児童虐待疑ったら立ち止まり、病院で対処を-子どもの虐待防止フォーラム

医療介護CBニュース 2015年12月28日

このほど横浜市で開催された「子どもの虐待防止推進全国フォーラムin allかながわ」では、児童虐待対応における医療機関との円滑な連携についてのシンポジウムが行われた。全国に先駆けて取り組みを進めてきた川崎市の事例を中心に、医療現場における虐待事実の発見と通告の状況や解決に向けた対応などが話し合われた。【大戸豊】

虐待の早期発見や育児不安が増大する前に支援が必要
梅澤直美氏(川崎区保健福祉センター児童家庭課)は保健師の立場から、医療機関との連携について報告した。
川崎市内にある3カ所の児童相談所には、それぞれ保健師1人を配属している。児童相談所の保健師は、医療機関との連絡調整や調査などにかかわり、児童相談所とつないでいく役割があるという。
特に医療機関からの相談は緊急度が高いことも多い。子どもに継続的な治療や入院が必要な場合は、治療の間に医療機関と協力しアセスメントを行う。親の証言や医療診断の結果から、受傷状況や原因、身体状況が一致しない場合、対応方針を決める上で重要な情報になる。
区役所内にある児童家庭課にも保健師が配置されており、妊婦や0歳から18歳までの児童やその家族の相談・支援を行っている。さらに社会福祉士、心理士、助産師、保育士などと一緒に多職種チームで対応する。
梅澤氏は「多職種で検討することで、子供の視点に気付き、今後予想されるリスクも幅広く検討することができるのではないか」という。

川崎区の2014年度の児童相談所通告件数は423件と市内で最多であり、19歳以下の若年妊婦の数も最も多い。児童家庭課では、母子手帳の交付時にアンケートを行い、若年妊婦や気になる妊婦は地区担当の保健師がフォローしている。特定妊婦※の該当者が見つかると、出生前から個別支援会議を行い、今後のリスクについて話し合っているという。
児童家庭課の保健師が、医療機関と連携するケースには、医療機関を受診せずに飛び込み出産をした場合などがある。妊娠に気付かなかったり、経済的困窮で病院に行けない、妊娠していることを誰にも相談できないまま出産を迎える母親もいる。望まない妊娠や子供への愛着がわかず、ネグレクトにつながることもある。梅澤氏はこのような場合、医療機関からの連絡で初めて把握できるといい、出産直後から医療機関とネットワークを組み、支援していく必要があるという。
川崎市では、妊娠期・周産期支援強化対策事業を行っており、医療機関と保健福祉機関の連携・情報共有を行い、妊娠期から子育て期に至るまで、切れ目のない支援の実現を目指している。梅澤氏は産科医療機関とつながることは、虐待予防につながり、ハイリスク妊婦の早期発見にもなることから、今後も連携を強化していきたいと話す。
梅澤氏は保健師として、子育てや家族関係で悩んだ母親がSOSを出せるような信頼関係を構築できるように支援を行っているといい、医療機関や関係機関との顔の見える連携により、虐待の早期発見や育児不安が増大する前に、何らかの支援ができるのではないかと述べた。

※出生前から産後の養育について、支援を行うことが特に必要と認められた妊婦

通告は家族と医療者の信頼関係を崩壊させてしまうことも
安藏慎氏(川崎市立川崎病院小児科部長)は、児童相談所への通告は家族と医療者の信頼関係を崩壊させてしまうこともあると指摘する。
以前、生後数カ月の男の子が激しく泣いて下肢を動かさないと、受診してきた際、その子は太ももがはれ、検査の結果骨折していた。数カ月前にも別の場所を骨折していたことも分かったが、男の子の成育歴に問題はなく、長男も元気で、家族などに骨が折れやすい人もいなかった。
病院では、骨形成不全症の可能性を考慮しながら慎重に経過観察を行い、退院が近づくころ、児童虐待対策検討委員会を招集した。整形外科医から親の説明と骨折の症状が矛盾するとの指摘があり、疑いを否定できなかったため、児童相談所に通告した。
家族は、高次医療機関でセカンドオピニオンを受けたいと希望し、同院は病院を紹介した。家族によれば、骨形成不全症の所見で特徴的なWormian boneが見つかったという。その後、男の子は高次医療機関に通院することになったため、同院では骨形成不全症なのか、虐待なのかは、把握できていないという。
児童相談所が男の子を一時保護した後、家族から「自分たちを疑っていたのか」という強いクレームを受けた。安藏氏は「こうなると家族との信頼関係が崩れて医療にならない」という。
安藏氏は、虐待の通告は行っても、医療従事者として患者・家族の側に立ち、サポートを続けられないかどうか現場は悩んでいるといい、行政などの主導で、医療機関における児童虐待の統一的なチェックリストを作成してほしいと求めた。
現在は、児童虐待の可能性を疑った発見者が、家族から反発を受ける可能性があるが、権威のある機関のチェックリストに従い通告したということであれば、医療者と患者・家族の信頼関係を崩壊させずに、その後も診療を続けることもできるのではないかと述べた。

