<189番>運用改善へ…オペレーター対応、接続時間を短縮

毎日新聞 2017年2月6日

児童虐待の通報や相談を受け付ける「児童相談所(児相)全国共通ダイヤル」189番について、厚生労働省は児相につながるまでの時間を短縮するため、コールセンターを新設する方針を決めた。
携帯電話から189番にかけると、入力の手間などで接続に2分近くかかる場合があり、途中で切られるケースが多い。音声自動案内の代わりにオペレーターが対応してこの時間を約30秒に短縮することで、接続率の向上を狙う。今秋にも運用を始める。
虐待通報ダイヤルは以前から10桁の番号(0570・064・000)があるが、覚えやすいように2015年7月から「いちはやく」を意味する189の短縮番号が導入された。これで利用は急増したが、児相の窓口まで電話がつながっている割合(接続率)は1割程度しかなかった。
ネックだったのが、利用の過半数を占める携帯電話からの通報・相談。虐待を受けている子の居住地を管轄する児相を特定するのに音声案内に従って郵便番号か都道府県などの情報を入力しなければならず、この途中で電話を切ってしまう利用者が多い。厚労省は昨春からガイダンスの時間を30秒程度短くしたが、それでも最長で1分50秒かかり、接続率は2割程度までしか改善しなかった。
そこで厚労省は新年度に3億7000万円を投じてシステムを大規模改修し、コールセンターを設置することにした。携帯からの電話はコールセンターにつながり、オペレーターが居住地を聞いて所轄の児相に転送する。所要時間は30秒程度を見込むという。必要なオペレーター数などは今後検討する。
固定電話は現在も15~28秒で自動転送されており、このままの運用を続ける。
厚労省の担当者は「半数以上は携帯電話の利用者のため、何回も番号を入力する煩わしさをなくし、虐待通報をしっかり拾う体制を整備したい」と話す。【黒田阿紗子】

虐待児の聴取、一度で…司法面接活用し負担軽減

読売新聞 2017年2月5日

児童虐待の捜査で、被害児が繰り返し事情聴取される負担を避けるため、検察、警察、児童相談所の代表者が1人で聴取する司法面接の活用が本格化している。
厚生労働省によると、2015年10月から昨年6月までに全国で計88件行われた。録音・録画された司法面接の様子が、裁判の証拠となるケースも出ている。

別室で確認
大阪地検12階に設けられた「司法面接室」。8畳ほどの部屋には小さな机を挟んで1対のイスがあるだけで、子供の気が散るようなものは置かれていない。
ここでは、検察、警察、児相を代表して、検察官1人が子供から話を聞く。児相職員や警察官らはそれを別室のモニターで確認しながらホワイトボードに状況を書き込む。聞きたいことがあれば内線電話で検察官に知らせる仕組みだ。録音・録画もできる。

改めて問う。「私たちは『買われた』展」に意味はあったのか?

BEST TIMES 2017年2月6日

「なぜ彼女たちは裸になったのか」など、性を売る側の女性にばかりが注目されがちな売買春の現場だが、もう一方の当事者である男性側に目を向けることによって、見えてくるものはあるのか!? 「見えない買春の現場 『JKビジネス』のリアル」を2月9日に刊行予定。「性の公共」をつくるという理念の下に、現代の性問題の解決に取り組んでいる坂爪真吾氏に語っていただいた。

