<児童虐待>心の傷どう対応 苦悩する養護施設職員

毎日新聞 2016年8月4日

2015年度の全国の児童相談所の虐待対応件数が10万件を超えた。保護されて施設や里親の元で生活する子どもの多くは、親からの激しい虐待を経験している。そうした子どもたちの育ちの場として「施設から家庭」への転換が求められている中、今も2万8000人が全国602カ所の児童養護施設で暮らす。だが、何らかの障害があるなど対応がより難しい入所児も増えており、離職する施設職員も少なくない。
「お前、成長したな」。8月初旬、東日本の児童養護施設が夏休みのキャンプで訪れた浜辺。年下の子にテントの組み立て方を教えていた高校生の少年は、施設長に声をかけられ、照れ笑いした。
この少年は小学生の時、精神疾患がある母親の養育放棄で保護された。初めに入所した福祉施設で暴れて数カ月で出され、移った別の施設で発達障害の診断を受け、治療薬を4種類以上服用した。そこも出て10代前半で今の児童養護施設に来た時はろれつが回らず、手先が震えていた。
「訴えて辞めさせる」。職員に暴言を吐き、学校では備品に火を付けた。屋上から飛び降りようとする少年を施設長が抱き止め、「人も自分も傷つけるな」とたしなめた。
児童養護施設で暮らす子どものうち、被虐待児は13年に59・5%を占めた。何らかの障害を抱える子は過去最多の28・5%に達した。心の傷や障害の影響から感情を制御できなくなる場合もある。
この少年が生活する施設でも、半数近い子に発達障害や知的障害などがある。「対応しきれず『限界』と辞める職員も少なくない」と施設長は明かす。
一方の児童相談所も多忙だ。保護した子を施設へ委託する際、居住自治体からの転出届などを施設に届ける。施設が転学手続きなどをするのに必要で、ない場合は施設が児相に連絡すれば以前はすぐ送ってくれた。だが最近は1週間以上かかって学校に行くのが数日遅れることもある。「(虐待)通告が多くて」。ある児童福祉司はそれ以上語らなかったが、心理的虐待の増加で虐待対応が増えた、と施設長はみる。
施設長は言う。「忙しくて大変だろうが、施設に託した後の子も児相の仕事として見届けてほしい。保護して終わりではなく、怒りや不安を表現しづらい子を息長く支える必要がある」【野倉恵】

<児童虐待>「児相頼み」転換の時

毎日新聞 2016年8月4日

2015年度の児童相談所の虐待対応件数が10万件を突破した背景には、児童虐待が特異なことではなく、身近な問題という認識が社会に広がり、通報や相談が増えたことがある。一方、対応する児相職員の負担は重くなっており、虐待を受けた子どもや保護者への支援を「児相頼み」から転換する時期に来ている。
04年の法改正で、児相だけではなく市区町村も虐待相談を受け付けるようになった。身近な相談はまず市区町村を窓口にすることで支援を手厚くする狙いだったが、今も通報や相談が児相に集中する状況は変わっていない。
このため、さらに抜本的な見直しを進める改正児童福祉法が今春、成立した。児相は専門性の高い対応に専念する一方、市区町村が子どもの支援拠点や専門職を置くなどして一般的な支援を担い、児相と役割分担を進めることになった。来春の施行に向けて、厚生労働省の有識者委員会が具体策の議論を進めている。
地域のつながりの希薄化や貧困など子育て環境は厳しさを増しており、専門家は「今後も虐待は増えるだろう」と指摘する。増加する虐待の芽を早期に摘み取り、深刻化を防ぐため、改正法が目指す支援体制の一層の充実が欠かせない。【黒田阿紗子】

子どもの貧困、進学率は2年で改善傾向…内閣が対策状況を公表

リセマム 2016年8月2日

内閣府は8月1日、「平成27年度子どもの貧困の状況および子どもの貧困対策の実施の状況」について公表した。「子供の貧困対策に関する大綱」に掲載された当時の数値と直近値を比較しながら、子どもの貧困の実態や取組みについてまとめている。
「子どもの貧困対策の推進に関する法律」に基づき、平成26年8月に定められた「子供の貧困対策に関する大綱」では、子どもの貧困の実態を把握・分析するための調査研究を継続的に実施することを盛り込んでいる。
「平成27年度子どもの貧困の状況および子どもの貧困対策の実施の状況」では、子どもの貧困の状況として、大綱掲載時と直近値、全世帯の数値(直近値)を一覧にして掲載した。大綱掲載時の値は、厚生労働省社会・援護局保護課調べ平成25年4月1日現在のもの。直近値は、同調べ平成27年4月1日現在のもの。
大綱掲載時と直近値の比較では、生活保護世帯の高校等進学率(全体)は2ポイント増の92.8%、生活保護世帯の高校等中退率は0.8ポイント減の4.5%、生活保護世帯の大学等進学率(全体)は0.5ポイント増の33.4%と、いずれも改善傾向がみられた。児童養護施設の子どもの進学率、就学援助制度の周知状況などの数値も上昇した。
大綱に記載された重点施策については、平成26年度と平成27年度の実施状況、平成27年度の予算額と補正予算額をまとめている。このうち、生活困窮世帯の子どもを対象とした学習支援事業については、平成26年度に50自治体、平成27年度に300自治体が実施したという。

