「産む人」「育てる人」の分業は定着するか…注目集まる「特別養子縁組」制度

弁護士ドットコム 2016年10月9日

思いがけない妊娠などが理由で、実の親が育てられない赤ちゃんを養父母が「実の子」として育てる「特別養子縁組」制度が注目されている。厚生労働省によれば、2014年度中に虐待で亡くなったと確認された18歳未満の子どもは71人。0歳児は27人と6割を超え、その内の15人は、生後24時間以内に死亡していた。
子どもたちを救い、育てていくために、私たち社会はどんな対応をするべきなのか。
女性や子どもの問題を長年、取材してきたルポライターの樋田敦子さんは、「乳幼児虐待や虐待死を防ぐためのセーフティネット」として、「特別養子縁組」制度を活用すべきだという。特別養子縁組制度はどうあるべきなのか。樋田さんが寄稿した。

「産む人、育てる人という分業の時代が来ている」
警察庁の発表によると、今年上半期(1~6月)に、虐待の疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した児童数は2万4511人で、過去最多を記録した。これは前年同時期に比べ42%増。国民に虐待の通報が徹底してきたとはいえ、日本には社会的養護が必要な子どもは、約4万6000人もいる。
一般的にこうした子どもたちは、乳児院や児童養護施設など、施設や里親のもとで育てられる仕組みになっている。平成27年の厚生労働省の調査では、社会的養護を必要とする子どもの約85%が乳児院や養護施設で育っており、里親やファミリーホームで暮らす子どもは、わずか15%なのである。
乳児院や児童養護施設では、職員の交替などで、子どもとの1対1の関係が築きにくく、できるだけ早い時期に親子の愛着関係を形成するためにも、早い時期からの里親委託や養子縁組が望ましいとされている。
現在、里親ファミリーホーム(小規模住居型児童養育事業)『ひろせホーム』(千葉県)を運営している廣瀬タカ子さんは「産む人、育てる人という分業の時代が来ていると思う。少しでも虐待をなくし、子どもたちの命を守るためにも児童相談所と施設、里親、養子縁組の制度の拡充をしていかなければいけない」と話す。廣瀬さんは、乳児の緊急保護に対応して約30年間里親を続けてきた。
今年5月に改正された児童福祉法は(来年4月施行)、原則として施設ではなく、里親などの家庭養育で育てられることが望ましいとし、厚生労働省は、15年間で家庭での養育を3分の1まで増やしていく方針だ。

「特別養子縁組」とは?
その中で注目されているのが、「特別養子縁組」だ。思いがけない妊娠をして中絶したり、貧困で子どもが育てられない、などの理由で、乳幼児虐待や虐待死を防ぐためのセーフティネットとして今後推進が期待されている。
おさらいしておこう。特別養子縁組は、養親と養子の契約によって成立する「普通養子縁組」とは違い、国(家庭裁判所)が養親と養子を「親子とする」という審判によって成立する。実親が親権を放棄して、親子関係が消滅するのが条件。
また養親は法律婚をしている夫婦で、おおむね25歳以上の者。子どもは、6歳未満。ただし6歳以前から同居している場合は8歳未満であれば養子縁組を申し立てられる。縁組の成立要件としては、実の両親による監護が、虐待や育児放棄により著しく困難であるなど、要保護要件が必要で、6か月以上、養親が養育していることなど、細かい要件が規定されている。
生まれたときに実親の監護が望めないならば、乳幼児のときから養親のもとで育てられれば、子どもにとって最善だと誰もが思うだろう。しかし前述の通り、日本では大半の子どもがいまだに施設で暮らし、残りの15%前後が里親委託。特別養子縁組につながるのは、わずか1%なのだ。
対して、児童福祉先進国のオーストラリアでは、施設にいる子の90%以上が養子縁組されている。オーストラリア以外の海外でも同様で、子どもの代替養育は、特別養子縁組や里親家庭でというのが主流なのだ。

