「パパに殴られる」と子どもが訴え…「親権停止」ってどんな制度?

弁護士ドットコム 2016年3月27日

離婚するとき、その子が幸せに育っていくことを望んで、泣く泣く手ばなした親権。離れて暮らす側の親にとっては、その子が元気で暮らしているのか、気がかなりなはずです。
8歳の息子の親権を夫にわたして離婚した女性から、弁護士ドットコムの法律相談に「先日の面会交流で、息子が『パパに殴られる』と泣きながら話していました」として、どう対応するべきなのかと相談が寄せられました。
どのような手続きができるのか、中田憲悟弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 親権を一時的に停止させる制度があります
親権をもつ親が子どもを虐待している場合、親権を一時的に停止させる、「親権停止」という制度があります。2011年の民法改正で作られた制度で、親権者が子どもの利益を害するときに、「2年を超えない範囲内」で、親権を停止するという内容です。
親権停止制度は、次のような場合に、非常に有効といえます。
例えば、子どもが病気になり、手術等の治療をすれば非常に高い確率で命を失わずに済むのに、親権者が宗教上や思想上の理由で手術に同意しないなどのケースです。
こうした場合、治療の間だけ「親権を一時的に停止」することが問題解決に繋がるでしょう。
もちろん、親権者が子どもに暴力をふるったり、食事を与えずに放置したりする虐待行為に対しても、親権停止制度を利用することができます。
しかし、児童虐待の中でも、子どもが命を失うような緊急性が高い案件には、この制度は不向きかもしれません。なぜなら、親権停止制度は家庭裁判所による裁判手続を前提とするため、利用できるようになるまである程度の時間がかかります。この制度だけでは、今にも命を落としたり、大怪我をしてしまうのではないかといった緊急事態には対応できないのです。
子どもが命を失う危険性のあるような緊急事態に対しては、警察の援助も得ながら、児童相談所に子どもを一時保護したうえで、家庭裁判所の承認を得て親子を分離し、子どもを児童養護施設に預けるという仕組みがあります。
ただ、この仕組みがより有効に機能するためには、国民が意識を高め、虐待の気配に気づいたときは、児童相談所や市町村の窓口に通告をすることが必要です。
それに加えて、児童虐待に関する専門家の育成も必要でしょう。なぜなら、児童相談所が通告を受け、警察を伴って安否確認をする際に、子どもの怪我の様子や表情、親の怪我に関する説明から、虐待の疑いを察知しなければならないからです。児童虐待に向けての取り組みには、まだ様々な課題があると言えます。

女児の髪無断で切る 佐賀県中央児相

佐賀新聞 2016年3月27日

保護時「脱色、背まで伸びていた」
佐賀県中央児童相談所(児相)が県東部の未就学の女児(6)を一時保護所に受け入れる際、保護者に無断で髪を切っていたことが26日分かった。児相は「脱色して背中まで伸びていたため、他の子と共同生活する上で必要な措置だった」と説明するが、保護者は反発し、識者から「子どもの人権侵害に当たる恐れがある」との指摘も出ている。
一時保護所は児童相談所に併設され、児童虐待などで緊急に家庭から引き取る必要のある子どもを入所させる施設。関係者によると、女児は3月上旬、家庭トラブルを抱えた母親の希望で児相が一時保護。受け入れから2日後、女性職員が女児の髪を20センチ程度切り、肩上の長さにした。保護者には事前に知らせておらず、女児の父親と連絡を取り合った際に事後報告した。
児相は保護者と面談し、無断だったことを謝罪したが、「集団生活で規律を守るため。子どもを世話する監護権の範囲」として問題はなかったと説明。保護者は「髪を結んだり巻いたりしておしゃれが好きな子の気持ちを傷つけた。児相の都合だけで切っていいのか」と納得しなかった。面談後に女児は保護者の元へ戻った。
児相は一時保護の子どもの髪が脱色していると必要に応じて同意を得て理髪する内規を設けている。髪を切る前に女児から同意は得ていなかったが、切る際に拒否する様子はなかったという。児相は「1人だけ髪の色が違うと他の子から攻撃される恐れもあり、生活が始まっていて安全上やむを得なかった」とする。
厚生労働省は「施設の運営の中でいろんな事情があり、監護権の関係からも髪を切るのは一概に良いとも悪いとも言えないが、少なくとも事前に相談するのが望ましい」としている。

