子どもの問題行動、裏にトラウマ記憶 鍵は「安心感を高めて」

沖縄タイムス 2017年11月11日

 虐待などで、安心して暮らせる居場所を失った子どもの一時避難先となる「子どもシェルター」の全国ネットワーク会議が4、5の両日、那覇市の県総合福祉センターで開かれた。県内初開催で、シェルターの運営などに関わるスタッフや弁護士ら約100人が参加した。スタッフ分科会では、琉球大の本村真教授(社会福祉学)が、子どもの問題行動の裏にある「トラウマ記憶」について講義した。
 本村さんは、トラウマ記憶(心の傷)は、過酷すぎて耐えがたい体験を「瞬間冷凍」して感情などをまひさせることで自分を守る方法だと説明。その体験が丸ごと「ひとかたまり」になってセットで記憶されるのが特徴だと解説した。
 トラウマ記憶は音や匂い、触覚など類似する何らかの刺激がきっかけとなって「瞬間解凍」され、ワンセットで再現されるとした。
 解凍されるのは怒りや恐怖感、絶望感などの強烈な感情や、自分が悪いという幼児的な信じ込み、逃げる、うそをつくなどそのときに有効だった対処方法など。
 いまは中学3年生であっても、記憶が瞬間冷凍された3歳のその子が前面に出てきてしまう。本来なら中学3年生相当の知力や体力で試行錯誤して解決策を見つけるところを「トラウマ記憶が再現されることによってワンパターンの対処方法が繰り返される」という。
 例えば、万引はしないと約束しても、いざコンビニに入ると「いま万引しないと、またひもじい3日間が待っている」という「瞬間冷凍」時の記憶のスイッチが入り、同じことを繰り返してしまうことがある。
 本村さんは「成育途中でストレスを抱え、先行きに不安を感じている子どもはすぐにスイッチが入ってしまう。そこで責めると、『どうせ自分は誰からも大切にされない』『どうせ大人は分かってくれない』と思ってしまう」と指摘。
 「トラウマの記憶スイッチは必ず切れる」として、対処方法として、スイッチが入っているときは不必要に追いかけずに「適切なスルー」をし、スイッチが切れているニュートラルな状態のときに語り掛けたり、アプローチするのがいいとアドバイスした。
 また、特に児童期であれば「理解ある大人との交流による『新鮮な体験』が加わることで、トラウマ記憶の影響が薄れる可能性が高い。ワンパターンを崩し、新鮮な体験を提供することが支援のポイントの一つ」と指摘した。
 本村さんは「子どもに何が起こっているかを理解するためにトラウマ記憶の知識が役に立つ」と語った。
 スタッフ分科会には全国のシェルター関係者30人余りが出席し、日ごろの支援の悩みや課題を話し合った。
 禁煙など、シェルター内のルールが守れない子どもたちにどう対応したらいいかという声が上がった。本村さんは「課題が多い子の場合、優先順位をつけて、ちょっと頑張れば守れるルールをつくり、できたら褒めることで、『ここにいていいんだな』という安心感を高めることが大切」と助言した。

 

「子どもの死」検証を制度化へ 事故や虐待の経緯を集積

朝日新聞デジタル 2017年11月10日

 厚生労働省は、事故や虐待などによる子どもの死亡事例を幅広く検証し、再発防止につなげる制度を導入する方針を固めた。「Child Death Review(チャイルドデスレビュー、CDR)」と呼ばれ、死亡に至った経緯を詳細にデータ化するのが特徴だ。虐待死や保育現場での事故死など痛ましいケースが後を絶たないためで、2020年度までに具体的な制度設計を終え、導入したい考えだ。
 CDRは米国や英国などで制度化されている。事故や虐待、病気や自殺などで亡くなった子どもについて、死亡の経緯だけでなく、生活背景や治療状況、育児の実態などをデータ化。医師や警察、児童福祉関係者ら有識者が共有して原因を検証する。どうすれば防げていたかを分析し、再発防止策に生かす。
 日本でも、虐待死や生活用品による事故などを個別に検証する仕組みはある。だが、捜査機関から提供される情報が限られるなど、広く死亡事例の詳細を共有し検証する制度はない。
 厚労省は10月にプロジェクトチームを立ち上げ、子どもの死亡事例の検証に取り組む小児科医らから現状の聞き取りを始めた。18年度中に運営指針や法整備の調査研究をまとめる。その後、20年度までに具体的なデータ登録や検証方法などを決める方針だ。
 子どもの対象年齢はまだ決まっていないが、日本小児科学会は18歳未満を提言している。厚労省によると、16年の18歳未満の死者は4035人だった。同年中の保育施設での事故死は13人で、15年度に虐待で亡くなった子どもは84人いた。
 CDRについては、同学会などが長年必要性を指摘。5月に衆院で児童福祉法改正案を可決する際には、付帯決議に「虐待死の防止に資するよう、あらゆる子どもの死亡事例について死因を究明するCDR制度の導入を検討すること」と盛り込まれた。(西村圭史)

 

