子どもが非行を中心とした問題行動を起こしてしまう理由とは

ベネッセ 教育情報サイト 7月10日

保護者に嘘をつく、きょうだいをいじめる、保護者のお財布からお金を持ち出す……、これらの行動をお子さまが起こした場合、お子さまは心に大きなストレスを抱えているかもしれません。今回は、少年非行に詳しい立正大学社会福祉学部教授の村尾泰弘先生に、子どもが非行を中心とした問題行動を起こしてしまう理由についてお伺いしました。

子どもの問題行動はストレスを感じている証拠
わたしは以前、家庭裁判所調査官として、少年非行の問題に関わってきました。現在も、大学で教壇に立つかたわら、相談室や児童養護施設のスーパーバイザーとして、子どもの非行を中心とした問題行動について相談を受けています。少年非行にはさまざまな定義がありますが、家庭裁判所では少年による非行を、3つの種類に分けています。

【少年非行とは】
・犯罪少年…14歳以上20歳未満の犯罪をした少年
・触法少年…14歳未満の刑罰法令に触れる行為をした児童
・ぐ犯少年…今のままの状態を続けると犯罪行為をしてしまう、または刑罰法令に触れる行為をしてしまう可能性が高い20歳未満の少年

どの非行行動も、子どもから発せられるSOSのメッセージであることが多いのです。その子を取り巻く人間関係の中に何らかのストレスがあり、そのはけ口として万引きなどの非行行動をとってしまうことが多いのです。特に多いのは保護者やきょうだいとの人間関係においてトラブルを抱えている場合ですが、友達や先輩との関係、先生との関係でストレスを感じて問題行動に至ることもあります。子どもは、自分の気持ちを内省し、保護者や第三者に伝える力が未熟なため、無意識のうちにきょうだいをいじめたり、万引きをしたりすることで、親の関心を引こうとする場合があるのです。

子どもが非行を中心とした問題行動を起こしてしまう理由とは
非行行動は、最初は保護者の目の届く家庭内で起こります。幼児であれば、友達をいじめる、友達におもちゃを貸さないということが頻繁に続けば、何らかのストレスを抱えている可能性があります。小学生であれば、嘘をつく、頻繁にケガをする、きょうだいをいじめるなどが挙げられます。
その段階でお子さまのストレスが解消されなければ、家庭外の学校や社会で非行行動を行ってしまうことがあります。お金の持ち出しや万引きになると、事態はより深刻です。お子さまが日々の生活において何らかの欲求不満を抱えていることは明らかですので、早めの手立てが必要になってきます。

子どもに問題行動の多い家庭とは?
多くのご家庭から少年非行に関する相談を受けますが、「うちの子に限ってなぜ問題行動を起こすのかわからない」と言われることも少なくありません。多くの保護者がお子さまを「良い子」に育てようと、さまざまな努力や工夫をされていると思います。しかし、お子さまを思いやるあまりに、過保護や過干渉になってしまい、それがお子さまの負担になっている場合があります。保護者の期待や要求が高くて、お子さまはそれに応えようとしてかなり無理をしてしまうのです。上手にそのストレスを解消できる子もいれば、保護者に本音を言えず欲求不満がたまり、非行行動でそのストレスを解消しようとする子もいるのです。
ですから、お子さまの非行行動は何らかのお子さまからのSOSであるととらえ、原因を追求するとともに、家庭でのコミュニケーションが一方通行になっていないか振り返っていただきたいと思います。多くの保護者が良かれと思って取っている行動が、お子さまにとって負担になっている可能性もあります。

<下流化>「水商売で働きたい」貧困予備軍、若者の窮状

毎日新聞 7月9日

日本の相対的貧困率上昇が止まりません。今や6人に1人は貧困ライン未満の収入です。もはや他人事ではない日本社会の下流化。その現状を報告します。【NPO法人ほっとプラス代表理事・藤田孝典】

