自然に言えた「私の子」 特別養子縁組、親子の絆

神戸新聞NEXT 2017年9月12日

特別養子縁組をした藤谷さん家族(仮名)。戸籍上も親子になった=北播磨地域
生みの親が育てられない子と、養父母が戸籍上の親子関係を結ぶ「特別養子縁組」。児童虐待の増加などを背景に、子どもが家庭的な環境で健やかに成長できるように、厚生労働省は制度の利用を推進する方針を打ち出している。年齢要件の引き下げなどが議論されている一方、制度自体が社会に広く知られていない現状がある。実際に特別養子縁組をした兵庫県北播磨地域の親子を取材した。(斉藤正志)
「おとうさん、積み木しよー」
藤谷正雄さん(44)=仮名=が総太ちゃん(5)=同=に手を引っ張られるのを、妻の加代さん(39)=同=がほほ笑んで見守る。
総太ちゃんは昨年10月、夫妻と特別養子縁組が成立し、戸籍上も「家族」になった。
夫妻は2009年に結婚。子宝に恵まれなかった。子どもはいなくていいと思った時期もあったが、次第に「欲しい」との思いが募った。不妊治療を巡ってけんかし、険悪な関係になったこともあった。
特別養子縁組をテレビ番組で見て知ったのは12年だった。「出産以外に子どもを持てる選択肢がある」。兵庫県内で長年にわたって特別養子縁組などをあっせんしてきた家庭養護促進協会神戸事務所に連絡。研修を受け、県から里親の認定を受けた。2年後の14年12月、2歳だった総太ちゃんを紹介された。
乳児院で初対面。夫妻は「かわいい子やな」と一目で引かれた。毎週通って一緒に遊び、職員はいつも「お母さんが来たよ」と総太ちゃんに声を掛けた。
ある日、加代さんが2人で遊んでいる時、総太ちゃんが何げなく「お母さん」と呼んでくれた。加代さんは「受け入れてくれるか不安だったけど、親になっていいよ、って言ってくれた気がした」。
自宅に泊め始めた当初は「(乳児院に)帰りたい」と泣くこともあった。そんなときは車の中に連れて行き、落ち着くまで背中をゆっくりたたき、歌を歌った。
15年6月に里親委託を受け、一緒に住むように。16年4月、家庭裁判所に特別養子縁組を申し立てた。半年間の試験養育期間を経て、正式に認められた。
1年以上、ともに暮らしていたので生活が変わることはない。でも里親だった時のように、小児科で保護者と名字が違うことに説明を求められることはなくなった。正雄さんは「もやもやしていた感覚がなくなり、すっきりした」と笑う。
加代さんは、一緒に作った卵焼きがうまく出来上がった時、思わず「さすが『お母さんの子』やね」と声を掛けた。正式な親子になるまでは、何となく抵抗があって言えなかった言葉が口をついた。
洗濯物を畳んでいると、抱っこをせがまれる。「お母さん好きや」と言われ、思い切り抱き締めて、ほっぺにチューした。
「うれしいことが次々に起きる。しんどいことは忘れました」と加代さん。「子どもが成長しても、安心して帰って来られる家庭にしたい」とほほ笑んだ。
【特別養子縁組】
原則6歳未満の子どもを対象に、養父母と縁組する制度。普通養子縁組と違い、実親と法律上の親子関係はなくなる。予期せぬ妊娠など実親が育てられない事情があり、家庭裁判所が必要と認めれば成立する。離縁は原則できない。児童相談所と、都道府県に届け出た民間団体があっせん事業を行う。営利目的の悪質業者を排除するため、来年4月には、民間団体は都道府県の許可制とする「養子縁組児童保護法」が施行される。

 

