発達障害の相談急増、過去最多7万4000件…人員不足で「対応難しい」

ヨミドクター(読売新聞) 2017年9月8日

発達障害を抱える人やその家族への支援を行う専門機関「発達障害者支援センター」に寄せられた相談件数が昨年度、7万4000件を超え、過去最多となったことが厚生労働省のまとめでわかった。障害への理解や支援の不足は、本人の不登校や仕事上のトラブル、親による虐待などにつながりかねないとされるが、相談件数の増加に伴って支援の担い手不足が目立ってきており、各自治体は対策を急いでいる。

疑いがある人も含めると全国に700万人か
厚労省によると、発達障害の人は、その疑いがある人も含めると全国に約700万人いると推定される。小中学生の6・5%程度に発達障害の可能性があるとの調査結果もある。
同省のまとめでは、昨年度に全国に91か所ある同センターに寄せられた相談は計7万4024件で、47か所でスタートした2005年度から4倍以上に増えた。多くは親から寄せられた子に関する相談で、発達障害への認知度の高まりが影響しているとみられる。
各センターでは、障害の検査や生活に関する助言、就労支援、病院など関係機関の紹介、啓発活動などを行っているが、急増する相談に伴い、臨床心理士などの専門家を十分確保できない地域も出ている。
関東地方のあるセンターでは、来所による相談が数か月待ちの状態が続いているほか、電話相談も多く、受話器を取れないことも珍しくないという。センター長は「病院などと連携して対応できれば効果的だが、連携先が少なく、センターで抱え込まざるを得ない。人員も不十分で、迅速で丁寧な対応が難しくなっている」と吐露する。
四国のあるセンター幹部も、「相談件数は右肩上がりだが、職員の人数は増えず、負担が大きくなっている」といい、啓発活動や就労支援まで手が回らないのが実情だという。

褒めることで自信、前向きな生活促す
千葉県柏市が取り入れた「ペアレント・プログラム」で、担当職員に子育ての悩みを相談する母親(手前左)=繁田統央撮影
センターを中心とする対応が「ニーズ」に十分応えられなくなっている中で、自治体が新たな支援策に乗り出すケースも増えている。
その一つが「ペアレント・プログラム」と呼ばれる取り組みだ。専門知識がない市町村などの職員でも、専門家の研修を受けることで助言などを担当できるのが特徴。子どもの障害などに悩む親らに、自分や子どもの「できる」ことに着目し、これを褒めることで前向きに生活できるよう促す。
同省も、都道府県や市区町村に補助金を出して後押ししており、毎年250~300の自治体が利用している。昨年度から導入した千葉県柏市では、研修を受けた児童センター職員が助言役となる会合が毎月数回のペースで開かれており、3歳と1歳の娘の育児に悩んで今年4~7月に参加した母親(36)は「褒めると子どもが自信を持って動いてくれることがわかり、心に余裕ができました」と語る。
このほか、発達障害の子どもを育てた経験者が、同じ悩みを抱える子育て家庭に助言をする「ペアレントメンター」を育成する取り組みも広がっている。昨年度は全国で計41の都道府県や政令市が導入し、事業が始まった10年度と比べて約2倍になった。
発達障害者の支援に詳しい杉山登志郎・福井大客員教授(児童青年精神医学)は、「発達障害への支援の必要性は年々高まっているが、拠点となるべき支援センターの態勢は 脆弱ぜいじゃく だ」と指摘。「国や自治体は、地域の実情に合わせてセンターの態勢強化を進めるとともに、支援の裾野を広げる取り組みにも力を入れる必要がある」と話している。

【発達障害】
対人関係を築くのが不得意な「自閉症スペクトラム障害」や、衝動的に行動しがちな「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」、読み書きや計算が苦手な「学習障害(LD)」などがある。生まれつきの脳機能障害が原因とされ、低年齢から発症する。

 

「教育虐待」親に強制された習い事で優勝したけど、思い出したくもない…その背景は?

