児童虐待死、救うには 現場を歩いて考える 東京・大田/埼玉・狭山

毎日新聞 2016年2月16日

あまりにも悲しく、胸が痛む。先月、東京都大田区と埼玉県狭山市で、虐待の疑いで幼い子の命が失われた。虐待が減ったというニュースは聞いたことがない。なんとか命を救う手はないのか。現場を歩いて考えた。【江畑佳明】
「ギギーッ、キーン」。金属を削るような高い音が耳に入ってくる。工業の街として知られる大田区。中小の工場が建ち並び、その間に住宅が顔を出す。事件の起きたマンションは築30年超にみえるが、ゴミの散乱などはなく、管理が行き届いている様子だ。
「きちんとした生活環境という印象を受けますね」。そう語るのは、ルポライターの杉山春さんだ。記者の依頼で現場を一緒に訪れた。杉山さんは16年前から児童虐待の取材を続け、家族と社会を見つめている。大阪市内のマンションで母親が2児を部屋に置き去りにして死亡させた事件(2010年)や、神奈川県厚木市で父親が5歳の男児を放置して死亡させた事件(14年発覚)などを取材した。
事件のあらましはこうだ。1月27日、新井礼人(あやと)君(3)が病院に緊急搬送されて死亡が確認された。両頬などに複数のあざがあり、警視庁は母親の交際相手で暴力団組員の永富直也容疑者(20)を傷害容疑で逮捕。容疑は同月25日夜、礼人君に殴る蹴るの暴行を加え重傷を負わせたとしている。永富容疑者は「(礼人君が)にらんだので頭にきた」と認めている。永富容疑者は母親と昨年6月ごろSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じて知り合い、1月8日ごろから礼人君の母親のマンションで同居していた。
同じマンションに住む女性は「礼人君はかわいい子。お母さんは礼人君が廊下を走っても優しく注意して、いい親子だと思ってました。その男の人も見たことがなかったから、びっくりして」と肩を落とした。また近所の別の女性は「犬の散歩中に、礼人君が『ワンワンだ!』と近寄ってきました。お母さんはおとなしい感じ。まさかこんなことになるなんて……」と声を詰まらせた。
これまでの報道では、身長190センチ超という永富容疑者の残酷な行為がフォーカスされている。だが杉山さんの視点はやや違っていた。「虐待をする人が幼少時に虐待を受けていた、という事例はよくあります。同居の男性はどうだったのでしょうか。少年期に夜間に徘徊(はいかい)していたとの報道もあり、もし社会が彼や彼の家庭を支えられていたら、今回のような事件に至らなかったかもしれない。『あんな残酷なことをする人間が悪い』と個人批判するだけでは、児童虐待はなくなりません。児童虐待は、社会のひずみの表れだと思います」
行政との関わりが知りたくて、大田区役所を訪ねた。子育て支援課の担当者によると、礼人君は乳幼児健診はすべて受診していた。杉山さんは「お母さんには子供をきちんと育てたい、という気持ちがあったと感じられますよね。それなのにこんなことになってしまって……」と残念がった。
また礼人君が通っていた保育園でもあざなどは確認できなかった。担当者は「男性と同居中という情報は入っていなかった。今後は対応の『感度』を上げる必要があると考えています」と話した。
この事件では女性は息子を奪われた被害者だが、杉山さんはシングルマザーの多くが抱える「困難さ」にも社会全体がより関心を寄せてほしいと主張する。「20代のシングルマザーの8割が相対的貧困にあるという推計があります。困窮によって自己肯定感が下がると、行政から低い評価を受けるのを恐れ、行政との接点を自ら絶ってしまうケースが見られます。そして親のストレスのはけ口が立場の弱い子供に向かい、虐待に至ることも考えられる。この悪い流れを止めるには、まず、ひとり親を尊重し敬意を持って接しようという社会的なコンセンサスを築き、ひとり親でも経済的に安定して子育てができる環境を整えることが必要だと思います」

社会のひずみ、ひとり親への敬意持って
警察庁の統計によると、最近の児童虐待の検挙件数は、10年352件▽11年384件▽12年472件▽13年467件▽14年698件??と増加傾向にある。04年(228件)比では3倍以上になった。
むろん、国も対策を講じてはいる。昨年12月、子供の貧困対策や児童虐待対策を盛り込んだ「すべての子どもの安心と希望の実現プロジェクト」を決定。ひとり親家庭への児童扶養手当増額や、妊娠から子育てまで相談に応じる「子育て世代包括支援センター」の全国整備などを掲げた。
関西学院大の才村純教授(児童福祉論)は「これまでは厚生労働省中心で、政府を挙げて取り組む姿勢はあまりなかった」と一定の評価をしながらも、厳しい口調になった。「従来の対策の拡充や延長が目立ち、抜本的な改革とはいえない。児童相談所が対応する虐待件数は過去最多の8万件を突破するなど、現場の人手不足は深刻。虐待した親のメンタルケアを裁判所が命じるなどの措置が求められているのに、踏み込んでいない。不十分です」。そしてこうも指摘する。「貧困や地域の人間関係の希薄化などで明らかに子育てをしにくい時代。将来の日本を支える子供たちだから、今こそ思い切った財源を投入すべきです」

