児童虐待、責任欠いた結婚観こそ元凶

ビューポイント 2016年8月10日

児童相談所(児相)の虐待対応件数が昨年度、初めて10万件を超え、25年連続の過去最高となった。相談・支援体制の強化を進めながらも、虐待が増え続ける事実は、政府の対応を抜本的に見直す必要があることを示している。
早期発見で最悪の事態を防ぐ一方、時間はかかるが、家庭再建を進めることが虐待をなくす唯一の道であると訴えたい。

初めて10万件を超える
児童虐待の相談件数は、調査を開始した平成2年度で1101件だった。27年度は前年度比1万4329件(16・1%)増の10万3260件。四半世紀前の、実に94倍だ。
12年に児童虐待防止法が成立・施行して以来、この問題に関する国民の関心は年々高まっている。それが通報件数増加につながっているとの見方がある。しかし、それだけではこの急増ぶりは説明できない。子供を虐待する保護者が実際に増えているのである。
児童虐待は身体的虐待、ネグレクト(育児放棄)、性的虐待、心理的虐待の四つに分類される。このうち昨年度は、心理的虐待が全体の47・2%と約半数を占めた。子供の前で配偶者に暴力を振るう行為(DV)を心理的虐待として、警察が通報するケースが増えているからだ。
虐待で死亡する子供は毎年50~60人に達する。こうした最悪の事態は早期発見や子育て支援・相談などの体制を構築して防ぐ必要がある。しかし、虐待の悲劇は命の問題だけではない。心に傷を負うことで、健全な人間関係を築けなくなる子供がどれほど多いことか。心理的虐待の通報が増加したのは、その深刻さが認知されたからである。
来年4月に施行される改正児童福祉法に基づき厚生労働省は、子育てに悩む親に助言・指導する拠点づくりを全国の市町村で展開する。東京23区でも児童相談所が設置できるよう制度を見直し、虐待の早期発見を可能にするためのきめ細かな支援体制づくりを進める。
だが、こうした対応だけでは限界があり、虐待をなくすことにはつながらないだろう。防止法が施行されても、虐待は数・質ともに深刻化している事実を見れば、対策の抜本的な見直しが必要なことは明らかである。
激増する児童虐待を減少に転じさせる上で、まず必要なことは、若者の結婚観の歪(ゆが)みを正すことだ。つまり、戦後の個人主義的な価値観から、次世代を担う子供への責任感を伴ったものに転換する教育である。
結婚は、自分たちの幸福だけを考えればいいというものではない。夫婦で協力して子供を幸せにするという責任意識を軽視する風潮が社会に蔓延(まんえん)していることが虐待増加の背景にあり、これが最大原因であろう。

若者に育児の大切さを
夫婦関係の破綻、親族・地域からの孤立、そして貧困が重なって起きるのが虐待だとよく指摘される。夫婦間の愛情と子供を立派に育てることへの覚悟があれば、これらの要因は自ずと解決され、虐待解決への第一歩が踏み出せるはず。長期的な視点に立って、若者に健全な結婚観を伝えることに社会の総力を挙げる時に来ている。

【社会福祉法人改革】余裕財産の計算式の素案明らかに

福祉新聞 2016年8月12日

厚生労働省は2日、社会福祉法人改革に関連し、いわゆる余裕財産(社会福祉充実残額)の計算式の素案を社会保障審議会福祉部会に示した。施設の建て替え時に必要な自己資金は、総費用に占める比率を最大35%として法人の全財産から控除する。今秋にも最終案を示し2017年1月には決定。法人はそれを基に計算し、残額のある場合は17年6月末までに社会福祉充実計画をまとめる。
残額のある法人は、社会福祉事業や地域公益事業(無料または低額な料金によるもの)などを計画的に行うことが義務となる。「法人が使途を明確にしないままお金をためている」とする批判をかわすことが狙いだ。
残額は法人の全財産から事業継続に必要な最低限の財産(控除対象財産)を差し引いて導く。控除対象財産は三種類で構成。その一つが施設の建て替えや大規模修繕など再生産に必要な財産だ。
建て替えの場合、将来必要となる費用とそれに占める自己資金比率をどう見込むかがポイントになる。自己資金比率を高く見込むほどたくさん控除でき、残額は小さくなる。厚労省の素案は自己資金比率に上限を設け、控除額が過大にならないようにするものだ。
具体的には、現在の施設を建てた時(建設時)の自己資金比率が総費用の15%未満だった場合、建て替え時は一律15%として計算する。建設時に15~35%未満の場合、建て替え時はそれと同率とする。建設時に35%以上ならば、建て替え時は35%で固定する。
素案の自己資金比率は、福祉医療機構から資金を借り入れた施設のデータの平均値だ。施設種別(特別養護老人ホーム、児童養護施設など)によって異なる比率にはしない。
法人はこのほか不動産(土地、建物など)と運転資金(1カ月分の支出と事業未収金。介護、障害報酬は2カ月分)を控除できる。その上で残額がある場合、原則5年以内の計画を立てる。厚労省は計画の様式も示した。