先駆的だった「愛知方式」
特別養子縁組は、児童相談所を通す場合と民間の団体を通して行なわれる場合と二通りの方法がある。前者は、養子縁組を前提とした里親登録をする必要がある。ただしそのほとんどが幼児になってからのケースで、新生児や乳児の里親委託はほとんどない。
例外として愛知県の児童相談所が1982年から、新生児の養子縁組を行ってきた。妊娠中から子どもが育てられないという女性たちの相談にのり養親を探す「赤ちゃん縁組」を進めてきたのだ。すでに2013年までに10の児童相談所で171人以上が赤ちゃん縁組を行なっている。
残念ながら、赤ちゃん縁組という方法は、愛知県以外ではあまり定着しておらず、東京都の場合、2012年に乳児院に措置された0歳児は18人だったが、里親に委託された0歳児は、わずかに2人だった。虐待への対応に追われる児童相談所は、養子縁組まで手を回らない現状が見える。それでも名古屋市、福岡市、大分県、和歌山県でも徐々に始まりつつある。
また、厚労省児童家庭局によると、後者の民間団体はこれまで22団体が設立されている(2015年10月時点)。自治体に第2種社会福祉事業として届を出すことになっていて、あっせんの際には、交通費などの実費も含めて約100~200万円を養親から受け取るケースが多い。
日本での特別養子縁組は、司法統計によると、ここ十数年、年間300~400件にとどまっていたが、2014年にやっと513件に増加、2015年は544件だった。
特別養子縁組が進まない理由について、養子縁組のあっせんをする一般社団法人『ベアホープ』の代表理事、ロング朋子さんは次のように分析する。
「第1の理由は、日本人が血縁を重んじる傾向にあるということです。自分とは血がつながらない子どもをあえて育てようとしないこと。第2に特別養子縁組の制度が知られていないこともあって、浸透してこなかったのだと思います。
また特別養子縁組の場合、どんな子ども、障がいや病気があってもそれを受け入れて育てることが必要になりますが、やはりその覚悟ができていない養親さんも多く、スムーズには進みません。進まない多くの理由は大人側の理由なのです」
ロングさんの団体でも相談を受けるが、家庭訪問や面接、個別指導などの研修を経て実際に養子縁組につなげられたのは2年間で30組ほどにとどまる。

「養子縁組が不妊治療の代替法」なのも問題
2016年、日本財団が実施した調査によると、特別養子縁組を認知している人は、45.9%、里親を知っていた人は58.0%となっていて、半数近くの人が、その制度や役割を理解していないという現状がある。
「さらに、養子縁組が不妊治療の代替法としか考えられていない点にも問題があります。海外のように、養子を迎えた側も本人も幸せそうな状況を見て、私も養子がほしい。実子もいるけれど養子もほしいとなれば、特別養子縁組は進んでいくのではないかと思います」(ロングさん)
来年の施行(改正児童福祉法)に向け、さまざまな動きもみられる。
兵庫県は思いがけない妊娠で生まれた新生児を里親委託する事業を始める。試験養育後、家庭裁判所が認めれば特別養子縁組させる方針だ。医療機関や母子保健センターで出産をためらう妊婦を見つけ児童相談所につなぐ方法をとるのだという。
一方で、今年9月、千葉県の特別養子縁組をあっせんする民間団体が、全国で初めて、事業停止命令を受けたと報じられた。同団体は、金銭を支払えば優先的にあっせんすると東京都の夫婦に伝え、実費よりも多い費用225万円を受け取った。また、実母の最終的な意向を確認せずに、乳児をこの夫婦に引き渡していた。
児童福祉法では、営利目的でのあっせんを禁止しているほか、厚労省も、金品の支払いを優先条件にすることを認めていない。
このような事態を防ぐためにも、法整備を含めた養子縁組あっせんの適正なルールづくりも必要だ。妊婦の時からの支援、出産、養子縁組まで、そしてその後まで支える仕組みを構築していければ、虐待で命を落とす子どもを救うことができるだろう。

「育休退園」で詰む親たち 2人目が産めない、働けない

BuzzFeed Japan 2016年10月8日

<育児休業をとると保育園は退園? 妻が行政から「女は働くな」と言われました>
インターネット上で、こんなブログの投稿が話題になっている。【BuzzFeed Japan / 小林明子】

