<自民>赤枝議員「進学しても女の子はキャバクラに行く」

毎日新聞 2016年4月13日

「子どもの貧困対策推進議員連盟」会合で発言
自民党の赤枝恒雄衆院議員(72)=比例東京=が12日の子どもの貧困関連の会合で「親に行けと言われて仕方なく通信(課程)に進んでも、女の子はキャバクラに行く」などと発言したことが分かった。野党からは13日、「職業差別で自民党のおごりの表れだ」と批判が相次いだ。
超党派の「子どもの貧困対策推進議員連盟」の12日の会合で、児童養護施設出身の大学生らが奨学金拡充を要請したのに対し、赤枝氏は「がっかりした。高校や大学は自分の責任で行くものだ」と主張。無理に進学しても「できちゃった婚をして離婚して、若くして一人親になり貧困になる」などと語った。
民進党の山井和則国対委員長代理は13日の記者会見で「貧困家庭の女の子を侮辱するような発言だ」と批判。公明党の石田祝稔政調会長も「納得いく話ではない。経済的な部分は本人の努力で超えられないところがある」と疑問を呈した。
赤枝氏は産婦人科医で、現在2期目。【飼手勇介】

児童擁護施設出身大学生の要望に「進学は自己責任」「女の子はキャバクラに行く」という赤枝議員発言の意味

Yahoo!ニュース 千田有紀  2016年4月13日

自民党の赤枝恒雄衆院議員が、児童擁護施設出身の大学生が奨学金制度の拡充を要望する席で、「高校・大学は自分の責任で行くもの」。「親に言われて仕方なく進学しても女の子はキャバクラに行く」と発言したそうだ。
この発言には何重にも呆れる。
奨学金制度を要望した大学生がいた児童養護施設は、建前としては20歳まで居られることになっているが、現実には高校を卒業したら退去しなければならない。高校に進学しなければ、中学卒業と同時に児童養護施設も卒業である。全高卒者の大学進学率が半数を超えているのに対し、大学進学率は低く、児童養護施で高校に通う子で2割程度、児童養護施設児全体では1割強にすぎない。高卒の就職率が16.9パーセントであるのに対し、養護施設にいた子どもの高校就職率は、7割近くである*。
一般家庭に育つ子どもですら、半数以上が奨学金を利用して大学進学している状況である。児童擁護施設の子どもたちが進学するための費用は、奨学金がなければ、どこから出てくるというのだろうか。かつては国立大学は学費が安く、授業料免除も容易であった。しかし国立大学の学費ですら年間54万円程度であり、将来的には93万円程度になると文部科学省が試算している(国立大授業料、54万円が93万円に 2031年度試算)。国立大学への運営交付金を減らすということは、困窮者の学費の免除もままならなくなるということだ。児童養護施で育つ子どもには、さらに厳しい状況が待ち受けていることは間違いない。
「親に言われて仕方なく進学」するのではなく、「高校・大学は自分の責任で行くもの」かもしれないが、その費用は、日本社会では通常、親から出てくるものである。進学しろといってくれる親すらいない子ども、進学しろといってあげられない親がいることを忘れてはいないだろうか。そもそも高校や大学に進学したいという希望すら最初からもてない子どもたちがいることが問題なのだ*2。
しかもなぜわざわざ女子学生だけを取り上げて、「とりあえず中学を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き、やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったりとか」し、望まない妊娠をして離婚し、元夫側から養育費を受けられず貧困になるといわなければならないのか。アメリカなどの事例をみても、若い女性の不安定な妊娠は、金銭的、また親との関係を含む精神的貧困のなかでの自分の「居場所探し」の側面があり、貧困の結果であって、原因ではない。通信課程でも女子生徒が高校に進学することが、貧困をうみだすかのような言説は、いかがなものだろうか。義務教育を「しっかりやれば貧困はありえないと言いたいくらい大事」というのだが、大学・大学院卒の男性の賃金が40万ちょっとに対して、中卒男性で28万円、中卒女性で17万円である(厚生労働省 平成18年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況)。「しっかりやれば」とは、どういう状況をさすのだろうか。
赤枝議員は、司法修習生への経済的支援に賛同して、「犯罪や訴訟が複雑化、国際化していく中で、優秀な司法修習生が育ってくれる環境整備のため、司法修習生への経済的支援を望むものであります」(ビギナーズ・ネット)という言葉を寄せている。この制度に異論を唱えるものではないし、揚げ足をとるつもりもないが、同じような想像力を経済的困窮者にも向けてはくれないだろうかと思う。
*1 正確に言えば、全高卒者の大学等進学率(短大含む)は53.2パーセント、児童養護施在籍児で19.8パーセント、児童養護施設児では12.3パーセント。全高卒者の就職率は16.9パーセント、養護施設にいた子どもは、69.8パーセントである(社会的養護の現状について- 厚生労働省)
*2 もちろん、進学することだけが重要ではない。しかし「自己責任」や「自己選択」を強調するまえに、進学したいという意欲や希望をもつところから、格差がついてしまっていることにもすでに問題がある。

