はさみでへその緒切る危険な事例も 赤ちゃんポスト保護の子 自宅出産79%に大幅増

西日本新聞 2017年9月25日

親が育てられない子を匿名で預かる慈恵病院(熊本市)の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)に、母子に危険が伴う自宅出産の子の保護例が急増していることが23日、市専門部会(部会長・山県文治関西大教授)が公表した報告書で分かった。2007年度の運用開始から10年間に保護した子は計130人。うち自宅出産は当初7年間の101人中35人(35%)から、14~16年度は29人中23人(79%)に割合が大幅に増えた。
検証報告は運用開始後2~3年ごとに行っており、今回が4回目。自宅出産の割合は、1回目の報告では51人中15人(29%)▽2回目は30人中8人(27%)▽3回目は20人中12人(60%)で、今回は79%と上昇した。背景について報告書は、親の経済的な問題などを指摘。自宅出産では、子の体重が1500グラム未満だったり、母親自身がへその緒をはさみで切ったりしていた危険な事例もあった。
報告書は、日本も批准する「子どもの権利条約」が定める「出自を知る権利」の問題も指摘した。過去10年間に身元が分からないままの子は計26人。報告書は「思春期に精神的衝撃に直面する可能性がある」として、継続的なケアが必要と強調した。
この3年間に両親とも外国人の子1人が初めて預けられたことも報告された。10年間に預けられた子の親の居住地は、熊本県内10人、県外88人、海外1人、不明31人。計130人のうち28人は、里親や特別養子縁組ではなく、乳児院や児童養護施設といった施設で養育されているという。
この日、記者会見した山県部会長は、ゆりかごが開設10年を経過したことを踏まえ「子の命を守ることと出自(を知る権利)を守ることをどう両立するか、国を挙げてしっかり考えてほしい」と注文した。

<赤ちゃんポスト>運用10年で130人 「孤立出産」5割

毎日新聞 2017年9月24日

慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」=徳野仁子撮影
熊本市西区の慈恵病院が設置する「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」に預けられた乳幼児が、2007年5月の運用開始から今年3月までのほぼ10年間で計130人に上り、このうち47%の62人は母親が自宅や車中などで医療的ケアを受けないまま出産した「孤立出産」だったことが23日、分かった。
ポストの運用を検証する市の専門部会(部会長=山縣文治・関西大教授)が同日、大西一史市長に提出した検証報告書で判明。報告書は「預け入れを前提に自宅出産し、直後に長距離移動する危険なケースが近年増えている」として病院や国に対し、子育てや妊娠に悩む母親の相談・支援の充実を求めている。
報告書によると、預けられた乳幼児は、07年5月~09年9月(第1期)51人▽09年10月~11年9月(第2期)30人▽11年10月~14年3月(第3期)20人▽14年4月~17年3月(第4期)29人--だった。孤立出産の割合は第4期が最多で86.2%に上り、第1期(31.3%)▽第2期(30%)▽第3期(60%)--と増加していた。低体温症などで医療措置を必要とした子供も第4期が48.2%で最も多く、第1期(7.8%)▽第2期(6.6%)▽第3期(45%)--とリスクが高まっている。
また、預けた理由は「生活困窮」(26.2%)▽「未婚」(20.8%)▽「パートナーの問題」(16.9%)--の順に多かった。預けた父母や祖父母の居住地は熊本以外の九州が24.6%と最多で、関東(16.9%)、中部(8.5%)の順だった。預け入れ後の養育状況は▽特別養子縁組が47人▽乳児院・児童養護施設など=28人▽里親=26人--などだった。
一方、130人中8割の104人は身元が判明し、うち23人は元の家庭に引き取られた。残る2割の26人は身元が分かっていない。障害がある子供は130人中14人だった。
報告書は「匿名性に重きを置いたゆりかごの運用は子供の出自を知る権利を損なっている」と指摘。病院には子供の出自を知る権利を守るために母親と接触する努力を払うよう求めた。また子供を救うと同時に知る権利を保障するため、母親が相談機関に実名を届け出て、医療機関では匿名で出産できるドイツの「内密出産制度」を国も制度化するよう求めた。【城島勇人】

負担増す民生委員に助っ人

ヨミドクター(読売新聞) 2017年9月25日

「活動が大変そう」などのイメージで「なり手」の確保が全国的な課題となっている民生委員。一部の自治体では“助っ人”としてボランティアの協力員(協力委員)制度を設け、民生委員の負担軽減と、新たな「地域福祉の担い手」の発掘につなげている。

