児童虐待の対応、裁判所の関与を強化 厚労省が改正法案

朝日新聞デジタル 1/19

急増する児童虐待への対応を強化するため、厚生労働省は保護者に対する指導に裁判所も関わる仕組みを新設する方針を固めた。児童相談所(児相)による指導を勧告し、保護者が従わなければ強制的に子どもを引き離すことで指導に実効性を持たせる。20日召集の通常国会に児童福祉法などの改正案を提出し、2018年の導入をめざす。
虐待によって生命の危険があるといった恐れがあれば、児相は子どもを一時保護する。自宅で育児放棄している場合なども含め、保護者の同意なしに子どもを引き離して児童養護施設などに入所させる必要があれば、児相は家庭裁判所(家裁)に申し立てる。
今回の法改正では、家裁への申し立て後、緊急に引き離す必要はないが、家庭環境の改善が必要な場合の対応を強化。家裁が引き離しの是非を決める前に、一定期間、児相に指導継続を求める仕組みを新設する。児相は子どもを一時保護するといった役割もあり、児相主体で指導を継続しても保護者が反発するケースもあるためだ。
新しい仕組みでは、家裁が児相を管轄する都道府県に保護者の指導を勧告。児相からの経過報告を受け、保護者が指導に従わなければ子どもを引き離す判断材料にする。命に関わるほどではないが、暴力や育児放棄が続くといったケースが対象として想定される。

中卒の若者の貧困と孤立を、生活保護は救えるか?

ダイヤモンド・オンライン 1/20

2015年、中学卒業者の高校進学率は98.5%であったが、それ以外の約4000人は就職し、約8700人は進学も就職もしなかった。また同年、全国で4万9000人が高校を中退した。そうした人々は、未成年ゆえにできないことが数多くあるにもかかわらず、「働ける」と見なされて福祉の対象になりにくい。不利な状況の中で消耗しながら年齢を重ねてゆくサイクルを断ち切る鍵は、「高校」と「生活保護」にある。

大人と子どもの「谷間」に落ちた 若者たちのサバイバル
坪井恵子さん(56歳)は、福岡市の一般社団法人「ストリート・プロジェクト」(以下、ストプロ)で理事長を務めている。ストプロの目標は「ユース(筆者注:おおむね15-25歳)の貧困と孤立を防ぎ、解消し、自立と夢の実現を! 」だ。ストプロの支援を受けている「ユース」たちは、そもそもなぜ、貧困状態にあり、孤立しているのだろうか?
「ストプロのユースのほとんどは、親にネグレクトされてきています、生活保護世帯の場合、親が食費を含めて子どものためのお金を使い込んでしまっていたり、適切な衣食住を与えて養育することを放棄してしまっていたりすることもあります」(坪井さん)
なかには、「子どもを搾取している」としか言いようのない親もいる。
「高校生の子どもが奨学金を得て、それで校納金を支払うつもりだったのに、親が使い込んでしまい、高校中退に追い込まれそうだというケースもあります」(坪井さん)
坪井さんは2000年代後半、自分の子どもの1人が高校に進学しなかったいきさつをきっかけとして、中卒や高校中退の若者たちの「生きづらさ」に目を向けるようになった。坪井さんの子どもは、好きな仕事に就き、努力を重ねて「手に職」をつけ、現在は立派な職業人として活躍している。しかし一般的に、最終学歴が中卒のままでは、職業選択やステップアップの可能性が非常に少なく、安定した就労を長期に継続することは難しい。そして15~25歳の年齢層に対しては、公的支援が極めて手薄なのだ。
2000年代当時、16歳以上で高校に在学していない若者に対する公的支援は、ほぼ皆無といってよい状況だった。未成年ではあるが、すでに義務教育の年齢ではなく、就労も可能だ。しかし成人に達していないため、1人ではアパートの賃貸契約を結ぶこともできない。児童福祉の対象となる子どもと、成人として行動できる大人の「谷間」に落ちたまま、若者たちは、あがき続けることになる。
成人まで親のもとで過ごすことができれば、時間の経過が年齢の問題を解決するだろう。問題は、その選択肢がもともと存在しない、あるいは事実上存在しない場合だ。2000年代当時、16歳を過ぎて児童養護施設に居住するためには、高校に在学している必要があった。高校を中退すると、住まいを含め、高校に在学していることを理由として提供されていた児童福祉のすべてを失うことになった。
その後は、寮のある仕事に就くなど、住まいと収入を同時に確保できる状況にあれば、とりあえず生きてはいける。しかし、病気や負傷などのアクシデントで仕事を失えば、住まいと収入を同時に失い、路上などでの「サバイバル」を余儀なくされる。