児童養護施設出身者の大学中退を防ぐ 東京・北区のシェアハウス

福祉新聞 2016年8月3日

児童養護施設を退所後、大学などに進学した学生のためのシェアハウスが今年4月、東京都北区に誕生した。親からの支援を見込めない若者を支え、中退を防ぐ。スタッフが毎日宿泊して寄り添い、温かい食事と語らいのある暮らしを提供する。7月9日には都内で活動報告会を開いた。
シェアハウスを運営するのはNPO法人学生支援ハウス「ようこそ」で、理事長を庄司洋子・立教大名誉教授が務める。
シェアハウスは築60年の古民家をリフォームしたもの。利用対象は児童養護施設を退所し、大学や専門学校に学籍のある女性。利用料については授業料などを自分で賄う学生を支えるため、部屋代や光熱水費、朝夕食費込みで月5万円にした。
現在は定員5人のところ大学生2人と専門学生2人が入居する。週5日、学生に寄り添う専門職として元児童養護施設職員の木幡万起子さんが午後5時から翌日の午前9時まで宿泊する。不在時は他のスタッフが入る。
門限を午前0時にするなど、共同生活のルールは入居者と一緒に決めたという。
庄司理事長は「夜間の学校に通うため朝早く働きに行く子や、深夜までアルバイトする子など、一人ひとり違って対応は大変」と学生を支援することの苦労を語った。

修学支援型を全国に
児童養護施設は、原則18歳で退所をする。厚生労働省によると、一般家庭の子どもは高校卒業後、進学が77%、就職は18%だが、児童養護施設の子どもは進学が23%、就職は70%と割合がほぼ逆になっている。
認定NPO法人ブリッジフォースマイルの調査では、施設退所者は進学後、1年が経過した時点で9%が中退し、その後徐々に増えて4年後には全体で21%が中退しているという。
「ようこそ」の深田耕一郎・事務局次長は設立から3カ月がたって「学校とアルバイトの両立という多忙な生活で、体調や精神面での変化が出てくる。その変化を身近な場所にいてキャッチし、サポートする大人の存在は欠かせないと感じる」と話した。
「ようこそ」の運営には、学生からの利用料と寄付や会費を充てているものの、十分ではない。理事を務める浅井春夫・立教大教授は「修学支援型のシェアハウスは何らかの形で制度化する必要がある」と訴えた。
施設退所者の就学をめぐって、今年6月に公布された改正児童福祉法では原則20歳未満としていた自立援助ホームの利用対象を、大学などに通っている学生に限り、22歳の年度末まで広げるという動きもある。

経済対策、恩恵は広く薄く 家計重視も乏しいメリハリ

SankeiBiz 2016年8月3日

政府は2日に閣議決定した経済対策で、低所得者への現金給付や年金受給資格が得られる期間の短縮などの消費喚起策を打ち出した。さらに安倍晋三政権の看板政策「1億総活躍社会」の実現に向け、保育・介護士の処遇改善や、返済する必要がない給付型奨学金の創設なども盛り込み、幅広い層に恩恵を行き渡らせたい考えだ。経済対策が実現すれば暮らしにどんな影響があるのかを探った。
低所得者への給付対象は、住民税が非課税の約2200万人で、1万5000円が現金でもらえる。消費税増税の負担軽減のため年6000円を給付していた「簡素な給付措置」を引き継ぐ格好で、2年半分に当たる金額をまとめて支給することから消費増が期待できそうだ。
年金保険料を支払った期間が足りずに年金をもらえない人を救済するため、年金受給資格が得られる期間を現行の25年から10年に短縮する。これにより計約64万人が新たに年金を受け取れる。ただ準備に時間がかかるため、支給開始時期は早くても来秋となる見通しだ。
労使で折半する雇用保険料も軽減、働き手の負担を軽くして可処分所得を増やす考えだ。料率は現行の0.8%から0.6%に引き下げるとみられ、年収400万円の会社員の場合、保険料負担は年1万6000円から1万2000円となる。
保育・介護の環境整備も積極的に進め、保育士は月2%相当、介護職員も平均月1万円賃上げする。施設運営費支援などを通じ、保育・介護とも50万人分の受け皿確保も急ぐ。子育てや介護で仕事をあきらめていた人の就職などを後押しする可能性がある。
学生向けで返済不要の給付型奨学金は、「17年度予算編成過程で制度内容について結論を得て実現する」と明記した。就職できなかったり、就職しても給与が安くて返済できない人が増える中、経済事情に関係なく学べる環境を整える。
構造改革にも取り組み、正社員と非正規労働者の賃金格差をなくす「同一労働同一賃金」実現のため、法改正の準備を進める。
厚生労働相の諮問機関、中央最低賃金審議会は7月、16年度の地域別最低賃金を全国平均の時給で24円引き上げるよう求める目安を厚労相に答申した。
だが、企業が払う人件費の総額が変わらなければ、格差解消のため正社員の給与が下がる恐れがあると指摘する声もある。
今回の経済対策は家計重視の姿勢を打ち出したが、総花的でメリハリがないともいえる。事業規模28.1兆円のうちインフラ整備が10.7兆円を占めるが、暮らし向上に直結するような施策に振り向けられるのは3.5兆円にとどまり、実効性には疑問符も付く。