権利侵害の恐れ
一時保護に詳しい安部計彦西南学院大教授(児童福祉学)の話 今まで聞いたことがないケース。髪を切るのは子どもと親の価値観や感情にもかかわるのに、対応が乱暴で権利侵害の恐れがある。一時保護所ではさまざまな課題を抱えた子どもが集団生活をするため一定のルールが必要だが、少人数の職員で多くの子どもを担当し、管理する意識が強まる傾向がある。外部の目も入らないので施設内部の価値観が固定化して子どもの人権を必要以上に制限してしまう構造があることを児相は自覚すべきだ。

伝えたい、性と暴力:家族 親告罪の壁、泣き寝入り

京都新聞 2016年3月26日

「加害者はのうのうと暮らしていて、被害者である娘は泣き寝入り。絶対に許せない」
性暴力被害を受けた子どもの親でつくる大阪の自助グループ「ひまわりの会」に携わるエミさん(49)=仮名=は、法律で定められた期限内に長女の性暴力被害を警察に告訴できなかった。ショックで自らもうつ状態と闘っているといい、心配したが、約束通り待ち合わせ場所に来てくれた。
長女が小学校の高学年の時、実父から性暴力を受けていた。エミさんが3年前に知った時点で、被害から4年が過ぎていた。
長女は小学校卒業前から発熱や心拍数の増加、めまいといった原因不明の体調不良に悩まされ、中学校では不登校に陥った。心療内科の診察やカウンセリングを続けるなか、ようやく事実にたどり着いた。数年間に及ぶ不調は、性暴力によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)が原因だった。しかも実父だ。
エミさんはすぐに児童相談所に通告し、警察にも相談した。性暴力被害者のために行政が開設するワンストップ型の相談支援センターにもつながった。「でも、ワンストップセンターはあくまで急性期の対応だった」と振り返る。カウンセリングの無料券が支給されたが、半年ほど通った時点で終了した。
単独犯による強制わいせつ罪は親告罪のため、告訴がなければ警察も動けない。何とか告訴したかったが、「必要だから」と被害状況や日時について具体的な説明を繰り返し求められた。長女はそのたびに気分が悪くなった。「体調優先でしばらく様子を見た方がいい」との結論になり、いったん断念した。
その間、エミさんはきょうだいを連れて家を出た。「下の子は急に転校する理由も分からず混乱し、家族ぐるみで築いてきたコミュニティーも失った。家族みんなが被害者です」
今、本当に心を開けるのは月に1回の自助グループだけだ。「同じ苦しみを知っている人になら全てを打ち明けられる」。仲間の前でなら何でも話せるし、泣くこともできる。その日を張り合いに毎日を暮らしてきたが、今、エミさんは再び打ちのめされている。
今年1月、警察から電話がかかり、「被害から7年がたち、告訴の期限が近づいている」と告げられた。
最後の望みをかけてもう一度警察に行ったが、苦しむ娘を見ながら、警察官は「何とか告訴しても、強制わいせつ罪の初犯なら執行猶予がつく。それぐらいなら…」と、告訴の断念をやんわりと勧められた。
「親告罪である限り、本人がつらさを乗り越えて証言できなければ訴えられない。それが今の法制度の現実です。中高生の女の子がそんなに強くはない」と、エミさんは疑問を投げかける。
法務省の法制審議会で現在、強制わいせつ罪などを非親告罪とする議論が行われているが、具体的な改正時期は未定だ。
「娘は一生抱えていく深い傷を負った。でも罪に問われなかったことで加害者は何も感じない。私たちはそれが悔しい」

各地で性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが開設され、強姦(ごうかん)罪の法定刑引き上げを含む刑法改正も議論されている。性犯罪の被害に遭った人が何を望んでいるのか、性暴力を未然に防ぐために何が必要なのかを考える。