弁護士ドットコムニュース 2017年09月10日

親が子どもに習い事をさせることは、今も昔も行われています。しかし、その習い事が子どものやりたいことではなく親の自己満足だった場合、子どもは苦しむことにもなりかねません。
20代の大学生・Hさんは子どものころ、父親からレーシングカートの訓練をさせられました。日々の訓練は厳しく、頭を叩かれたこともあるそうです。「グランプリで優勝したこともありますが、やりたくないことだったので不満が鬱積し、成人した今でも嫌な思い出として残っている」といいます。
スポーツ選手が自分の子どもにも同じ競技をさせ、子どもも結果を出した場合、テレビなどではしばしば「親子鷹」として取り上げられます。ただし、Hさんのように、何も本人に残らなかったケースもあります。こういったケースは「教育虐待」とはいえないのでしょうか。吉田 美希弁護士に聞きました。

子どもの受忍限度を超えると教育虐待になる
「結論から言えば『虐待』だと私は考えます」
吉田弁護士はそう切り出した。そもそも「教育虐待」とはどういうことを指すのだろうか。
「『教育虐待』とは、2011年12月、『日本子ども虐待防止学会』において、『子どもの受忍限度を超えて勉強させるのは教育虐待になる』と武田信子教授が発表したことが契機となり、児童虐待を語る現場において用いられるようになった言葉です。もともとは、習い事というより、勉強の場面で使われていた言葉です」
習い事は子どもの可能性を広げてあげられるなど、世間ではメリットも多く語られています。
「確かに子どもにとって、学びたいことや挑戦してみたいことに触れる機会は、子どもの成長発達において重要です。子どもが学びたいことや挑戦したいことを見つける過程においては、親の助言や親が習い事をさせたことがきっかけになっているというケースも少なくはないでしょう。そして、それがきっかけで、子ども自身が勉強含めその物事を心底好きになり、その能力で社会的に成功したり、習い事として始めたことを生業としたり、人生を豊かにする上で欠かせない趣味を得たということも多いでしょう。
ただ、そのことが、習い事も含めた『教育虐待』について語ることを難しくしています。テレビや雑誌等でもよく『親のおかげで優勝できた』というインタビューや、親が厳しく叱責したり殴ったりして指導する映像とともに、それをも乗り越えて優勝したというエピソードが華々しく取り上げられています。私個人としてはこのような現状に甚だ疑問を覚えます。
もちろん、実際に幸せなエピソードであることもあると思います。子ども自身が、心底その習い事が好きで、苦しいことも含めて乗り越えてプロになると決めた場合等が良い例かと思います」

子どもにも人権がある
今回のHさんのケースではどうでしょうか。
Hさんのケースは明らかにそれと異なると私は考えます。本人にとっては『やりたくないこと』であり、『今でもいやな思い出として残っている』のです。
子どもにも当然ひとりの人間として人権があります。それは子どもの権利条約を日本が批准していること、日本国憲法が個人の尊厳をうたっていることからも明らかです。人権が保障されている状況というのは、私は、『人が自分の命をそのまま肯定できる状態にあること』だと思っています。
成績が優秀でなくてもいい、ピアノが弾けなくてもいい、レーシングカートの大会で優勝しなくてもいい、障害をもっていたっていい。ただ、その人の命がそこにあることを、その人も周りの人も祝福できる状態です。それが人権が保障されている状態だと思います。
そこから逆算して考えると、やりたくないことを父親から強制され、それが今でもいやな思い出として心に残る状態に置かれているHさんは、レーシングカートの訓練をさせられていた当時も、今当時を思い出してつらくなる瞬間も、人権が保障されていないと思います。そして、そのHさんの人権侵害が父親がレーシングカートの訓練を強制したことに原因があるのであれば、それは『虐待』だと私は考えます」

自殺や家庭内事件の背景には虐待が潜んでいる
教育虐待の原因は、親にあるのでしょうか。
「このようなケースを『虐待』だから親が悪いということだけで、即片付けることにも問題があります。もちろん、親子間の問題ではありますが、そもそも親が子どもを『一流』にしなければ子どもが取り残されてしまうと焦るような社会、親が子どもの人生を乗っ取って自己実現を図らなければならないような親にゆとりがない社会がこのような『虐待』を作り出しているともいえるからです。
Hさんは、今自己肯定感を持って日々を生きていらっしゃるでしょうか。若年層の自殺や家庭内事件の背景には、こういった『虐待』が潜んでいることが多いです。私はとても胸が痛みます。
親の立場の方には、子育てを省みて反省し、お子さんの幸福を今一度考えていただきたいです。そして、Hさんと同じ立場にある方々はどうかご自身は苛酷な状況の中で生き残ることができたサバイバーであるという自信と誇りを持っていただきたいです。しかし、それにとどまらず、人口減少に悩む日本においては、今後社会全体で考えていかなければならない問題だと思います」

 