「売春=気軽に、遊ぶ金欲しさ」のイメージを変えた
2016年8月11日~21日、東京・新宿区の神楽坂セッションハウスにて、「私たちは『買われた』展」(主催:Tsubomi/一般社団法人Colabo)が開催された。
主催者側の説明によると、この企画展は、中高生世代を中心とする当事者がつながり、声を上げることで、児童買春の現実を伝え、世の中の持つ「売春」のイメージを変えること、そしてこれまで表に出ることができなかった「買われた」少女たちの声を伝え、今も苦しんでいる同世代の女性たち、そしてかつて似た苦しみを経験した女性たち、すべての女性に勇気を与えることを目的にしているという。
企画展の会場には、少女たちが「買われた」現実や日常を表す写真、「大人に伝えたいこと」をテーマにしたメッセージ、参加メンバーが表現したアート作品や日記などが展示された。
主催者側は、「買う側の男性を批判・糾弾することが目的ではなく、『買われる』前の背景があることを知ってほしい」というメッセージを出していた。しかし「買われた」というタイトルが誤解を呼び、開催前からネット上では炎上状態になり、「売った方が悪い」「自分で売ったから買われたんだろう」「楽して身体を売って金を儲けたやつが被害者ぶるな」といった誹謗中傷が飛び交った。
終了前日の8月20日(土)、私も企画展を見るために神楽坂セッションハウスを訪れた。NHKや朝日新聞などの主要メディアで企画展の開催が連日報道されたため、会場は長蛇の列だった。猛暑と豪雨の中、1時間近く並んでようやく会場内に入ることができた。
会場には、主催者の発表や事前の報道で紹介されていた通り、家庭での虐待やネグレクト、学校でのいじめや不登校、周囲の無理解や暴力、福祉との断絶などの過酷な環境の中で、少女たちが売春に至った経緯を記したパネルや日記が展示されていた。
児童買春やJKビジネスに関わっている少女たちが、全てこうした過酷な環境に置かれていると断言することはできないが、現実の一部であることには間違いない。そして、世の中に広がっている(と主催者が考えている)「売春=気軽に、遊ぶ金欲しさ」のイメージを変えることについては、大きな意義のある展示だろう。

時代遅れの「貧困ポルノ」
だが、「買われた」という言葉でこれらの現実をカテゴライズして展示する、という手法には、正直疑問を抱かざるを得なかった。「買われる」前の背景を世間に訴えることが企画展の目的であり、主催者の発信したいメッセージであるならば、買う側の男性に非難の眼差しを向けさせようとする言葉をタイトルに用いるのは完全に逆効果だろう。
事実、少女たちを過酷な環境に追いやったのは、あくまで家庭・学校・福祉の側であり、買う側の男性は、結果として家庭・学校・福祉から疎外された彼女たちをいびつな形で支援する存在(あるいは搾取する存在)になっていただけで、問題の元凶そのものではないことは、企画展の中における当事者の語りからも明らかだ。
「買われた」というタイトルが「被害者の少女/加害者の男性」という二元論、「何の罪もないのに、大人のせいで性的に搾取された可哀想な少女たち」という感情論を惹起し、それが企画展自体の広報や宣伝に大いに役立ったのは事実だろう。「未成年の少女」「売買春」といったキーワードは、「バズらせる」=ネット上で情報を爆発的に拡散・共有させるための最も有効な武器の一つだ。
ただしNPOの世界では、当事者の窮状を訴えるために「売買春」や「性風俗」といったセンセーショナルなキーワードを掛け合わせて戦略的にメディアに報道させる手法は、既に周回遅れになりつつある。
女性の貧困、子どもの貧困、若者の貧困を社会問題化するために、「子供の養育費のために風俗で働くシングルマザー」「学費を稼ぐために風俗で働く女子大生」といった事例をメディアが取り上げ、多くの当事者や支援団体も「現実を知ってほしい」と取材協力をした。
しかし、支援団体の間では「やっても効果が無かった」「何も変わらなかった」「かえって当事者へのスティグマ(負のイメージ)を強化するだけだった」という声が上がっている。単なる「貧困ポルノ」として、センセーショナルなエンタメとして消費されるだけで終わってしまうケースが大半だったのではないだろうか。

