重い奨学金で破産も 経済格差が希望格差に

日本テレビ系(NNN) 2016年2月16日

奨学金、返済に追われ自己破産
奨学金には2種類あるのをご存じだろうか。返さなければならないものと、返さなくてもいいものだ。実は、文科省が所管する日本学生支援機構が給付している奨学金はすべて「貸与型」、つまり返さなければいけない奨学金。貸与型には、利子のあるものとないものの2種類があるが、共に返済が必要な点ではローンと同じだ。
中には、卒業後に返済に追われて自己破産したりするケースもあるそうだ。生活が苦しいために奨学金を借りるわけだが、これでは本末転倒だ。貸与型だけでなく、返さなくてもいい「給付型」の奨学金も望まれる。給付型にすれば、返済の必要がないので勉強に集中することもできる。

「給付型」奨学金に課題
他の国の状況を見てみると、アメリカやイギリスなどOECD(経済協力開発機構)のほとんどの加盟国では、給付型奨学金が導入されている。そこで先月、馳浩文科相は、給付型奨学金の導入に積極的な姿勢を示した。しかし検討すべき課題が多いのが現状だ。
日本学生支援機構の統計では、2015年度は約134万人の利用が見込まれていて、貸与額の合計は約1兆1000億円にのぼり、利用者の人数も、貸与額も年々増えている。
そこで、給付型を実現するにしても、(1)財源、(2)給付対象者の基準づくり、(3)公平な支給方法など課題がたくさんあって、いつ実現するかはまったく不透明な状況となっているのだ。

児童養護施設 高校卒業後の進学…2割
そんな中、特に深刻なのが、虐待や貧困で家庭から保護され、児童養護施設などで生活する子どもたちだ。
児童養護施設に暮らす子どもたちの数は約3万人。厚生労働省の調査では、児童養護施設で暮らす子どもたちで高校卒業後に進学するのは約2割。全国平均の8割にはほど遠いのが現状だ。
進学率が低い理由の一つが学費の負担。たとえば月に10万円借りた場合、4年間で借りる奨学金の総額は480万円。去年3月に借り入れが終了した学生の場合、利子も含めると返済総額は約512万円になる。そのため、奨学生の中には、奨学金を生活費にあてざるを得なくなり、進学しても中退してしまうケースがしばしば見受けられる。

支援の取り組み
NPO法人ブリッジフォースマイルの調べでは、児童養護施設出身者の進学後の中退率は3割で、平均の3倍にものぼる。そこでブリッジフォースマイルが2011年から始めたのが、奨学金支援プログラム「カナエール」だ。奨学生は、児童養護施設で生活する人や、退所した人の中から書類や面接で選ばれ、スピーチトレーニングなど120日間の準備期間を経て、支援者などに自分の将来の夢を語る「夢スピーチコンテスト」に出場する。
コンテスト出場者「施設にいる子どもは、みんなつらい経験をしています。進学するのに多くの奨学金を借りたり、子どもによっては進学をあきらめたりしています。こうやって私が伝えることによって、きっと社会が変わることを信じています」
コンテストに出場すれば全員、30万円の一時金と、卒業まで毎月3万円の奨学金を受け取ることができる。返済の必要はない。
NPO法人ブリッジフォースマイル・植村百合香さん「毎月奨学金3万円を給付していて、これは時給800円のアルバイトに換算すると37.5時間分にあたります。奨学生は睡眠や友達と遊ぶ時間を削ってアルバイトをしているので、心のゆとりが卒業までの意欲につながるといいなと思って奨学金を給付しております」
担当者は、コンテストを通して、進学や夢への意欲を高めてほしいと話している。
また、奨学生は、定期的にイベントなどで学生生活の近況を報告するので、支援者は「顔の見える関係」で、卒業までの長い期間を見守り続けることができる。

希望格差をゼロに
きょうのポイントは「“希望格差”をゼロに」。家庭環境や経済的に恵まれなかった子どもは、「どうせ努力したって無駄」「どうせ自分なんて」と意欲を失ってしまいがち。身近な先輩が大学に行っていきいきと学んでいる姿を見れば、「自分にもできるかもしれない」と希望を持つことができるのではないだろうか。「経済格差」が「希望格差」につながらない社会にしたいものだ。

