毒親からの「分籍手続」で自分の人生を取り戻す…弁護士に聞く「決別方法」

弁護士ドットコム 2016年12月4日

親の好みに合わない、という理由で結婚を反対されてしまった。大人になったのに、親からいつも行動を監視されて困っている。職場にまで親が電話をかけてくるーー。子どもの行動や考え方に過度に干渉し、悪影響を与える「毒親」に関する悩みを、法律で解決することはできるのでしょうか。
小さい頃から親との関係に悩んできた自らの経験をもとに、毒親問題の解決に取り組む、福尾美希弁護士に話を聞きました。(取材・構成/ ライター・吉田彩乃)

離婚・男女問題に関する相談の背景に「毒親」の存在
福尾弁護士が、この問題に取り組み始めたきっかけを教えてください。
依頼者の方からの相談を受けていると、離婚や男女問題の背景には、「毒親」問題が潜んでいる場合が多いのではないかと思うようになったことです。私自身が、弁護士になる以前から、親との関係、パートナーとの関係に悩んできており、敏感だったこともあるのかもしれません。
離婚、男女問題のより良い解決のために、「毒親」の視点を持っておくことが有効ではないかと思うようになったのです。
たとえば、ある男性から「妻の実家からの干渉が厳しくて、結婚生活を続けるのが苦痛になってきた」という相談がありました。また、結婚などを機に実家を出た女性からは「毎日のように親から電話がかかってきて、実家に立ち寄ることを強要されて困っている」という話を聞いたこともあります。

毒親問題に法的なアプローチはあるのでしょうか。
親からの執拗な電話や干渉により、子どもの日常生活に支障をきたしている場合には、弁護士から親に内容証明を郵送し、干渉を控えるよう、子どもに代わって交渉を進めていくことができます。
弁護士からの通知により、それ以上干渉することはやめておこうと思う人もいるでしょう。また、いわゆる「毒親」は世間体を気にする人が多いので、内容証明が来た時点で「このまま事が大ごとになってしまうとマズイ」と考えて行動を控えるようになることも期待できます。
ただ、親子関係へ司法が介入するのは難しく、救済しきれていないのが現状ではないかと思います。当事者が親から受けている被害の内容に着目すれば、既存の法律では、DV防止法やストーカー規制法が、救済するための法律としては近いものかと思います。しかし、どちらも親子問題に対応した法律ではありません。
また、18歳未満であれば児童福祉法の適用対象となりますが、大人になってから問題が表面化するケースも多く、そのようなケースについては、直接対応できる法律は残念ながらないと言わざるを得ません。

毒親を持つ方からは、「縁を切りたい」という相談が寄せられることが多いと聞きました。
残念ながら法律上、「縁を切る」方法はありません。ただし、親元を離れて暮らしている場合には、「分籍手続」により親と戸籍を別にした上で、住民票に閲覧制限をかけることができます。
この方法をとっても、親が子どもの住所を調べることを100%阻止できるわけではありません。ただ、親と離れて暮らし、戸籍を分けるということは、当事者にとっては「親との決別」という儀式となり、自分の人生を取り戻し生き直していくための大きな一歩になるのではないでしょうか。
さらに深刻な場合には、親から捜索届を出される場合に備えて、あらかじめ弁護士を通じて警察と連携を取っておくことなどもできます。

大人になってからも残る「毒」の影響
法的に問題のある「毒親」とは、どのような人たちなのでしょうか。
そもそも「毒親」という言葉は、アメリカの精神医学者、スーザン・フォワードによる「毒になる親」という本のタイトルに由来しています。一言で表現するのはとても難しいのですが、ごくざっくりいうと、子どもがいつも安心して自分を信じていられる環境を作ることができず、むしろ子どもに対して常に完璧でいなければならないとか、常に周りの人の機嫌をとらなければならないなど、家庭内で子どもに不健全なメッセージを与え続ける親のことを指します。
暴力や性的虐待はわかりやすいケースですが、子どもの人格や感情を否定するような暴言を吐き続ける、子どもの生活を管理しすぎるなどの、精神的虐待のケースもあてはまります。