児童ポルノ事件全体の41・5%は少女の「自撮り」が原因
「私たちは『買われた』展」は、少女たちの置かれていた過酷な環境を展示し、来場者の感情に訴えかけるだけで、「こうすれば少女たちが救われる」という処方箋を提示することは一切行っていない。貧困報道に関する反省的な議論が行われている昨今、今更こうした「貧困ポルノ」を羅列するだけの企画展に何の意味があるのか、という批判は免れ得ない。
一方で、現実的な問題として、売買春の世界で生きる未成年の少女に対して、実効性のある支援を届けることは極めて困難であることも事実だ。
厚生労働省は2016年、全国の児童相談所に対して、2015年4月から9月までに対応した児童買春・児童ポルノの被害状況を尋ねる調査を行った(児童福祉司約2300人が回答)。
本調査によると、被害者266人のうち、9割超が女子。被害者の約8割が中高生の年齢に当たる13~18歳だった。家庭環境・課題(複数回答)については、「ひとり親家庭」が36%、「保護者の心身が不安定」「保護者が無関心」がそれぞれ27%、「経済的困難」は24%だった。「親子関係が不調」「家出や無断外泊の経験がある」という少女も多かった。
そして、被害者の約3分の1に知的障害や発達障害などの症状があった。障害のある少女は、そもそも自分が被害に遭っているという認識が薄いため、児童買春などの事件に巻き込まれやすい傾向がある。家庭・学校・福祉から疎外された彼女たちは、見えにくく・分かりにくい存在であるだけでなく、自傷・他害行為=自分自身や他人を傷つけたり、何らかの迷惑・犯罪行為をしてしまう可能性が少なくない。
支援者に対して攻撃的・挑発的な態度を取ったり、拒絶や虚言を繰り返したり、わざと相手を怒らせるような「試し行動」を取ったりする。個人の善意や本人の自助努力だけではどうしようもなく、児童福祉・司法・医療などの専門職が領域横断的なチームを作って長期継続的に支援する必要があるが、それでもなおうまく行かない場合はいくらでもある。
そして世間のほとんどの人は、残念ながら売春をする少女には興味が無いし、積極的に関わりたいとも思っていない。いくら「彼女たちの現状を知ってほしい」と叫んでも、彼女たちの抱える複雑な背景をそのまま理解できる人・理解したい人はほとんどいない。
売春に乗り出す少女たちの大半が、悪い大人たちによって「買われた」存在であれば話は単純なのだが、現実はそうではない。決して少なくない割合で、彼女たちは自らの意思で「売っている」=相手を探して積極的に売春の世界に参入してくる(それゆえに警察に発見・補導される)。
2016年10月、元小学校教諭で、児童・生徒や保護者・教職員向けにネットの性被害・児童ポルノ根絶の啓発講演会を行っていた教育コンサルタント会社社長の男性(35歳)が、都内の中学3年生の女子に現金4万円を払ってわいせつな行為をした疑いで逮捕され、各種メディアで大きく報道された。行為の後、少女が「約束した金を払ってくれず、逃げられた」と110番通報したことで事件が発覚したという。このように、買春した男性側が代金を支払わないことで少女側に被害意識が生じて、そこから通報に至るケースは一定数存在する。
また2015年に児童ポルノ事件の被害者として特定された18歳未満の子ども(905人)のうち、「自撮り」による被害者は全体の41・5%(376人)を占めている。すなわち、少女たちが興味本位で自らの裸や性器をスマホで撮影し、男性から求められるままに送信したり、注目を浴びる快感を味わうために自発的にネット上に公開している現実がある。
そうした事実をありのままに提示してしまっては、かえって「どう考えても自己責任だろう」「少女自身が共犯者じゃないか」と批判され、攻撃の的になってしまう。少女が「買われた」現実よりも、少女が自らの意思で積極的に「売っている」現実の方が、多くの人にとっては見たくない現実なのかもしれない。

2020年には年10~20万円手取りが減る! 今後の税・社会保険料を試算

NIKKEI STYLE 2017年2月6日

2017年以降も税金や社会保険で制度や仕組みの見直し・改定が続く。現役世代は年収によって負担額が変わるが、中でも1000万円を超える世帯で支払う金額が大きく増える。手取り収入減の影響を抑えるには、家計に合った防衛策が必要だろう。社会保険・税金の今後の予定と負担増加について調べてみた。
17年からの主な変更点は表Aの通り。会社員世帯に影響の大きい「給与所得控除の縮小」をはじめ、全体的にはさらなる負担増につながる見直しが目立つ。
ポイントを社会保険から見ていこう。
会社員らが加入する厚生年金保険については今年9月、保険料率が18.3%(報酬額比、労使で折半)に引き上げられる。料率はこれまでも毎年、上がり続けてきた(図B)。

