<第三者卵子で出産>進む現実、法整備遅れ 子の立場不安定

毎日新聞 2017年3月22日

病気のため自分の卵子で妊娠できない女性が、国内では初めて匿名の第三者から卵子提供を受けて女児を出産したと、仲介した神戸市のNPO法人が22日、発表した。国内での卵子提供は一部医療機関で姉妹や友人間に限って実施されており、不妊治療の幅が広がる期待がある。一方、親子関係や子が出自を知る権利などが不明確なまま現実が先行する事態に、専門家らは「子の幸福の観点から法整備が急務」と訴える。【千葉紀和】
記者会見した「卵子提供登録支援団体(OD-NET)」によると、出産したのは、若いうちに月経がなくなる早期閉経の40代女性。無償を条件に提供に応じた30代女性の卵子と、夫の精子を体外受精して作った受精卵を子宮に戻し、今年1月に出産した。女児は健康で、患者の費用は約100万円という。
同団体の岸本佐智子理事長は「匿名で無償のボランティアによる卵子提供がわが国でも可能ということを証明した」と強調。出産した女性の「妊娠、出産、育児をとおして『生きる希望』ができた。ドナー(提供者)に深く感謝します」とのコメントを読み上げた。
また、先天的に妊娠できないターナー症候群の女性2人が妊娠中で、別の3人も治療に向け準備しており、さらに出産例が増える見通しを明らかにした。
第三者からの卵子提供は、世界的には普及している。生殖医療に詳しい石原理・埼玉医科大教授によると、調査した約100カ国のうち8割が条件付きで認めているという。
国内でも、加齢による不妊の女性からの期待が大きい。厚生労働省研究班の意識調査では、第三者の卵子を使った体外受精を「利用したい」「配偶者が賛成したら利用したい」と答えた人は26・8%に上る。厚労省の部会は2003年、条件付きで卵子提供を認める報告書をまとめ、法整備も求めたが、いまだに実現していない。
現在の民法では、母親は産んだ女性か卵子提供者かの明確な規定がないが、最高裁の判例では産んだ女性を母と認めている。自民党の部会は昨年3月、「産んだ女性を母」とする民法特例法案を了承したが、その後、国会への提出の動きはない。
特に賛否が分かれるのが、子が出自を知る権利だ。同団体は15歳になった時点で子が希望すれば卵子提供者の氏名などを開示することで、提供者と合意しているという。だが、どのように伝えるのか、個人情報の長期管理は万全なのかなど課題は残されたままだ。
石原教授は「現状のまま提供が広がれば子が出自を知ろうとした時に問題が起きる。権利を守るため、あいまいなままの子の立場を法律で早急に明確にすべきだ」と指摘する。

子どもに会えない父親たち 認められない面会交流の裏側〈AERA〉

dot. 2017年3月20日

調停で離婚した夫婦の子どもの約9割は、母親が親権者になる。子どもと断絶させられた父親からの面会交流調停への申請数が増えている。
4年前、シンジさん(48)が仕事から家に帰ると、真っ暗な部屋に一枚の置き手紙があった。
「あなたは私のことを対等に見てくれませんでしたね。子どもは連れていきます」
生後7カ月の娘の姿はなく、その日から娘と会えない“断絶”の日々が始まった。
14歳年下の妻とは、小笠原諸島の民宿で出会った。2人とも海が好きで、2009年に結婚。シンジさんは大手メーカーのエンジニア、妻はパティシエとして働き、夜は2人で外食するような仲のいい夫婦だった。12年6月に長女が生まれた。
「妻は人付き合いが苦手で、子ども好きというタイプではありませんでした。妊娠してからは情緒が不安定気味で里帰り出産をしましたが、それはよくあることです。東京に戻ってからは私も4カ月の育児休暇を取り、一緒に育児をしていました」