1対1の「ごはん」から始まる ボランティアたちの伴走支援
坪井さんは、2009年、高等学校卒業程度認定試験(高認)合格を目指すための無料の塾を開設した。先生たちはボランティアだ。当初の対象は、中学校卒業後の15歳~39歳の人々、生活保護世帯の子および親、ひとり親世帯の子および親、その他、経済的に厳しい状況にある人々であった。しかし、高認に合格しても最終学歴は中卒のままなので、本人の社会的状況が変わるわけではない。「食える仕事」に就き、経時的な安定を獲得するところまでは、伴走が必要だ。
また、高認合格までの生活費、その後の進学したい学校の受験料や学費などは、すべてユースたちが賄う必要がある。そもそも、高認合格や進学を目標にするには厳しすぎる現状に置かれているユースの方が圧倒的に多い。そういうユースたちは、心の居場所がなく、学習支援以外の多岐にわたるサポートや居場所を必要としている。
しかし、出会いの機会が「勉強」「高認」では出会いにくいし、出会っても関係を継続しにくい。そこで坪井さんは、「ごはん」という別の入り口をつくることを考えた。また2012年からは、対象を15~25歳程度に絞った。
2014年4月、坪井さんはJR博多駅前にキッチン、浴室、食卓、ちゃぶ台のある居場所「ごちハウス」を開設した。「ごちハウス」とは、「ごちそうさまが言える家」の略である。無料のごはんを食べに来て、ついでに勉強をしていくこともできる。ボランティアの先生が無料で教える機会に勉強に来て、ついでにごはんを食べていくこともできる。家庭的な雰囲気の和室でゴロゴロすることも、昼寝することも、ときどき泊まることもできる。「ごちハウス」は、そんな居場所だ。
坪井さんは、「1対1」の関係を大切にしている。初対面のユースを「ごちハウス」に迎えるときは、事前に本人の食べられない食材を聞いておく。その食材が入っていない、本人だけのためのご飯と味噌汁とおかずのある食膳を用意する。そして、ちゃぶ台に横に並んで座り、2人で同じ食事を食べながら、焦らずに信頼関係を築いていく。
「オウチごはん」と名付けられたこの小さな食事会について、坪井さんは「短い時間で関係性を深めるために、大きな力になります」と言う。世に言う「食べ物の恨みは恐ろしい」も、食べ物・食事が感情に働きかける力ゆえかもしれない。

日常生活を管理し就労を 維持するまでの困難な道のり
「ごちハウス」には、様々な顔と役割がある。公立・県立通信制高校のスクーリング・高認受験準備などの学習支援の場ともなる。看護師や看護学生を囲んで食事をしながら仕事の話を聞く場や、就職のためのスーツ一式の貸し出しなど就労支援の機会も提供される。一定の条件をクリアすれば、泊まることもできる。
諸般の事情により、ストプロは2017年3月で活動を休止する。「ごちハウス」を必要としているはずのユースたちに、まずは情報を届けることが課題ではあったが、それでも2014年4月の開設以後、約40人のユースたちが「ごちハウス」を訪れた。その後、自分の選ぶ自分の人生への小さな歩みを、坪井さんやボランティアたちの伴走のもと、自ら進めたユースたちも少なくない。ちなみに、2009年の無料塾発足から数えると、1回でも関わったユースたちは延べ200人以上となる。
なお、欠落の多い幼少期・少年期を送らざるを得なかったユースたちの10代後半以後の苦境に対しては、近年、社会の理解が深まりつつある。この状況を受け、東京都世田谷区は2016年度より、独自の住宅支援・生活支援などを提供し、児童養護施設を退所した後の自立生活を支援する制度の実施を開始した。
また厚生労働省も、2017年度より、児童養護施設の入所年齢を22歳まで引き上げる予定だ。就職するにせよ、大学や専門学校に進学するにせよ、自分の日常生活を自分で管理し、就労を維持するまでの困難な道のりへの社会的支援は、少しずつ充実しつつあるが、まだまだ不十分だ。

