法医学的に虐待を判断

紀伊民報 2016年11月25日

児童が虐待を受けたかどうか判断が難しいケースについて、和歌山県立医科大(和歌山市)が児童相談所(児相)に協力し傷やあざから法医学的に診断する取り組みをしている。昨年8月から今年10月までに8児童の相談があり、いずれも虐待の疑いを指摘、児相の積極的な介入や保護につなげたという。法医学博士の近藤稔和教授は「虐待抑止につなげ、不幸な子どもを減らしたい」と話している。
県の児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数は増加傾向にある。しかし、虐待が疑われても保護者が事故を主張すれば、児相がどこまで介入すべきかの判断が難しいケースがある。児相は原則、小児科から保護者の話と食い違いがないかなど意見を聞いている。その上で必要に応じて整形外科などにもかかっていた。昨夏からはこれに加え、傷が重篤な場合や判断が難しいケースなどについて法医学的な意見も取り入れることにした。
将来的には「小児科医師とチームをつくり、虐待の可能性を診断する仕組みが理想」という。一方で、法医学は遺体の司法解剖というイメージが強く、虐待防止に積極的に取り組んでいることは小児科医師にも浸透していないといい「認知度を上げ、小児科からも気軽に相談してもらえるようにしたい」としている。

増える虐待、防止へ周囲が目配りを 兆候あれば児童相談所に通告

福井新聞ONLINE 2016年11月24日

子どもが虐待によって死に至る事件が続いている。ひどいあざがある、家に帰りたがらない、泣き声や怒鳴り声が聞こえる-。福井県総合福祉相談所(福井市)にも、虐待が疑われる子どもたちに関する相談が連日寄せられている。11月の「児童虐待防止推進月間」に合わせ、虐待の定義や現状を調べた。虐待の防止には親族や近所、学校など周囲の目配りも重要になっている。

生命や発達に影響
ニュースでしばしば耳にする「児童相談所」の役割を、福井県では県総合福祉相談所と敦賀児童相談所(敦賀市)が担う。県外では相談所の職員「児童福祉司」を一般の行政職員が務めることもあるが、福井県では大学などで知識を身につけた専門職員が担当。虐待の情報が寄せられる(通告)と学校や保育所、家庭訪問などを通じて子どもの様子を調べる(対応)があり「生命や成長、発達に影響がある」と判断した場合は一時保護や助言指導などを行う(介入)。
虐待には▽殴ったり蹴ったりする「身体的」▽言葉や行為で心を傷つける「心理的」▽家に1人で放置したり、食事を与えない「育児放棄(ネグレクト)」▽体を触ったり性行為を強要する「性的」-の4種類がある。「激しい暴行などのイメージがあるかもしれませんが、要は『子どもとの不適切な関わり』のことなんです」と同福祉相談所の白崎俊一郎次長は説明する。

昨年度353件
昨年度、両相談所が対応した県内の事例は353件。最も多かった身体的虐待は171件、続いて心理的が99件、ネグレクトが78件、性的が5件あった。虐待者の割合は実母が一番多く52・1%で、実父が38・2%、実父以外の父が6・2%だった。
身体的虐待はあざや傷、やけどなど目に見える証拠があるため気付きやすい。骨折などの大けがをしている場合もあり早急な対応が求められる。
心理的虐待は「死んでしまえ」などの暴言を吐く、きょうだいで対応を変えるといった形で外には見えづらい。子どもの前で家族が暴力をふるう「面前DV」も近年含まれるようになり、件数が増えてきた。ほかの虐待もあることがほとんどで、子どもが家に帰りたがらない、親を怖がる、表情が乏しい―などの兆候が出やすい。
ネグレクトは食事を与えない、予防接種を受けさせない、家の中がごみだらけ―など。子どもがひどい虫歯だったり、体や衣服が汚いことが多い。性的虐待では女の子が対象になることが多く、なかなか被害が表に出にくい。