1人につき2人
「このお料理、おいしい。来るのがいつも楽しみよ」。兵庫県伊丹市の集会所で月2回開かれる地域サロン「さくら会」。サケの野菜あんかけを食べた80歳代の女性の言葉に、同市の民生委員飯田 原子もとこ さん(68)は「みんなでしゃべって、笑いながら食べるのが一番ね」と笑顔で応じた。
サロンは高齢者の見守りなどのため、飯田さんら5人の民生委員を中心に運営されているが、買い出しや昼食の準備などは9人の協力委員の女性たちが担当する。昼食時は全員でお年寄りとテーブルを囲んで会話し、体調や生活ぶりに変化がないか、さり気なく目配りする。

兵庫県は「地域をより多くの目で重層的に見守れるように」(社会福祉課)と1990年、地域で活動する民生委員を支えるボランティアとして協力委員を制度化した。民生委員1人につき2人まで配置し、サロン活動への協力や、高齢者宅の訪問、住民の生活状況の把握などを行っている。支援が必要な住民を把握したら速やかに民生委員に伝え、民生委員が対応する。
伊丹市では民生委員246人と、協力委員415人が活動中。同市地域・高年福祉課の野口晋吾さんは「民生委員も、自宅から離れた地域の状況は把握しにくい。気付いたことを民生委員に伝えるだけでも大きな支えになる」と話す。
飯田さんも、昨年12月に民生委員になる直前まで15年近く協力委員を務めた。「協力委員をやってきたので顔見知りのお年寄りも多く、スムーズにスタートできた」と話す。

引き継ぎのため
「担当区域の75歳以上のお年寄りは120人。初めて会う人ばかりで、いきなり一人でやったら大変だった」。千葉市中央区の民生委員、石橋美恵子さん(67)は今年5、6月に実施した高齢者世帯の訪問調査を振り返った。調査は前任の民生委員の木田典子さん(75)と一緒に行った。木田さんは5期15年務めたベテラン。昨年12月、石橋さんに引き継ぐにあたって「慣れるまでは大変だから」と協力員を引き受けた。
訪問調査では健康状態や家族構成を確認し、一人暮らしなら家族の連絡先も聞く。「『初心者』にはなかなか気を許してもらえない」と石橋さん。会話の糸口を上手に見つける先輩に助けられた。
千葉市は2014年、「なり手」不足への危機感から、負担軽減と「地域福祉の担い手」の掘り起こしのため協力員制度を創設した。現在、約130人が活動し、民生委員の約1割が支援を受けている計算だ。70歳代が最も多く、木田さんのように引き継ぎのために務める人も目立つ。
同市地域福祉課の和田明光さんは「高齢者の孤立や孤独死が注目され、民生委員の負担は増している。なり手不足解消のためには、まずは負担軽減が必要だ」と説明する。

経験積んで後継者にも
全国民生委員児童委員連合会によると、協力員や協力委員を置く市区町村は全体の約9%と少ないが、メリットは大きい。
兵庫県の制度は民生委員の後継者育成が目的ではないが、伊丹市では昨年誕生した新任の民生委員48人のうち、13人が協力委員経験者だった。民生委員の活動を近くで見て、「もっと深く地域に関わってみようと考えてくれる人もいる」(野口さん)という。
高齢化に加え、近隣住民とのトラブルを抱える世帯など慎重な対応が必要なケースも珍しくはなく、民生委員を引き受ける際の心理的なハードルが高くなっている。民生委員の定数に対する充足率の全国平均は90%台後半と高いが「引き受けてもらうため、『特別なことはしなくていいから』と説得するケースもある」(関係者)との声も多く、なり手確保は綱渡りの状況だ。
全国社会福祉協議会の池上実・民生部長は「民生委員の活動をサポートする協力員の制度は、見守り活動の頻度を上げられるなど地域のメリットにつながる。地域の実情に合わせ、うまく活用してほしい」と話す。
<民生委員>  民生委員法で定められた無報酬のボランティアで、児童福祉法が定める児童委員も兼ねる。全国約23万人のうち60歳以上が全体の8割で、女性が6対4の割合で多い。3年ごとの改選時に3分の1近くが入れ替わる状況が続いている。