毒親をもった子どもたちには、どのような影響があるのでしょうか。
子どもは安心してのびのびと自分らしさを伸ばしていくことができません。また、親との関係は、人生で初めての人間関係ですから、その後の人生での対人関係に大きく影響します。 完璧な自分以外を認めることができずに自己肯定感が極端に低くなったり、自分の感情やニーズがよくわからず常に人の顔色を窺うような性格になったりしやすいです。
また、「毒親」は、自分自身も人間関係が希薄であったり、過度に干渉して子どもの交友関係を制限したりといったことをします。子どもが親以外の人との関係を広げて対人関係のスキルを身につけたり、自分の居場所を確保したりする機会を奪う傾向もあります。悪循環ともいえるでしょう。

子どもにとって、非常にストレスが大きい環境と言えそうです。
本当にそうです。このような状況でも本人が特に問題を感じていなければよいですが、ほとんどのケースでは生きづらさを抱えています。子どもが安心して、自分らしく育っていける環境として機能していない家庭を「機能不全家庭」と呼ぶことがあります。毒親はまさに家庭を「機能不全」にしてしまいます。
小さいころから親にされ続けた不健全な行為や、与えられ続けた不健全なメッセージが「毒」としてその人に染みわたり、大人になってからもなかなかその影響から抜けられない、そんな状態に子どもを置いてしまうのが「毒親」なのです。
大人になってからその「毒」に気付き、カウンセラーや精神科の医師の力を借りながら解毒作業をしていくことで、ようやく人生を取り戻せる、そんなケースも多いです。当事者にとっては本当に一生に関わる大きな問題です。ちなみに、機能不全家庭で育ち、大人になってからも何らかの生きづらさを抱えている人たちが「アダルトチルドレン」です。

親としては、子どものために良かれと思ってやっているケースもありそうです。
まさにその通りで、親本人は「子どものため」と思い込み、周囲からも「子ども思いで良い親御さん」と思われていることが多いです。精神的虐待の場合は被害が目に見えないこともあり、毒親の元で育った人は、自分が抱えている悩みや置かれている状況の深刻さを、なかなか周りに理解してもらえません。
そのため、子ども時代には問題に気付くことができず、大人になってから職場で人間関係につまずいたり、パートナーとの関係で苦しんだり、自分が親の立場になって子育てがうまくいかないといった場面に直面してようやく意識できるケースも非常に多いです。

「辛さは当事者にしかわからないことも多い」
毒親問題を解決するにあたって、福尾弁護士はどのようなことを心がけていますか?
私自身が小さいころから親との関係に悩んできましたから、その経験をもとに、相談に来た方の立場や気持ちに配慮してじっくり話を聴くことを大切にしています。一方で、弁護士としてできること、法律という枠組みでできることが何かという点をきちんと提示することも心がけています。
「毒親」にお悩みの方は、身近な人に「親の干渉に困っている」と相談しても「他の家も同じだよ」と、一蹴されてしまうケースが少なくありません。また、「過去にいつまでもこだわって」という言い方をされることもあるでしょう。
しかし、その辛さは当事者にしかわからないことも多いです。また、過去から続いていることだとしても、現に今、親から執拗に連絡が来たり、職場に押しかけてきたりといった問題がある場合、もはや過去だけの問題ではありません。
周りの人に理解や共感を得られない場合、自分がおかしいのではないかなどと思ってしまう方も多いと思いますが、決して自分が大げさだとか、忍耐力がないと考えたりせずに、まずは自分の感覚を信じてみてほしいと思います。親子関係について困ったことがあれば相談に来てください。悩みを解決する方法を、一緒に探っていきましょう。

<性暴力の現場で>兄から虐待 親の反対で被害訴えず 群馬

毎日新聞 2016年12月3日

「うそでしょ」 母は言い放った
兄を訴えたい。許せない。裁判で罪を償ってほしい。そう願ったが、親から反対され、警察には届けなかった。
ナツキさん(19)=仮名=は小学生の頃の記憶がほとんどない。兄から受けた傷痕が、澱(おり)のように残っているだけだ。5歳上の兄のわいせつ行為が始まったのは小学校に入ってすぐの頃だった。県内のある住宅街。家族が寝静まった頃、部屋の扉が音もなく開いて、兄が入ってくる気配を感じた。何をされているのかは分からなかったが、気持ち悪かった。やめてほしい。ぎゅっと目をつぶり、祈った。「早く終わりますように」。最後に兄はこう言って部屋を出て行った。「誰にも言うなよ。言ったらおまえを殺すか、おれが死ぬかだ」。以来、それはほぼ毎日、続いた。
中学1年の冬。学校で警察官による防犯講話が開かれた。「不本意な形で体を触られることは犯罪被害です」。警察官の言葉に、初めて兄の行為が強姦(ごうかん)という犯罪だと知った。
「ねえ、なんでそんなことするの?」。その日の夜、思い切って兄に聞いた。返ってきたのは「なんとなく」の一言。何となく? 頭が真っ白になった。はらわたが煮えくりかえる。「私の人生を壊しておいて、『なんとなく』って何なの」
翌日、学校のスクールカウンセラーのところに駆け込んだ。泣きながら包み隠さず話すと、「教えてくれてありがとう」と言われた。すぐに担任教諭と教頭が加わり、家庭に連絡が入った。しかし、駆けつけた母親は娘の顔を見るなり、こう言い放った。「うそでしょ。お兄ちゃんがそんなことするはずない」
その日のうちに児童相談所に保護された。親族宅を経て、県内の児童養護施設に移った。友だちにあいさつもできないまま転校になったのは悲しかったが、夜、熟睡できるようになった。

