児童虐待に迫る福祉マンガ「ちいさいひと」Webでイッキ読み、全6巻を配信

コミックナタリー 2016年7月23日

夾竹桃ジン作画、水野光博脚本、小宮純一取材・企画協力による「ちいさいひと 青葉児童相談所物語」全6巻を読めるキャンペーンが、本日7月23日から24日23時59分まで、また7月30日0時から31 日23時59分までの期間限定で実施されている。
同キャンペーンは、週刊少年サンデー、ゲッサン、サンデーGX(いずれも小学館)による合同Webマンガサイト・サンデーうぇぶりがオープンしたことを記念するもの。「ちいさいひと 青葉児童相談所物語」は新米児童福祉司の主人公が、虐待や育児放棄などで苦しむ子ども救う福祉ドラマだ。昨年秋には電子書店にて配信をスタートし、約ひと月の間にダウンロード数37万を突破するなどヒットを飛ばした。
なお同作の新シリーズ「新・ちいさいひと 青葉児童相談所物語」の連載が、7月25日にサンデーうぇぶりにてスタートする。

<隠れ待機児童>遠い保育所、断れば待機外 集計法は曖昧

毎日新聞 2016年7月23日

全国152自治体への毎日新聞の調査で、待機児童の約3倍に当たる5万人以上が確認された「隠れ待機児童」。自治体が待機児童数を見かけ上だけ少なくもできることを示した数字で、保護者からの不満は強い。国に基準の明確化を求める自治体もある。
昨年4月の待機児童数が全国ワーストだった東京都世田谷区。保坂展人区長は6月の記者会見で、今年は昨年を16人上回る1198人となったことを謝罪しつつ、強調した。「育児休業の延長を(待機児童に)含めるべきだと考え、1198人としたが、除いている自治体も多い。厚生労働省に基準の統一を求め続けている」
厚労省は、親が育休中の場合は「待機児童に含めないことができる」としている。育休中でも保育サービスの必要性は家庭ごとに異なるため、個々の事情を把握できる自治体の裁量に任せた形だが、世田谷区や品川区、浜松市などを除き、大半は待機児童としてカウントしていない。千葉県船橋市や仙台市は「他の自治体が含めていない」ことを理由に挙げ、数字を比較されることに敏感になっている様子がうかがえる。
曖昧さは他にもある。特定の保育所などを希望し、近くに空きがあっても入らないケースは除くことになっており、厚労省は「自宅から20~30分未満」との基準を示す。一見厳格のようだが、これも運用の幅がある。
「待機児童を減らすよう号令がかかり、『ここには通えないだろう』と思いながら、自宅から遠い保育所を指定し、断ると待機児童から外した」。3月の参院予算委員会で、共産党の田村智子議員が首都圏のある自治体職員の証言を紹介した。九州のある自治体の担当者も「落とそうと思えば、ずいぶん定義上の待機児童を減らせる」と話す。
「求職活動の休止を確認できる場合」も一律に外すことができる。確認方法は自治体任せで、静岡市は「保護者に電話し、1件ごとに確認」、兵庫県姫路市は「アンケートを送って『休止している』を選択した人」、茨城県つくば市は「本人からの申し出」と、対応はバラバラだ。大阪府茨木市は「把握が困難で、確認できていない」という。
この結果、待機児童の少なさに期待して転居した世帯が、子どもを認可保育所に入れられないという事態が起きる。公表している待機児童数がわずか7人の横浜市に住む母親は「入れなかった人が周囲に何人もいる」と憤る。
大分市は「集計方法に差異が出たり、恣意(しい)的な判断が入ったりしないよう定義を明確にしてほしい」と指摘。神奈川県藤沢市は「認可保育所などに入れなかった児童数の公表だけでいいのではないか」としている。【堀井恵里子】