夜中の泣き声、警察通報したが…
もうひとつの事件の現場へ向かった。
先月9日、狭山市のマンションで藤本羽月ちゃん(3)がやけどなどの外傷がある状態で死亡しているのを、駆けつけた消防隊員が発見。埼玉県警は母の藤本彩香容疑者(22)と同居の大河原優樹容疑者(24)を保護責任者遺棄容疑で逮捕、さらにネクタイなどで両手を縛るなどの暴行をした容疑で再逮捕した。
「もっと何度も通報していればよかった、と思うんです」。同じマンションに住む男性(30)は、声を絞り出すように語った。男性は昨年6、7月に計2回、夜中などに女児の泣き声がやまないため虐待を疑い、110番通報した。県警狭山署員が駆けつけたが、いずれもあざなどは確認されなかったとのことだった。その後もしばしば泣き声を耳にしたが「何回も通報したら、逆に僕の方がおかしいと思われてしまう」とためらった。
実は女児が亡くなる数日前にも「開けて」と泣き叫ぶ声を耳にしている。「外出する用事があったので、帰宅時もまだ泣いていたら通報しようと考えたのですが、もう聞こえなくなっていたんです」と悔やむ。自分を責めているようだった。
「地域の人がもっと関わってあげられたらよかったけど、余裕がないからね。警察や行政は事件を深刻に受け止め、連携してほしい。でないと同じようなことが繰り返されてしまう」。男性は声を大にして言った。
外に出ると、母親と手をつないで楽しそうに歩く男児の姿があった。この子の笑顔が続く社会をつくらねばならない??そう痛感した。

あなたの「しつけ」実は「虐待」かもーー弁護士が教える「境界線」

弁護士ドットコム 2016年2月16日

自分では「しつけ」だと思っていたのに、実は虐待だったのでは・・・そんなことに悩む親御さんは少なくないようです。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、そんな悩みを抱えた両親からの相談が多く寄せられます。しつけと虐待の境目は、どこにあるのでしょうか。 川村百合弁護士に聞きました。

夫が「しつけ」と言って、子どもをたたきます
夫が、『しつけ』と言って子どもを怒鳴ったり、たたいたりします。ご飯中にごはんをこぼしたり、宿題ができなかったりするとたたきます。
子どもたちは、夫に怒られないように気をつかって、ビクビクしながら過ごしているのがわかります。
私は度がすぎていると思いますが、これはしつけの範囲内なのでしょうか。

「『体罰』は親の懲戒権の行使として許される」という考え方がある
虐待をしていた親の多くは、「しつけ」のつもりだったと弁解しますが、今回のケースは、「しつけ」の範囲を超えていると思います。
子どもの身体に対する一定の有形力の行使(体罰)が「しつけ」として許されるかどうかは、日本の法律では、必ずしも明確ではありません。
民法で定められた親の「懲戒権」(822条)を根拠に、「しつけ」の目的で行われる一定の体罰は懲戒権の行使として許されるという考え方があります。
学校の教師に認められている懲戒権は、いかに教育目的であっても体罰は絶対的に禁止されています(学校教育法11条)。一方で、親に認められた懲戒権に関しては、こうした規定はありません。この対比から、親には体罰を行使することが認められると一部で考えられているのです。
しかし、虐待の多くは、「しつけ」と称して行われていることが多いというのが現実です。「しつけ」名目の体罰を許していては、虐待は無くなりません。

日常的な体罰は、「しつけ」ではなく「虐待」
今の民法の規定は、あたかも体罰を認めているかのような誤解を招くので、子どもの虐待防止に取り組む人々は、民法の懲戒権規定を削除して、体罰の絶対的な禁止を明文化すべきと考えていますし、私もそう考えています。国連の人権委員会からも、懲戒権規定の削除を勧告されています。
体罰というのは、子どもが間違いや失敗をしたら痛みを与えて教え込むというものですが、これは動物を「調教する」のと同じ発想です。こうした発想は、子どもを「人格のある一人の人間」として見ていないと言えるでしょう。
体罰は子どもの身体のみならず心に痛みを与え、傷を負わせるという点で、人権侵害と言えます。発達心理学などの科学的な観点からも、体罰が「しつけ」として教育的効果を発揮することはなく、むしろ健全な心身の成長発達に悪影響が大きいので、体罰によらないしつけをすべきと考えられています。
したがって、年に2、3回程度ならともかく(それも良いことではありませんが)、日常的な体罰はもはや「しつけ」とは言えず、虐待に当たると言えるでしょう。