完全なでっち上げ
だが、しばらくたつと“事件”が勃発する。孫の様子を見に自宅に来た義母が「孫は連れて帰る!」と言ってシンジさんにつかみかかってきたという。妻も娘を強引に連れ出そうとしたので、義母を振り払って、娘を取り返した。結局、児童相談所が仲介に入ったが、児相に義母は「(シンジさんに)暴力を振るわれた」と主張していたという。
「断じて暴力など振るっていません。目の前で娘を連れ去られそうになったので、それを振りほどいただけです」
その後、一度は妻と娘も自宅に戻り、家族再生の道を探った。だが、妻が生命保険の外交員に勧誘され、その場で契約したことを発端に、また夫婦に摩擦が生じる。シンジさんが「なぜすぐ決めるのか」と問うと、妻は「あなたは私のやりたいことを一切認めない」と口論になった。
「その時も、怒鳴ったりはしていません。実は、妻は過去にも帰省中に同級生からマルチ商法に誘われ、物品を購入したことがある。周囲に影響されやすいところは諭しました」
こうしたことに不満を募らせたのか。約2カ月後、妻は娘を連れて家を出ていった。
翌日、妻の弁護士から内容証明郵便が届いた。離婚事由は「精神的DV」と「経済的DV」。妻は事前に自治体の窓口でDV相談をし、弁護士も手配していた。出ていく日を決めて、一時的にシェルターに避難することで、DVを主張する「計画」が出来上がっていた、とシンジさんは主張する。
「完全なでっち上げです。住居費、生活費もほぼ私の負担で経済的DVもありえません」
意に反して離婚調停が進むなか、シンジさんは面会交流を申し立てていたが、面会できたのは2年間で2回だけ。それも妻の地元で第三者機関の担当者を交えて60分だけという条件だった。最初は娘が1歳半のとき。殺風景な広い部屋でおもちゃで遊ぶ娘を遠くから見守るだけ。その「非日常」の雰囲気に娘は泣きだしてしまい、結局、30分で切り上げられた。9カ月後の面会も同様に泣いてしまい、30分で終了。父親だとわかってもらうこともできなかった。
「もしかしたら、妻は私が親のように諭すのが気に入らなかったのかもしれない。でも、それだけで7カ月の娘と引き離されて、2年間で会えたのはたった1時間というのはひどい」

面会交流申請が急増
厚生労働省の「全国母子世帯等調査」(11年度)によると、別居親と子どもの面会割合は母子世帯で27.7%、父子世帯で37.4%。別居親の6~7割は子どもと会えていない。一方で、面会交流調停への申請数は増え続けており、15年は1万2264件(司法統計)。00年と比べて5倍以上にもなっている。
民法には面会交流の明確な規定はなかったが、12年施行の改正法で「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と明記された。こうした流れを受け、16年末、超党派の国会議員が所属する「親子断絶防止議員連盟」は、別居親との面会を促す法案をまとめた。
ノンフィクション作家の西牟田靖さんは、今年1月、離婚前後に子どもと引き離された父親の葛藤をつづった『わが子に会えない』を出版した。
「子どもに会えない父親=妻や子に暴力を振るう男性というレッテルを貼られがちです。しかし、私が話を聞いた父親たちは、子ども思いで暴力を振るうようにも見えず、経済的に安定している方が大半でした。離婚事由として、妻から身に覚えのないDVを訴えられるケースが多く、いきなり子どもと断絶させられたうえに、どうやって“無実”を証明すればいいかもわからない。混乱の中で司法の判断だけが進み、面会交流も認められにくくなる。そうなれば円満解決はもはや困難です」
ナオトさん(37)は、1年半前に妻に子を連れて出ていかれた。当時、長男が2歳、長女は3カ月だった。子育ては自分でやりたいという妻の意思を尊重し、代わりに掃除、洗濯、皿洗い、ごみ捨てなど家事全般を請け負う、協力し合う夫婦だった。それなのに、手紙一枚を残し、妻と子どもは突然姿を消した。

離婚の事由がない
「『もう夫婦関係は続けていけない』とだけ書かれていました。すぐに妻に理由を聞きましたが、とにかく『離婚したい』の一点張り。今でも明確な離婚の事由は示されていません」
思い当たる節があるとすれば、義母との関係。過干渉なくらいに家に来る義母とは折り合いが悪く、ある日、ナオトさんの実親をあしざまに言ったことに怒り、怒鳴ったことがあった。
だが、妻にそれが理由かと問うと「違う」という返答。理由もわからないまま、調停が申し立てられた。家庭裁判所からは円満調停が言い渡され、「面会は月に1回2時間」「監護権は妻とすること」などが決まった。
「離婚の事由もないのに、子を連れて出ていかれて月に1回しか会えなくなるなんて、司法の判断は明らかにおかしい」
ナオトさんは、親子断絶防止法案の成立を願っているという。
ただ、同法案には不備が多いとの指摘もある。弁護士の打越さく良さんが言う。
「第8条のように『別居前に子どもの監護権や面会交流の取り決めをせよ』というのは危険な場合もあり一律には言えません。子どもの心身の安全確保のために別居しなければならないときに、事前の話し合いなど無理です。行政の窓口に行って
『事前の取り決めがないなら援助できません』となったら結局避難ができず、子どもにも酷です」
子連れ別居や離婚の背景には、深刻なDVや虐待がある場合も多く、「子の利益」に照らし当面は別居親との面会交流を認めるべきでないケースもある。
「どのような場合が違法な連れ去りで、監護の継続性や虐待の存否など個別の事情を含めて子の利益を判断できるのは、やはり家庭裁判所。実績のある家庭裁判所の環境改善を図ることが先決です。そもそも、『児童の権利条約』では、子どもの権利の実現のため、国に適切な措置をとる義務を課している。この法案は当事者間に力の非対称性がありうることを無視して、父母に責任を負わせていることが問題です」(打越さん)
夫婦の別離は、夫、妻の立場それぞれに“真理”がある。ただ、同意なしに子どもを連れていかれた親の苦悩も深い。「救済策」が検討される時期に来ている。(文中カタカナ名は仮名)
(編集部・作田裕史)