統一定義が必要
保育行政に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんの話 保育所に入れないからこそ、育児休業を延長したり求職活動を休止したりせざるを得ない。特定の保育施設の希望にも、食品アレルギー対応が必要な場合や、兄姉が通園している場合などがある。こうしたケースは素直に待機児童に入れるべきだ。現状では必要な子どもの受け入れ枠が増やせているか、分からない。待機児童の統一定義も必要だ。

なぜこうも違う? フィンランドの子育て支援

東洋経済オンライン 2016年7月23日

先の参院選において、子育て支援、少子化対策に関する各党の政策に大きな差は見られなかった。待機児童の解消や子どもの貧困対策などの必要性は誰もが認めるところで、勝利した自民党も公約に掲げてはいる。だが、憲法改正をはじめ、重視される課題がほかにもある中で本当に効果のある対策がなされるのかどうかは未知数だ。
筆者は6月にフィンランドを訪れ、国による子育て家庭へのきめ細かい支援や幼児教育について見聞きしてきた。そこで強く感じたのは、子どもたちへの投資に対するスタンスの違いだ。フィンランドでは、今困っている人たちを助けるだけでなく、将来の国を豊かにする効果があるのだと皆が納得している。

育児支援制度から生まれた新ビジネス
赤ちゃんが生まれて1年間に必要となる衣類やケア用品をぎっしりと詰め込んだ「ベイビー・ボックス」。フィンランドのFinnish Baby Box社が国外に向けて販売するこの商品の、最大の市場は実は日本だそう。「北欧デザイン」や「ムーミン」のブランド力が寄与しているようだ。
「ベイビー・ボックス」は、フィンランドで子どもを産む母親が国から受け取る「育児パッケージ」をモデルにしている。同社の3人の共同創業者は父親としてこの育児パッケージを利用した経験から、これを国外の人たちにも届けたいと起業したのだ。フィンランドで育児パッケージが法制化されたのは1937年。当初は一定の所得制限があったが、1949年からは所得に関わらずすべての母親が育児パッケージか現金かのどちらかを選んで受給できるようになった。現在は毎年6万世帯が手当を受給し、そのうち3分の2は現金ではなく育児パッケージを選択しているという。
フィンランド第2の都市タンペレ市で働く40代の女性に話を聞くと、彼女も2人の子どもを出産するときに育児パッケージを選択したそう。その箱を子どもたちが8歳と4歳になった今でも取ってあり、「彼らが大人になったら、思い出の箱としてプレゼントしたい」と語る。育児パッケージはフィンランド家庭の子育てに深く根付いた制度なのだ。
育児パッケージの中身はベビー服や哺乳瓶、爪切り、ブラシ、避妊具など約50点、金額にして4万円相当。高い税金の元で成り立つ高度な福祉国家ゆえの手厚いサービスに見えるが、単なる「プレゼント」ではない。その狙いは、妊婦健診の受診率を上げ、その後に続く家族のケアへとつなげることだ。育児パッケージまたは現金の支給を受けるには、妊娠154日以上であること、妊娠4カ月までに妊婦検診を受けていることが要件となる。妊婦健診は、自治体が運営する「ネウボラ」という施設で受けるのだが、このネウボラこそ、フィンランドの育児支援を大きく特徴づける仕組みだ。
日本では妊娠が確定して出産を希望する場合、自治体の窓口に届け出て母子健康手帳と妊婦健診の補助券をもらう。そして自身で選んだ病院で妊婦検診を受けるのが一般的だ。フィンランドの場合、妊娠の届け出もその後の検診もネウボラで受け付ける。そして担当の保健師が付き、妊娠・出産期だけでなく、出産後も子どもが6歳までの間、保健師、医師、ソーシャルワーカーなどによる専門チームが、健康面だけでなく家族関係や経済的な状況も含めて診断やカウンセリングを行う。先述の育児パッケージは、子どもを迎える家族をネウボラにつなげる動機付けとして考案された。これが功を奏し、現在は99%以上の家族がネウボラを利用している。

