3歳児が「万引き」で補導の事態も…経済的困窮による「育児放棄」を防ぐには?

弁護士ドットコム 2016年5月28日

経済的な困窮による「育児放棄」の事例を取り上げた朝日新聞(5月8日付)の記事がインターネット上で反響を呼んだ。記事は「万引きで補導されたのは3歳の保育園児だった」という衝撃的な一文ではじまる。
この万引き事件は4年前、西日本のスーパーマーケットで起きた。児童相談所が「経済困窮による育児放棄」の疑いがあるとして、その数カ月前から見守っていた家庭だったという。保育園児は男の子で、5歳上の兄と4歳上の姉がいた。父親はトラック運転手で深夜まで帰れず、母親は家政婦として住み込みで働いていたため、ほとんど子どもたちだけで暮らしていた。
父親の給料は、連帯保証人で背負った借金の返済にあてられていたという。ヤミ金にまで手を出していたようだ。子どもたちは不登校気味で、児童相談所の職員が訪れたときは、両親は不在で食事も与えられていない状況。その後、両親が離婚して、子どもたちは母親と一緒に母子生活支援施設に入ったという。
この記事に対して、インターネットでは「子供たちが不憫すぎて辛い」「この家族の連絡先が知りたい。山程、飯を食わしてやりたい」「ネグレクトや『暴力』を止めるのではなく、『生活』を支援しないと、このスパイラルから抜け出せない」といった声があがった。
今回のケースのように、経済的な困窮による「育児放棄」がある家庭を、周囲の大人や社会はどのように支えればよいのだろうか。髙橋直子弁護士に聞いた。

親が「育児放棄」を望んだわけでなくても・・・
「親の経済的困窮が一因で、子どもが問題ある状況におかれることがあります」
高橋弁護士はこう切り出したうえで、子どもの成長に問題があることを指摘する。
「今回のケースの場合、子どもがおなかをすかせて万引きをしたということは、十分な食事ができず、成長発達を妨げる状況だったと懸念されます。また、子どもだけでスーパーマーケットに行っていたことから、子どもの安全が確保されていたのかという心配もあります。
子どもが万引きに罪悪感を持たずに育つと、社会のルールを守るという意識に欠けて、将来、非行に出ることも懸念されます。さらに、小学生の子どもが不登校になり、義務教育をきちんと受けず、社会から孤立していくことも問題です。
このような子どものネグレクト(育児放棄)は、親が望んでそうしたわけではなく、経済的困窮が理由だったとしても、子どもの成長発達上、おおいに問題があり、放置できません」

子どもを放置して両親が働く以外にもみちがある
経済的な困窮に悩む親がネグレクトに陥らないためには、どうすべきなのだろうか。
「連帯保証によって多額の借金を背負ったりして、自己の収入と財産で返済できない場合、破産や債務整理をする方法があります。
また、ふつうに働いても、その収入で生活が成り立たない場合、生活保護を受けるということも考えられます。
夫婦関係に問題がある場合、離婚することで、公的支援を受けやすくなることもあるでしょう。
子どもを放置して両親が働く以外にもみちがあること、周囲に助けを求めてよいことを親に知ってもらう必要があります。そして、児童相談所、行政や福祉のサービス、市町村の法律相談などにつなぐことが必要です」
こうした「悲劇」を生み出さないためには、どのような仕組みが求められるのだろうか。
「子どものネグレクトの背景には、家庭が何重もの問題を抱えていることが多くあります。
子どもの発達に影響しかねないため、すみやかに支援することが必要です。そのためには、保育園、小学校、病院、警察、市町村、児童相談所など地域のさまざまな関係者の連携が重要です。
家庭の情報を断片的に把握していても、一つの機関が把握している情報だけでは、問題点を整理し、解決方法を探るのが難しい場合があります。これらの機関が連携することによって、十分に状況を把握し、適切な支援に結びつけていくことが求められるでしょう」