埼玉県内の定時制高校2年の優香(17)は今、アパートで1人で暮らしています。私が代表理事を務める貧困支援のNPOにある日、優香の女性担任から電話がありました。
「施設を出て1人暮らしの女子生徒が、給食費を払えない状態になっている。このままでは学校をやめてしまいそう。相談に乗ってほしい」
担任と一緒に事務所に現れた優香は、すさんだ雰囲気を発していました。明るめの茶髪、投げやりで乱暴な話し方--典型的な「インボランタリー・クライアント」、つまり、援助や支援が必要なのにそれを望まない、あるいは拒否する人の態度です。
話を聞くと不遇な子供時代だったようです。生まれてすぐに父親が失踪。1990年代末に10代で妊娠・出産した母親(現在は30代後半)は、スナックの従業員やスーパーの販売の仕事をしながら優香を育てました。同時に、暴力や暴言、ネグレクト(育児放棄)のような虐待を続けていました。
見かねた周囲が小学2年の時、母親から引き離し、優香を児童養護施設に入所させ、そこから小中高校に通ったのですが、定時制高校に入学したころから生活が荒れ始め、非行や売春で何度も補導されました。その結果施設を出され、今は家賃4万5000円のワンルームアパートで1人暮らしです。

「美容専門学校に行きたい」学費は100万円
優香は昼間、近くのクリーニング店で働いています。時給は埼玉県の最低賃金820円に近く、収入は月約13万円ほど。所得税や社会保険料、アパートの家賃を払うと、残りは月数万円。手取り年収は100万円に届かない貧困レベルです。最近は学校も仕事も休みがちです。
ぽつりと漏らした「美容の専門学校に行きたい……」という言葉は本音でしょう。しかし、その学費は年間100万円を上回ります。母親に頼れない優香には進学は夢でしかありません。
このまま高校に通って、いいことがあるのかどうか分からないと彼女は言います。今の口癖は「早く18歳になって、水商売でもっと稼ぎたい」。彼女は、自分が売れるのは容姿と若さだけであることを知っています。
17歳の少女が、厳しい生活と限りなく見通しの暗い将来から逃れるために抱ける唯一の希望が、水商売。相談してきた担任はこう言います。
「このままでは卒業も難しい。卒業できなければ彼女は今後チャンスを手にすることなく、坂道を転げ落ちていく。なんとか卒業させたいんです……」

日本の6人に1人が貧困ライン未満の収入
日本の相対的貧困率は年々上昇しています。
世帯収入から税金や社会保険料などの「非消費支出」を差し引いた手取り収入が「可処分所得」。この可処分所得を世帯人数の平方根で割ったものが、「等価可処分所得」です。世帯員の生活水準をより実態に近い状態で表す数字です。
この等価可処分所得の中央値は、2012年時点で244万円(名目)。この名目値の半分(122万円)に届かない人の割合を示すのが、いわゆる「相対的貧困率」です。世帯員の人数ごとでいえば、単身世帯は122万円、2人世帯170万円、3人世帯210万円、4人世帯245万円--未満の収入しかない人が、貧困と見なされます。
いま、日本の相対的貧困率は16.1%(12年・厚生労働省国民生活基礎調査)。85年の調査開始以来最も高く、また、経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国の中でも6番目に高い数字(10年)です。高度経済成長を果たし、経済大国になったはずの日本で、6人に1人が貧困状態にあります。大きな原因の一つが、雇用の崩壊です。

非正規雇用が4割超に
バブル経済が崩壊した90年代後半から、雇用形態は大きく変化しました。正社員採用は減り、非正規雇用が増えました。15年には非正規雇用率は4割に。女性に限れば非正規率は50%を超えています。正社員より不安定で、給与も安いまま昇給もありません。
若者だけでなく、ただでさえ弱い立場にあるシングルマザー、障害を持つ人、健康に問題がある人、不登校だったり、高校を中退したりした人、職歴の少ない人といった、社会的に弱い立場の人たちは、さらに稼げなくなっています。また、過酷な労働による若者の精神疾患も急増しています。
かつて「中流」と呼ばれた社会の中間層が、下流に落ちようとしている。目をこらせば、社会のあちこちに貧困の影が見えます。そこでは「若いから働けば何とかなる」という励ましと責めは、役に立ちません。
若者を「貧困予備軍」としてこのまま放置したらどうなるか。近い将来、大量の「貧困世代」が出現し、社会は大混乱に陥るでしょう。

「バランスの良い食事」は健康にいい? 8万人を15年追跡調査してわかったこと

HARBOR BUSINESS Online 7月10日

最近では糖質制限ブームとも言える状況になっており、過剰なまでに悪者扱いされている糖質。中には「バランスの良い食事」までも否定する声もあるほどだ。
そんな中、今年3月に国立がんセンターが発表した「多目的コホート研究(JPHC研究)」の結果が興味深いものになっていることをご存知だろうか?