医療人には虐待事実の早期発見と通告が求められる
向井敏二氏(聖マリアンナ医科大法医学教授)は、これまでの児童虐待への対応について報告した。
聖マリアンナ医科大学病院では、1999年から院内虐待防止委員会(MCAP)を設置。向井氏は委員長を務めてきた。
向井氏は医療機関への受診は、虐待発見の絶好のチャンスである一方、虐待か否かの鑑別が困難なものが多いという。同院では、医療スタッフに虐待の診断・通告の責任を負わせることなく、MCAP委員を中心に病院の総力で診断し、病院の責任で通報しているという。
MCAPでは以前、児童虐待のみ対応していたが、現在はDVや高齢者虐待、特定妊婦にも対応している。最近では、特定妊婦への対応が非常に増えており、将来虐待につながるのではないかと容易に想像できるケースも目立つという。
通告したことで、家族が「何を疑っているのか」と怒り出すこともある。その場合、向井氏はあえて法医学の医師の立場として家族に対応し、直接子どもを診る臨床医と患者・家族との関係を崩さないようにしているという。
向井氏は家族に対し、「お怒りかもしれないが、わたしたちはこの子の命を心配しています」という立場をしっかり伝え、「どんなに言われても、そこは一歩も引かないようにしているつもり」という。
現在、虐待児童の一時保護委託機関として、病院への入院が長期化しているという。向井氏は病院の通告逃げは許されず、協力は必須だが、病院としても収益確保を求められる中で、ジレンマも感じているという。そして、多機関で連携する場合は、児童相談所に中心的な役割を担ってほしいという。

ストーカー規制法とDV防止法では、予防的な警察介入が行われているが、向井氏は児童虐待にも警察介入が必要といい、福祉も医療機関も家族を支援するという立場。保護する上での強権行使は、何らかの形で警察にかかわってほしいという。そして、「加害者である親自身の反省が重要であり、『加害者は誰か』を詰めきれないと、本当の意味での反省は得られるのか。反省が家族の再統合への第一歩につながるのではないか」と述べた。
向井氏は医療人に求められる姿勢として、虐待事実の早期発見と通告を挙げる。虐待を疑ったら立ち止まり、深刻化を防ぐために躊躇しないようにするほか、個人に責任を負わせず、病院で対処することが重要とした。

横浜市の小児救急11病院で虐待に対応
佐藤明弘氏(横浜市立市民病院小児科医長)は、横浜市児童虐待防止医療ネットワークの取り組みを紹介した。
横浜市内にある7病院では、協力して「小児救急拠点病院」の体制を組み、24時間体制での救急車受け入れ、常勤小児科医の確保(11人以上)、満床時のスムーズな連携などを、病院・大学医局の垣根を取り払いつつ取り組んでいる。児童虐待についても、このネットワークを通じて、連携が始まった。
横浜市児童虐待防止医療ネットワークは13年に発足し、小児救急拠点病院の7病院に加え、三次救急を行う4施設の計11施設がメンバーだ。ここに児童相談所と横浜市青少年局こども家庭課も参加している。
年3回の定例会では、現状の把握と知識の共有、事例検討などを行う。児童虐待の対応については、早くから院内にCPT(Child Protection team)体制を敷いている病院もある一方で、体制やノウハウが十分でない病院もあるため、11病院の間で標準化していくことを目指している。
ネットワーク設立から1年がたち、問題点を洗い出したところ、学校や警察などとの連携のほか、小児科以外の診療科への周知が挙げられた。現時点では、診療所との連携がないため、協力体制を広げていく必要があるという。
また、院内で統一したスクリーニング体制を取っている病院は少なく、小児科以外の診療科やコメディカルからの協力を得るために、ある程度統一したスクリーニングシートが必要との声が上がり、試行的に作成したものを利用し始めた段階という。
佐藤氏は、被虐待児童と虐待者の双方への社会的支援を医療がどのように担っていくのかが、今後の課題としたほか、精神科による対応や産科での育児相談、不登校児の中に潜む虐待症例への対応なども必要になってくるという。

【新事実】理玖君の母親はなぜ消えたか――「厚木市幼児餓死白骨化事件」の語られざる側面

デイリー新潮 2015年12月28日

昨年5月に神奈川県厚木市のアパートから幼児の白骨遺体が見つかった事件で、10月22日、殺人罪に問われた父親・齋藤幸裕(37)に懲役19年の判決が下された。
事件は、家出した母親に代って3歳の一人息子・理玖君の世話をしていた齋藤が、しだいに育児をなおざりにし、食事の回数を減らして餓死させたという陰惨極まりないものだった。さらに齋藤は、遺体発見を怖れて、部屋の家賃を7年間も払い続けていた。
作家の石井光太氏は、12月18日発売の「新潮45」1月号で、この事件について詳しくレポートしている。「夫婦はなぜ我が子を捨てたか 厚木市幼児餓死白骨化事件」と題された記事には、捜査でも裁判でもまったくと言っていいほど触れられなかったある重要な事実が詳しく検証してある。それは、理玖君の母親(34)について、である。

