<生活保護世帯>大学進学に給付金 厚労省検討

毎日新聞 2017年7月16日

厚生労働省は、生活保護受給世帯から大学に進学した子どもに対する給付金創設の検討を始めた。併せて、子どもが大学生になると家賃相当の保護費が減額される仕組みも廃止する。経済的負担が進学を妨げ、親から子への貧困の連鎖を招いていると指摘されてきた。来年度からの実施に向け、年末の予算編成段階で制度設計し、使途や金額などを決定する。【熊谷豪】
生活保護を受けながら大学に通うことは認められていない。大学に進学すると、子どもは同居していても別世帯として扱う「世帯分離」が行われ、親の保護費が減額される。東京23区内の母子3人家族の場合、生活費に相当する「生活扶助」と母子家庭への加算が計約4万4000円、家賃に当たる「住宅扶助」が約6000円それぞれカットされ、月額約22万円になる。
一方、生活保護世帯から独立した大学生は国民健康保険料を払わなければならず、新生活のためのお金もかかる。だが、アルバイト代など高校生の時の蓄えは受験料や入学金など使途が制限され、「卒業後への備え」は認められていない。
このため、進学意欲があっても経済的負担を考えて進学を諦めるケースがある。保護世帯の大学などの進学率は19%と全世帯の52%を大きく下回る。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」によると、大卒・大学院卒と高卒の生涯賃金の差は男性が約6000万円、女性は約7000万円に上り、進学が将来の生活にも影響を与える可能性がある。
支援団体などからは世帯分離の廃止を求める声が出ているが、厚労省は、保護を受けない貧困層との公平性などを考慮し世帯分離は継続する考えだ。ただし、同居を続ける場合、住宅扶助のカットをやめ、進学前と同額支給する。その上で、大学生が新生活を始めるための給付金を検討している。使途については学費は奨学金で賄うこととし、生活にかかる費用を想定している。
政府は6月に閣議決定した経済財政の基本方針「骨太の方針」で、保護世帯の子どもの大学進学支援に財源を確保することを明記している。

【ことば】生活保護費
日常の生活費に相当する生活扶助▽家賃を支給する住宅扶助▽自己負担なしで医療機関にかかれる医療扶助--など生活に必要な費用を現金で支給したり、自治体が代わりに支払ったりする。金額は地域や世帯の人数・年齢で異なる。障害者や母子家庭などへの加算もある。

 

<無縁仏>政令市、10年で倍増 貧困拡大背景

毎日新聞 2017年7月16日

全国の政令市で2015年度に亡くなった人の約30人に1人が、引き取り手のない無縁仏として自治体に税金で弔われていたことが、毎日新聞の調査で分かった。全政令市で計約7400柱に上り、10年でほぼ倍増。大阪市では9人に1人が無縁だった。死者の引き取りを拒む家族の増加や葬儀費を工面できない貧困層の拡大が背景にあり、都市部で高齢者の無縁化が進む実態が浮き彫りになった。

大阪市は9人に1人
死者に身寄りがなかったり、家族や親族が引き取りを拒んだりした場合、死亡地の自治体が火葬・埋葬すると法律で決められている。実際には生活保護費で賄われるケースが多い。
調査は今年6月、政令市を対象に実施。06~15年度に税金で火葬後、保管・埋葬した遺骨数を尋ねた。この結果、政令市の計20自治体は15年度に計7363柱を受け入れた。厚生労働省の人口動態統計によると、政令市の15年中の死者数は計24万4656人。統計は年間集計だが、33人に1人が無縁だったことになる。4047柱だった06年度から1.8倍になった。
最多は大阪市の2999柱。横浜市979柱(死者31人に1人)、名古屋市607柱(35人同)と続いた。千葉と川崎でも約35人に1人、札幌と福岡、北九州では約60人に1人が無縁仏だった。
政令市を除いた31の県庁所在市と東京都の23区についても調査したが、記録が完全でない自治体が半数近くあった。31市は15年度に少なくとも計836柱を受け入れた。死者総数は計10万8048人(15年)で、129人に1人の割合。23区は計823柱で、記録が残る千代田区(23柱)は、17人に1人が無縁だった。
無縁の遺骨は公営の納骨堂などで一定期間保管され、期限が過ぎれば合葬墓に合祀(ごうし)される。だが、遺骨は増え続けており、大阪、札幌の両市は合葬墓の収容量を増やした。
国立社会保障・人口問題研究所によると、昨年の死者は約130万人で、団塊の世代が75歳以上になる2025年には約152万人に達すると推計され、「多死社会」に突入する。少子高齢化の影響もあり、今後も無縁化が進む可能性がある。【近藤大介、山口知、千脇康平】

