前代未聞 10歳と9歳の兄弟が「虐待」で宮城県議を訴えた

NEWS ポストセブン 2016年2月8日

児童への虐待やネグレクト(育児放棄)のニュースが後を絶たない──。今年1月9日、埼玉県狭山市のマンションで顔に火傷を負った3歳児が放置され死亡。母親と内縁の夫が暴行容疑などで逮捕された。同27日にも、暴力団組員の男が交際相手の長男の3歳児に「かかと落とし」などの暴行を加え死亡させるという残虐な事件があったばかりだ。
そんな中、前代未聞の訴訟が仙台地裁に起こされた。驚くことに原告は10歳の長男と9歳の次男の幼き兄弟。母親Aさんの交際相手の男性から虐待を受けたとして、兄が550万円、弟が550万円の計1100万円もの損害賠償を求めたのである。
被告となったのは宮城県議会議員の境恒春氏(36)。境氏は以前、歌手活動をしていた元タレントだった。2011年11月にみんなの党から県議選に出馬し初当選。昨年10月には維新の党から出馬し2期目の当選を果たしている。
仙台地裁に提出された訴状や陳述書などによると、境氏はAさんと震災後に“内縁関係”になり同居。Aさんが前夫との間にもうけた2人の男児と共に4人で気仙沼市内で暮らし始めた。
2012年春頃から境氏は気に食わないことがあると、幼い兄弟に暴力を振るうようになる。日常的に殴ったり、物を投げつけたり、「死ね」「ゴミ」などの暴言を発した。「箸の持ち方がおかしい」と言って深夜3時頃まで眠らせず、100粒ほどの米粒を箸で皿から皿に移させたこともあったという。Aさんの父で、兄弟の祖父にあたる高橋清男・気仙沼市議が語る。
「彼の第一印象は好青年で、この人なら娘と孫を任せてもいいと思えたが、それが間違いだった。2014年8月のことです。伯父(Aさんの兄)が長男の額に大きなコブを発見したのです。問い詰めたところ境氏に殴られたことがわかりました。伯父が兄弟を児童相談所に連れて行き、そこで改めて事情を聞くと、暴力の数々が明らかになったのです」
児童相談所は虐待を認定し、一時保護を決定。その後、兄弟は児童養護施設に送られることになった。
施設での生活を余儀なくされた孫たちを不憫に思った高橋氏は、児童相談所に対し「(孫たちを)自分のもとに引き取らせてほしい」と何度も懇願したが、実現しなかった。そこで高橋氏が弁護士に相談し、養子縁組して親権を引き取ることに。昨年6月、Aさんから親権が移され、兄弟は児童養護施設を出た。
高橋氏は東日本大震災で妻を亡くし、現在も気仙沼市内の仮設住宅で暮らす。幼い兄弟はそこに引き取られた。高橋氏が言う。
「私が養子として引き取るまでの約10か月間、孫たちは養護施設で精神的に辛い思いをした。その損害は誰が補填するのか。もう孫自身が境氏を訴えるしかないと判断しました。娘は子供を取らないで男を取った。娘は死んだものだと思っています。妻を亡くした私にとって孫の存在は生きがい。今は孫を立派に育てることだけを考えています」

1発ゲンコツしました
境氏は〈子供と子育て世代の環境整備〉という政策をオフィシャルサイトで掲げている。その一方で虐待していたとすれば、宮城県民への裏切り行為でもある。宮城県議会のベテラン議員に同氏の評判を尋ねると、驚いてこう語った。
「まだ2期目ということもあり、議会の中ではあまり目立たない存在ですが、人当たりが良く、虐待なんてするような人には見えない」

渦中の境氏を直撃した。
虐待の事実はあるのか。
「訴状にあるような虐待はしていない。子供たちが悪いことをした時に叱ったことは何度かありますが……」

昨年8月に長男を殴り、額に大きなコブができたとある。
「それには理由があるのです。あの日は私もAも外出する用事があり、子供たちに鍵を預け、“外には遊びに行かないように”と言っていたのですが、鍵を開けっぱなしにしたまま遊びに行ってしまった。
Aが激昂していたので、“私が叱るから”と彼女をなだめました。子供たちと正座して向き合い、Aが見ている前で長男の頭に1発ゲンコツをしました。
その時に出来たコブによって昨年11月に高橋さんから傷害で刑事告訴もされましたが、子供を叱って告訴されるなんてありえない。Aも検察に“あれは虐待ではありません”と証言しています」

児童を深夜まで寝かせず、米粒を箸で皿から皿に移動させたことは?
「あれは次男が上手く箸を使えていなかったので、私と一緒に30分間くらい米粒を使って練習しただけです。“100粒”や“深夜まで”というのはデタラメです」

ならば、虐待の事実はないと?
「はい。ありません。訴訟についてはこちらも弁護士を立てて対応します。困るのはこれ以上、騒ぎが大きくなってしまうこと。私も大きな声で反論したいですが、今は子供のことを考えて控えている。
私は子供たちと一緒に卓球やサッカーをするほど仲が良かったのです。一昨年の父の日にはプレゼントももらいました。彼らも私に懐いてくれていました」
双方とも“子供のため”と強調するが、ならば訴訟などせずに話し合いで解決すれば良かったはず。釈然としない話である。