施設生徒の自立を支援 退所を前にセミナー

佐賀新聞 2017年9月24日

佐賀市児童養護施設の退所を控える高校3年生の自立を支援するセミナーが23日、佐賀市で開かれた。社会人に必要なコミュニケーションの基本や、対人関係を円滑にするコツをアドバイスした。
施設の入所者は高校を卒業する18歳で原則退所しなければならないが、貧困や親の虐待で施設に入ったケースでは親を頼ることができない。セミナーはこうした生徒の就職や進学をサポートしようと、NPO法人「ブリッジフォースマイル」(同市)が8月から開いている。
講師を務めたNPO法人「国際教育支援機構」(福岡市)の窪田広信代表(39)は、退所者の多くが「職場での人間関係」などコミュニケーションに関する悩みを抱えているというアンケート結果を紹介。「一方的ではなく、相手に合わせて言葉を選ぶことが重要」と助言し、まず自分から進んであいさつすることを求めた。
県外での就職を予定する男子高校生(17)は「社会では自分の考えを伝え、相手のことを理解することが重要だと分かった」と話していた。セミナーは来年1月まで6回開く。

国連:子どもの性的虐待を止めるよう北朝鮮に圧力を
政府は子どものレイプや性的虐待を否定

国際人権NGO 2017年09月23日

(ソウル)― 国連・子どもの権利委員会は、性的虐待や性的嫌がらせの被害者である子どもたちを保護するよう、北朝鮮政府に圧力をかけるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。
2017年9月20日の第76回会期の一環として、同委員会は北朝鮮政府関係者とのヒアリングを開き、子どもの権利保護に関する同国の状況について議論する予定。
北朝鮮政府は2008年から子どものレイプや性的虐待、性的搾取で罰を受けた者はいないと主張。なぜなら、「北朝鮮の人びとはこのような行為をもっとも恥ずべきものとみなしており、想像もつかない」からだという。
しかしヒューマン・ライツ・ウォッチは、(子どもの権利委員会による審査のための報告期間である)2008年?2015年に起きた性的嫌がらせまたは性的虐待のケース4件、2000年代初めに起きた3件について調査・検証した。
近ごろ脱北したか、北朝鮮内にいながら連絡の取れている北朝鮮市民は、少女たちが性的嫌がらせや性的虐待を受けても政府関係者が捜査することはなく、被害者の家族が汚名を着せられるだけだと信じている保護者たちがおり、正式に告発したがらないと証言した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局 局長代理フィル・ロバートソンは、「北朝鮮の少女たちは性的虐待の被害を受けても、どこにも訴えることができない実態だ」と指摘する。
「子どもの権利委員会は、性的虐待は存在しないという主張が偽りだと示し、被害者のための現実的かつ実質的な保護を確保する措置を速やかに講じるよう、北朝鮮政府に強く求めなくてはならない。」
子どもの権利委員会は、子どもの権利をまもる人権条約である「子どもの権利条約」(CRC)が定める義務を、各締約国が遵守しているかを審査する18人の独立専門家から成る機関だ。
北朝鮮は1990年に批准。委員会はまた、北朝鮮が2014年11月に批准した「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する選択議定書」の実施状況も監視している。
子どもの権利条約を批准する政府は、条約に基づいて権利義務をどのように果たすかについて、委員会に定期的な報告書を提出しなければならない。
各国は、条約への加盟から2年後に第1回の報告書を提出し、その後は5年ごとに定期報告書を提出することになっている。
2016年5月に、北朝鮮政府は2012年提出分の第5回報告書と、2008年?2015年を網羅した第6回報告書を提出。
子どもの権利委員会は会期前作業部会を2月に開き、9月20日に北朝鮮との全体会議を実施する。

