暴言も子の脳に影響 マルトリートメントを解説 小児精神科医・友田明美さん

琉球新報 2017年11月27日

暴力によって子どもたちの脳が傷つくことを報告した友田明美さんの講演会

11月は「児童虐待防止推進月間」
 福井大学子どものこころの発達研究センター教授で小児精神科医の友田明美さんによる講演会(県立看護大学主催)が11月17日、県立博物館・美術館講堂で開かれた。
 友田明美さんは「マルトリートメントやDVにより傷つく脳と回復へのアプローチ」と題して講演し、虐待や暴言などの暴力が子どもの脳にダメージを与え、健全な心の発達を阻害すると報告した。背景に親の子育て困難があるとし、子育て世帯を多くの手で支えることが重要だと説いた。

無視や夫婦げんかも
 マルトリートメントとは、虐待よりも広義で「不適切な養育」を指す。言葉による脅しや威嚇、無視、子どもの前での激しい夫婦げんかも含まれる。
 友田さんは、国内外で行ってきた被虐待児の脳の画像診断や臨床研究の結果を基に報告。子ども自身が言葉による暴力を受けた場合は、コミュニケーションで重要な役割を果たす聴覚野で変形がみられたという。
 しつけと混同されがちな体罰では、感情や思考をコントロールし行動抑制力にかかわる前頭前野の容積が小さくなっていた。さらに、両親のDVを目撃して育った児童の場合は、視覚野の容積が正常な脳と比べて平均6%小さくなっており、視覚による記憶力が低下していることが分かった。
 友田さんは「身体的なDVを目撃した場合より、罵倒や脅しなどの言葉による暴力を見聞きした場合6~7倍も脳が萎縮しており、ダメージが大きいことが分かった」と指摘。「子どもの心や脳を傷つけないためにも、夫婦げんかをする時は、メールやLINE(無料通信アプリ)でしてほしい」と求めた。

愛着、再形成できる
 子どもの健全な心の発達には、信頼できる大人との愛着形成が不可欠だと説いた。目と目で見つめ合う、手と手で触れ合う、語り掛ける、笑い掛けるという愛着の三要素を紹介し「愛着が形成されると、子どもが落ち着いた行動が取れる」と指摘した。
 不適切な養育によって愛着形成がうまくいかなかった場合も、再形成は可能だとし、子どもが暴れたり、手を出したりするなどのトラブル時には、静かな部屋に移し、頭ごなしに怒らないよう助言。安定した環境の中で根気強く接し、褒め育て、時間をかけて子どもの負った傷を癒やしていくよう説いた。同時に、子育てする親のサポートは重要だとし「子育て家庭に声を掛けて不安を聞き取り、その情報を専門と連携してつなぐ『おせっかい』を焼こう」と求めた。
 同日は医療関係者や児童福祉の専門職員、一般ら215人が来場。講演後は、愛着障がいの子どもとの具体的な関わり方や、性的虐待を受けた子どもへの脳の影響などの質問が相次いだ。