自民党赤枝議員「進学してもキャバクラ」発言と千田有紀教授の関連記事に寄せて

Yahoo!ニュース 石渡嶺司  2016年4月13日

自民党赤枝議員が「女の子は進学してもキャバクラ」と発言
わざわざ言わんでも、という発言が飛び出てしまいました。

「進学しても女の子はキャバクラへ」自民・赤枝氏発言
自民党の赤枝恒雄衆院議員(72)=比例東京=が12日、子どもの貧困対策を推進する超党派による議員連盟の会合で、貧困の背景について「親に言われて仕方なく進学しても女の子はキャバクラに行く」などと述べた。
会合では支援団体の代表や児童養護施設出身の大学生が奨学金制度の拡充を求め、それに対する質疑応答の冒頭で発言した。
要望に対し、赤枝氏は
「がっかりした。高校や大学は自分の責任で行くものだ」
という趣旨の主張をした。
その上で
「とりあえず中学を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き、やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったりとか」
と話し、望まない妊娠をして離婚し、元夫側から養育費を受けられず貧困になると持論を展開。

義務教育について
「しっかりやれば貧困はありえないと言いたいくらい大事」
と強調した。
赤枝氏は2012年に比例単独で初当選し、現在2期目。
産婦人科医で、会合終了後の取材に
「街角相談室でいろんな子どもの話を聞いてきた。子どもが十分教育を終えるまでは国が手厚く援助しないといけないが、高校も大学もみんなが援助するのは間違っている」
と説明した。
会合では、子どもの貧困問題に取り組む公益財団法人「あすのば」の代表らが、大学進学を目指す学生への無利子奨学金の拡充などを要望。
児童養護施設出身の大学生も「誰でも平等に進学できる社会を」などと訴えていた。(伊藤舞虹)

朝日新聞デジタル4月12日(火)20時27分配信
「通信制でキャバクラ」って、無理あるキャリア
赤枝議員のコメント、現在の中高生のキャリアとはかなりかけ離れたものです。
とりあえず中学を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き
学校基本調査(平成27年度)によると、2015年の中学校卒業者は117万4529人。
このうち、高等学校普通科など本科への進学者は113万4037人。
通信制は2万3353人しかいません。
普通科にも商業科など専門科にも、そこそこいますけどね、「親に行けと言われたから」という生徒。
それを通信制に限定する根拠が不明です。
やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったりとか
どの時点で働くかは不明ですが、高校在学中ということでしょうか。
風俗営業法は18歳未満の労働を禁じています。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律
(禁止行為)
第二十二条  風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。
三  営業所で、十八歳未満の者に客の接待をさせ、又は客の相手となつてダンスをさせること。
違法なキャバクラで働かざるを得ない現状があってそれを変えるべき云々という趣旨の発言ならわからなくもないですが……。
義務教育について「しっかりやれば貧困はありえないと言いたいくらい大事」
中卒でも高年収の就職先があって「貧困はありえない」ということでしょうか。

平成27年賃金構造基本統計調査によると、
男性では、大学・大学院卒が402.5千円(前年比1.5%増)、高専・
短大卒が308.8千円(同1.6%増)、高校卒が288.2千円(同0.5%増)、女性では、大学・大学院卒が287.8千円(同1.1%増)、高専・短大卒が252.5千円(同1.4%増)、高校卒が207.7千円(同1.0%増)となっており、
となっています。
中卒は、なぜか「学歴別」の項目にはありませんが、統計表にはあり、
男性26万1900円、女性18万1000円
となっています。
これほどの格差が大卒と中卒にはあるわけですが、「しっかりやれば貧困はありえない」と言い切る根拠は何なんでしょうか?
民主党もとい民進党や野党だけでなく、政府・自民党・公明党も、高等教育支援の拡充をどうするか議論していこう、というときにこういう発言をされてしまうのは、残念です。
赤枝議員と「呆れた」記事の千田教授、趣旨は同じ
この赤枝議員発言、Yahoo!個人でも、誰か先に記事を書くだろうな、と思っていたら、千田有紀・武蔵大教授でした。
児童擁護施設出身大学生の要望に「進学は自己責任」「女の子はキャバクラに行く」という赤枝議員発言の意味
この発言には何重にも呆れる。
と、お怒りのご様子。
確かに赤枝議員の発言は軽率です。
が、この赤枝議員の発言の中で、
「がっかりした。高校や大学は自分の責任で行くものだ」
これ、千田教授の記事
「大学というブラックビジネス 人生のスタートから借金漬けになる学生たち」
のこの部分と、どう異なるのでしょうか。
これほどの借金を背負ってまで行く価値のあるものかと問われると、歯切れは悪くならざるを得ない。(中略)大学を出たからと言って、職があるという保証もない。この奨学金は、運よく一流企業に就職できたならば返還できる額だろうが、そうでなかった場合には、マイナスからのスタートである。”’まさに博打としか言いようがない。

