<児童養護施設>4割にLGBT 「入浴」「からかい」悩む

毎日新聞 2017年5月28日

貧困や虐待などで親元で暮らせない原則18歳未満が生活する児童養護施設の4割以上に、同性愛者や心と体の性が一致しないトランスジェンダーなど性的少数者(LGBT)とみられる子どもがいたとの調査結果を、支援団体などが27日明らかにした。全国220施設で少なくとも144人が入所していたが、集団生活する中で施設の職員の知識不足や構造上の問題などで十分配慮ができていない事例が多数あった。
調査は一般社団法人「レインボーフォスターケア」と岩本健良・金沢大准教授らが実施。全国約600施設に調査票を郵送し、220施設が回答した。
LGBTと思われる子が「現在いる」とした施設は15%。過去分も含めると45%の99施設に144人が入所していた。具体的な回答があった133人のうち、トランスジェンダーは95人、同性愛や両性愛の傾向は59人。「集団入浴で裸を見られるのを嫌がる」「体の性別で決められた服を拒否する」「同性に好意を抱くことを疑問に思って情緒不安定になり、周囲のからかいの対象になった」といった報告があった。
99施設のうち、職員会議や子どもの相談に乗るなどの対応をしたのは66施設。LGBTの子へのケアの苦労としては「個室がなくプライバシーの配慮が難しい」「生活の場が体の性別で分かれており、トランスジェンダーに配慮した対応ができていない」など生活環境関連が多かった。職員の意識の低さや、一緒に暮らす子どもへの教育の必要性を指摘する声もあった。
LGBTを巡っては、13人に1人が該当するとのデータもある。文部科学省は2015年の通知で、LGBTの児童・生徒へのきめ細かな対応を学校に求めているが、児童養護施設は通知の対象外。レインボーフォスターケアの藤めぐみ代表は「どの施設にもLGBTと推察される子どもはいるという前提で、職員への研修や子どもへの性教育などから取り組んでほしい」と訴える。【藤沢美由紀】

「給付型奨学金」の利用方法と注意点

今野晴貴 NPO法人POSSE代表 2017年5月29日

今年3月に日本学生支援機構法が改正され、給付型奨学金制度が初めて導入された。そもそも、「奨学金」とは世界的には給付のもののみを指し、貸与型の教育ローンとは明確に区別されている。奨学金が給付型というのは世界的には当たり前の話であるが、日本には今年になるまでそういったものが一切存在しなかった。
この給付型奨学金は大きな話題になったものの、制度や申込方法についての詳細を把握している人は少ないだろう。そこで、今回は、給付型奨学金の申し込み方、そして利用の際に気をつけるべきポイントを共有したい(なおここでは主に2018年度採用の給付型奨学金を取り上げる)。

制度導入の経緯
今回、導入された給付型奨学金は今年度から先行的に実施され、来年度(2018年度)から本格的に行われることになっている。もともと、昨年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」において必要性が言及され、12月に公表された文部科学省の「給付型奨学金制度検討チーム」の中で具体的な制度が明らかになった。
世界的に見れば、そもそも大学の学費が無料もしくは低額の国が多く存在し、学費がかかったとしても給付型奨学金が充実している国がほとんどだ。つまり、学費が安いか、給付型奨学金があるか、そのどちらかがあることが「グローバルスタンダード」なのである。
OECDの発表によれば、学費が高額で、かつ給付型奨学金が存在しない国は日本、韓国、チリの3カ国のみとなっている。その中で、後述するようにかなり限定的とは言え、給付型奨学金が創設されたことは一歩前進だろう。

給付型奨学金の給付内容
給付型奨学金の受給対象となるのは、大学、短大、専門学校、高専などに通う学生である。ただ、様々なメディアでも言われているように、給付型奨学金の中身は非常に貧弱だ。まず金額(月額)は以下のようになっている。
?国公立自宅通学 2万円
?国公立自宅外通学・私立自宅通学 3万円
?私立自宅外通学 4万円

国立大学の初年度納入金(2017年度)は、授業料53万5800円と入学金28万2000円の合計81万7800円、私立大学の初年度納入金(2014年度平均)は授業料86万4384円と入学金26万1089円の合計112万5473円。
国立大学に通う学生は最大で年36万円の給付を受けられるが、これは初年度納入金のわずか約44%にしかならない。私立大学に通う学生の場合は最大で授業料・入学金の約43%にしか充てられない。学費の残りと生活費のためには結局、従来の「貸与型」奨学金を借りるしかない。