「死にたい」は「寂しい」? 10代がつぶやく「死にたい」の本心〈AERA〉

AERA dot. 2017年11月28日

 向こうに見えるのは座間事件の現場となったアパート。事件後、ツイッターなどを監視する動きが強まっているが、ある私立高校の教員は「管理より解放が必要なのに」と懐疑的だ (c)朝日新聞社
 神奈川県座間市のアパートで、3人の高校生を含む男女9人の遺体が見つかった事件。これほど多くの若者がSNSに「死にたい」と書き込んでいることに、驚いた人も多かったのではないか。
 この事件を知ったとき、同じ県内に住む大学1年生の女性(18)は動悸が治まらなかった。
 「私だってあのアパートに行ったかもしれない」
 親の薦めで入学した進学校になじめず、高校1年で不登校に。アプリ「ツイキャス・ライブ」でスマホやパソコンからライブ配信される映像を、ベッドの中で見続けた。登場するのは会社員や学生など一般人。他愛のない世間話に逆に癒やされたという。お気に入りの男性は「アイドル」。人気者だと一度に3千人ほどがライブ配信に集まり、そこでの交流も楽しかった。
 女性は言う。
 「集まってくる人は癒やしを求めていた。だってリアルはキツいもん。親が大変、学校が大変って言う不登校やひきこもりの人がほとんど。自分と同じようにリアルから逃げてきた人ばかりだから気が楽だった」
 「リアル」は現実の生活のこと。学校にいる数少ない友達から「大丈夫だよ」とLINEが来れば「ありがとう」と返したが、内心は「あなたは学校行ってるじゃん」。大人たちの「昔、私も不登校だった」という共感にも素直になれず、「過去はそうでもいまはちゃんとしてんじゃん! 私の未来なんかどこにもないよ」と心で叫んだ。倒れそうになりながらたまに学校に行けば「みんなといてもひとりぼっちだ」と感じ、「自分はいないほうがいい」と思い詰めた。
 ネットの世界でも孤独は変わらなかった。何度も見かけた「死にたい」のつぶやきに「私でよければ話聞くよ」とダイレクトメッセージ(DM)を送っても、「ありがとう。大丈夫」と返されるだけ。言葉のやりとりだけでは本当の友達にはなれない。虚脱感に襲われた。
 「寂しかった。座間の被害者も、私と同じ気持ちだったと思う」
 彼女自身も、DMで「会わない?」と男性に誘われたことがある。検索すると、その男から暴力を受けた、などの書き込みがあった。
 「誘ってきた人が悪い人だと事前にわかったから断れた。わからなかったら行ったかもしれない。死にたいくらい(気分が)落ちているとき、その人がいい人なのか、危険な人なのかなんて判断できないと思う」
 厚生労働省自殺対策推進室が発表した「人口動態統計に基づく自殺者数」によると、2016年の自殺者数は約2万1千人と過去10年で最も少ない。一方で、20歳未満の自殺者は近年500人前後で推移し、減る気配がない。
 座間事件の被害者の中にもツイッターに「死にたい」と書き込んでいた人がいた。だが、白石隆浩容疑者(27)は「本当に死にたいと思っている人はいなかった」と供述している。「死にたい」が「寂しい」だとしたら、その深い孤独に大人はどう向き合えばいいのか。
 NPO法人パノラマ理事長の石井正宏さん(48)は、7年にわたって高校生対象の相談員を続け、現在、神奈川県の県立高校で「放課後カフェ」を運営している。生きづらさを抱える中高生と大人を結びつける場所として、近年、神奈川と大阪を中心に広がりつつあるこの取り組みの第一人者だ。
 座間事件の直後、2年周期で死にたくなるという20代の男性に「君はなぜサバイバルできたんだろう?」と尋ねた。答えは「人に散々迷惑をかけながら生き延びてきたのかな」。
 石井さんは言う。
 「彼らには、迷惑をかけ、依存できる人が必要だと思う」
 依存という行為はネガティブに受け止められることもあるが、石井さんは、脳性まひの医師・熊谷晋一郎さん(40)の「自立は、依存先を増やすこと。希望は、絶望を分かち合うこと」という言葉が真理だと考えている。熊谷さんは、障害を抱える人たちが互いに協力し課題を解決していく「当事者研究」をリードしている人物でもある。
 以前は、学校が中高生の依存先でもあった。授業のみならず部活動や生徒指導の場でも、教師は彼らと向き合ってきた。
 「学校はもう依存先ではありません。教師たちは多忙で限界を迎えている。先生がオールマイティーな時代は終わったんです」
 と石井さん。実は、中高生は中高生なりに微弱なSOSを出している。でも、放課後に「ちょっといいですか?」と担任に近づいても、話してくれるのは数回に1回程度。それを聞いた教師らは、
 「聞かなきゃと思うけど、会議があるから行かなきゃ。でもほとんどの場合、会議より話を聞くほうが重要だったと後悔する」
 こうして中高生は絶望し、ネットで漂流し始めるのか──。
 石井さんによれば、そもそも学校が行うのは「指導」であって「支援」ではない。だが、いまの中高生に必要なのは支援。それも対処型の支援から予防型の支援に変えなくてはいけない。
 「スクールカウンセラーに予約を取る子は訴えが明確ですが、漠然とした不安やつらさを抱える子たちは自分でも何を訴えたいのかがわからない。コーチング用語で不安の塊を『チャンク』と言いますが、僕らは子どもたちと話しながらその塊を砕き、問題を分解して解決する。専門性を持つ第三の大人がかかわるチャンネルをどう増やすかが重要なのです」(石井さん)