奨学金批判をして、大学進学の価値について、
「歯切れは悪くならざるを得ない」
「まさに博打としか言いようがない」
とコメントされています。
まして、記事タイトルが
「大学というブラックビジネス」。
これ、赤枝議員の、
「高校や大学は自分の責任で行くものだ」
とどう異なるのでしょうか。
根本は違うかもしれないけど、高校生に悪影響は同じ
千田教授としては、赤枝議員と同列に論じられることはご不快か、とは思います。
一応、千田教授の名誉のために付言しておけば、高等教育支援では赤枝議員と千田教授は根本から異なります。
赤枝議員は、
「高校も大学もみんなが援助するのは間違っている」
と、高等教育支援の拡充には否定的です。
一方、千田教授は、Yahoo!個人記事「私が大学教授を辞めない理由 奨学金制度を批判する自由と義務」でこう書かれています。
奨学金や授業料そのものを批判していたのですらない(大学が授業料をとること自体は、批判できないだろう)。そういった「状況」がもたらされる社会のシステム、制度構築のありかたについて考察していたつもりなのだが。
根本は大きく異なりますね。
千田教授の以降の記事も含めて、ざっくりまとめれば、
赤枝議員は、
「高校や大学に行くのは生徒の自己責任。それを国が援助するのは間違っている」
千田教授は、
「奨学金をめぐる現状はおかしい。だから、高等教育支援をもっと拡充すべき」
というところでしょうか。

高等教育支援拡充政策の前に高校生はどうすればいい?
私も高等教育支援の拡充については賛成です。
奨学金についても、日本学生支援機構の現状が素晴らしくて、変える必要が全くない、とは思いません。
ですが、千田教授をはじめ、奨学金批判論者の問題点は、過剰なまでのバッシングが高校生とその親に悪影響を及ぼしていることです。
高校生やその親からすれば、高等教育支援の拡充という政策自体には賛成するでしょう。
が、いつ実現するか分からない政策よりも、自分自身(もしくは我が子)の進学をどうするか、そちらの方が重要です。
その高校生とその親からすればどうなんでしょうか?
奨学金への過剰なバッシングから、大学がブラックビジネスとまで言い切り、進学の是非について、
「歯切れは悪くならざるを得ない」
「まさに博打としか言いようがない」
と、言われたら、どう思うでしょうか。
博打とまで言い切るのと、「自分の責任で行くもの」。
高校生からすれば、同列としか思えないですよ。そんなの。それで、
「だったら、博打を打つほど責任を持てないから、大学進学はやめよう」
と考えてもおかしくはないのでは?
奨学金を借りてでも大学進学は価値あるもの
そこまで言うなら、お前はどうか、と言われるでしょう。
私の回答は単純です。
「奨学金を借りてでも、大学進学は博打などではなく価値がある」
「奨学金を借りずに、高卒就職や専門学校進学をする方が、貧困に陥る可能性が高い」
「就職は、大企業でなくても、高年収のところはいくらでもあり、きちんと返済できていく」”’
詳しくは、以前の記事をどうぞ。
新入学予定者が知っておきたい奨学金の「大誤解」~利子比較から就職の話まで
大学進学の是非については、こんな冷静な記事も出てくるようになりました。
行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ:高等教育進学か?就職か?(古谷有希子)
とはいえ、こういう冷静な記事はまだ少数派です。
奨学金への過剰なバッシングから、大学進学を躊躇する高校生に悪影響が出ていることを千田教授などの批判論者は理解されていません。
では、奨学金をどの程度、借りて、どの程度の就職先なら返済可能か。
実はそのデータをいま揃えて準備中です。
これについてはもう少々お待ちください。
私は、今後も、奨学金の是非についても、大学進学の価値についても、感情論だけでなく、データも含めて、高校生はじめ読者の参考になるよう、記事を書いていく予定です。