夫が体罰をやめない場合は、虐待相談窓口に相談を
今回のケースでも、「しつけ」と称してはいますが、子どもをたたくといった体罰が日常的に行われていたようです。これは、しつけの範囲を超えて、虐待と評価できると思います。
夫婦の間で子育てに関しての方針が合わない場合、きちんと話し合うことが大切です。それでも夫が体罰を止めようとしない場合には、児童相談所や市区町村の虐待相談窓口(子ども家庭支援センターなど)に相談してみましょう。
夫が専門家の指導を受けて、変わることができるかどうかが問われています。もし、夫が専門家の指導を受けても自分の非を認めず、変わる気配がないならば、母親として子どもを守るために、別居・離婚という選択肢も考えなければならないかもしれません。

日本の将来にも大きく関わる子どもの貧困対策とは?

ベネッセ 教育情報サイト 2016年2月16日

国会で、2016(平成28)年度予算案の審議が進んでいます。論戦の中で焦点の一つとなっているのが、子どもの貧困対策です。単に当事者だけの問題ではありません。日本の将来にも大きく関わる、国民的な課題です。日本財団がまとめた報告書「子どもの貧困の社会的損失推計」をもとに、考えてみましょう。
政府の統計でも、全世帯平均と比べ、生活保護世帯では、高校進学率(全世帯98.6%、生活保護世帯90.8%)や大学・専門学校等進学率(各73.3%、32.9%)が低く、逆に中卒就職率(各0.3%、2.5%)や高卒就職率(各17.3%、46.1%)が高いことがわかっています。もちろん、早く社会に出て仕事をしたいというのも一つの人生の選択ですが、意欲や能力はあるのに、家庭の経済的な事情で進学を諦め、就職を選んでいたとしたら、問題です。高校中退率が高いのも(各1.7%、5.3%)、家計のためにアルバイトをして勉学に力を入れられないといったケースが少なくないことも推測されます。
進路選択を迫られる時点の問題だけではありません。全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の分析調査でも、家庭の所得と保護者の学歴という「社会経済的背景」(SES)により、子どもの学力も左右されることが明らかになっています。家庭の貧困によって子どもの低学力が生み出されたとすれば、学力面で進学を諦めたとしても、必ずしも本人の能力の問題とは言い切れないでしょう。
報告書では、(1) 生活保護世帯 (2) 児童養護施設 (3) ひとり親家庭……の子どもの進学率・就職率等が、現状のままの場合(現状シナリオ)と、教育プログラムを受けることによって非貧困世帯と等しくなる場合(改善シナリオ)から、を推計しました。すると、正社員数が1割程度増加し、無業者数も1割程度減少するなどして、対象となる子どもが64歳になるまでに、改善プログラムでは所得が2.9兆円、税・社会保障の純負担も1.1兆円アップするといいます。逆に言えば、貧困対策を現状のまま放置すれば、この数字分が「社会的損失」となるわけです。同財団では、児童手当の予算額は同じ年齢層の子ども当たり約1,500億円であることを考えれば、貧困対策は十分に効果のある「投資」だとしています。
ただでさえ今ある仕事は10年後に半数がなくなるという推計もあります。どの子にとっても、教育・訓練の重要性は高まるばかりです。ましてや、生まれながらにして不利な環境に置かれる貧困家庭の子どもへの対策を放置していてはいけません。
政府も、2013(平成25)年に定めた「子どもの貧困対策法」に基づき、翌年には「子供の貧困対策大綱」を閣議決定しましたが、改善の数値目標などは定められませんでした。現在の予算案や政策で本当に十分なのかどうか、エビデンス(証拠)に基づく精緻(せいち)な議論を期待したいものです。

きょうだいげんかへのかかわり方、しこりを残さない対応のポイントとは?

