虐待死の可能性、国集計の3~5倍 小児科学会が初推計

朝日新聞デジタル 2016年3月21日

日本小児科学会は年間約350人の子どもが虐待で亡くなった可能性があるとの推計を初めてまとめた。2011~13年度の厚生労働省の集計では年69~99人(無理心中含む)で、その3~5倍になる。厚労省は自治体の報告を基に虐待死を集計しているが、同学会は「虐待死が見逃されている恐れがある」と指摘する。
防げる可能性のある子どもの死を分析するため、同学会の子どもの死亡登録・検証委員会が調査した。
同委の小児科医が活動する東京都、群馬県、京都府、北九州市の4自治体で、11年に死亡した15歳未満の子ども(東京は5歳未満のみ)368人を分析した。全国で亡くなった15歳未満の子ども約5千人の約7%にあたる。
医療機関に調査用紙を送り、死亡診断書では把握できない詳細について尋ね、一部は聞き取りも行った。
その結果、全体の7・3%にあたる27人について「虐待で亡くなった可能性がある」と判断した。この割合を全国規模で換算すると約350人となった。

<医療型障害児入所施設>429人に虐待歴 6人に1人

毎日新聞 2016年3月19日

毎日新聞実施のアンケートで判明
医療ケアが必要な身体障害や知的障害などがある子どもが暮らす全国の医療型障害児入所施設に、保護者らから虐待を受けた障害児が少なくとも429人いるとみられることが、毎日新聞が施設を対象に実施したアンケートで分かった。回答した施設に入所する障害児の6人に1人の割合になる。
虐待など家庭の事情から国の保護を必要とする子どもについて、国は児童養護施設などを対象に継続調査しているが、医療型障害児入所施設は調査対象外で、虐待を受けた入所者の全体像は不明だった。厚生労働省で児童健全育成専門官、障害福祉専門官を務めた大塚晃・上智大教授は「入所者に虐待を受けた人が想像以上に多く、極めて深刻な結果だ。虐待の傷を癒やす視点から障害に応じた専門的支援が必要で、国は調査して実態を把握すべきだ」と話している。
全国にある医療型障害児入所施設169施設にアンケートを送り、136施設(入所児計2643人)から回答を得た。その結果、児童相談所(児相)に保護されたなどの経緯から虐待を受けたと施設が判断した障害児は、84施設の429人で、回答した施設の入所児の16%だった。併設された成人施設の入所者計7190人中、虐待を受けた人は21施設の43人(0・6%)で、子どもを合わせると計472人になる。
児相の調査や医師の診断などから、虐待が原因で障害を負ったとみられるのは472人中120人(25%)。102人(22%)は身体、知的障害が重複した最重度の障害者だった。頭部の外傷で体のまひや知的障害を負った人が94人いた。
虐待の内容(複数回答)は養育放棄(ネグレクト)が285人▽身体的虐待181人▽心理的虐待16人▽性的虐待6人。
施設が虐待の要因とみている(複数回答)のは「子の病気や障害」が134人▽保護者の精神疾患70人▽保護者の障害62人▽保護者の経済的困窮52人▽望まない妊娠・出産24人。年齢別では6~12歳が最も多く188人▽13~17歳138人▽3~5歳56人--など。【野倉恵】

医療型障害児入所施設
児童福祉法に基づき、身体、知的障害などがある原則18歳未満の子供に、日常生活の支援・指導をしながら医療を提供する入所施設。肢体不自由や知的障害など障害別に分かれていた入所施設を2012年度に一元化し、肢体不自由児施設と重症心身障害児施設、一部の自閉症児の施設を医療型、知的障害児施設などを福祉型の2類型に再編した。

「子供を監視」「遊び窮屈」/都内で働く保育士の声

日刊スポーツ 2016年3月21日

「保育園落ちた日本死ね」。2月中旬に匿名ブログに投稿され、国会論戦まで波及し、保育制度の改善を求める声が高まっている。待機児童が増加する要因の1つが保育士不足。免許所持者の3分の1しか保育士として働いていない現状がある。

都内で働く保育士の声
・32歳男性 認可保育園で働き月収19万円、年収300万円未満だが、この仕事に就く上で高給は期待していなかった。多くの子どもを抱き上げることでの腰痛や、狭い空間に常時いることでの感染症など、医療費が自己負担であることは生活面での影響が大きい。人材確保が難しいため潜在保育士を現場に戻す取り組みは良いが、潜在保育士となった問題の根本に手を付けず人を募るやり方には違和感を感じる。
・21歳女性 4月から保育士として就職する。何とか良い保育園を見つけられたが、研修では子どもを監視するような園が多く、就職先を迷った。
・30歳男性 以前の職場は保護者の目ばかり気にしていた。ケガ防止に注意を払うため遊びが窮屈。カーペットの上から出さないで遊ばせた。大人同士がギスギスして精神的に大変だった。
・45歳男性 賃金は一般に比べれば低いが、やりたいことをやれている。保護者に「サービス」を求められすぎるのはつらい。お互いに保育することが重要。

保育士不足「保育園受かった日本いいね」とはいかず

日刊スポーツ  2016年3月21日

「保育園落ちた日本死ね」。2月中旬に匿名ブログに投稿され、国会論戦まで波及し、保育制度の改善を求める声が高まっている。待機児童が増加する要因の1つが保育士不足。免許所持者の3分の1しか保育士として働いていない現状がある。「処遇の悪さ」を改善すべく、国会では「給与1万円アップ」などの議論がされているが、東京・新宿せいが保育園の藤森平司園長(66)は「根本的な解決にはならない」と話す。
国会の論点がずれている-。全国から年間約1800人が見学に訪れ、14日には民主党も視察に訪れた「新宿せいが保育園」の藤森園長は「確かに賃金は安いが、お金だけを上げて、ばらまきをしても園の靴箱に消えちゃう所もある。根本は変わらない」と語る。保育士に人を呼び込むには、地位向上が必要だという。
「子どもと遊んでいるだけ」「女性の仕事」「給料安くてかわいそう」。これらが「保育士に対する国民のイメージでしょ。これでは駄目」と藤森さん。「保育園は親が仕事をするために子どもを預ける場ではなく、乳児教育の場という認識にすべきです」と主張する。同園では保育士が世話をし過ぎず子ども同士が関係を築き、自己解決させる環境づくりをする。すると子どもに自主性が芽生え、結果、保育士の負担も減る。
小規模保育園を増やせばいいという風潮にも苦言を呈す。「広い遊び場もないビルの一室では教育環境に良くない」。用地確保が難しい現状にも懐疑の目を向ける。「大理石の玄関に個室という立派な設備を持つ老人ホームの土地は、払い下げが多い。保育園は『付け足し』で老人ホームに合築されることはあるが、結局小施設になる」と主張する。保育園にも有効的な土地利用を促すべきだとし「子どもは『将来』。これでいいんですか」と声を大にした。
民主、維新の両党が「保育士処遇改善法案」を提出するとし、給与増額を「1万円」と言ったり、数日後に「5万円」に上げる議論にも違和感があるという。保育士の平均月給は約21万9000円(35歳=厚生労働省15年賃金構造基本統計調査より)と全産業の30万4000円(42・3歳)を大きく下回る。「問題はお金だけではない。福祉職の位置付けを教育職にすべきだ」。「賃金改善→保育士増」との構図ではなく「『教育』という志を持てる環境になれば、おのずと人も集まり、賃金などの処遇も上がる。乳児、幼児教育の重要性をこの際、社会全体で考えるべきです」と訴えた。【三須一紀】