受給要件(所得と成績)
そして、この給付型奨学金を受けられる対象になる学生の数も極めて限定的だ。そもそも予算として2万人分が用意されているが、これは2015年に大学・短大に進学した58万3533人の内、わずか3.4%でしかない(専門学校進学者17万8069人を加えると、全体の2.6%)。受けられるはほんの一握りなのだ。
その2万人を決定する上で、所得上および成績上の要件が決められている。第一に、児童養護施設などに入所しているか、里親の養育を受けている人が対象となる。第二に、親の所得水準で受給可能性が決まる。この水準は、生活保護を受給している(申請時に)か、家計支持者が住民税非課税(所得割が0円)であることだ。夫婦と子2人の世帯だと年収256万円以下の世帯のみが対象ということになり、ほとんどの家庭はここで給付型を受給する条件から外れてしまう。
そして学力の基準だが、各高校が「学習成績」や「資質能力」にもとづいて1名ずつ推薦し、その上で日本学生支援機構の審査が行われる。この推薦内容は日本学生支援機構の「給付奨学生採用候補者の推薦に係る指針(ガイドライン)」に記載されているが、非常に抽象的でどういった人が推薦の対象となるのかははっきりしない。
「学力及び資質について」の項目(給付奨学生採用候補者の推薦に係る指針)によれば、以下のような要件が示されている。
「各学校の教育目標に照らして十分に満足できる高い学習成績を収めている」
「教科以外の学校活動等で大変優れた成果を収め、各学校の教育目標に照らして概ね満足できる学習成績を収めている」
これだけあいまいな規定では、学校によって運営が大きく違い、生徒たちが混乱することも予想される。下手をすると、「先生の好み」が選抜に影響を与えてしまう危険性も否定はできないだろう。尚、海外の給付型奨学金では学力要件がないことが普通である。

申し込み方法

では実際に受給要件を満たしており、給付型奨学金を希望する人はどのように申し込めばよいのか。
この給付型奨学金は、原則として在籍する高校などを通じて申し込み手続きを行うことになる。申し込み期限は高校によって異なるので、注意が必要だ。高校から必要書類を受け取った上で、申込書に記入し、親の所得証明書もしくは児童養護施設在籍証明書などを添付し再度高校へ提出する。
高校側がそれを日本学生支援機構に送付し、審査の上、受給できるかどうかが決まる、というプロセスになっている。

注意点:返還を求められる可能性について
学校推薦など限りなく厳しい競争を経て給付型奨学金を受給できたとしても、注意しなければならない点がある。それは、何らかの理由で成績不振になってしまった場合、将来的な奨学金がストップされるだけでなく、過去に支給された分の返還を求められることがある、ということだ。
例えば成績不振で1年次に留年してしまった場合(1年生から2年生になれなかった場合)、その後3年間の給付を受けられないだけでなく、過去1年間で受けていた金額の返還を求められる可能性がある。
もし月4万円の給付を受けていたとすると、48万円分を9年(108か月)かけて月4444円ずつ返還しなければいけない。さらに、もし何かしらの理由で返還を延滞してしまうと、通常の貸与型奨学金と同じように法的措置(裁判)をJASSOが採る可能性があるのだ。従来のやり方と同一だとすると、全額の返済を一括で求め、支払えない場合には自己破産に追い込まれることになる。
そもそも給付型奨学金を受けている時点でかなり生活に困窮していることが明らかで、授業料や生活費に充てるためにアルバイトをしなければいけないケースは多いだろう。「ブラックバイト」が問題になっているように、過剰なシフトを強要され学校にいけなくなり単位を落としたり、最悪の場合、留年してしまったりという相談が、私たちのところには多々寄せられる。
アルバイトのせいで成績不振に陥り、その結果、給付型奨学金も受けられなくなり、その上返還を求められるとすれば、反って学生の将来を不安定にしてしまう。

いま、奨学金の返済で困っている方へ
ここまでみた給付型奨学金では、これまで貸与型を利用していた人は対象外となっている。しかし、現時点で、収入が低く自身の奨学金の返済に困っていたり、子どもや孫、いとこの連帯保証人・保証人になっていて自分に請求が来るか不安になっていたりする人が大勢いると思われる。
私が代表を勤めるNPO法人POSSEを始め、様々な民間団体が、奨学金の返済に困っている人の相談を無料で受け付けて解決方法をアドバイスしている。例えばPOSSEには、昨年度だけで全国から200件近い相談が寄せられている。
奨学金の恐ろしいところは、返済できずにいるとブラックリストに載せられ、かつ年利5%の延滞金を取られてしまうというところだ。さらに、延滞が続くと裁判を起こされて、最悪の場合は財産の差し押さえまでされてしまう。
重要なことは、こういった事態に陥る前に早めに相談するということだ。実際に、専門家に相談して請求額を減らすことができたケースもある。無料で相談を受付けている窓口もあり、まずは相談して自分の状況を確認することが大切だ。