国立がんセンターの予防研究
国立研究開発法人国立がん研究センター(National Cancer Center)は、日本におけるがん征圧の中核拠点として、がんその他の悪性新生物に対する診療、研究、技術開発、治験、調査、政策提言、人材育成、情報提供を行う日本の国立研究開発法人である。国立がん研究センターの予防研究グループで、地域住民、検診受診者、病院の患者さんなど人間集団を対象に、疫学研究の手法を用いて、発がん要因の究明(がん予防のために必要な科学的根拠を作る)がん予防法の開発(科学的根拠に基づいて具体的かつ有効ながん予防法を提示する)を目的とした研究が行われている。
研究で採られる「多目的コホート研究」の「コホート」とは、共通の性格を持つ集団のことを指す。また、「コホート研究」とは、そうした「ある共通点を持つグループ」と「共通点を持たないグループ」を設定し、それぞれのグループにおける、病気の発生率を比較して研究することである。「コホート研究」は、分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調査するという手法だ。
この「多目的コホート研究(JPHC研究)」は、日本各地にお住まいの約10万人の方々から、その生活習慣についての情報を集め、10年以上の長期にわたって疾病の発症に関する追跡を行うことによって、どの様な生活習慣が疾病の発症に関連しているのかを明らかにすることを目的とした研究である。
今年3月に国立がん研究センターが「British Medical Journal 2016年3月22日号)」に発表した論文は、その「多目的コホート研究(JPHC研究)」で導かれた結果のひとつだ。
研究チームは、1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、東京都葛飾区、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の11保健所(呼称は2014年現在)管内に住んでいた40~69歳の人を対象に、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートを行った。そして、5年後の1995年と1998年には、より詳しい食事調査を含む2回目のアンケートで、当時の生活習慣についてのアンケートを行った。そのうち、1回目と2回目の調査時点で循環器疾患、がん、肝疾患のいずれにもかかっていなかった男女約7万9600人の方々を、2回目の調査時点から平均約15年追跡したという。
その結果、どういうことが明らかになったかというと、「バランスの良い食事が、健康寿命のさらなる延伸のために役立つ」という結果であった。

「食事バランス」がいいほど死亡率が低い!
研究開始から5年後に行なったアンケート調査の結果を用いて、主食(ごはん、パン、麺)、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻料理)、主菜(肉、魚、卵、大豆料理)、牛乳・乳製品、果物、総エネルギー、菓子・嗜好飲料由来のエネルギーの各摂取量を10点満点として評価し、70点満点の「食事バランスガイド遵守得点」というのを導き出した。
この「食事バランスガイド」というのは、2005年に厚生労働省・農林水産省が「何をどれだけ食べたら良いのか」について、食事の望ましい組み合わせとおおよその量をイラストでわかりやすく示したもので、このガイドにある栄養バランスを遵守している人ほど総死亡のリスクが低下しており、遵守得点が10点増加するごとに総死亡リスクが7%減少していたのだという。
死因別に見ると、食事バランスガイドへの遵守度の高い人ほど循環器疾患死亡、および、脳血管疾患死亡のリスクが低下することが分かった。食事バランスガイドへの遵守得点が10点増加するごとに、循環器疾患死亡リスクが7%減少、脳血管疾患死亡リスクが11%減少している。
一方で、がん死亡および心疾患死亡については、食事バランスガイドへの遵守度が低い人は死亡リスクが高く、遵守度の高い人ほど死亡リスクが低い傾向は見られたが、統計学的に意味のある違いではなかったという。

やっぱり重要だった「栄養バランス」
結論をいうと、やはり「バランスのいい食事」は、循環器疾患死亡や脳血管疾患の死亡リスクとの関連がはっきりしたわけだ。
詳細を見てみると、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻料理)および果物の摂取量が「食事バランスガイド」で指定されるバランスに忠実なほど循環器系リスクが低下し、主菜(肉、魚、卵、大豆料理)の摂取量が「食事バランスガイド」で指定されるバランスに忠実なほど脳血管疾患死亡のリスク低下が見られるという結果になっている。
もちろん、太り過ぎも大きなリスク要因であるため、短期的には糖質制限などで体重を落とすのはありかもしれない。しかし、長い目で見ると、やはり「バランスの良い食事」が長生きするには良さそうである。