貧困や孤独から
虐待の背後には、親の貧困や、親同士で相談する相手がおらず孤独などの要因があるという。また虐待を受けていた子どものうち3割で、親になってから子どもに虐待してしまう「連鎖」が起こっているとされる。白崎次長は「虐待防止の基本は子育て支援。貧困対策や相談体制の充実を図ることが重要」と話す。
親族や近所、保育所、学校など周囲の目も大切だ。昨年度県内で対応した虐待のうち、市町の福祉事務所(学校や保育所からの情報も含む)からが最も多い83件(23・5%)、近所や知人からが43件(12・2%)だった。▽ひどい泣き声や怒鳴り声、不審な物音が聞こえる▽暗くなっても家に入れずうろついている子がいる-といった状況が続く場合、相談所に通告しなければならないと法律で決められている。

医者が患者さんにカルテを見せたくない理由 医師の本音

中山祐次郎 一介の外科医 2016年11月26日

寒い冬がやってきました。11月なのに雪が降ったり、インフルエンザの流行が早くも始まったりと、なにかと体調を崩しやすい季節です。
さて、皆さんは一度は病院にかかったことはあると思います。そこで医者やナースが書いている「カルテ」ってあんまり見せてくれませんよね。「あのカルテにはいったいどんなことが書いてあるんだろう」と思ったことはありませんか?もし患者さんが自由に自分のカルテを見ることが出来るようになったら、どうなのでしょう。医者であり毎日カルテを実際に書いている筆者が、ちょっと本音をお話しましょう。休日の退屈しのぎに、またほんのちょっとした雑学にどうぞ。
カルテは、日本語では正式には「診療録」と言います。医師などが診療した内容を記録するもの、という意味ですね。「カルテ」という言葉はもともとドイツ語のkarte(紙)という言葉が語源になっているそうです。英語のcardと同じですね。
筆者は病院の外科に勤める勤務医ですから、病院でカルテを毎日書いています。しかし、患者さんには特別な開示の請求があったときを除いて、基本的にはお見せしていません。病状の説明の時にCT検査やレントゲン、採血検査など検査結果をお見せする時だけです。
しかし、カルテに書かれている内容はあくまで患者さんのこと。患者さんからしてみれば、「自分のことが書かれているのになぜ見ることが出来ないのだ」という疑問が浮かびます。筆者はそういう疑問の声を耳にしたため、この記事を書くことを思いつきました。

カルテは暗号だらけ
実は、カルテは暗号だらけです。筆者が医学部生で初めて病院で実習をすることになりカルテを読んだ時には、書いてある内容の半分も理解が出来ませんでした。ですから一般の方が読んでも、理解出来るのは同じくらいだろうと思います。とにかく略語が多く、その略語も科によって全く違うものです。
一例をあげましょう。「MR」という略語、これは精神科医や小児科医には精神発達遅滞(Mental Retardation)、放射線科医にはMRIという検査の略、循環器内科医には僧帽弁閉鎖不全症(Mitral R egurgitation)、そして全医師に共通して製薬会社の医療情報担当者(Medical Representative)などといろいろな意味を持ちます。
筆者はしばしば他の科の医師が書いたカルテを見ることがありますが、同じ外科であればまだ意味は通じますが他の科だと略語でわからないことが良くあります。

カルテは多国籍料理
そして例に挙げたように、使われる単語は英語だけではありません。我々外科医は好んでドイツ語(もどき)を使います。ですから、英語やドイツ語に堪能な方がカルテを見てもやっぱり意味は通じないことになります。
筆者は大学時代に臓器の名前などをドイツ語とラテン語でも暗記しましたが、それでも医者になってから外科医のカルテは難解でした。例えばキズから膿が出ていることを「pus+」や「eiter+」などと書きます。どちらも膿という意味で、「+」は「ある」とか「陽性」とかいう意味になります。おそらくこれは外科医以外の医師は知らないと思います。
そして恐るべきことは、英語とドイツ語のドッキングした和製英独語?のようなものも多々あるということ。「マーゲンチューブ」という単語がその最たるもので、「マーゲン」は胃、「チューブ」はそのままチューブという意味です。直訳すると「胃のチューブ」で、これは鼻から胃まで入れておくチューブのことを指します。日本語では正確には「経鼻胃管」、英語では「nasal tube」などと言います。