総報酬割に移行
今回の改定を機に保険料率はひとまず固定される。現役世代には朗報だが、それでも保険料の支払額をみれば、例えば年収700万円世帯でおおむね60万円台。家計には重い負担だ。
健康保険と介護保険で注目すべきは、現役世代への負担の割り当てが段階的に見直される点だ。「ケースによるが、高所得者ほど負担は増える可能性が高い」(社会保険労務士の池田直子氏)。どういうことか。
健康保険と介護保険の保険料は、加入する医療保険制度ごとに徴収される。大企業の会社員ならそれぞれの健保組合、中小企業なら全国健康保険協会(協会けんぽ)といった具合だ。
各制度が負担する介護保険の保険料額はこれまで、加入者の「人数」に比例させる形で国が決めていた。今年8月からは「収入」に応じる方式(総報酬割)が一部導入され、4年かけて全面移行する予定だ。
給与水準が高い健保組合ほど保険料率は上がりやすい。厚生労働省の試算によると、1000を超える健保組合と多くの共済組合で上がり、協会けんぽや400弱の健保組合で下がる。
健康保険では、保険料の一部で負担している「後期高齢者支援金」で収入に連動するこの仕組みを15年から一部導入し、今年4月から全面移行する。高所得者への影響が大きそうだ。
次に税金を見ていこう。
給与収入から経費として差し引いて納税額を減らすことができる「給与所得控除」は縮小の方向で見直しが続く。以前はどんなに収入が多くても控除できる額に制限はなかったが、13年から上限が設けられた。
対象となる年収水準も切り下がってきている。今年から1000万円を超えると、控除額220万円が上限となる。昨年は年収1200万円超(上限230万円)が対象だった。
税関連でもう一つ現役世代への影響が大きいのが「配偶者控除」。18年から、配偶者の収入要件が緩和(年103万円→150万円)される一方で、世帯主に収入要件が加わる。
世帯主の収入が1120万円を超えると控除額が徐々に減り、1220万円を超えるとゼロになる。世帯主の収入が多いと控除できる金額が減り、増税となる可能性が出てくる。
高所得者を中心に負担が増すような見直しが並ぶが、年収別にみると負担額はどうなるのか。ファイナンシャルプランナー(FP)の八ツ井慶子氏に試算してもらった。介護保険の総報酬割が全面導入される20年時点の負担額を、16年と比べたのが表Cだ。
20年時点の健康保険料率は、健保組合の過去10年平均の上がり幅(年0.18%)が続くとして設定。介護保険料率は厚労省のデータを基に16年比1.14倍の水準とした。
試算の結果、負担の増加額(手取りの減少額)は年収500万円、700万円の世帯で2万円強となる。1000万円では3万7000円だ。

独自の防衛策を
年収が1000万円を超えると、給与所得控除の縮小の影響が出てくる。半面、全額所得控除できる社会保険料が増えるため課税所得の増加は抑えられる。
所得税・住民税が増えるのは年収が1100万円を超えたあたりから。1150万円、1300万円でみると、社会保険料増とのダブルパンチで、手取りの減少額は約10万円、約20万円にも上る。
これらの世帯では配偶者控除の改正も増税の一因となっている。試算結果からも、税・社会保険料の負担は幅広い所得層で増え、特に高所得の層で影響が大きいことが確認できた。
FPの深田晶恵氏によると、負担増はここ15年ほどですでに家計を直撃。「年収700万円世帯の手取りは15年前に比べて50万円程度も減っている」。今後の影響にはなおさら注意を払う必要がある。
大切なのは「わが家の場合、自分の場合はどうなのかという視点を持つこと」(深田氏)。源泉徴収票などで額面や手取りの年収を押さえ、今後の展望を頭に描く。健保組合の動向や予算にも敏感でいたい。
そのうえで家計に見合った対策を考える。妻が専業主婦なら働きに出るのが手っ取り早く手取りを増やす手段だ。「手取り収入が増えにくい時代だからこそ、どう使うかが大事な時代だといえる」(八ツ井氏)。手元資金に余裕があるなら、資金運用を考えるのも一案だろう。(土井誠司)