作家の石井光太氏は「新潮45」1月号で、捜査でも裁判でも触れられなかったある重要な事実を詳しくレポートしている
裁判長は齋藤に対し、「親としての自覚がなく、自己中心的な犯行」と断罪した。しかしながら、養育能力のない齋藤のもとに理玖君を置き去りにして消えた母親はどうだったのか。石井氏は、この母親の「家出」に焦点を当て、事実関係を精査している。
家出は、2004年10月7日のこと。実はこの日の午前4時半、理玖君は路上に一人でいるところを発見され、警察に保護されていた。トラック運転手の父親は仕事中で、母親もどこかへ外出しており、ともに家には不在だった。
母親は裁判に出廷し、この日のことを、
「自殺したいと仕事場の同僚から言われ、引き止めるために西新宿のマンションへ行っていた」
と語っている。そして児童相談所、父親経由で連絡をもらい、理玖君を引き取ったという。
だが極めて不可解なことに、その日の午後、彼女は帰宅した齋藤に理玖君を預け、「買い物に行く」と外に出てそのまま姿を晦ましてしまうのだ。そしてその後はいっさい連絡が取れなくなった。
彼女は裁判で、その理由を「幸裕の暴力が怖かったから」と、自身も被害者であることを強調しつつ答えている。だが、理玖君の保護された時、それを警察にも児童相談所にも相談した形跡はない。
石井氏は、当時、彼女が勤めていた職場を割り出した。それは風俗店だった。そしてその店長と同僚風俗嬢に話を聞いてまわった。
彼女はトラブルメーカーだったという。当時の店長が語る。
「あいつ、シャワー後に客と個室に入ると、しばらくして壁を叩いて『客に本番やられた!』って騒ぎ出すんです。店長の俺としては、従業員を信じて客を追い出すしかないですよね。でも、ほとんどが嘘なんです。本番されたって嘘つけば、客にサービスをせずに五分で終って金だけもらえるでしょ。それが目的なんです」
そして問題の家出の日の「西新宿の自殺を図ろうとした同僚」についてはこう言う。
「そんな子いないっすよ。新宿から一時間かけて本厚木まで働きに来るわけないじゃないですか。新宿の方がずっと儲かります。うちで働くのはこの近辺の子ばっかです」
その店からは突然「バックレた」。その時期は、家出の時期と一致する。この時、何らかの差し迫った状況に彼女は置かれたのであろう。
さらに石井氏は、生まれ育った箱根の旅館周辺も取材し、彼女の父親が“蒸発”していることを知る。そして、
「愛美佳(母親のこと、仮名)は父親とそっくりです。嘘をつくところも、浪費癖も、家族を一切合財捨てて家出してしまうところも。真似してるんじゃないかって思うぐらい……」
という生々しい親族の証言を得るのだ。
石井氏はその一族の内実も詳述していくが、夫と3歳の子供がいる中で風俗嬢になり、やがて我が子を捨てた彼女の背景には、あまりに荒んだ生育環境と家族関係があったのだった。
むろん齋藤幸裕のやったことで、一つとして妻に転嫁できるものはない。齋藤が理玖君を救える機会は幾度もあったし、育児放棄の大きな理由が新しい恋人との逢瀬というからあきれるほかはない。現在、量刑を不服として控訴中だが、懲役19年も妥当に思える。
しかしながら、彼女が何事もなくそのまま社会で暮らしていくことには違和感を覚えないわけにはいかない。
死のきっかけを作り、養育義務がありながらそれを放棄したもう一人の親をそのままにしては、また同じような事件が起きるのではないか――石井氏はそんな危惧を記しつつ、筆をおいている。

不妊治療助成拡大、初回上限30万円…男性にも

読売新聞 2015年12月28日

厚生労働省は、不妊治療の助成制度を拡充することを決めた。
治療1回目の助成上限額を2倍にするとともに、無精子症などでの男性不妊への助成制度も新設する。「1億総活躍社会」実現に向けた事業の一環で、早ければ来年1月下旬から実施する。
拡充の対象は、体外受精でないと妊娠が難しい夫婦。現在は原則として、不妊治療1回の上限額は15万円で通算6回まで助成を受けられるが、1回目の上限額を30万円とする。妻から卵子を、夫から精子を採取し体外受精を行うのに30万~40万円程度かかる。上限倍増で1回目の費用をほぼカバーでき、受けやすくなる。夫が無精子症などの場合、精巣を切開し精子を採取する必要があり、さらに30万~50万円程度かかる。この手術を受ける場合は、新たに上限15万円を助成する。