都市特有の悩み
石田光規・早稲田大文学学術院教授(社会学)の話 高度経済成長期に地方から都市部に移り住んだ人らの多くは、入る墓がなく埋葬の悩みを抱えているのではないか。さらに、最近は親子でもバラバラの個人という感覚が強く、生前から埋葬について話し合う家族は少ない。一方、行政も家族関係に立ち入ることは難しく、有効な対策を講じることは容易ではない。

 

「厚生年金、介護」保険料引き上げ 2017年内に変更される社会保障制度

ZUU online 2017年7月15日

老後の生活の支えとなる年金だが、若年層を中心に将来にわたる制度への持続性を疑問視する声も上がる。厚生労働省の集計によると、2016年度の国民年金の保険料の納付率は、65.0%にとどまる。制度への不安が高まる年金だが、受給資格期間が大幅に短縮される予定。また、介護が必要になった際に活用できる介護保険料にも見直しが控える。年内に制度が変わる社会保障をしっかりと抑えて、新しい制度に適応できるようにしたいところだ。

(1)年金受給資格25年から10年に
社会保障制度見直しで、最もインパクトが大きいのが年金の受給資格期間の短縮だろう。これまで年金を受け取るには、保険料の納付期間と保険料免除期間を合算して25年以上が条件となっていた。しかし、17年の8月からは、この期間が半分以下の10年に短縮される。これまでは10年以上25年未満の期間保険料を支払っていたが、25年の受給資格を満たさないために、年金が受け取れなかった無年金者の救済措置となる。
国民年金は、40年間の納付に対し、月額約6万5000円が支払われているが、この年金額は納付期間に応じたものだ。今後、10年以上の納付で年金が受け取ることが可能になるが、年金額は加入期間が10年で毎月約1万6000円、20年で同約3万2000円の水準にとどまり、生活を送るための収入の柱とまでは言い難い。
しかし、年金問題は国民生活への影響も大きく、消えた年金問題では、政治への不信感が募り、民主党への政権交代の一因ともなった。厚労省の試算では、今回の受給資格期間の短縮措置により、約40万人が初めて年金の受給資格を得ることができるほか、厚生年金対象者も含めると、その数は約64万人に上る見込み。対象者には黄色い封筒に入った通知が届き、各地の年金事務所などで手続きを済まさなければならない。

(2)厚生年金保険料がアップ
自営業者などが中心に加入する国民年金は、自ら保険料の納付手続きを済ませるため、年金制度を身近に感じ、制度の変更に敏感に反応する一方、サラリーマンが中心に加入する厚生年金では、給与から天引きされるため、年金制度に疎くなりがちだ。しかし、その厚生年金の保険料にも見直しが控える。その内容は、保険料の値上げという負担の増加だ。
厚生年金の保険料は、標準報酬月収額に保険料率をかけた割合だが、その数まで正確に把握している人は多くはないだろう。17年8月までは一般被保険者は18.182%となっている。
例えば、月収が30万円の場合、厚生年金の支払い額は5万4546円となる。労使折半の規定により、このうち半分を会社が負担するため、給与から差し引かれるのは2万7273円となる。厚生年金の保険料率は、04年の法改正で毎年9月に段階的に引き上げられることになっており、17年9月には18.3%に引き上げられる。
これにより、先ほどのケースでは毎月の支払額が354円アップすることになる。保険料率の引き上げについては、今回の保険料率で上限に達したため、今後は更なる法改正などがない限りは固定となる見込み。

(3)介護保険料 公務員と大手企業会社員の負担アップ
年金以外にも社会が連帯することで介護費用を支え合う介護保険にも注意が必要だ。介護保険は、40歳以上が被保険者として保険料を負担するほか、国や都道府県、市町村も費用の半分を拠出している。
このうち、17年8月から現役世代の40歳‐64歳が支払う介護保険料に総報酬割制度が導入される予定だ。この制度は収入に応じて保険料を負担する仕組みで、20年度の全面導入に向けて、収入が相対的に多い被保険者の負担が段階的にアップしていく。
厚生労働省の試算によると、総報酬割を全面導入した場合、公務員が加入する共済組合の保険料負担は1972円増加の7097円、大手企業の会社員などが加入する健保組合は727円増加の5852円となる見込み。一方、中小企業に勤める会社員で構成する協会けんぽは、負担額が241円減って4043円となる。この措置により、保険料の負担が増える被保険者は1272万人、負担が減る被保険者は1653万人と推計している。相対的に所得の高い被保険者の負担がアップすることになる。
年金や保険など安心した生活を送るための社会福祉政策だが、少子高齢化に歯止めがかからない現状では、年金や保険などの負担が増していくのは避けられない情勢だ。給与から天引きされている社会保障費関連の金額に目を向けて、制度変更による影響をチェックしながら、制度の変更を理解しておきたいところだろう。負担アップの話題が先行して思い空気がのしかかるが、年金受給期間の短縮により、これまで年金を受け取ることができなかった人が受給対象となるなど、社会保障制度改革が具現化される一面もある。(ZUU online 編集部)