児童虐待の疑いで通告、初の3万人超…上半期

読売新聞 2017年9月21日

警察庁は21日、全国の警察が今年上半期(1~6月)に、虐待の疑いがあるとして児童相談所に通告した18歳未満の子どもは、昨年同期比23・5%増の3万262人に上ったと発表した。
統計を取り始めた2011年以降、最多で、初めて3万人を超えた。生命の危険があるなどとして保護した子どもも、過去最多の1787人だった。
最も多かったのは、子どもへの暴言や、子どもの前で配偶者に暴力をふるう「面前DV」などの「心理的虐待」(2万1406人)で、全体の70・7%を占めた。暴行などの「身体的虐待」は5723人で、698人増加。食事を与えないなどの「育児怠慢・拒否」は348人増の3036人、性的虐待は32人減の97人だった。

息子は極度の人見知り……「この子は人とかかわる喜びも知らないまま育つのか」と不安に【子育て体験談】

 

PHPファミリー 2017年9月21日

PHPのびのび子育て 「あたたかな日々」より
日曜日の昼下がり。ふと、現在10歳になる息子に聞いてみた。「どんなことが、一番幸せ?」と。すると、息子は迷うことなく、「家族と一緒にいられることかな」と、答えた。私はしばらく返す言葉が見つからず、「そう、だよね」と言うのが精いっぱいだった。そして、「あー、私は、こういう子どもに育てたかったんだ」と、気がついた。
息子が3歳ぐらいまでは、本当にたいへんだった。人見知りが激しかったためだ。誰かに挨拶されただけでも、泣き崩れてしまうありさまで、子育て支援センターなどの、人の集まる場所に連れていって楽しませようと思っても、彼には逆効果だった。結局、泣きやまず、すごすごと引き返すことも多かった。
はじめは無理をさせてでも連れていったが、慣れる様子もなく、息子も私も、ただただ疲れるだけだった。
子育て本もたくさん読んだし、人の意見も聞いた。でも、息子には全然、当てはまらない。ならば……、今は、私との時間が大切なのかもしれない。目の前にいる息子が喜ぶことをしよう、とことんつきあおう、と考えた。
息子は、川で石投げをすることが大好きだった。1時間も2時間も、ひたすら投げ続けた。そんな息子につきあう日が続いた。息子の楽しそうな背中を見つめ、うれしく思う一方で、「この子は人とかかわる喜びも知らないまま、育つのかなあ」と不安になるときもあって、なんだか悲しくなってきた。ちょうどその頃、イヤイヤ期やトイレトレーニングが重なり、何もかもがうまくいかなかったのだ。
そんなとき、何かを察したかのように、電話がかかってきた。祖母である。「ひ孫は風邪っこ、ひいでないがぁ?」と心配し、「子育て、よくがんばってで、えらいなぁ」とほめてくれた。
大人になっても、離れて暮らしていても、祖母は私たち家族のことを気にかけてくれた。その後、たわいのない話で大笑いし、電話を切る。祖母は仕事が忙しい父母にかわり、幼稚園にあがるまで、兄や私の面倒を見てくれた。祖母のとびきりの明るさで、私たちはさびしさを感じることなく、愛情いっぱいに育った。
祖母は家で子育てをするたいへんさを、一番わかっている。時代も環境も違うけれど、今、私も祖母と同じように“子どものそばにいる子育て”をしている。「いつか、いい日が来るかな」と、がんばろうと思った。
そんな息子が、弟が生まれた頃から変わりはじめた。赤ちゃんのほっぺたを、やさしくツンツンついては喜び、泣くと、私に「おっぱいあげて」とうながしてくれた。そしてその頃から少しずつ近所のお友だちと遊ぶようになり、そのことが楽しくなっていったようだった。
夫と私は弟ばかりにかかりっきりにならないよう、今まで通り息子の遊びにつきあったり、たくさん抱っこをしたりして安心させるように心がけた。あれだけ悩んだのが嘘のように、息子は元気いっぱいの明るい男の子に変身していった。
あのとき……、息子が一番甘えたい時期に、とことん一緒にいたことは、今考えると本当に幸せだった。
泣いたときはすぐに抱きしめ、歩き疲れたときはおんぶすることができた。そして今、“一緒にいる子育て”から、“少し離れて見守る子育て”に形を変えはじめている。
岩手県盛岡市・38歳・保育士

 

「モンスター部下」なぜ生まれる? 広がる「逆パワハラ」に叱れぬ上司の悲鳴

NIKKEI STYLE 2017年9月21日

部下が上司にパワーハラスメントをする「逆パワハラ」がジワリと広がっている。働き方改革が進むなか、上司からのパワハラに対する目は厳しくなっているが、なぜ逆パワハラが起きるのか。インターネットの普及で、職場の環境や働き方が大きく変わり、上司と部下の関係にもゆがみが生じていることが一因のようだ。逆パワハラの実態や対処法などを田辺総合法律事務所(東京・千代田)の弁護士、友常理子さんに聞いた。