もし、わが子がいじめや体罰にあったら─、手探りで続く親たちの闘い

週刊女性PRIME 2017年5月29日

体罰を苦に退部を申し出たが却下され、自殺
学校で起きたいじめや体罰、事故で子どもが亡くなった場合、遺族は孤立し、悩むことが多い。2011年10月、滋賀県大津市の中学2年生の男子生徒が自殺。加害者のうち2人が暴行容疑で書類送検、1人が児童相談所送致された事件を受けて、『いじめ対策推進法』が’13年に成立した。いじめによる自殺や不登校などがあった場合、調査委員会が設置されるようになった。ほかの学校事故や事件でも同様の調査委が設置されることが増えつつある。
東海地方では、遺族同士の情報交換をする『学校事故事件遺族連絡会』が結成され、今年で3年がたつ。5月7日、名古屋市内で会合が開かれた。呼びかけ人は山田優美子さん。「ほかの遺族とは個別につながっていたのですが、東海地方で遺族が集まる機会がなかったんです」

山田さんの次男、恭平くん(当時16)は’11年6月にみずから命を絶った。愛知県立刈谷工業高校の野球部に所属していたが、体罰が常態化。4月、退部を申し出たが却下された。そんな中で、副部長がキャプテンを通じて恭平くんを呼び出した。体罰を予感したのか、恭平くんは友人に《ビンタ、タイキック、グーパンチ覚悟》とメールを出している。結局呼び出しに応じず、その2日後、廃車置き場で練炭自殺した。
学校が県教委に報告書を提出していたため、両親は調査委員会の設置を求めた。設置はされたが、委員の名前は非公開、遺族が目の前にいるにもかかわらず職業を名乗っただけ。不信感を持った両親は調査委の審議を拒否、退席した。
それから県知事に別の委員会の設置を要望し、調査委ができたが、遺族の独自調査で得られた生徒の証言は採用されず。事実認定には限界があった。
また、災害共済給付金を運用しているスポーツ振興センターに死亡見舞金の申請もしたが、1度は却下された。高校生の自殺は「故意」とされ給付が認められないことが多いからだ。しかし、不服審査請求の際、独自調査も提出。学校生活との関連が認められた。
遺族にとって、調査はハードルが高い。ここまでしなければ、学校生活との因果関係が認められない。
「恭平には直接の体罰はありませんでしたが、パワハラ、暴言がひどかった。そのことを両親に話さなかったのは恥ずかしいと思ったからではないでしょうか」

連絡会の賛同人のひとりが西野友章さんだ。’10年6月、静岡県浜松市の浜名湖で訓練中、愛知県豊橋市の中学校の手漕ぎボートが転覆。1年生だった花菜さん(当時12)が水死した。
父親の西野さんは民事裁判と刑事裁判で、責任追及をしてきた。’12年5月、静岡県と豊橋市に損害賠償を求めて提訴。10月に和解が成立した。一方、静岡県警などは元校長や県の教育施設の元所長を書類送検。元所長だけが起訴された。
静岡地裁は元所長に対して、業務上過失致死で禁錮1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を下した。
さらに西野さんは’16年4月、元校長の不起訴処分は不当として検察審査会に審査を申し立てた。同年10月、不起訴不当の議決を受け、西野さんは適正な再捜査を静岡地検に申し入れた。しかし、’17年3月10日、再び不起訴処分とされた。
7日の会合では、栃木県那須町で起きたスキー場での雪崩事故について言及。西野さんは「経験則が邪魔をする。データに基づいた判断が必要だ」と訴えた。

全国柔道事故被害者の会の代表、倉田久子さんも賛同人だ。次男で、名古屋市立向陽高校1年生の総嗣くん(当時15)は’11年6月、柔道部の練習中、大外刈りで投げられた際に後頭部を打った。安静にしていたが、立ち上がろうとして気を失い、病院に運ばれた。およそ1か月後の7月、急性硬膜下血腫で死亡した。
名古屋市教委は’12年2月、市の柔道安全指導検討委員会を開催し、5月には報告書を出している。
総嗣くんは高校から柔道を始めた。顧問の教員は柔道経験が少なかった。
初心者の1年生は、4月中は基本運動と受け身の練習だけをしていた。5月下旬、練習中に受け身を取ることができず後頭部を強打。6月にも、背負い投げをしたときに右頭頂部を打撲した。事故当日、顧問が駆けつけたときには、総嗣くんは口から泡を吹いていた。
検討委は事故の発生要因について検証、練習計画や指導体制、柔道の習熟度を調べた。総嗣くんの状態を顧問や養護教諭、学級担任がどのように把握していたのかも調査した。そのうえで、再発防止を提言した。
「柔道事故での調査委員会は名古屋市が初めて。学校の対応はよかった。状況を知りたいと言ったことは調べ上げてくれました。早い段階で再発防止策も取れた。声をあげていかないと、同じ事故が起きます」