インフル、初の警報レベルに…感染が急速に拡大

読売新聞 2016年2月15日

厚生労働省は15日、2月1~7日の1週間でインフルエンザの患者数が1医療機関当たり34・66人となり、今季初めて警報レベルの30人を超えた、と発表した。
昨季より3週間遅いが、感染が急速に拡大しており、専門家は注意を呼びかけている。
発表によると、全国約5000か所の定点医療機関から報告のあった患者数は、17万1570人で、1医療機関当たり34・66人。推計される全国の患者数は約164万人で、前週の107万人から増加した。
1医療機関当たりの報告数が多いのは、神奈川県(48・95人)、埼玉県(47・52人)、愛知県(45・24人)などで、24都道府県で警報レベルを超えた。
ウイルスは、2009年に新型として流行したH1N1型が多く、次いでB型、A香港型の順となっている。

【いま、学校で1】生徒の食「配給」が命綱 指導室に米やカップ麺

西日本新聞 2016年2月16日

高校3年の大樹(18)はカップラーメンをリュックサックにいっぱい詰め込んでもらうと、頭を下げた。
「先生、ありがとうございます」
福岡県内のある公立高校。「生徒指導室」に置かれた段ボール箱にはパック入りのご飯やカップラーメン、レトルトのカレー、缶詰が入れられている。家で十分な食事が取れない生徒が持ち帰る。他の生徒には知らせていない。
大樹は生活保護を受ける父親と2人で暮らし、奨学金をもらい高校に通う。生徒支援を担当する教諭の田中幸四郎(31)が大樹の異変に気付いたのは2年生の時。修学旅行費の積み立てなど、月に約1万円の校納金がまったく入金されなくなった。
家庭訪問しても、父親は居留守。何度も通うと「うるさい! せからしい!」と怒鳴られた。父親は息子に食事を全く与えず、大樹の奨学金も流用していた。
大樹は週に数回、夕方飲食店でアルバイトをし、店のまかないで食いつなぐ。生徒指導室の食料は、大樹の「生命線」だ。
間もなく卒業。本当は専門学校に進学したかった。学力は申し分なかった。だが、田中はこう伝えた。
「1年間で100万円かかる。奨学金をもらっても、お父さんが流用する。就職したほうがいい」。大樹は泣く泣く進学を諦めた。
田中が生徒指導室で食料提供を始めたのは約3年前。生徒の相談に乗っているうちに、経済的な理由や養育放棄で食に困窮するケースが少なくないことに気付いた。がりがりに痩せ、「最後に何を食べたか覚えていない」と話す生徒もいた。
民間の支援団体代表にそうした現状を話すと、「私たちが食品を提供しましょう」と申し出てくれた。これまで継続的に受け取った生徒は約10人。田中の個人的努力と民間団体の取り組みが、子どもたちの食をかろうじてつなぐ。
「学校は子どもを救う最前線。子どもたちが抱える問題は、目を凝らさなければ見過ごしてしまう」
家庭や行政の福祉部局を日々、走り回る田中は自らにこう言い聞かせる。

小学2年の葵(8)は、母子家庭で中学1年の兄と3人暮らし。母親は精神疾患を抱え、育児もままならない。自宅アパートは脱ぎ捨てた服やごみ袋であふれ、足の踏み場もない。
母親は、体調がいい日は食事を作るが、それ以外はコンビニ弁当か菓子パン。一日の食事が給食だけの日も珍しくない。教師たちがおにぎりやパンを買い、職員室で隠れて食べさせるのが日課だ。
スクールソーシャルワーカーの山田由希子(50)によると、葵がある日、口元に前日の給食で飲んだ牛乳の跡を付けて登校した。顔を拭きながら「ちゃんと顔を洗っている」と聞くと、葵は「顔とか洗ったことないよ」。「歯磨きは?」と聞くと、「保育園のときにしたことがある」。
様子を見かねた山田が昨年夏、母親に「夏休みの間だけ、児童相談所の一時保護施設に預けませんか」と提案すると、母親は二つ返事で応じた。
寂しい思いをしているだろうと山田が施設へ面会に行くと、葵は「ご飯が3回あって、おやつも出るとよ」「お部屋がきれいで、お布団も1人ずつにあるんよ」と満面の笑みで話した。
「食事を満足に取れない子には、児相の保護施設ですら天国なんです」と山田は言う。
葵にとって、1カ月間の施設生活は楽しい思い出。 「またあそこに行きたいんだけど、どうしたら行けると?」。葵が山田に尋ねる。「もう行かん方がいいよ」と諭すと、葵は不満そうにつぶやく。
「なんで? また行きたいなぁ」 (登場人物はいずれも仮名)