ダブル可愛い!遊び心満点な双子ちゃん寝相アート
筆者のブログにはこの投稿1本だけしかないが、2人の子どもの父親が書いたとみられる。もうすぐ3歳になる第1子は、今年4月から「市内の保育園」に預けている。3週間前に第2子が生まれたばかりで、妻は産休中のようだ。
ブログでは、ことの始まりを次のように記している。
<市役所から突然電話がきた。
「現在、市内の保育園に通われているお子さまですが、現在産休中のお母さまがこのまま育児休業に入り職場に復帰しないということですと、今年の11月11日で退園して頂きますので、その確認のお電話です。」
という内容。
そんな話は事前に説明されたこともないし容認するどころか意味が分からない>
この記述からして、昨年、問題になった「育休退園」と同様の状況とみられる。
下の子の育休に入ると、上の子は退園しなければならない
保育園に子どもを預けて働いている親でも、下の子が生まれて育児休業を取るのであれば、その期間は親が面倒をみられるという考え方のもと、上の子は保育園を退園するというルールが「育休退園」だ。
昨年、埼玉県所沢市の保護者らが、「育休退園」の運用の差し止めを求めて市を提訴。その後、再入園が叶うなどして全員が訴えを取り下げたが、「育休退園」の制度は続いている。
「家庭での保育が可能な子に一旦退園していただくことで、現に就労等により保育が必要で入園を待っている子が入園できるようになります」(所沢市の平成29年度 入園のしおり)
保育園に子どもを預けることができないがために、働けない人たちがいる。公平性を考慮した結果、「育休退園」の制度をもうける自治体がある。一方で、静岡市、熊本市など「育休退園」を廃止する動きもある。

「育休退園」の何が問題なのか
いったん上の子が退園すると、いざ復職するときにまた預け先を探さなければならない。前述のブログには、こう書かれている。
<退園したあと次年度にまた同じ保育園に入所できる保証もない。それどころか年齢枠を考えると地域内の保育園そのものに入所できる可能性は低い。ましてや市内の待機児童の数を考えれば姉弟ふたりが同じ保育園に同時に入所できる可能性が絶望的なことは誰でも分かる>
<「それならば産休後に育休を取らずにすぐに仕事復帰すれば強制退園させられないのか?」と聞くと、「その通りです。退園を免れるにはそれ以外の方法はありません。」というわけである>
筆者は、市がいう「期限」である産休明けの時点で妻が職場復帰することについて、産後2カ月で体調が心配なこと、今年度中は育休の代替要員がいること、そもそも年度途中に生後わずか2カ月の下の子の預け先が見つかるはずがないことをあげ、こう嘆いている。
<預けるところがないのに職場に復帰をしろ。
復帰できないならば上の子は保育園を退園して家でみろ。
…基本的に選択肢がない。
仕事をやめて保育園もやめるしかない。
なんだこりゃ?
これはいったいどういう「一億総活躍社会」なのか説明してくれ総理大臣。
大袈裟なタイトルかもしれないが、これでは「女は働くな」と行政から正式に言われているのとなんら変わらないのである>
筆者は匿名だが、東京都国分寺市に住んでいると書いてある。BuzzFeed Newsは、国分寺市子ども子育てサービス課の入園相談担当に取材した。

「育休退園」をめぐって、市の対応を批判するブログがありますが
「このブログを書いた方かどうかはわかりませんが、このような事例があることは事実です」
「もともと保育園は、子どもを預けなければ働けない人のための施設だと認識しています」

「育休退園」について説明は十分にしているのでしょうか
「保育園の入所案内に明記していますし、利用決定通知(保育園が内定したときに保護者に送られる文書)にも書いてあります」

親同士の対立構造でいいのか
自治体が「育休退園」のルールを設けると、結局、「保育園にまだ子どもを預けられていない人」と「預けているが退園させられる人」による、定員枠の奪い合いの構図になってしまう。
厚生労働省が導入の方針を固めた「入園予約制」も、「年度初めに預けられない人」のために年度途中の入園予約枠を確保する制度だ。しかし、ただでさえ足りていない定員枠を空けたままにしておけるのか、と賛否がある。
そもそも「育休退園」も「入園予約制」も、育児休業を取ることができる会社員を対象にした制度。「正社員」「非正規」「自営業」「求職中」といった、雇用形態による「預けやすさヒエラルキー」ができてしまっている。
保育園を必要としている親たちが、「保活」という情報戦を繰り広げ、他人を蹴落とさなければならないほど、保育園や保育士が足りていない。その実情が最も問題なのに、親たちは自治体がつくるルールに自分の状況をあてはめて、有利だ不利だと一喜一憂するしかないのだ。