虐待防止に地域の「目」重要…疑わしいと思ったら「189」

読売新聞(ヨミドクター) 2016年2月8日

民間の相談窓口 「住民も支援の輪に」
埼玉県と東京都で、3歳の子どもが虐待で死亡する事件が相次いだ。国や自治体は、相談体制の充実など虐待防止に力を入れるが、痛ましい事件は後を絶たない。専門家は関係機関の連携強化とともに、民間団体や地域住民の取り組みも大切だと呼びかける。
1月11日、やけどした女児(3)を放置したとして、埼玉県の母親(22)と、同居する内縁の男(24)が保護責任者遺棄容疑で逮捕された。27日にも、東京都大田区で、暴力団組員の男(20)が、同居中の女性(22)の長男(3)に対する傷害容疑で逮捕されている。
厚生労働省によると、虐待(心中を除く)で死亡した子どもは2013年度は36人だった。14年度に児童相談所が対応した児童虐待は過去最多の約8万8900件に達した。
虐待防止に向け、国や自治体、民間団体は知恵を絞る。
国は07年度から、生後4か月までの乳児がいる全家庭を保健師などが訪問し育児の悩みを聞く事業を行っている。
さらに、千葉県浦安市は、妊娠の届け出時と出産前後、子どもが1歳になる頃の計3回、保健師が母親と面談し、母親の様子に目配りする。家庭環境や母親の気持ちを聞き、虐待の恐れがある場合は家庭訪問してケアに努める。
それでも、「妊娠届を出さずに出産する人や、悩みを抱え込んだままの家庭もある」と同市の担当者は頭を抱える。NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事長の吉田恒雄さんは「行政に信頼感を持っていない人もいる。民間にも相談窓口があることを知ってほしい」と話す。
NPO法人ホームスタート・ジャパンは、育児経験のあるボランティアが依頼してきた家庭を訪問し、親に寄り添って話を聞く。事務局長の山田幸恵さんは「悩みを話すことで気持ちが楽になる。『そばに誰かがいてくれる』という安心感につながる」と訪問型の支援の重要性を訴える。
埼玉県の事件では、住民から「女の子が泣いている」と110番通報もあったが、児童相談所と情報が共有されなかった。淑徳大学教授の柏女霊峰(かしわめれいほう)さんは、「関係する機関の連携の強化とともに、地域住民も支援の輪に加わる仕組み作りが急がれる」と話す。
現状では、住民にできるのは、虐待の可能性があればすぐに通報することだ。立教大学教授の浅井春夫さんは、「通報後の対応は、個人情報保護などの理由で教えられないことが多い。通報後も心配な状況が変わらない場合は、児童相談所のほか、市区町村や警察、民生委員など、様々なルートで繰り返し通報することが大切だ」と呼びかける。
死亡した子どもの母親は2人ともシングルマザーだった。母子家庭を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事の赤石千衣子さんは、「一人で悩みを抱え、相談相手を求める人は多いため、母子家庭への支援策を充実させてほしい」と訴える。

全国共通のダイヤル
厚生労働省は児童虐待の通報をしやすくするため、昨年7月、全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」を設けた。
受け付けは24時間、365日。電話すると、通報者の住む地域を担当する児童相談所につながり、職員と話せる。匿名でもいい。通報後、児童相談所は、原則として48時間以内に子どもの安全や虐待の有無などを確認する。
同省の担当者は「虐待でなかったとしても罰則はない。疑わしいと思ったらためらわないで」と呼びかけている。

ストレスチェック、ネットの無料版はOK?-厚労省、Q&A改訂版を公表

医療介護CBニュース 2016年2月9日

厚生労働省は、ストレスチェック制度に関するQ&Aの改訂版をホームページで公開した。これまでに寄せられた疑問点や意見を基に改訂したもので、インターネットの無料のメンタルヘルスチェックが代用できるかどうかといった質問も盛り込まれている。厚労省は「実施する際の参考にしてほしい」としている。【新井哉】
昨年12月から50人以上が働く事業場では、ストレスチェックなどの実施が義務付けられた。Q&Aはストレスチェックの円滑な導入を図るために作成されたもので、産業医の職務や衛生委員会による調査審議、高ストレス者の選定といった項目ごとに、対処方法や注意事項などを説明している。
今回の改訂では、ストレスチェックの実施方法や面接指導の実施、労働基準監督署への報告、健康情報の取り扱い、安全配慮義務などの項目でQ&Aを追加した。
例えば、ストレスチェックの実施方法の項目では、インターネット上で受けられる無料のメンタルヘルスチェックを取り上げ、受検者が入力した情報を自動集計して結果を表示した場合、実施者が面接指導の必要性を規定の方法で判断できない可能性があることを指摘。労働安全衛生法に基づくストレスチェックには該当しないとの見解を示している。
また、面接指導を希望しない労働者に、実施者の産業医が通常の産業保健活動の一環として面談を受けるよう勧奨することは「問題はない」と説明。このほか、全員を対象にしたストレスチェックを1年間に複数回実施した場合は、このうち1回分を労働基準監督署に報告するよう求めている。