黒塗りの報告書や形だけの調査も
この日の会合には、「子どもが体罰といじめの被害にあった」という明子さん(仮名)も参加していた。
「息子が自殺をせずに助かったのは、その寸前に見つけたから。何をしているのか聞くと、“電車に飛び込もうと思った”と。説得して、やめさせました」
これまでは明子さんひとりで学校と交渉してきた。示談もせず、「水に流して」と言われたが、母子とも納得せず悩んでいたところ、この連絡会を知った。
賛同人には、いじめ自殺の遺族もいる。1994年11月、愛知県西尾市の中学2年生、大河内清輝くん(当時13)が自殺した。その父親・祥晴さんだ。清輝くんの遺書には、小学校6年生からいじめが始まったことや、お金をせびられるようになり《今日、もっていくお金がどうしてもみつからなかった》などと書かれていた。
大河内さんはこの日の会合を欠席したが、会のメンバーは学校と交渉してきた経験者ばかり。「弁護士に相談してみてはどうか」「相談する際は項目を書き出して、時系列にするとよい」などと、明子さんはアドバスをもらっていた。
「日常的に話す人がいないのでスッキリしました。参考になりました」(明子さん)
子どもがいじめにあい、不登校や自殺に直面したとき、保護者・遺族は学校とどう接したらよいかわからないことが多い。

’15年9月、都立小山台高校の1年生、高橋博司くん(当時16=仮名)は、JR中央線大月駅(山梨県)で電車に飛び込み自殺した。東京都教委は’16年1月、『いじめ問題対策委員会』のもとに『調査部会』を設置した。博司くんへのいじめの有無、自殺の要因、学校対応などを調べている。
博司くんの死後、母親の里美さん(仮名)がスマホのデータを復旧した。すると、《死んでしまいたい》などのツイッターの書き込みを見つけた。友人に相談をしているやりとりもあることから「いじめがあったのではないか?」と思い、設置を要望したのだ。
最近でも、スマホアプリの「メモ帳」の中に、「よし死ね」と書かれたデータを見つけた。保存された日時は亡くなる前日だ。「鑑定結果から、他人から送られてきた可能性が捨てきれません。保存されたのは自殺前日。もし、いじめられていたら、きっかけにもなったのではないでしょうか」(里美さん)
ただ、調査部会は作られたが設置要綱はなく、権限やルールが明確ではない。委員の人選方法、進め方などは各地域で異なる。都の部会では、遺族推薦で4人の委員が入った。
また、調査過程で、遺族や保護者に十分な情報提供がされない場合もある。「どんな情報があって、どんな議論になっているのかというプロセスも知りたい」と思った里美さんは、情報公開請求した。しかし調査部会が開催中で、「自由な議論を妨げるおそれ」を理由に非開示になった箇所も多い。その部分は真っ黒でいわゆる“のり弁状態”だ(記事冒頭の写真参照)。それでも里美さんは、
「報告書がどんな内容になったとしても、基礎的な文書などが残っていれば検証できます。保存してもらえるように要請しています」

『「指導死」親の会』世話人を務める大貫隆志さんは、教師の指導後に息子を自殺で亡くした。現在はいじめの相談を受けたり、関連する裁判を傍聴している。いじめ調査委の委員も担う。
「法律ができたことは成果ですが、調査されないケースや、形だけの調査の場合もあります。なぜ重大事態との認識を持たないのか。きちんとやらないと再発防止になりません」
同法では調査委員会について細かく規定されていないが、’17年3月、文科省がガイドラインを作り、調査のあり方を示した。
「ガイドラインは詳細に書かれています。遺族や保護者が調査委と“闘う”ツールが増えました。学校で組織的対応をして、また初期対応を強化することが必要です。まずは被害者を守ること。そして、加害者にも貧困や虐待という背景があることもあり、支援的な関わりも必要です」

