帰る家ない「非行少年」を雇い続ける「職親」社長「きっかけさえあれば人は変われる

弁護士ドットコム 2016年10月1日

「少年院出身の子を雇ってくれる会社はなかなかない。でも、とびで手に職がつけば、どこででも食べていけるし、独立して社長になれるチャンスがある」。神奈川県横須賀市にある、とび職の会社「セリエコーポレーション」の岡本昌宏社長(41)は、少年院や児童相談所の出身者らを、仕事・住まい・身元引き受けの3点セットで雇用する「職親」活動を10年以上続けている。15人ほどいる従業員のうち、常時3人前後が、親に受け入れ拒否されるなど「帰る家のない子どもたち」だ。
法務省は、再犯防止などの観点から、刑務所や少年院などの退所・退院者の就職支援に力を入れているが、全国で約1万2600社が登録している「協力雇用主」(出所者らの採用を検討する企業)のうち、実際に雇用している企業は5%以下の約500社(2014年)。法務省は補助金を出すなどの対策を取っているが、就職先の確保は難しいのが現状だ。少年院出身者らを積極採用する企業でつくる、日本財団の「職親プロジェクト」にしても、東京エリアの参加企業は8社、全国で見ても約60社しかない(2016年6月1日現在)。
なぜ「非行少年」たちを雇い続けるのか。岡本社長は9月21日、東京・文京区であった講演会(主催:NPO法人タイガーマスク基金)で、「職親」にかける思いを語った。

「たまたま環境が悪く、染まってしまっただけ」
実は岡本社長も、かつて歌舞伎町でならした札付きの不良だったという。「10代では悪さばっかり。生きるか死ぬかのどん底でした」。そんな岡本社長を変えたのは妻との出会い。相手と釣り合う人間になろうと、19歳でとび職人になり、真面目に働いた。30歳で自分の会社を持ち、今では3児の父親だ。
岡本社長は、きっかけさえあれば人は変われると言う。「(入社して来る子どもたちは)みんな素直でかわいいんですよ。たまたま環境が悪くて、悪いように染まってしまっただけで」。岡本社長は「迷惑をかけた世の中への恩返し」と考え、のべ80の少年院や刑務所をめぐり、「とびにならないか」と語りかけてきた。これまでに1人が独立して社長になった。現在も2~3人の若者が独立を視野に入れて働いているという。
一方で岡本社長は、今のやり方に限界も感じているという。これまでに約50人を雇い入れて来たが、ほとんどが入社数カ月にもならないうちに辞めてしまったからだ。その都度、何が悪かったを考え、対策は取ってきた。怒鳴ることをやめ、無遅刻無欠勤なら給料を上げたり、スマホを買い与えたりと「アメ」も用意した。精神保健福祉士や寮母などのスタッフも増やした。
しかし、岡本社長のもとに来る社員は、18歳未満が大部分を占める。遊びたい盛りの子どもたちだけに、無断欠勤したり、昔の仲間のもとに帰ってしまったりすることは少なくない。中には警察の世話になった子や、テレビなど寮の備品を持ち出し、行方をくらませてしまった子もいる。加えて、とびの仕事は重労働。やる気があって入社して来ても、理想と現実のギャップに思い悩む例もある。

「なんとか成功事例を作って、社会の目が変われば」
岡本社長が必要だと考えるのは、子どもたちへの選択肢を増やすことだ。法務省の「協力雇用主」約1万2600社の半数は建設業だ。サービス・飲食業と合わせると、全体の約80%を占める。マッチングの観点でいけば、もっと幅広い業種の協力が不可欠だ。
そんな思いから岡本社長は今年7月、NPO法人「なんとかなる」を立ち上げた。本業のとび職での受け入れとは別に、地域や企業と連携して、少年院や児童相談所出身の若者たちに住まいと、とび以外の職場体験、学習支援などの提供を目指している。
まだまだ道は険しい。「(企業に協力をお願いしても)『良い取り組みをしてますね』と言ってくれるけど、一歩後ずさりしている。少年院、刑務所と言うと引いてしまうんです」。それでも、協力団体は徐々に増えているという。
岡本社長は「なんとか成功事例を作って、『ああいう子たちでも頑張れるんだ』という風に、社会の目が変わってくれればと思っています」と柔和な笑顔で話していた。

マイノリティを知ることは多様性を持つことである~マイノリティの発信を続けるサイト~

中山祐次郎 一介の外科医 2016年10月1日

先日ブラジルで閉幕したリオオリンピック・パラリンピックでは、公開プロポーズが立て続けにあったという報道がありました。そしてその多くは同性婚だったことも、世界を驚かせました。人口の約7割がカトリック教徒であるブラジル。カトリックでは原則的に同性愛に否定的ですが、それでもブラジルでは2013年に同性婚が事実上認められたそうです。
この報道は、同性婚のみならず、あらゆるマイノリティについて考える良いきっかけだと筆者は考えます。ますます多様性が増す世界で、均一さの高い日本がこれからどう世界の潮流についていくのか。
その答えの一つに筆者は「マイノリティへの理解」があると考えています。マイノリティと一言で言っても色々あります。性的マイノリティである同性愛や、目が見えないなどの障害、犯罪の被害者、外国人であることなど・・・
これらのマイノリティを理解するためには、まずマイノリティーについて「知る」ことが最も大切です。同性愛者の友人がいたら、同性婚への理解も進むと思いませんか。
そこで本記事では、他メディアとは違った記事を載せていることで、今静かな話題を呼んでいるサイトをご紹介します。このsoar(ソア)というサイトから、いくつか記事をご紹介しましょう。