子育て家庭を社会的に孤立させないために、何が必要?

ベネッセ 教育情報サイト 2016年8月12日

文部科学省が、家庭教育支援の推進方策を検討する有識者委員会を立ち上げました。同様の会議は2011(平成23)年にも設け、報告書もまとめていますが、今回はとりわけ、共働きや、経済的な問題などで、家庭生活に余裕のない保護者への対応も課題にしています。「子育て家庭を社会的に孤立させないために」(検討委の論点案)、何が必要なのでしょうか。

「ひとり親家庭」が抱える困難
家庭教育をめぐっては、2006(平成18)年12月、第1次安倍晋三内閣の下で教育基本法が改正され、家庭教育に関する規定が初めて盛り込まれました(第10条)。そこでは、子どもの教育について第一の責任を持つのは保護者であることを明確にしたうえで、国や地方自治体に対しても、家庭教育を支援するよう求めています。
しかし、法律で努力義務を課したからといって、家庭教育が劇的に改善されるということはあり得ません。一方で、この10年間、家庭をめぐる状況は複雑化・困難化しています。中でも深刻なのは、少なくない家庭に、貧困・格差の影が忍び寄っていることです。
厚生労働省の統計によると、2004(平成16)年に9.7%だった「三世代世帯」は13(同25)年に6.6%へと徐々に減少し、代わって「ひとり親と未婚の子のみの世帯」が6.0%から7.2%へと、増加傾向にあります。「夫婦と未婚の子のみの世帯」(32.7%→29.7%)や「夫婦のみの世帯」「単独世帯」(計45.3%→49.7%)に比べて小さいため、あまり目立たないかもしれませんが、実は、無視できない困難を抱えています。
厚労省によると、平均的な収入の半分以下で暮らしている「相対的貧困率」の割合は、2012(平成24)年で16.1%と、ほぼ6世帯に1世帯を占めていました。しかし、ひとり親世帯では54.6%と、2世帯に1世帯では済まなくなっています。生活に余裕がなければ、家庭教育に注意を向けるどころではありません。
一方、2014(平成26)年の厚労省委託調査によれば、「子育ての悩みを相談できる人がいる」と回答した母親が02(同14)年の73.8%から43.8%へ、「子どもを預けられる人がいる」が57.1%→27.8%、「子どもをしかってくれる人がいる」が46.6%→20.2%へと、いずれも激減しており、一般の家庭も含めて、子育てをめぐる地域社会のつながりが急速に希薄化している様子がうかがえます。そのしわ寄せを最も受けるのが、貧困家庭であることは、言うまでもありません。

積極的に手を差し伸べる支援が急務
7月に開かれた文科省検討委員会の初会合でも、これまでの家庭教育支援が、本当に支援を必要とする家庭に届いていなかった問題が、次々と指摘されました。
文科省も認めるとおり、家庭教育支援は、教育行政だけで行えるものではありません。民生・児童委員をはじめとした福祉分野はもとより、自治会やNPOとの連携が欠かせません。会合では、委員から、学校が困難を抱える家庭をキャッチする「貧困対策のプラットフォーム」(基盤)として、教員が外部と連携するだけでなく、たとえば地域の活動を学校施設で行うなどのアイデアが出されました。
家庭教育の講座を開設しても、本当に来てほしい家庭は、参加する余裕もないといいます。貧困対策でも、積極的に手を差し伸べる「アウトリーチ型」の支援が急務になっているのです。