使い切れない有給休暇の「換金」は可能なのか

東洋経済オンライン 2017年5月28日

仕事を休みたいとき、最も簡単に利用できるのが「年次有給休暇」(以下、「年休」)です。毎年新たに付与されるものですが、仕事が忙しくて、結局使い切れずに余ってしまう、という方も多いのではないでしょうか。
こうした状況下で、「どうせ使えないなら、会社に幾日分か買い上げてもらいたい」というご意見もあります。年休を買ってもらうことは、はたして可能なのでしょうか。

年休を請求できる権利は、2年で消滅する
年休がどのタイミングで、何日分もらえるかは、会社によってルールが異なります。法律では、入社日から6カ月間継続して働き、全労働日の8割以上勤務した場合に10労働日、それ以降は1年ごとに8割以上の出勤率を満たしていれば勤続年数に応じて与えられることになっています。この日数は、週5日または週30時間以上働く人の場合で、パートタイマーやアルバイトであっても、所定労働日数・時間に応じて年休が与えられます。
たとえば、正社員が入社して2年経っている場合、まったく年休を使っていないとすれば、最初の6カ月で10労働日、その1年後に11労働日と、合わせて21日分の年休を保有していることになります。
ただ、「気づいたら、保有していた年休が消えていた」という人もいます。というのも、年休には時効があるからです。もらえる日数は毎年増えますが、それを使わないでずっと年休を貯め続けることはできません。年休を請求できる権利は、2年間で消滅します。
時効で年休の請求権が消滅してしまうなら、その前に金銭で買い取ってもらえないだろうか、という声を聞くことがあります。これは適法といえるのでしょうか?

余った年休を買い取ってもらうことはできるの?
これは、原則として違法になります。そもそも、年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図ることを目的としたもの。そのため、休暇を与えることと引き替えに金銭を支給する「買い上げ」行為は、法律の目的に反します。さらに、休暇日数を最初から買い上げる、または買い上げることを予約して、労働基準法で定められた日数を減らしたり、法定日数の休暇を取れないようにすることも違法となります。

例外1:法定以上の年休を与えられている場合
ただし、例外もあります。これは労働基準法の規定を上回る日数の年休を会社が与えている場合です。法定日数を上回る休暇をどのように取り扱うかは就業規則や労働協約の定めに委ねられているので、仮に買い上げる規定があったとしても、違法とはなりません。
たとえば、入社6カ月後に法律では10日分の年休を与えるところ、12日与える規定となっているような会社では、買い上げの規定があれば2日分を買い上げることは差し支えありません。ただ、運用面では複雑になり、労働時間の短縮化が求められる昨今において、こうしたルールを設ける企業は決して多くはないでしょう。

例外2:時効によって消滅してしまった場合
年休の買い上げが違法となるのは、法定日数分で、かつ、時効により消滅していない有効期間内の場合に限られます。そのため、時効によって消滅した日数分であれば、年休を買い上げても、法律には抵触しません。ただし、買い上げの額が実際の手当よりも高額なときは、問題となりうるので注意したいところです。
そうでなくとも、「休みを取らずに時効まで待てば、お金に換えられる」となれば、年休取得が進まなくなってしまいますので、違法とはいえないまでも、行政指導上好ましいものとはいえません。

例外3:退職する場合
退職するときはどうなるでしょうか?  最後まで年休を使い切って退職される方もいますが、すでに転職先が決まっているような場合もあるでしょう。
年休は、本来労働すべき日に労働が免除されるものですが、退職後はその権利を行使することができません。年休の請求権は、労働者の退職や解雇によって労働関係が消滅すれば、それに伴い消滅してしまいます。
消滅して行使できなくなる年休について、当然に請求できるものではありませんが、このような場合に会社側が残っている年休を買い上げることは、違法ではありません。事実、退職時に年休の買い上げが慣習化されている会社もあるでしょう。

「買い上げ」検討する前に、休める環境を
日本の有給休暇の取得率は、諸外国に比べても低く、厚生労働省の「就労条件総合調査」では、2016年調査(データは2015年)において48.7%と、過去10年を振り返ってみても50%を下回る状況が続いています。
本来、心身の疲労回復を目的とするための休暇なのであれば、退職するときに買い上げるという発想ではなく、社員の意思で適度な休みが取れることが大切なことは言うまでもありません。しかしながら、実際は人手不足や職場の雰囲気として休みにくいなど、さまざまな要因で年休が取れずにいる人も多くいるのが現状です。
働き方改革が叫ばれる今、年休の取得率向上を具体的な数値目標として掲げている企業も出てきました。個人の意識だけではなく、会社全体で休暇取得を促進するために何らかの対策を講じることが最も有効といえるでしょう。