出生率1.46 さらなる子育て支援を

毎日新聞 2016年5月30日

2015年の合計特殊出生率が前年からわずかに上がり、1・46となった。
1人の女性が一生に産む子供の数を示すもので、人口維持に必要な「2・07」や、安倍政権の「希望出生率1・8」にはほど遠いが、1990年代半ばの水準まで回復した。
景気回復で若い世代の雇用条件が良くなったことや自治体の子育て対策の拡充が影響したと見られる。
ただ、今後も現役世代の女性の数が減っていくため、出生率が上がっても、生まれてくる子供の数は容易には増えない。さらに官民を挙げた少子化対策が必要だ。
年齢別では11年から減少が続いていた25〜29歳の出生率が上昇したほか、30歳以上の各年代も上昇。最も増加幅が大きいのは30〜34歳だ。
サービス業や福祉などは人手不足となっており、若年世代の賃金アップが出生率の改善につながっていると指摘される。政府が取り組んできた最低賃金の引き上げ、非正規雇用の待遇改善なども影響している可能性がある。
出生率の高い都道府県は(1)沖縄(1・94)(2)島根(1・80)(3)宮崎(1・72)(4)鳥取(1・69)。子育て支援を重視する政策を実施している自治体で出生率が上がっている傾向が見られる。
島根県は乳幼児医療費や保育料の軽減、若年世代の移住対策に力を入れてきた。鳥取県も子供を多く抱える世帯の保育料無料化、小児医療や不妊治療の助成の拡大など経済的負担の軽減に努めている。
一方、第1子出産時の母親の平均年齢は前年より0・1歳上がり、30・7歳で過去最高を更新した。婚姻件数は63万5096組で前年より8653組も減り、戦後最少となった。結婚しない人が増え、晩産化が進む傾向をどう変えていくかが相変わらずの課題だ。
東京の出生率は1・17で、全国で最も低い。首都圏や関西圏など人口の多い自治体の出生率の改善は急務だ。こうした自治体は待機児童の多い地域でもある。安心して子供を産むことができるよう、保育所の拡充など子育て環境をさらに整えていくべきである。
企業の取り組みも重要だ。女性社員が出産しても安心して働き続けられるよう雇用慣行を変えなければならない。男性社員の育児休暇の取得率は著しく低い。長時間労働を解消し、夫婦で育児を担えるようにしてほしい。
出生率の改善は人口減少に歯止めを掛け、年金の持続可能性を高めるなど、長期的な課題に大きな影響を及ぼす。すべての世代に関わる問題であり、さらに取り組みを強化していく必要がある。

<改正児童福祉法>自立援助ホームは岐路

毎日新聞 2016年5月29日

27日成立した児童福祉法などの改正法は、児童虐待の防止から虐待を受けた子どもの自立支援まで総合的に強化するのが狙いだ。虐待を受けて親元を離れた子どもを受け入れている児童養護施設は、未就学児以外は学校に通っていることが前提になっている。高校を中退するなどした子どもを支えるのは、全国に123カ所(15年10月現在)ある自立援助ホームで、15~19歳の人が働きながら自立を目指している。今回の法改正で、就学中に限り入所条件を22歳の年度末まで引き上げた。大学などへの進学を後押しするためだ。
だが、自立援助ホームでは、働きながら進学を目指すケースはあまりない。支援の対象年齢を引き上げる必要性が議論される中で、最終的に自立援助ホームが担うことになった。これが今後の自立援助ホームのあり方にも影響を与える可能性がある。
改正案が公になった今年3月から、東京都清瀬市の「あすなろ荘」には、児童養護施設から「東京の大学に進学する子を受け入れてもらえないか」と問い合わせがいくつかあった。しかし、ホーム長の恒松大輔さん(42)はいずれも断ったという。
あすなろ荘の定員は男3人、女3人の計6人。高校に進学できずにいて、15歳を過ぎて初めて虐待が発覚した子どもなど、行き場のない子どもたちの「最後の受け皿」とも言われる。
3万円ほどの寮費を払い、自立への準備資金をためるのがルールだ。あすなろ荘では月5万円を貯金する。多くは1年~1年半で資金をためて退所する。
大学生を受け入れれば4年は入所することになるため、本当に居場所がない子どもを受け入れられなくなる懸念がある。恒松さんは「『親』という後ろ盾がなく、生きるために働かざるを得ない。それでも20歳になれば不安定な環境の中でも自立を促される人がいる一方で、学校生活を送る人ばかりが22歳までいられるのには矛盾を感じる」と話す。
厚生労働省は19年度までに自立援助ホームを190カ所に増やす方針を掲げている。
恒松さんは「進学を支えることには賛成。今後はホームが『就職型』と『就学型』に分かれるのが望ましいのではないか。将来的には一律に22歳にすべきだ」と指摘する。