虐待・ネグレクト…幼少期のつらい体験が、現在の子育てをつらくする理由

All About 2017年11月10日
 
 わが子がかわいいはずなのに、衝動的に怒りが湧き、攻撃してしまうのはどうしてなのでしょう? 虐待危機に直面する母親の心理について解説します。

なぜかわいいわが子を叩いてしまうのだろう?
 子どもにひどい攻撃をしてしまうお母さんのすべてが、子どもを嫌っているわけではありません。むしろ、子どもに恵まれたことに感謝し、幸せを願って子育てに取り組んでいる方の方が多いと思います。
 でも、子どもが泣き叫ぶ声を聞くとなぜか苛立ちが止められず、攻撃的な行動をしてしまう……。そして、あとから自分のしたことを振り返り、「なぜこんなにひどいことをしてしまったのだろう」と頭を抱えている方が少なくありません。
 そんな複雑な心理には「赤ちゃん部屋のおばけ」という現象が関係しているかもしれません。「赤ちゃん部屋のおばけ」とは、米国の児童精神科医 フライバーグによることばですが、もちろん、怪奇現象やゴーストとは何の関係もありません。では、「赤ちゃん部屋のおばけ」とはどのような現象なのでしょう?

幼少期のつらい体験が、現在の子育てをつらくする
 赤ちゃんと2人きりで密室の中で過ごしていると、絵にかいたような「安らかな育児」などありえません。多くの母親が、抱っこしてもあやしても泣き続ける子、片づけたそばから汚していく子に苛立ち、叫びたくなるような心境を経験しているものと思います。
 しかし、多くの母親は「思い通りにいかないのが子育て」と割り切り、家族や地域の子育てサポートを上手に利用しながら、適度な範囲で子育てをしています。そんな大らかさやバランス感覚を持てるのも、自分自身が苛立ちや葛藤を受容され、物事を大らかに捉える術やバランス感覚を教えられてきた結果であることが大きいのです。
 一方、幼少期に虐待などのつらい仕打ちを受け、周囲に対してうまく心を開けないでいる母親はどうでしょう? 育児ストレスを乗り越えるための大らかな考え方やバランス感覚をなかなか伸ばすことができません。そのため、育児ストレスを1人で抱えながら、むずかる赤ちゃんを持てあまし、密室の中で頭を抱えてしまう現象が起こりやすいのです。

「おばけ」に取り憑かれたように、わが子を攻撃してしまう
 このような状況のなか、赤ちゃんと2人きりで過ごしていると、子どもが自分に敵意を向けているように感じられたり、母親の自分から愛されているのをいいことに、わがまま放題をしているように見えてしまうことがあります。
 そして、「私がこんなに頑張っているのに、どうしてあなたは私を困らせるの!?」「幼い頃の私より何倍も幸せなはずなのに、これ以上何をしてほしいの!?」と思考が極端な方向に暴走してしまいます。こうしてわが子に対して衝動的に怒りの感情が湧き、とっさに攻撃してしまいます。この現象を「赤ちゃん部屋のおばけ」と呼びます。まるで赤ちゃんの部屋に目に見えない「おばけ」が潜んでいて、そのおばけに取り憑かれて攻撃してしまったように感じられるためです。
 では、こうした「赤ちゃん部屋のおばけ」の危機を感じたとき、どうしたらいいのでしょう?

思考と行動の矛盾を理解するためにも、相談は有効
 幼少期に虐待などのつらい経験を持つ母親は、「私は自分の親とは違う」「自分がされたようなことは、絶対に繰り返さない」と心に決めて子育てを始めたものと思います。
 しかし、密室の中でむずかる子どもを目の前にすると、なぜか自分がされたことをわが子に繰り返してしまう……。そんな思考と行動の矛盾に苦しんでいるのではないでしょうか?
 こうした思考と行動の矛盾が生じる背景には、「いいお母さん」になろうとして頑張りすぎていること。身近に気持ちを受け止めてくれる人、育児を助けてくれる人がいないこと。また、自分自身のつらい幼少期の経験による内的な葛藤が現在の子育てに投影され、感情の制御がきかなくなってしまうことなどがあります。
 自分一人で、こうした心理を客観的に分析し、軌道を修正することはなかなか困難です。したがって、ぜひ早めに専門家による相談支援を受け、具体的な育児サポートを利用するのが有効です。

一人で抱えず、相談窓口に電話をしてみよう
 いちばん身近な相談窓口は、地域の保健センターです。その他にも、最寄りの市区町村の児童保健福祉課、子育て支援センター、県の児童相談所が相談に対応しています。また、虐待予防や子育て支援を専門とするNPOなどにも電話相談窓口があります。こうした窓口に電話をすれば、必ず何らかのアドバイスをもらえたり、カウンセリングを案内されたり、具体的な支援サービスについての情報が得られたりします。
 もちろん、夫や友人や知人などの身近な人に打ち明け、気持ちを聞いてもらうのもいいでしょう。しかし、気持ちを打ち明けることで一時的に楽になっても、具体的な解決にならないこともあると思います。また、これらの人々がかならずしも効果的なアドバイスをしてくれるとは限らず、逆に責められてしまうことがあるかもしれません。
 自分の気持ちを整理し、自分が何に困っていて、どんなサポートが必要なのかを知るためにも、やはり専門相談窓口で相談し、具体的な支援情報を入手するのは有効です。周囲の人に「赤ちゃん部屋のおばけ」の危機を感じたときにも、ぜひ上のような相談窓口を紹介してあげてください。
(文:大美賀 直子)