シングルマザー「運動会どうすれば」 尽きない苦悩、支援広がる

福井新聞ONLINE 2017年9月11日

子育てについて学んだフルードのセミナー。講師は「自分を認めることから始めてみて」と語りかけた=6月24日、福井県生活学習館
シングルマザーを支援する福井県内の市民団体「フルード」が設立3年になり、グループ相談会やセミナーなど、取り組みが広がりつつある。ただ、県内にはひとり親世帯は8千以上あり、子育てや就業など一人で悩みを抱えている母親は多い。支援制度の周知など課題もある。団体の関係者は「同じ悩みを抱えた者同士で話をすることで、少しでも前向きになれるはず」と相談会などへの参加を呼び掛けている。

感情高ぶらせ
「私は卑屈な人間なので(前向きになれない)…。父の日や運動会をどうしたらいいか…」。6月に福井市で開かれたフルード主催の子育てセミナー。講師の話を聞き終えた母親は、感情を高ぶらせて、こう訴えた。「父親がいないという子どもの劣等感と、どう向きあえばいいですか?」。講師は「劣等感を抱えていない子の方が多いですよ」と優しく語りかけた。
フルードは2015年から「ひとり親家庭の孤立防止」「別居親との面会交流」などテーマごとにセミナーを開催。2カ月に1回のグループ相談会では「子どもに(離婚を)どう伝えたらいいのか」「元夫が養育費を払ってくれない」といった悩みに対し、アドバイスを送ったりする。

息抜きの場所
離婚して5年。福井市の40代の林恵さん=仮名=は、フルードに通い始めて2年がたつ。「私にとって息抜きできる場所。地域や職場と同等のコミュニティー」と話す。
子どもが通う小学校は個人情報の扱いが厳しく、クラスには5、6人のひとり親がいると聞いていたが、実際には誰か分からなかった。「悩みもあり、同じ境遇の人と話がしたかった」と振り返る。
離婚直後は特に悩みが多いという。林さんは離婚を機に姓を変更。すると小学低学年の子どもは、同級生や上級生から「親は何で離婚したんや?」と言われた。「あのときは本当に心が痛んだ」

生きる保障は
県によると、ひとり親世帯数の目安となる「ひとり親医療費助成受給者数」は近年、8千世帯前後で推移。厚生労働省によると、15年の子どもの貧困率は13・9%だが、ひとり親に限定すると50・8%。12年の県の実態調査では、年間就労収入が100万円未満のシングルマザーは24・9%を占めた。
フルードの木村真佐枝代表(45)は「ひとり親として生きることは社会的に認められているはず。だけど安心して生きる保障はされていない」。元夫からの養育費が数カ月で途絶えたという林さんも「日常の暮らしはできるが、子どもが大学進学したいと言ったらどうしよう」と将来への不安を口にする。
経済的に困窮した家庭に支援が届いているのか、という指摘もある。ある母親は「給食費などを補助する就学援助制度は、学校に申し出なければ受けられないように、支援制度の多くは申し出制。対象者の漏れをなくすため、全世帯に制度の申込用紙を配布して知らせるべき」と、制度周知を課題に挙げる。
県は来年度からの第4次ひとり親自立支援計画策定に向け、約4300世帯にアンケートを実施。8月中に県内6カ所で意見交換会を開いており、計画に反映させていく。
木村代表は「いろんな情報を持つ行政や学校は、孤立世帯をある程度把握できると思う。行政、学校、民間が連携すれば必要な家庭に支援が届くのでは」と訴える。

 

2歳まで育児休業の再延長が可能に 条件は?

NIKKEI STYLE 2017年9月12日

こんにちは、人事労務コンサルタントの佐佐木由美子です。2017年10月1日から、改正育児・介護休業法が施行されます。働く女性にとって大いに気になるその内容について、今回は確認しておきましょう。