婦人保護施設に母と入る子が増加 職員配置の加算拡充へ

福祉新聞 2017年9月11日

厚生労働省
厚生労働省は婦人保護施設に母親と同伴して入所する18歳未満の子どもが増えていることを受け、2018年度から同伴児に対応する職員の配置を増やす方針だ。現在、最大で3人配置できる措置費の加算があるが、これを5人に増やす。18年度の予算要求に盛り込んだ。しかし、現在もこの加算は十分に活用されていない。施設側は人員配置基準の改善など抜本的な見直しを求めている。
同伴児をめぐっては、児童相談所の関与が薄く、通園・通学もできない「宙に浮いた存在だ」とする指摘がこれまでもあり、09年度から措置費に加算が設けられた。
昨年12月には性暴力被害者支援に関する与党のプロジェクトチームが、同伴児の問題を含め、婦人保護事業を抜本的に見直すよう提言をまとめた。
婦人保護施設は売春防止法に基づく施設。売春するおそれがあるなど保護の必要な女性が措置により単身で入所することが基本だ。16年4月現在、全国に48施設ある。
しかし、2001年のDV防止法制定後は、配偶者から暴力を受けた女性の緊急入所が増えるにつれ同伴児も増加している。一方で、施設の人員配置基準(例・定員50人以下は指導員2人)は同じままだ。
厚労省の統計によると、15年度の同伴児の延べ人数は06年度に比べて約2割増加。また、厚労省研究班の調査によると、14年度に措置入所した女性の約3割が子ども(実人数518人。その7割が乳幼児)を同伴した。
この518人を計29施設が受け入れたが、そのうち同伴児対応職員の加算を算定した施設はわずか8施設で、対象となる職員(非常勤)は11人にすぎなかった。
加算の算定には同伴児が一定数以上必要なため、小規模な施設では要件を満たすことが難しいからだ。18年度から職員4人を配置するには、1日当たりの同伴児16人以上という要件になる見込みで、複数の施設から「非現実的だ」との声が上がっている。
全国婦人保護施設等連絡協議会の横田千代子会長は「同伴児は障害のある子もいて年齢もさまざまで、人数が少なくても職員の手はかかる。本来は加算ではなく、基本の人員配置基準を引き上げるべきだ」としている。

 

 

教材買えず、虫歯も放置 貧困世帯7% 川崎市が独自調査

カナロコ by 神奈川新聞 2017年9月11日

川崎市は、市内で子どもと若者がいる世帯の生活実態や健康状態などを把握する独自の「子ども・若者生活調査」を実施し、分析結果を公表した。国が相対的貧困の指標としている「貧困線」を下回る世帯は全体の約7%。こうした世帯では、文具や教材が買えなかったり、虫歯を治療していなかったりといった事態が高い割合で生じていることが明らかになった。
市は今年1~3月、子ども本人や保護者、児童福祉施設などの職員を対象にアンケートとヒアリング調査を実施。学識経験者の意見も踏まえ、結果を分析した。
0~23歳の子ども・若者がいる6千世帯を無作為に抽出したアンケートでは2635世帯が回答。可処分所得額が貧困線を下回る世帯は全体の6・9%だった。ひとり親の世帯では42・9%に上った。
貧困線を下回る世帯のうち、過去1年間で経済的な理由で電気料金などが支払えない事態が発生したという世帯は2割以上。子どもが必要な文具や教材を買えないことが「よくあった」「ときどきあった」とする世帯も25・6%だった。
このほか、所得水準が低い世帯ほど「治療していない虫歯が1本以上ある」とした割合が高く、小学生以上では夕食を子どもだけで食べることが「多い」「ほぼ毎回」と答えた割合も高かった。
生活保護と児童扶養手当受給世帯の保護者や子どもなどを対象に支援ニーズも調査。学校での学習内容について「分からない」とした割合は、生活保護受給世帯が高く、児童養護施設に入所する子どもも高かった。進学や自立に関する項目でも差が出ている。所得が低いほど、「経済的な理由により進学断念・中退の可能性がある」とした保護者の割合は高く、貧困線を下回る世帯の全体では40・9%を占めた。
将来の夢や目標も「持っていない、持ちたいと思わない」と答えた割合が、保護受給世帯や施設の子どもほど高かった。
児童相談所や施設職員などへのヒアリングでは、子どもや保護者が抱える課題の個別事例を把握。経済的な問題以外に、「保護者に虐待やDV被害の経験がある」「食事や睡眠など基本的生活習慣を身につける養育力が家庭にない」といった事例が挙がった。
市は「所得が低いことと不安定な就労・生活との関連性が把握された。所得が低い世帯では、保護者の孤立・不安や教育費の負担など、悩みが大きくなっていることが課題」と分析。結果を基に子どもの貧困に関わる対応策を検討する。