「一億総活躍」プランは絵に描いた餅? 「財源はこれから」の看板政策

J-CASTニュース 2016年5月29日

安倍晋三政権が参院選に向けた看板政策に掲げる「ニッポン一億総活躍プラン」がまとまった。子育て・介護の支援策や非正規労働者の処遇改善などが柱で、2016年5月31日に閣議決定する予定だ。
ただ、細かい中味は曖昧なところも多く、恒久的な財源も確保されているとはいえず、消化不良は否めない。5月29日には安倍首相が17年4月に予定されている消費税増税を2年半も延期する方針を政権幹部に伝えたとも報じられた。「1億総活躍」プランは絵に描いた餅になるのか。

保育士と介護士の賃金改善に2000億円必要
プランの柱は「出生率1.8」「介護離職ゼロ」へ向けた対策と、多様な人材の活躍を可能にする「働き方改革」への取り組みだ。
子育て支援では、保育士の月給を2017年度から2%(約6000円)引き上げ、特にベテラン保育士の給与は最高月4万円程度上がる昇給制度を作る考えを盛り込んだ。介護についても、職員の月給を平均1万円程度引き上げるとした。
特に力を入れた「働き方改革」では、「同一労働同一賃金の実現」が目玉だ。正社員を中心としたフルタイム労働者の6割にとどまる非正規労働者の賃金水準について、欧州諸国並みの8割程度を目指すとし、最低賃金も全国平均で1000円(時給)に引き上げるという目標を示した。長時間労働の是正策も示したが、これは、子育てと仕事の両立を図るという狙いでもある。
そして、一連の取り組みによって労働者数は2020年度に117万人、2025年度には204万人増加し、働く人の増加→賃金総額の拡大→消費拡大という循環により、2020年度は13.7兆円、2025年度は20.4兆円の消費支出が増え、目標とする国内総生産(GDP)600兆円に近づく――との将来像も描いた。
ただ、実現の道筋は簡単でない。例えば正規と非正規の賃金格差縮小も、総人件費の膨張を企業が受け入れる仕組みをいかに作るかなど、肝心の具体論には踏み込んでいない。保育士の月給引き上げと言っても、全産業平均より11万円も低い月約22万円という現状を考えると、力不足は明らか。しかも、そのわずかな賃金改善でさえ保育士と介護士で2000億円の財源が必要になるが、加藤勝信・一億総活躍担当相はプラン発表後の会見で、財源はアベノミクスの成果を通じて生まれた税収増などだとして、「来年度の予算編成の中で具体的な議論をしていく。進めていくという意思をここで表したということだ」と、財源が確保されていないことをあっさり認めた。

最も批判的な論調は日経
新聞各紙はプランが発表された翌5月19日、一斉に朝刊社説で取り上げたが、プランのめざす方向性は是とする一方、実効性への疑問、財源でくぎを刺す論調が目につく。
「どれも長年の懸案であり、対応を急ぐべきだ」(朝日)というように、中身の目新しさは、ほとんどないとはいえ、「これまで社会保障政策は高齢層に偏っており、若年層に焦点を当てた包括的な改革案の方向性は評価できる」(毎日)、「中長期にわたる課題に果敢に取り組む姿勢は評価したい」(産経)、「趣旨に異論はない」(日経)、「プランが1億総活躍を『究極の成長戦略』と位置づけたのは理解できる」(読売)など、まずは「総論賛成」の評価が目につく。
ただ、「どのように実現するのか、十分な根拠が示されているとは言い難い」(毎日)など、具体化の道筋を疑問視する指摘も、多くの社に共通する。
特に問題なのが財源。朝日はすでに16日付の社説で、1億総活躍社会のためには「消費増税の支えが必要だ」との見出しを掲げ、産経も19日付の主張では「とりわけ説明を求めたいのは、安定財源をどう確保するかである」と、真っ向切り込み、「新たな財源を必要とするメニューも次々と打ち出したが、社会保障・税一体改革で決めた政策の履行もすべて達成していないことを忘れていないか」と、バッサリと切った。
「アベノミクスの成果を活用する」という点についても、朝日が「安定的な財源と言えるだろうか」と書けば、産経も「確実な財源としてカウントできない」と断じるなど、厳しい筆致が目立った。産経と並んで安倍政権支持の論調が目立つ読売は、「政府は安定財源を示す必要がある」と、さらりと指摘するにとどめた。
そんな中、「勇ましい名前のわりには物足りなさが否めない」との書き出しで、最も痛烈な批判的論調を掲げたのは日経。「総じて足りないのは、生産性を上げることによって賃金上昇や雇用拡大が実現するという市場メカニズムの活用だ。……そこを政策の軸に据えなければ、……看板倒れになりかねない」と、規制緩和、構造改革重視の立場から、厳しい言葉が並んだ。