部下から辛辣なメール
「部長失格!」
都内の大手企業に勤める50代の部長のAさんに部下の30代のBさんからメールが届いた。両者はデジタル関連の部門にいたが、年配のAさんはIT(情報技術)に疎い面もあった。Bさんは、「部長の指示は不適切、管理者としての能力を疑う」という辛辣なメールを何度も送った。
さらにBさんからAさんに「資料を書き直して」とまで要求、まるで上下関係が逆転するような状況になり、Aさんは自信喪失の状態に陥ったという。
だが、誰にも相談できなかった。デジタル技術に関しての知識は明らかにBさんの方が上。Aさんが直属の上司に相談すれば、自らの無能ぶり、管理能力不足を露呈するだけ。結局、思い悩んだAさんは精神疾患になり、事態が発覚。Aさんは人事異動になり、上司と部下の関係は解消された。
「厚生労働省などでは、2012年ごろにはすでに『逆パワハラ』といわれるようなケースが取り上げられていました。さすがに部下が上司に暴力を振るうといった極端な事例は、ごく少ないものの、嫌がらせをされたり、無視されたりなど部下からハラスメントを受けたという相談も実際にみられるようになってきました」。友常弁護士はこう話す。
ただ、部下からの逆パワハラは、実態を把握しにくい。
あるIT企業で上司からのパワハラでうつ病になったといわれる課長職だったCさん。しかし、本当の原因は部下たちからの無視、逆パワハラだったと明かす。「確かに私の直属の上司はパワハラ体質でしたが、人情家で、嫌な人ではなかった。自分が苦悩したのは部下たちが私の指示を無視して、業績が下がったためです。私は地方から東京本社に着任したばかりで、今までと全く違う業務だった。常に正しい指示を下していなかったかもしれないが、他の上司の指示は聞いても私を徹底的に無視した。結果、部下たちを掌握できず、直属の上司から何度も叱責された」という。
Cさんは職場で孤立、精神的に追い込まれ、結局うつと診断された。社内ではCさんがうつになった原因は直属の上司からのパワハラということになった。「本当は違うのですが、部下が原因なんて恥ずかしくて言えない」とCさんは嘆く。
厚労省がまとめたパワハラ調査では、上司から部下に対するパワハラが圧倒的に多く、76.9%(16年)。一方で、部下から上司へのパワハラはわずかに1.4%(同)だった。ただ、「部下にパワハラを受けたと、上司が社内の人に打ち明けたり、相談することはなかなか難しい場合が多いようです。その時点で上司失格の烙印(らくいん)を押されるのではと不安に感じるのかもしれません」(友常弁護士)と表面化しづらいのが実情だ。

叱れぬ上司とモンスター部下が増加
逆パワハラはなぜ起きるのか。その背景には上司によるパワハラが社会問題化するなかで、部下に必要以上に気を使い、「叱れぬ上司」が増えたことがある。一方で、ネットで知識や情報が共有化され、「部下の権利意識が高まり、あの上司の発言はパワハラではないか、指示は不当ではないかなどと過剰に反応して、上司を攻撃するケースも出てきています」(友常弁護士)という。気弱な上司に対して、部下の「モンスター社員」が増えているわけだ。
職場のIT化が進むなか、「若手の部下の方がITリテラシーが高く、結果的に能力の逆転が起きる場合もある。『能力がない』と部下から罵倒されるケースもある」(友常弁護士)。ネット社会になり、グローバル化が進展するなか、英語が堪能な有能な若年層は、パソコンやスマートフォンを駆使して世界中から有効な情報を瞬時に収集し、仕事に活用する。一方、年配の上司は、経験値に頼り、結果的に能力の逆転現象が起きている職場は少なくない。
最近流行の人事評価法も影響している。部下も上司を評価する「360度評価」を導入する企業が増えているからだ。「あの上司は気にくわない」と複数の部下がマイナス評価し、実際に地位を失ったケースもある。油断していると、部下の立場が強くなる場合がある。
年功序列は多くの企業で崩れ、実力主義のフラットな職場に移行しつつある。中間管理職はまさにサンドイッチ状態だ。旧来型の経営幹部は依然として厳しい指示を出すが、中間管理職は若手の部下に遠慮する人が増え、逆にモンスター社員から厳しく突き上げられるケースがある。これが逆パワハラに発展するわけだ。

ひとりで悩まず相談 指導力向上へ自分磨きも
どう対処すればいいのか。誰にも相談をせず、ふさぎこむと、うつなど精神的な疾病に陥る懸念もある。「基本的には人に打ち明けて、悩みを吐露するのが第一歩だと思います。社内の上司などには相談できない場合、多くの大手企業では、匿名で外部の窓口に相談することもできます」(友常弁護士)という。部下との関係がさらに悪化して訴訟になる場合は、メールや録音などを通じて証拠を確保することが肝要だという。
もちろん根本的な解決法は、上司自らが勉強し直し、リーダーシップやマネジメントの能力を高め、部下に対する指導力をつけることだ。先輩や後輩、上司と部下という関係だけで、部下が素直に従うのは一昔前の時代だ。アサヒグループホールディングスの泉谷直木会長は「課長の次は部長ではない。部長の能力がなければ、絶対に引き上げるべきではない」と指摘する。
「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏も、「うまくいってない会社は、人事が停滞している。偉くなっちゃいけない人が偉くなって、本来能力ある人が下に沈んでいる」という。必要に応じて上司は厳しく部下を指導することも必要だ。「私はいい人」とか、「気が弱いから」という言い訳は通じない。
柳井氏は「リーダーとは仏と鬼を行き来するものだ」という。上司は部下をきちんと評価し、時には称賛し、時には叱責する必要もある。柳井氏は多くの経営書も読み、リーダーとして現場でマネジメント力を高めてきた。今の上司はさらに研さんし、知識をたくわえ、精神面も鍛え上げる必要があるといえそうだ。