「円形脱毛症」という病名、一度は聞いたことがあると思います。名前の有名さの割にはあまり知られていませんが、実はこの病気って難病なのです。病気自体は約2000年前からその存在を指摘されており、アメリカでは人口の0.1%もいて日本でも同程度いると思われる、髪の毛が抜けてしまう病気です。その原因は未だにはっきりしておらず、一般にストレスが関与していると言われますが、ストレスの関連のない患者さんも多く、自己免疫が関与しているのではと専門家の間では議論されています。どんな年齢でもどんな人種も男女問わず起こる病気で、私にとってもこの記事をお読みの方も他人事ではありません。
命には関わりませんが、「髪の毛が抜ける」という症状の特性上、人前に出づらくなったり学校や会社に行けなくなったりと、QOL(Quality of Life; 生活の質)を大きく下げる病気です。
そんな病気になってしまった角田真住(つのだ・ますみ)さん。二児の母のときに円形脱毛症を発症し、「髪の毛がない経験が生かせることがあるんじゃないか」とビジネススクールに通い考えた結果、肌に優しいスカーフを作る会社を立ち上げました。そしてクラウドファンディングでの達成を経て、現在「世界一優しいスカーフ」を販売中とのことです。
筆者はがんの治療を専門とする医師ですから、抗がん剤により脱毛になった患者さんにお会いすることがよくあります。女性に多いのですが、脱毛により「家の外に出られない」「人に会えない」と社会活動が制限されてしまうことも・・・。しかしこんなスカーフがあれば、少しはそういう方の気持ちも上がるのではないかと思うのです。しかも高額になりがちなウィッグよりも手に入れやすい値段であれば、とても便利ですよね。

ネット夜回りで若者の自殺予防を
ネットを使ったいわゆる「夜回り」で、若者の自殺予防を試みているサイトがあります。
あまり知られていませんが、日本人の20歳代、30歳代の死因の第一位は病気や怪我ではなく「自殺」なのです(厚生労働省ホームページより)。
その若い人の自殺に対して、ネットでアプローチをする「OVA(オーヴァ)」というサイト。その手法とは、自殺に関連した用語を検索した人がOVAのサイトにすぐアクセスすることが出来る、検索連動型広告でした。
この世から消えてしまいたいという理由はなんにせよ、おそらく周りに相談できる人もおらず、やむにやまれず「死にたい」と検索するのでしょう。この圧倒的なマイノリティであり孤独を救うことが出来るかもしれない、そんなサービスです。
このsoarというサイトには、他にも「大人の発達障害」や「犯罪の被害者」、「大切な人を喪った人」や「難病や病気で苦しむ人」などというマイノリティに光を当て、支援をしている人たちに取材しています。

soarを始めた人へインタビュー
筆者は、このsoarを始めた工藤瑞穂さんにインタビューを行いました。

Q. なぜこのようなメディアを始めたのですか?
A. 私は幼少期から野口英世の伝記が好きで、弱い立場の人をサポートしたいという思いがありました。そして大人になり、身近な人が統合失調症を発症し戸惑ったことがあり、もし病気が進む前にプラスになるような情報を手に入れていたら、今よりもいい対処ができたかもしれないと思ったことがあります。

例えば身近な人が病気になったり障害があるとわかった時、いい情報が必要な人のもとに届いていないことが多い。そして情報があってもネガティブな描き方が多く、希望の持てる情報が少ないのです。私は埋もれている素晴らしい情報を届けたいと思い、soarを作りました。しかも明るくおしゃれなデザインで、ポジティブに発信したかったのです。

Q. なぜマイノリティの方に注目したのですか?
A. マイノリティの方々は「かわいそうだな」と思われがちですが、実際お会いするとパワフルで生命力に溢れている方が多い。そのエネルギーや真摯なあり方に、私も自らの生き方を問われるほどです。
私たちsoarは、社会的マイノリティの定義とは「人は生まれながらに自分のなかに力や可能性を持っているのに、環境や外的要因のせいでそれが発揮できない状況にいる人」だと考えています。たまたまいい情報やツール、活動に出会えなかっただけで弱い立場になった人もいます