高校卒業の威力は大きい 中退したら最終学歴は「中卒」に
数多くの「当たり前」が当たり前でない状況の中で育ってきたユースが必要としている支援の幅は、極めて広い。その中で、坪井さんが重要と考えているものの1つは、「高校を卒業する」ことに関する支援だ。
高校を中退すると、高認に合格しても最終学歴は中卒のままだ。たとえ難関大学に入学しても、卒業するまでは中卒。もしも大学を中退したら、最終学歴は中卒のままになる。それでは就労・資格取得など、数多くの機会が大きく制約されてしまう。
「今、高校は進学したければ100%進学できます。でも、『卒業する』という気持ちを持ち続けられるように支えて、卒業まで見届けなくては」(坪井さん)
“卒業“に強いモチベーションを持っていない高校生は、全日制高校に通学していても、ちょっとしたきっかけで簡単に中退しがちだ。もちろん、通信制高校という選択肢もあるのだが、自分の意志と努力だけで通信制高校を卒業するのは容易なことではない。もしも親が、高校を卒業することの大きな意義を知っていれば、余裕のない暮らしの中で無理をしても、いわゆる「通信制サポート校」に子どもを通わせる場合がある。高校卒業までの学費は200万円前後だ。どの親にも可能な選択ではない。
「福岡市に、ストプロを信頼して、気がかりな生徒さんをつないでくださる公立高校があります。その高校の、私の知っている先生のお1人は、高校を中退しそうな生徒さんたちに求人誌を見せて、中卒で就ける職業がいかに少ないか、高校を卒業すると選択肢がどれだけ広がるか、現実を理解させているんです」(坪井さん)
高校の威力は、卒業すれば「高卒」という学歴が得られることだけではない。義務教育の小学校や中学校には及ばないが、ある程度、本人を包括的に支える枠組みもある。
「高校生でも、学校というハコは大切です。学校に在学しているということは、本人が必要な情報や機会を、必要なときに、黙っていても提供してくれる場所にいるということなんです。そのことの威力は、すごいです。1人のユースを、民間の1個人の好意やストプロのような団体だけで支えるのは、無理です。でも高校に在学していれば、高校では“届かない”ところを民間で支えることは、無理というわけではなくなります」(坪井さん)
坪井さんのかたわらで、ストプロの理事を務める藤田裕子さん(弁護士/新星法律事務所)さんも語る。
「あと5ヵ月で高校を卒業できるという段階で、家庭にいられる状況ではなくなり、他県から逃げてきて福岡で保護された高校生がいました。でも、高校のある地域の自治体は、受け入れに消極的だったんです」
そのままでは、高校生は「高校中退」となるしかない。
「でも本人は、高校を卒業したいんです。高校に問い合わせてみると『私たちもその子に卒業してほしい』と。欠席期間はレポートなどで補えるよう配慮する、ということでした。私はその自治体に、『このままでは、この子は高校を卒業できなくなります』と訴え、高校は自治体との連携を約束してくれました。私は自治体に対して、高校の協力が得られることを伝えました」(藤田さん)
本人は、残り少ない高校生活へと無事に戻ることができた。高校は、本人のために補講をするほか、本人が家庭のことに関するSOSを出しやすいように面談の時間を設けるなど、本人の卒業を様々な面でサポートし始めた。
「学校の力はすごいです。学校の協力があったからこそ、本人とも自治体とも、『高校卒業』を目標として話を進めることができました」(藤田さん)
「あと、ほんの何ヵ月かで中卒か高卒かの分かれ道でしたからね。学校が動いたら、民間が何を訴えても動かない行政が、動くんです」(坪井さん)
しかし、高校が動くことができたのは、本人が高校在学中だったからだ。高校という場に属していることの意義を痛感している坪井さんは、「せめて、生活保護で安心して高校を卒業することができれば」と願っている。
「今、低賃金労働や非正規雇用で働いている中卒や高校中退のユースたちが、2~3年間、生活保護を受けながら高校に通い、高卒の最終学歴を得ることを、私は勧めたいです」(坪井さん)

学びや育ちの機会も「健康で文化的な 最低限度の生活」に含まれるはず
それを「ふつう」にするためには、数多くの課題を解決する必要がある。16歳以上の年齢で、アルバイトでなんとかギリギリの生活ができているのであれば、福祉事務所は「働けるんだから生活保護は不要」と考えがちだ。成年に達していれば、なおさらそういう見方になるだろう。
必要なのは、学びや育ちの機会も「健康で文化的な最低限度の生活」に含まれているという発想の転換ではないだろうか。少なくとも、15歳~18歳での「高校在学」「高校卒業」という機会を失いそうな、あるいは過去に失ってしまった人々に対し、生活と機会を一緒に保障することは、生活保護制度の目的の1つである「自立の助長」そのものであるはずだ。
(フリーランス・ライター みわよしこ)