性的虐待の目撃者証言
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2015年1月?2017年2月にかけて、北朝鮮の成人と子ども26人に聞き取り調査を実施。
人びとは、北朝鮮女性や少女が、性別が理由の暴力を目撃したり経験することが珍しくない実態について詳しく語った。
聞き取り調査に応じた北朝鮮市民たちは、家庭内暴力は通常、処罰されることも、調べられることもないと話す。
当局は家庭内暴力を私的な事がらとみなしており、国家や家族外の人間が介入すべきではないと考えているという。
咸鏡北道(州)、両江道、平安南道の都市部出身である証言者のうちの5人は、公共の場で男性が女性に言葉や暴力による虐待をしている様子を、子どもが目撃することは珍しくないと語った。
これら虐待の理由は様々だが、女性が、男性が「傲慢」だと感じる態度をみせたり、タイミング悪く男性を見たり、男性の質問に素早く答えられなかったり、男性とビジネス上のいざこざを起こしたこと等が理由だった。
また、公共の場や私的な場で、女性や少女が胸や臀部を触られたり、服の下に手を入れられたりする痴漢行為が横行しているが、政府は何も手を打っていないとも詳述。
こうした行為は通常、公式行事や近所の祝い事、電車の中、車やトラックでの移動中など、混雑した場所でみられるという。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応えた成人・少女らは、被害者たちは当局が真剣に捜査するなどとは信じていないため、性暴力犯罪を告発しようとはしないと話した。
被害者は、性的虐待を受けたことが明るみに出たときの周囲の反応や汚名を恐れており、加害者は結局、汚名も裁きも受けずに無傷のままでいることになる。
性的虐待のサバイバーたちは、真相を知っている家族や親しい友人たちから、告訴しないようすすめられたと証言した。
聞き取り調査に応じたすべての北朝鮮市民はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、警察や治安部隊は女性に対する暴力を重大な犯罪とはみなしていないと話す。
2000年代後半までに2つの道(州)で10年にわたって起きた、すべての刑事事件について報告を受けていた国家保衛省(SSD)の元捜査官は、2016年12月に、第三者の目撃者がいないレイプ事件で告訴した女性をみたことがないと証言した。
彼によれば、警察と国家保衛省は、女性が重体になるか死亡した場合、または被害者が強力な一族の関係者の場合だけ、性的暴行またはレイプ事件を捜査する、という。
ある国家保衛省の元捜査官および朝鮮労働党の元高官2人は、当局が女性に対する暴力の加害者に何らかの行動を起こしたケースもあるが、加害者の地位を狙う政敵が仕掛けたり、個人的な復習などなんらかの下心がある場合だったという。
こうしたケースの刑罰が懲役刑であることはめったになく、降格処分を受けるか、望まない地方職につけられるか、あるいは鉱山労働に送り込まれる可能性が高い、とのこと。
それに当局が介入したところで、被害者がサポートを受けられるわけではなく、事件が明るみに出たことで汚名に苦しんだり、報復の可能性に怯えたりしなければならないことになるという。
聞き取り調査対象者の数は、北朝鮮内の全体的な状況をめぐる結論を導き出すのに十分とは言えないが、各人の個人的な体験であるが、一貫した人権侵害の実態が示された。
証言者が語ったのは、子どもへの性的嫌がらせやレイプ、保護の欠如といった憂慮すべき実態だった。

サバイバーは語る
2015年、(2014年に脱北した)20代の女子学生は、両江道に住むおばと話した。おばは女子学生の5歳になるいとこが、面倒をみることになっていた一家の友人にレイプされていたと話したという。
「いとこはどうにかして、彼女の身に起きたことを説明できたため、家族は加害者の男を二度と近づけさせませんでした」と女子学生は言う。
しかし被害者の少女の両親は、誰にもレイプのことは話さないと決めた。誰も何もしてくれないだろうと確信していたからだ。
加害者が罰せられる可能性もないし、地元に事件のことが知れわたれば、娘の将来や結婚が台無しになってしまうと考えたのだった。
その女子学生は2016年2月にヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、地元の大人の大半が子どものレイプは想像を絶する犯罪であると言っていたので、おばが話したことには驚いたと語った。
しかし彼女は、子どものレイプは大人が話すよりもずっと一般的だと確信しているという。15歳の時、両親から近所の老人の家の近くを通らないように警告されたそうだ。
孫娘をレイプし、重傷を負わせて家族から縁を切られたという老人。その時に母親からレイプとは何かを聞かされ、彼女自身も6歳の時にベビーシッターをしていた隣人からレイプされていたことに気づいた。
「人形で遊んでいたら別のゲームをしようと言われました。痛くて嫌だったことを覚えています。彼は心配するな、数を数えよう、ほら10、9、8……。私は両親に泣きながら彼は嫌いだといい続けましたが、両親は何が起きたのか気づいていませんでした。彼に預けられた3回目にやっと、両親は私を彼から引き離そうと決めたのです。」
彼女は自分の身に何が起きたのかを理解した後も、汚名と結婚相手を見つけられないことを心配して、その体験を他言することはなかった。
ロバートソン局長代理は、「北朝鮮政府は、同国の子どもに対する性的虐待の否定をやめ、サバイバーが包括的な保健や法的・社会的サービスを、汚名や報復を恐れることなく利用できるよう保障する必要がある」と述べる。
「子どもの権利委員会は、これらのひどい人権侵害を野放しにしている政府を非難し、北朝鮮の子どもたちの保護を最優先するよう強く求めなければならない。」
(2017年9月20日「Human Rights Watch」より転載)