Q. soarという名前の由来を教えて下さい。
A. soarは、「鳥が空高く羽ばたく、気持ちが高揚する」という意味です。誰もが鳥が羽ばたいて空を飛び回るように生きてほしいという願いを込めて、この名前をつけました。

Q. soarを始めてから、どんな反響がありましたか?
A. 記事を読んで、実際に行動が変わったという方がいらっしゃいました。たとえば家族を亡くされた方がずっと苦しんでいらして、soarのグリーフケアの記事を読んでグリーフケアのワークショップに行かれたり、双極性障害などの記事を読んで、「もしかしたら」と思い病院に行ったらその診断がついたりということもあったそうです。
他にも、スクールカウンセラーやセラピスト、福祉関係者など、大切な仕事をしているのに普段あまり注目されにくい職業の方にスポットライトを当てた記事を、他の同業の方が喜んで読んで下さっています。

Q. 今後はどんな記事を載せる予定ですか?
A. うつやLGBTは世間でよく認知されているので記事も読まれるのですが、もっと知られていない病気や障害、そして今あまり課題感を持たれず「盲点」になっているような分野を取り上げたいと思います。たとえば親御さんがうつ病であるお子さんや、自死遺族のご家族などです。
記事のスタイルとしては、「インタビュアーとインタビューイが話しているのをそっと覗いているような」親近感のある記事を作りたいと思っています。マイノリティについて「知ってもらう」というよりは、「友達になる」という感じがいい。偏見や差別はなかなか無くせないけれど、友達になれば決して他人事ではなくなり、自分のこととして考えられると思うんです。

Q. 今後の展開は?
A. 「教育」にもチャレンジしたい思っています。soarの記事に登場した方に小学校で一緒に講演してもらうなど、小さいうちから多様性に触れることの大切さを考えています。先日も、教職員向けにLGBT当事者の方に講演していただきました。また、企業と一緒に「働き方」について考えたい。働き方が影響してうつや病気を発症する方は多いですから。「どうすれば誰もが働きやすい職場をつくれるのか」を企業と一緒に模索するというプロジェクトも行っています。
マイノリティについてまずその存在を知り、どんな人がいるのか、どういう状況なのかを知ることから、多様性は始まります。一度、ご覧になってマイノリティについて考えてみませんか。

なぜ広がらない?「特別養子縁組」のあり方

日本テレビ系(NNN) 2016年9月30日

中央大学法科大学院・野村修也教授が解説する「会議のミカタ」。30日のテーマは「特別養子縁組のあり方」。
「約4万6000人」―これは、実親からの虐待や経済的な理由で親元を離れ、児童養護施設などで暮らす子どもの数だ。こうした子どもたちのために、ある検討会が開かれた。
今年5月、施設で暮らす子どもたちがより家庭と同じ環境で育てられるべきとして、児童福祉法の一部が改正されたことを受け、厚生労働省で今週、血縁関係のない夫婦と親子関係を結ぶ「特別養子縁組制度」の促進などが議論された。施設で暮らす子どもたちにとってよりよい受け皿となることが期待されている。

そもそも、特別養子縁組はどんな制度なのか。
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」がある。普通養子縁組の場合、対象となる子どもの年齢制限はない。相続権などは残るので完全に親子関係がなくなるわけではない。戸籍上では「養子」「養女」と記載される。
一方、特別養子縁組の場合、対象は原則6歳未満の子どもと制限されている。実親との関係は完全に断ちきり、養親は法的に実の親子と同じ関係になる。戸籍には「長男」「長女」などと書かれ、法的な権利は実の子どもと変わらない。
普通養子縁組の場合は、養親の側からも離縁を申し出ることができるが、特別養子縁組の場合、養親からの離縁は認められない。
特別養子縁組を申し込むには、まず都道府県にある児童相談所や民間のマッチング事業者に相談する。最終的には裁判所が審判する。
通常は、施設で暮らす子どもを一定期間養育する「里親」となった後で、特別養子縁組をする。しかし、愛知県では新生児を生まれた直後から特別養子縁組を希望する里親に引き渡す「赤ちゃん縁組」という制度を活用している。
望まない妊娠をした女性などが出産前から養子として出す考えがあり、他に方法がない場合、赤ちゃんは退院と同時に里親の元に引き取られるというもので、「愛知方式」と呼ばれている。

特別養子縁組は、年間で何件成立しているのか。
ここ数年、不妊などの理由で特別養子縁組を希望する人は増えてはいるが、2015年度に成立した特別養子縁組の数は544件にすぎない。

希望者が増えているのに、なぜあまり広まらないのか。
最大の理由は実親の同意が得られないことだ。特別養子縁組は実親と子どもとの縁を完全に断ち切るので、原則、実親の同意が必要となる。
しかし、自分で育てることはできないにせよ、親子の縁は切りたくないと拒否するケースや、そもそも連絡が取れないケースもあって、成立に至らないといったことが多くある。

解決策はあるのか。
ポイントは「裁判所の役割」。実親の中には、実の子どもと縁を切ることを拒みながら、育児放棄してしまうといったケースも少なくない。このような場合、児童相談所が親を指導することになるが、それではなかなか解決しない。
そこで特別養子縁組を推進したいと考えるならば、裁判所がどう関わっていくべきなのかということが問題となる。原則は「実親の同意」が必要だが、例外的に裁判所の判断で特別養子縁組を認める制度が存在している。その要件をどこまで広げていくのかということが課題になってくるだろう。