今、親族の冠婚葬祭には極力出席しない。兄と顔を合わせたくないからだ。兄は「普通」に就職し、恋人がいる。あの時の母の心情を思えば、息子を犯罪者にしたくなかったのだろう。でも、納得できない。ナツキさんはその後、うつ病に苦しみながら通信制の高校を卒業。体調が良ければ飲食店でアルバイトをしている。「このままでは『逃げ得』。私は一生つらいのに」
法制審議会が答申した刑法改正案に新たに盛り込まれた18歳未満の子どもに対する「監護者」の性暴力の罰則は、被害者の告訴がなくても加害者を起訴できる非親告罪化とする方向だ。しかし、あくまで想定は親子間。きょうだい間は含まない。なぜ被害者を線引きするのだろう--。「きょうだい間でも同じように罰すべきだ。むしろ重くしてほしい。逃げられないし、自分では訴えられないのだから」【鈴木敦子】

従属関係の構造に無理解
法制審の答申(今年9月)は、18歳未満の子どもへの性暴力について、新設する罰則の対象を「親子間」に絞った。
性暴力の被害者や支援者らは昨年10月、法制審に対し、きょうだい間▽親戚間▽親の恋人と子ども▽教師と生徒▽上司と部下--などの地位・関係性を利用した性的行為も親子間と同様に扱うことを要望していたが、なぜ認められなかったのか。性暴力撲滅を啓発するNPO法人「しあわせなみだ」の中野宏美代表は「地位・関係性を定義する難しさが法律になじまないということなのかもしれないが、従属関係によって発生するという性暴力の構造が正しく理解されていない。性暴力は性欲だけに支配されているわけではない」と指摘する。

世界一かもしれないいじめ防止提言が生まれたわ!

尾木 直樹 2016年11月17日

「いじめ防止対策推進法」が施行され三年。法律に基づく施策の見直しに当たってまとめられた有識者会議の提言が素晴しい内容なの!「自殺予防といじめの対応」を教職員の最優先業務に位置付けたほか、「いじめ対策組織」を機能させるため弁護士や退職した警察官の参画を促す等、実効性のある改善策が目白押しよ。
学校内でのいじめの情報共有を重視したのもポイントね。組織的な対応につなげるための情報共有なのに、責任が問われることを嫌って、教職員がいじめの情報を隠蔽してしまう傾向があるの。そこで、情報共有は「義務」であり、それを怠ったときは(地方公務員法に反するため)懲戒処分もありうるとの注意書きが。ここまで踏み込んだことに正直驚いたわ。「児童生徒の主体的な参画」にも言及しているし、文句の付けようがないくらいよ。
昨年度、全国の小中高校が認知したいじめは「過去最多の二十二万四千五百四十件」だと発表されたけど、本当はもっと多いはず。京都の九〇・六件(児童生徒千人当たりのいじめの認知件数)に対して、佐賀は三・五件と、都道府県によって最大二十六倍もの差があることも気になるわ。現行の定義では、「子どもが心身の苦痛を感じている」場合はすべていじめと認知するのに、それが徹底されていない学校があるのね。
早期に対応するためにも、認知件数の増加は肯定的に捉えられるべき。なのに「件数が多いことはマイナス」だと勘違いして、少なく見せかけようとする学校が多いのよ。一年間で一件もいじめがなかった学校が三六・九%もあるなんてあり得ないこと! だから今回の提言にも、認知件数の少ない都道府県に対して、「文科省が個別に確認・指導を行う」との記述があるの。本当に画期的ね。これがきちんと法律や政策に反映されるよう、監視していかなきゃ!