216万6381万人・159万8818世帯とおよそ3倍弱に増加している。
大阪市のケースワーカー(35歳・男性)は、生活保護受給者が増え続ける背景を次のように語った。
「かつては生活保護を受給することは社会的にマイナスなイメージで捉えられていたものだ。つまり“スティグマ(否定的な表象、烙印)”だ。しかし、近年ではそうした意識が希薄。生活保護受給は失業保険を受け取るのと同じ感覚で捉えている人が少なくない」
今、生活保護受給への心理的ハードルはかつてほど高くはないという。前出のケースワーカーが続ける。
「日本国憲法25条の条文。これが漫画などでも知られるようになった。この条文を字面通りに読むと、たしかに生活保護は“国民の権利”と理解してもこれは仕方がありません」
日本国憲法25条は生存権と国の社会的使命について規定している。その内容は次の2つだ。
1、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2、国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
この2つの条文を、字面通りに読むと「国民が有する権利のために国は務めなければならない」と、生活保護受給は“国民に与えられた権利”と理解してもあながち間違いとは言い切れまい。
そんな生活保護受給の申請にやって来る人たちはいったいどんな属性を背負い、何を思い、自治体に相談に来るのか。生活保護受給率全国ワーストの大阪市をはじめ、京都市、神戸市など京阪神地区の自治体ケースワーカーたち聞いた。
「10年前までは、まだブルーカラー層、それも地方から出てきて生活に行き詰ったという方が多いとの印象があった。しかし今は大学を出た、それも旧帝大や、早慶、関関同立の有名私大出身のインテリ層が増えた感じがする」
こう話すのは大阪市に勤めるケースワーカー(36歳・男性)だ。過去、このケースワーカーが過去扱ったケース(生活保護受給案件)には、“元”がつくが弁護士や薬剤師といった職業の人もいるという。
「どちらも懲戒処分を受けてその資格を??奪された人たちです。確かに彼らのような職に就いていた人は資格を??奪されては生活は立ち行かなくなります」(大阪市ケースワーカー)
依頼者のカネを着服した、覚せい剤事案で逮捕されたなどの理由で、資格を??奪された士師業職が生活保護受給申請に訪れるケースはよく耳にする話だ。
だが近年、これら士師業についていて思うように生活費が稼げないとの理由で生活保護受給申請にやって来る事案が後を絶たない。神戸市のケースワーカー(38歳・女性)はその実態を次のように証言する。

「弁護士、医師や歯科医師、薬剤師、これら資格を持つ人が借金などの生活苦で生活保護受給の相談にやって来ることは今では珍しいことではありません。ただ、こうしたケースは借金だけの問題です。なので生活保護受給での対応はせず、別の相談窓口を個々のケースに応じて紹介します」
このように働けるのに生活保護受給申請を求める事案は、今や大学卒業年次の就職活動中の学生まで広がりをみせ、行政を困惑させている。京都市のケースワーカーはこう証言する。
「有名大学の学生が窓口にやって来て、『とても就職できそうにないので生活保護を受給したい』と言い張り、大学に連絡して連れて帰ってもらったこともあります。この制度そのものをどこか勘違いしている典型です」
もちろん生活保護受給しなければならないケースもある。兵庫県内の自治体に勤務するケースワーカー(40歳・女性)が語る。
「元CAや元タレントもいました。彼女たちに共通するのはDVで夫の下から逃げて来たというところです。自らの資産も夫が管理する、もしくは婚姻を機会に夫名義にして、急ぎ離婚したのでめぼしい本人資産がなく行政にSOSを求めたというものです。なかには財産分与の協議をせず離婚を優先させたので所持金(全資産)が500円玉2枚と百円玉と50円玉少しでで乳飲み子を抱えて……というケースもありました」
こうしたかつて師業や大手企業、華やかな職に就いていた高学歴な人たちが生活保護受給申請の相談に役所にやって来るのは、おおむね、年の瀬か年度末だという。
「気持ちの区切りがつくいい時期だからです。年末、年度末という区切りで人生設計を立て直してほしい。その結果が保護受給になるか、違う何かになるかはわからない。でも行政は、立ち直ろうとする人を決して見捨てない。何でも遠慮なく相談してほしい」(大阪市課長代理)
もうすぐ年が明ける。人生の再出発にはいい時期の年の瀬、最後のセーフティーネットとして行政に駆け込む人が増える時期である。だがこの行政に甘えてばかりではいけない。自らの足で自立してこそ本当の人生のリスタートだ。