最長2歳まで育児休業の再延長が可能に
昨今は、妊娠・出産で仕事を辞める人はだいぶ少なくなりました。実際に、女性の育児休業取得率は81.8%と高い数値が示されています(厚生労働省「平成28年度雇用均等基本調査」)。ただし、30人未満の事業所では68.9%と大企業を含めた全体平均よりも10ポイント以上低く、中小企業においてはいまだに育児休業が取りにくい状況にあると言えます。
育児休業を取ったものの、保育園に入れずに、退職を余儀なくされる方もいます。例えば、6月10日生まれの赤ちゃんの場合、本来は翌年の誕生日の前日までが育休期間となりますが、保育園等に入れない場合は、6カ月の延長が認められ、翌年の12月9日まで休業をすることができます。ところが、その時点においても保育園等に入れないときは、さらに延長ができないために退職するケースも珍しくありませんでした。
会社によっては、もともと子どもが3歳になるまで育児休業を取れる場合もありますが、法律上は原則として1歳まで、保育園等に入れないなど特別な事情がある場合に限り、1歳6カ月まで延長できることになっています。
ところが2017年10月1日から育児・介護休業法が改正され、保育園等に入れない場合などは、育児休業期間を最長2歳まで再延長できるようになります。上記のケースでは、さらに翌年の6月9日まで延長できることになり、入園しやすい新年度の4月に保育園に入れれば、職場復帰も可能です。

再延長できるケースとは?
注意したいのは、初めから子どもが2歳になるまで育児休業を申請することはできない、ということ。これは、会社のルールが法定通りの場合の話ですが、あくまでも育児休業ができる期間は、原則として子どもが1歳に達するまでです。
保育園等に入れないなど特別な事由がある場合に限り、子どもが1歳6カ月に達するまでの間、育休期間を延長することができますが、2歳まで延長できるのは、1歳6カ月まで育児休業を延長していて、それでもなお保育園等に入れないケースです。
この育休期間の再延長に伴い、「育児休業給付金」の支給も延長されます。この場合、保育の利用が実施されない事実を確認できる書類として、市町村が発行した保育所の入所不承諾通知書などが必要となります。ただし、1歳から1歳6カ月までの間に育児休業給付金の延長申請をしていない人は、2歳までの給付金の再延長申請はできません。
待機児童が多いエリアにお住まいで、育休からの職場復帰が保育園の関係で難しいことが予想されるときは、早めに自治体に相談し、入所申し込みをしておくことをおすすめします。
今回の改正により、育児休業が最長2歳になるまで取得できることになりますが、キャリア形成の観点からすると、休業が長期に及ぶことが必ずしも本人にとって望ましいとはいえない場合もあります。会社側が本人のキャリアを考慮して、早期の職場復帰について打診することもあるかもしれませんが、これは育児休業等に関するハラスメントには該当しないものとされています。

改正のポイントをチェック
2017年10月1日から改正施行される育児・介護休業法の目玉は、上述の育休が最長2歳まで再延長できることですが、それ以外のポイントもチェックしておきましょう。

[育児休業制度等の個別周知]
事業主は、社員やその配偶者が妊娠・出産したこと、または家族を介護していることを知った場合に、社員本人へ育児休業や介護休業等に関する定めを個別に周知する努力義務が課されました。
平成27年度「仕事と家庭の両立支援に関する実態把握のための調査」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)において育児休業を取得しなかった理由を尋ねたところ、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」と回答した人の割合が女性正社員は30.8%、男性正社員は26.6%にのぼりました。
職場の雰囲気で育児休業の取得を諦めることのないように、対象者へ個別に育児休業中やその後の待遇について周知したり、勧奨したりすることは、とても心強い後押しになることでしょう。

[育児目的休暇の新設]
育児休業以外に、子どものために会社を休める制度としては、「子の看護休暇」があります。しかし、これは主として子どもが病気やケガをした場合等に利用するもので、入園式などのイベントには利用できません。
そこで、特に男性の育児参加の促進を図るために、就学前までの子どもがいる社員に、育児に関する目的で利用できる休暇制度を創設することを企業側へ課しました。ただし、これは努力義務となるため、どのような制度となるかは会社によって異なります。
仕事と育児の両立は、女性ばかりでなく、男性にとっても課題です。働きながら、積極的な子育て参加が進むように、私たちもこうした改正内容をキャッチアップして、両立しやすい職場となるように働きかけていくことが大切といえるでしょう。