第一の居場所である家庭は安心できるところなのか。
 都内の小中一貫塾・小金井学習センターで30年間子どもを支援し、現在は通信制高校講師を務める口山衣江さん(74)は、男子中学生の言葉が忘れられない。
 「うちのお父さん、勉強でも何でも富士山に登れって言うんだ。高尾山なら登れるんだけど」
 高尾山だって599メートルもある。親からの過度な期待につぶされそうになっていた。
 「目標設定をわが子に任せるのは、子どもの少ない時代の親にとっては難しいことかもしれません。だからこそ親同士で学び合ってほしい」(口山さん)
 冒頭の女性は通いたい大学が見つかったのを機に「リアル」に戻った。母親(45)は、
 「ママ友に助けを求めたら、必要な支援先を教えられたし、いまはほっとけとかアドバイスももらった。迷惑かけてOKっていう空気がありがたかった」
 まさに依存先を増やしたことが自立につながっていた。
 女性は、座間事件を受けて国がサイトの削除や書き込み制限などネットを規制する方向に向かっていることを憂う。
 「ネットはいずれ卒業する。だから奪わないでほしい。そこにいる8割は、いい人なんだから」

「幼児教育無償化より待機児童解消」 政策動かすSNS

朝日新聞デジタル 2017年11月27日

 自民党「人生100年時代戦略本部」の片山さつき副本部長に、保護者らから集めた署名を提出する「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」のメンバー=東京・永田町の自民党本部
 子育て世代の親らでつくる市民グループが27日、東京・永田町の自民党本部を訪ね、「政府・与党が進める幼児教育無償化より待機児童解消を」と求める3万人を超す署名を届けた。グループは、SNSを武器に子どもを保育園に入れられない当事者らの声を束ね、子育て政策を動かし始めている。
 「公約で掲げた無償化にこだわらず、当事者の生の声や要望を、もっと政治に反映させてほしい」。27日昼、自民党本部。すやすや眠る子を抱っこひもでかかえた母や、有休を取ったスーツ姿の父ら10人の保護者が「人生100年時代戦略本部」の片山さつき副本部長に署名を手渡した。
 10人は、東京都武蔵野市などの「保活」経験者で結成された「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」のメンバーだ。会社勤めなどのかたわら、昨年、保育園の新設を求める陳情を4千人超の署名とともに武蔵野市議会に提出し、全会一致で採択された。だが、周辺住民の反対もあって一つも新設されなかった。
 「じゃあどこへ行けばいい?」。話し合った末、国会へ。与野党の議員に呼びかけ、衆議院議員会館で2度、待機児童ゼロを訴える集会を開いた。
 並行してSNSでの発信を始めた。工夫したのが見せ方だ。キーワードで興味のある投稿を一覧できるハッシュタグ(#)機能を使って「#保育園に入りたい」と題し、落選通知を写真に撮ってアップしてもらうよう親たちに呼びかけ、待機児童問題で困っている人たちを「見える化」させてきた。
 そうした中、安倍晋三首相が衆院解散を表明した9月の会見で「3~5歳の全ての子どもの幼児教育と保育の費用を無償化する」と表明した。
 ところが、選挙後の今月初旬、認可外の保育施設は無償化の対象外との政府方針が報じられた。
 「選挙の前後で話が違う」と、ツイッターで「#子育て政策おかしくないですか」と発信。子育て世代から批判するツイートが連なった。その後、政府は対象に入れる方針に転じた。
 現在は、限られた財源の使い道を問う声を上げている。衆院選で自民党の公約に無償化策が挙げられた直後、「財源に限りがあるなら優先してほしい政策」をツイッター上で有権者にアンケート。1週間で約6千の回答が集まり、「幼児教育無償化」をあげたのは16%、「待機児童解消」は77%だったとの結果を公表した。
 27日に手渡した署名は、希望する人全員が入れるよう保育園をつくることや保育士の待遇改善を求めたものだ。ネット上で呼びかけ、3万人近く集まったころ、政府は消費増税分の一部を使って保育士の賃金を引き上げる方針を固めた。
 署名を受け取った片山氏は、「すごいパワーを感じる。政治としては、当事者の思いをまとめてもらえることはありがたい」と応じた。メンバーの男性会社員(41)は「たった10人の問題提起が一気に何万人に広がり、政策を論じ、意見を表すところまできた。だがここで満足せず、今後、実際の政策がどうなるかを注意深く見守りたい」と話した。(田渕紫織、中井なつみ)