ベネッセ 教育情報サイト 2016年2月16日

きょうだいげんかは人間関係の築き方を学べる重要な場となりますが、保護者の対応によっては、子どもの中にしこりを残し、そのために大人になってからもきょうだい関係がぎくしゃくしてしまうこともあります。発達心理学・幼児教育の専門家である東京学芸大学の岩立京子先生に教えていただきました。

きょうだいげんかへのかかわり方、しこりを残さない対応のポイントとは?
きょうだいの関係は、性別、年齢差の幅、親子関係などのいろいろな要素が絡んで成り立っているため、きょうだいげんかへの対応にも正解はありません。子育て全般にいえることですが、大切なのは感受性と応答性です。子どもの様子を見て、何をしてほしいのかをとらえ、下記をベースにしながら、対応の仕方を調整していきましょう。
(1)けんかのルールを決めておく
相手にけがをさせるような暴力は論外です。「ぶったり蹴ったりしない」など一定のルールを決めておきましょう。ルールを破った時、破りそうになった時に、保護者が介入する基準にもなります。絶対に許せないことには、毅然とした態度で臨みましょう。そうした保護者の態度を子どもは「いつもと違う」と感じ、「大変なことをした」という反省にもつながります。

(2)保護者が介入する場合は、互いを尊重する態度で
明らかにどちらかにけんかの原因があり、一方の力や立場が強い場合には、保護者が介入したほうがよいでしょう。たとえば、下の子が上の子のおもちゃを握って離さない場合、上の子の感情が高ぶって暴力を振るいかねません。まずは、「お母さんが預かるからね」と、おもちゃを両者から引き離し、感情の仕切り直しをさせます。そのうえで、両者の話を聞きます。この時、どちらかに肩入れをするのはNGです。子どもたちが言いたいことを聞き、双方に伝える役に徹します。小さい子の場合は言葉を補って伝えるとよいでしょう。双方の思いを伝え、相手のことが考えられるようにし、互いが納得できるように導いていくのです。親の権威を振りかざし、力で押さえつけ、頭ごなしに叱ってはいけません。親が見ていないところで、いじめたり暴力を振るったりするようになってしまいます。

(3)小さい子どもでもいけないことはいけないと叱る
きょうだいげんかの原因としてよくあるのが、下の子が上の子のおもちゃを壊した、遊んでいる場所に侵入したといったことです。「まだ小さくて言ってもわからないから」と、上の子ばかりに我慢をさせるのはよくありません。下の子が故意にしたことではないとしても、上の子の前で下の子を叱ってください。上の子のプライドが保たれ、「お母さんはわかってくれた」と自尊心が満たされます。そうしたうえで、上の子に「大切なものを壊されないように工夫しようね」というのです。場合によっては、「もういいよ」と弟や妹を許してくれるかもしれません。

(4)叱ったあとは、親から歩み寄る
子どもは未熟なのですから、悪い行為を叱っても、次のチャンスを与えることも大切です。子どもが落ち込んでいたら、好きなおかずでも作って「ご飯にしましょう」と声をかけてあげてください。「叱ったあとに甘やかすのはよくない」というかたもいますが、子どもが親に謝るチャンスをつかむのはなかなか難しいものです。親のほうから声をかけ、仕切り直しをしましょう。

(5)子どもの欲求をそれぞれつかんで対応を
けんかの言い分で、「お兄ちゃんばっかり」「弟ばっかり」と言われることがあると思います。自分では平等に接しているつもりでも、それぞれの欲求が違うために、受け止め方が違うから、そのような言葉が出てくるのです。年齢にもよりますが、上の子ならば、認知的にも発達しているので言葉で認められたいと思っています。たとえば、「ぼくと弟と、どっちが可愛い?」と聞いてきたら、「あなたよ」と言葉で言ってあげればよいのです。平等にしなければと思い込み、「どっちが可愛いとは言えないわ」と答えるから、余計に子どもは固執してしまい、下の子に手を出したりしてしまいます。また、下の子が生まれると赤ちゃん返りをして、哺乳瓶を巡ってけんかが起きたりします。その時には、上の子用にも作ってあげましょう。ミルクが飲みたいのではなく、自分にも同じようにお母さんに作ってほしいのです。必ずしも平等に接することがよいとは限りません。「お兄ちゃんばっかり」「弟ばっかり」というサインが出たら、その欲求に応じてあげるときょうだいへの不満が小さくなっていくでしょう。

(6)けんかが多い原因は家庭外にある場合も
あまりにもきょうだいげんかが多い場合、家庭外に原因があるかもしれません。たとえば、幼稚園で友達におもちゃを横取りされてばかりいるために、きょうだいにその不満をぶつけていたというケースもあります。幼稚園の先生に話を聞くなどして、外での子どもの様子をつかみましょう。

(7)時には気分転換をして、親子ともにリセット
きょうだいげんかがあまりにも激しく、精神的に参ってしまったら、児童センターなどに出かけてみてはどうでしょうか。家庭とは違う場で過ごし、違う人と出会い、違う遊びをする。そうすることで心に余裕が出てきて、子どもに優しくなれますし、子どもも思いっきり遊んで欲求が満たされます。自分も子どもも気分転換をし、仕切り直しすることも有効な解決策です。