結局、正社員の賃金を下げる結果に? 「同一労働同一賃金」で起きるコト

J-CASTニュース 1/19

正社員と非正規労働者の待遇格差の是正を目指す「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)」が決まった。2016年12月20日、政府の働き方改革実現会議で「指針案」としてまとめられたもので、政府は17年1月に招集される通常国会に関連法の改正案を提出、改正法施行後に「案」が外れて正式な指針として効力を持つことになる。
現状では、非正規労働者の基本給は正社員の6割弱の水準にとどまり、賞与や昇給の差も大きい。厚生労働省の調べでは、正社員・非正規の両方雇う企業のうち非正規に賞与を支給しているのは4割弱にとどまり、金額も4万円程度と極めて低い。また、正社員が勤続年数に応じて給与が高くなる場合が多いのに対し、非正規は横ばいで推移するケースがほとんど――などとなっている。

「不合理で問題がある」待遇差の例
こうした現状を踏まえ、指針案は基本給、賞与・各種手当、福利厚生、教育訓練・安全管理の4項目に関して、待遇差をどのようにつけた場合が「不合理で問題があるのか」を示すもの。
まず、賃金の根幹をなす基本給については、決める要素として「経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」に分け、それぞれについて、正社員・非正規で差がなければ同じように支払うのが原則だと明記。要素に「違い」がある場合は、違いに応じた額を支払うのを認めるが、その金額差が「不合理」になってはならないとしている。
賞与については、「企業の業績への貢献」に応じて支給する場合、貢献度が同じなら正社員・非正規にかかわらず同一の支給をすべきだと明記。通勤手当や出張旅費、慶弔休暇などでは待遇差を認めず、正社員か非正規かにかかわらず「同一の支給・付与をしなければならない」とした。
このほか、昇給は、職業能力の向上に応じて非正規にも実施する▽正社員と内容などが同じ役職なら役職手当は同一に▽時間外労働手当や深夜・休日手当は同じ割増率に▽食堂や休憩室など福利厚生施設は、非正規にも利用を認める▽派遣先社員と職務内容・配置の変更範囲が同じ派遣社員に対し、派遣会社は同じ賃金や福利厚生、教育訓練を実施――なども盛り込んだ。
ただ、企業コストが大幅に増える退職金や住宅手当の扱いには触れなかった。また、連合が求めていた待遇差の根拠を説明する使用者の責任(説明責任)の強化は明記されなかった。

「かえって格差が固定化する」懸念も
指針を示した同会議で、安倍晋三首相は、「正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇差を認めないが、わが国の労働慣行には十分に留意したものとなった」と胸を張った。自画自賛は割り引いても、「同一労働同一賃金」という大きな方向に異論は少なそうだが、簡単に実現するものでもない。
例えば、根本的な問題として、欧州では、企業横断的な労組があり、職務を決めて採用し、その難易度(習熟度)に応じた「職務給」が原則なのに対し、日本は年功序列の終身雇用という日本型雇用が多く、労組も企業別で、正社員の賃金は、長期雇用を前提に、能力や経験を評価した「職能給」が中心という根本的な違いがある。正社員と非正規間の「同一」の評価が難しいと指摘される。逆に、正社員・非正規の待遇に格差をつける理由を説明しやすくするため、「正社員と非正規の仕事や役割をはっきり分ける『職務分離』が広がり、かえって格差が固定化するのでは」(全国紙社会部デスク)といった懸念も出る。
そもそも、単純に非正規の待遇を改善すれば人件費全体が膨らむことに、企業側の警戒感が強い。「非正規労働者の処遇改善を生産性向上につなげ、収益増を図る発想の転換が必要」(読売2016年12月28日社説)というのが大きな目標で、中長期的に「重要なのは非正規で働く人たちが仕事に必要な技能を高め、貢献度を上げられるようにすること」(日経12月22日社説)なのは当然としても、現実には「解釈や運用の仕方によっては正社員の賃金を引き下げる理由にされるリスクもある」(毎日12月27日社説)という指摘は多い。
わずか十数ページの指針案で明確に判断できる事例は限られ、労使が判断に迷うことが予想される。最終的に裁判の判例の積み重ねにゆだねることになるが、「労働者側が法廷で『格差は不合理』と立証するのは難しい」(労組関係者)こともあって、現時点で、格差是正がどこまで、どんなテンポで進むかは不透明だ。