ブログの筆者は、こうも書いている。
<今回の件にはさまざまな賛否があるだろうと思う。
逆の立場である他の子が今回のうちのケースのように中途退園をさせられ、その玉突きでうちの子の中途入所できてめでたく職場復帰できることになったのだとしたらきっととてもありがたく思っただろうし喜んだと思う。
対岸の火事のようなもの。
その子がかわいそうであってもそんなルールは容認できるはすがないと陳述書を書くことなどまずない。
そう考えると結局は俺は自分がかわいい醜い考え方の人間のひとりなんだなと悲しくもなった>
2016年4月時点の待機児童数は、全国で2万3553人だった。来年4月の入園に向けた2017年度の申し込みは、すでに始まっている自治体もある。

<顕微授精>子も精子に問題…濃度薄く不活発 ベルギー調査

毎日新聞 2016年10月9日

不妊に悩む男性の精子を卵子の細胞質に直接注入する顕微授精で誕生した男児は、成長しても一般男性より精子濃度が大幅に薄かったり、運動している精子の数が少なかったりする傾向があるとの調査結果を、ベルギーの研究チームが英科学誌ヒューマン・リプロダクションに発表した。1992年に始まった顕微授精で生まれた子どもたちは近年、世界で成人期を迎えているが、男性不妊の原因が次世代に引き継がれることが確認されたのは初めて。
今回成果を報告したブリュッセル自由大学病院は世界で初めて顕微授精での妊娠・出産に成功し、生まれた子どもたちを追跡調査している。今年4月までの3年間、顕微授精で生まれた18~22歳の男性54人のデータを、自然妊娠で生まれた同世代の男性57人と比較。その結果、精子濃度や運動する精子数が全体として半分程度と低く、世界保健機関(WHO)が定める基準値を下回る人が通常の3~4倍に上った。ただ、それぞれの父親の精子の数や運動の程度とは違う点もみられた。
日本では94年に出産例が初めて報告され、近年は男性不妊に限らず受精率を高める目的でも広く実施されている。日本産科婦人科学会によると、年間14万件以上が実施され、2014年までに計9万6000人が誕生している。厚生労働省の研究班が子どもの健康を調べているが、精子の状態は追跡調査されていない。
日産婦元理事長で生殖補助医療に詳しい吉村泰典・慶応大名誉教授(生殖医学)は「顕微授精で男性不妊が次世代の男児に伝わる可能性は遺伝子の研究から予想されていたが、データで確かめられたことは極めて重要だ。彼らが子どもをもてるかどうかが問われ、今後、顕微授精の実施時には十分な説明が求められる」と指摘している。【千葉紀和】

「残業100時間で過労死情けない」武蔵野大学教授のコメントに非難殺到 「考慮が欠けていました」と謝罪

ねとらぼ 2016年10月9日

「残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない」――武蔵野大学・長谷川秀夫教授がインターネットに投稿したコメントが炎上していた件で、長谷川教授は10月8日、「私のコメントで皆様に不快な思いをさせてしまい申しわけございません」との謝罪文を掲載しました。
コメントはニュース共有サービス「NewsPicks」と自身のFacebookに投稿されたもの。電通社員の過労自殺が労災認定されたのを受け、「自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」「自分で起業した人は、それこそ寝袋を会社に持ち込んで、仕事に打ち込んだ時期があるはず」など持論を展開していました。
これに対し、ネットでは「友人が鬱で死にかけたのを見てきた人間としては、憤りを感じる」「この国の少なくない老人が同様のことを考えてる、と思うとゾッとする」など批判が殺到。長谷川教授は後にコメントを削除し、「言葉の選び方が乱暴で済みませんでした」「とてもつらい長時間労働を乗り切らないと、会社が危なくなる自分の過去の経験のみで判断し、今の時代にその働き方が今の時代に適合かの考慮が欠けていました」と謝罪のコメントをあらためてNewsPicksに投稿しました。
発端となった電通社員の自殺をめぐっては、自殺直前の1カ月あたり残業時間が105時間を越えていたとして、厚生労働省が労災と認定。また10月7日には厚生労働省が初の「過労死白書」を公開、世界でも初の試みとして注目を集めました。