家族支援に力を入れるネウボラの位置づけ
ネウボラが誕生したのは1920年代。法制化された1944年以降全国に整備され、乳児死亡率や妊産婦死亡率を大きく引き下げるなどの効果を上げた。当初は母親と子どものケアが中心だったが、最近では父親や先に生まれたきょうだいも含む家族全体のケアへと、その支援の範囲を広げている。家族全員が一緒にネウボラに行く機会が出産前に1回、出産後は子どもが4歳になるまでに3回設けられており、アンケートやその場での対話を元に専門家が助言したり、さらなる支援が必要な場合には適切なサポートが得られる機関を紹介したりする。
フィンランドがネウボラによる家族支援の拡充に力を入れるのは、幼児期の子どもの育成環境と、それを支える家族の問題の早期発見、早期予防こそが、その後の子どもの幸福や社会全体にとっての効果が大きいと考えるからだ。
『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社)著者ジェームズ・J・ヘックマン教授は、子どもが生まれてから5歳までの就学前教育の重要性を説く。就学前の子どもたちが育つ環境を整えることは、子どもたちの非認知能力(意欲、自制心、粘り強さ、社会性など、IQなどの数値では測れない特徴や性格)を伸ばし、それがその後の学力や健康、経済面での成功につながるというのだ。 ヘックマン教授の言う就学前教育には、子ども自身に対する働きかけのみならず、両親に対するコーチングや経済的な援助も含む。これらへの投資は、それ以降の学校教育や就労支援などに投資することよりも見返りが大きいから、経済成長を目指すなら、たとえ財政難であっても幼児教育に投資する戦略をとるべきだというのが、彼の主張だ。
フィンランド政府が妊娠期からの家族のケアに投資するのも、これと同じ考えに基づいている。家庭内暴力や貧困、産後うつ、子どもの発達上の問題などさまざまなリスクを把握し、必要な対策へとつなげる役割をネウボラが担っている。また、保育園には単に両親が不在の時間の面倒を見るというだけでなく幼児の心身の発達を促す教育を与える機関だとし、この考え方は教育(education)とケアを合わせた「エデュケア(educare)」と呼ばれている。特に小学校入学前の1年間は保育士ではなく幼稚園教諭の資格を持ったスタッフが保育をするプレスクールと呼ばれており、これが2015年8月から義務教育化されたことからも、フィンランドで幼児教育が重視されていることがわかる。
日本では、国の社会保障支出が高齢者向けに偏り、子育て支援への支出はほかの先進諸国と比べても低い。その理由としてよく挙がるのが、有権者に占める高齢者の割合が高い上に若者世代の投票率が低いことだが、『子育て支援が日本を救う』(勁草書房)によれば、ほかにも2つの理由が考えられるという。■ 投資できるかは私たちの選択次第
ひとつは人口構造の変化の歴史にある。「少子高齢化」と言うが、日本では先に急速な高齢化に直面し、少子化はその後にゆっくりとしたペースで進行した。そのため、危機感と予算配分において少子化対策よりも高齢化対策が優先されたというのだ。もうひとつは、宗教的な背景である。キリスト教の影響が強い欧米諸国では、人類愛に基づく「救貧」の文化が社会保障支出やボランティアによる助け合いを促してきたが、日本にはそのような文化が乏しいということだ。
特に宗教的な背景の違いを突き付けられると、日本では「子育ては個人の責任」という意識が根強く、そこに社会保障費が投じられないのも仕方ないのではないかと思えてしまう。しかし、高齢者向けの福祉支出に関しても最初から手厚かったわけではなく、有権者が「高齢者向け社会保障」を拡充するという「選択」(投票やロビー活動など)をした結果、2000年代以降に欧米諸国の平均並に達した。だから有権者たちが「選択」さえすれば、子育て支援を拡充させることもできるというのが、同書の主張だ。
「子どもたちへの投資が未来の社会全体の幸福につながる」ことを私たちが認識し、ブレない意思を持って行動することが重要だ。