今はIT化でカルテも読みやすい
昔は「医師の悪筆」と言って、字が汚すぎて指示が間違って看護師さんに伝わったりすることも多々ありました。今でもたまに古いカルテを取り出して読むと、「解読」に時間を要することがあります。
最近はカルテと言っても、「電子カルテ」という医師がパソコンに入力していくものがかなり普及してきました。以前の紙に書いていたカルテは「紙カルテ」と言いまして、たまに「電子カルテ」しか知らない世代の若い医師のために、災害時などでサーバーがダウンした時の訓練として「紙カルテ」講習があるくらいです。
今では電子カルテのおかげで誰が入力しても大変読みやすくなっています。ご高齢の医師が、両手の人差し指1本ずつでぽち、ぽちとキーボードを叩いているのを見ると切なくなりますが。

電子カルテには書くお作法がある
電子カルテには、書くお作法が存在します。SOAPという方法で、こんな具合です。
S 今日はだいぶ調子がいい。食欲も出てきた。歩く練習もしてみます。
O BT 36.5度 HR 70 BP 130/74 食事8割摂取 排便1回
A 術後の経過は良好。食事摂取の量も安定してきた。
P リハビリ継続。点滴は終了とする。
これは日本全国どこへ行っても同じで、大きい病院などではかなり普及しています。
S(Subject)は患者さんが実際に言ったこと、O(Objective)は体温や血圧のような客観的なデータ、A(Assessment)は評価、P(Plan)は計画です。
このシステムで、一見複雑な絡み合った患者さんにまつわるデータをバラバラにし、見やすくするのです。これは読みやすいですよね。

カルテは単なる記録ではない
以上見てきたように、カルテには難解な用語が多数出現し、同じ医師であっても専門が違えば理解出来ないようなことになっています。それではあまり良くないので、なるべく略語や自分たちにしか通じない用語は使わないようにということになっています。カルテは診療の記録をつけ、時に見返して患者さんの治療の検討に使ったりするというものであると同時に、公的な文書という側面も持ちます。医療事故や医療ミスが起きた際には、証拠として使われるのです。

カルテはなぜ開示されない?
ここで一つの疑問が生じます。「治療をしながら、患者さんも自分のカルテにアクセスしてリアルタイムに見ることは不可能か」という疑問です。リアルタイムでなくても、外来通院ならば3回に1回、入院中ならば1週間に1回お見せしても良いのではないか、とも考えられます。
これが現在行われていない理由を考えると、この3つが考えられます。
1, カルテだけをお見せしても意味不明だから
2, 治療に悪影響が及ぶ可能性があるから
3, ミスがあっても隠せないから

「1, カルテだけをお見せしても意味不明だから」
これはこれまで説明してきた通りです。それよりは医師が直接対面して検査結果などをお見せしながら説明した方がわかりやすいですね。現に、病院ではそのようにしています。

「2, 治療に悪影響が及ぶ可能性があるから」
これはちょっとピンと来にくいでしょうか。カルテには治療上必要のないことは書かないことになっていますが、誰しもが「極めて厳しい」や「要注意」などの文字を見たら不安になるでしょう。説明を十分にしない状況でそういう文字だけを見た場合、いたずらに不安をあおってしまう危険性があります。しかし、もしかするとそれも含めて、患者さんが希望する場合には開示するということも考えていかなければならないかもしれません。ただ、医師は「患者さんが見ている」と思うと書けなくなることがあります。それは「最悪の事態」や「良くない可能性」などです。医師はいつもそれらを念頭に置きつつ治療に当たっていますが、そんなことを書いたら患者さんはパニックになってしまうかもしれません。とても難しい問題です。
これに関連して、厚生労働省が出している指針のなかの「カルテの開示を拒否しうる場合」として、「症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合」とあります(※)。こういう場合にはカルテを見せない方が良いという場面もありますよ、ということです。

「3, ミスがあっても隠せないから」
これはあってはならない理由ですね。今の電子カルテではかなり詳細な記録が残りますから、カルテを改ざんなどしてミスを隠ぺいすることはほぼ不可能です。「白い巨塔」ではありませんが、「紙カルテ」時代に行われたカルテの書き換えなどは電子カルテではシステム上絶対にできません。電子カルテでは、誰が、いつ、どのパソコンで、それを記載したかまで全て記録されているからです。

まとめ
そうは言っても、いつか未来、患者さんも自分のカルテを自由に見て、記載に参加する時代が来るかもしれません。それが医療のクオリティを上げ、医師と患者さんのあいだのギャップを埋めることになるのかもしれませんね。あらゆる業界で透明性の向上や情報公開が進む中、医療業界もこんなことを考えていかねばなりませんね。