日本はみんなが豊かになっているわけではない 格差は別に悪くない―金持ちが増えない社会でやるべきこと

日経ウーマンオンライン(日経ウーマン) 2017年3月23日

お隣の国、韓国では朴元大統領が罷免されるというショッキングなニュースが入ってきました。この背景には、韓国で進む経済格差に憤りを感じた国民感情も重なったといわれています。またアメリカのトランプ大統領を誕生させたのも、経済格差への怒りが重なったと指摘されています。では、日本はどうなっているでしょうか? 現状を分析し、私達のキャリアプランへの影響も探ります。

そもそも格差は悪いこと?
経済格差――この言葉を聞くとどんな印象を持ちますか? ポジティブな印象を持つ人は少ないでしょう。
しかし、少し待ってください。格差は本当にいけないことなのでしょうか? なんでも平等が大切なのでしょうか。
例えば、勤務先の売上高アップに貢献したり、努力したりして資格を取得します。でも、平等を進めるために、売り上げが低い人や努力を怠っている人と給料が同じ場合、切ないですよね。
経済格差そのものが悪いのではなく、一度でも仕事で失敗したり、病気になって働けなくなったりと、キャリアを中断したら、どれだけ努力しても給料アップの見込みが無くなる状況がまずいのです。
つまり、経済格差が固定化されてしまうような状況を作り上げることが社会の課題なのです。

日本の経済格差は?
では、日本の経済格差の状況はどうなっているのでしょうか。もちろん経済格差といっても、さまざまな格差があります。
例えば、男女格差、地方と都市の格差、資産格差……など。ここでは、所得格差(≒給料の金額が、日本全体で見たときにどの程度、人によって格差があるかを見たもの)に焦点を当てて考えてみましょう。
2016年9月に厚生労働省から「所得再分配調査」という2013年までのデータを対象とした所得格差に関するレポートが発表されました。

2016年「所得再分配調査」(厚生労働省/記事末参照)
この中のジニ係数(ここではあらゆる税制によって再分配された後の所得格差を対象)という数字が大きいほど所得格差が進み、逆ならば格差が縮小し、所得の受け取り具合が平等化していることを示します。
そして、結果は……
なんと、日本は所得格差が縮小していたのです! 2010年の0.4067から、2013年の0.4057へとジニ係数が低下を見せていました。
一般的には格差社会といわれるだけに、意外な結果です。でも、なぜ所得格差は縮小したのでしょうか。その背景は、さらに意外な結果でした。

なぜ所得格差は縮小したの?
ここに総務省が発表している「家計調査」というデータがあります。この中では、年間所得(税込)を、200万円以下、200-250万円……1500万円以上と18の階級に分けたデータが開示されています。更に、その階級ごとの世帯数の比率が含まれています。

「家計調査」(総務省/記事末参照)
2002年から2012年までのデータを見ると、年収が500万円以上の全体に占める世帯数が、軒並み低下。一方で、年収が500万円以下の世帯比率が上昇しています。
つまり、日本の経済格差は縮小といっても、長引く景気後退で豊かな世帯数が減ったことが主因なのです。結果、平均的にみんなの所得が低下しているということです。みんなが豊かになって格差が縮小しているわけではない。むしろ中間層の減少や貧困層の拡大は日本の課題です。
格差というと、お金持ちが増えている印象がありますが、アメリカ、イギリスでは実際に「お金持ちが増える現象」が起きています。しかし、日本の場合はその逆で、お金持ちが減っています。それにより経済格差が縮小したものの、みんなの所得が平均的に減少したことで新たな経済課題が生まれているんです。
では、全体的に所得が縮小傾向にある中で、私たちはどうすべきでしょうか。
政府としては、こうした課題のためにお金を支給するわけにいきません。ただ、あらゆる形で税控除を設ける可能性が高いと予想されます。
キャリアアップへの努力はもちろんですが、見落としがちな税制優遇や、確実にリターンのある税控除など、税制についての知識を持つことが、今すぐできるリスク回避なのかもしれません。私も今年は税制について改めて勉強する年にしようと思います!