児童養護施設内虐待とは何か ~ある知的障害児からの手紙より~

駒崎弘樹 認定NPOフローレンス代表理事 2017年12月11日

 ある里親の方と、家庭養護を推進する有識者の方とお会いした時のこと。
 里親の方が、有識者の方に言いました。
 「うちで預かっている、知的障害のある子が、先生にお手紙を書いたんです。」
 そこには、こう書かれていました。

 「私は◎才でしせつに入り ▲と同時に里親さんのところに来ることができました。
 先生がより多くの子が里親さんにゆけるように決めてくださり、本当にありがとうございます。
 しせつでは強い力を持つ子が、弱い子をイジメたり、職員が手を上げてよくぶたれたり、ぼう言を言ったりする所で、私もそのしせつにいました。
 あざが出来たら、年上のお姉さんのファンデーションでかくしました」

児童養護施設内での虐待の実情
 里親さんに聞くと、この手紙を書いた子どもは、ここにある以外にも、性的虐待も同じ施設内の子どもたちから受けていたということでした。
 「あるのよね・・・」と有識者の方は語ります。
 「虐待されたり、養育不全の家庭の子どもたちが、一箇所に集められて・・・。しかも家庭的と言われるグループホームでさえ、5、6人を、施設によっては8人を職員1人でケアしなければならない時間帯があって、目も届きづらいのよね・・・」
 児童養護施設は、虐待等で親と離れて暮らす2歳から18歳までの子ども達が暮らす、児童福祉法で定められた施設です。
 多くの児童養護施設はしっかりとした運営をしていますが、中にはこうした施設内での子ども同士のイジメや虐待、職員による不適切な指導等があるようです。
 子どもは児童養護施設を選択することはできず、問題のある施設も第三者評価などは通ってしまいます。
(本件については、施設名まで聞きましたが、子どものプライバシーに配慮し、ここでは記載しません)

家庭養護への転換
 欧米では、児童養護施設内における様々な事件、またなるべく1対1で子どもと向き合っていくことが、子どもにとって最善であろう、ということで、里親や養子縁組等の家庭養護に政策的に舵を切っていった歴史的経緯がありました。
 (ただ、注意すべきなのは、施設養護に対し家庭養護が常に優れている、ということではありません。ティーンネイジャー等、家庭養護よりも施設での暮らしの方が合っている、という感想もありました。また、精神疾患の重い子どもは、施設での複数人による職員体制が望ましい場合もあります。子どもの特性に合わせ、最も良いケアができる手法という観点で、適宜検討されていくべきものです。)
 日本でも2017年、塩崎恭久厚生労働大臣・山本香苗副大臣のリーダーシップによって児童福祉法が改正され、また「社会的養育ビジョン」が打ち出され、社会的養護における家庭養護への転換が示されたのでした。

始まる社会的養育ビジョンの骨抜き化
 ようやく、子ども達により手厚いケアをしていく方向に、政策転換がなされてきたかと思いきや。
 塩崎厚労大臣が8月3日で退任してから、半年も経たずに社会的養育ビジョンの解体は始まりつつあります。
 まず、社会的養育ビジョンで「特別養子縁組を2倍に増やす」と語られましたが、そのための民間養子縁組団体への補助額は、わずか年間3000万円弱と、桁違いに低いものになろうとしています。
 また、社会的養育ビジョンを具体化する審議会においても、厚労省の腰が引けつつあることを、有識者の方々の中で懸念する声は高まっています。
 情熱を持って政策の旗振り役となる政治家が消えると、組織内部では推進力が失われ、そして当初の考えとは全く異なる劣化した制度が生み出されてしまいます。
 今まさに、社会的養育ビジョンは徐々に骨抜き化されつつあると言えるでしょう。

どうすれば良いのか
 トップ1人の情熱に頼っているだけだと、今回のようにトップがいなくなったら、推進力を失ってしまいます。
 多くの政治家や民間インフルエンサーが関心を持ち続ける「応援団」としてぶ厚い層をなしていれば、たとえ厚労省が逃げ腰になろうとも推進力を保ち続けることができます。
 もっとも弱い立場にいる子ども達を、支え続けたいという人たちを増やし、可視化し、声をあげていくこと。
 こうした地道な努力が今、求められています。
 安らぎの場であるはずの施設で殴られ、障害児が泣きながらアザにファンデーションを塗らずに住む社会を、僕は実現したいと思っています。

里親委託率、数値目標入れるか意見対立 都道府県推進計画の見直しで

福祉新聞 2017年12月6日

厚生労働省
 厚生労働省は11月22日に社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会(委員長=柏女霊峰・淑徳大教授)を開いた。「新しい社会的養育ビジョン」を踏まえた都道府県推進計画の見直し要領の策定に向け議論。新ビジョン策定に関わった委員からは里親委託率を盛り込むべきとする意見が出たが、児童養護施設や自治体は反発するなど、意見は対立した。
 新ビジョンは、2016年の改正児童福祉法を具体化するもの。原則、就学前の施設入所を停止することや、7年以内に里親委託率を75%以上に上げることなどが盛り込まれており、全国児童養護施設協議会(全養協)は「驚きと衝撃」と反発していた。12月に厚労省がまとめる推進計画の見直し要領に数値目標を入れるのかどうかが焦点となっている。
 会合で、新ビジョンをまとめた検討会の座長だった奥山眞紀子・国立成育医療研究センター部長は、法改正時点で原則里親委託が示されているのに、なぜいまさら全養協は衝撃を受けているのかと批判。「目標がないとスルーするのが人間だ」と述べ、推進計画に数値目標を盛り込むべきと主張した。
 同様に、吉田菜穂子・全国里親会評議員も「新ビジョンの通り、推進計画に里親委託率の目標値を盛り込んでほしい」と要望。同時に都道府県への人材配置やレスパイト支援などを求めた。
 これに対し、桑原教修・全養協会長は「里親委託へのシフトを衝撃としているわけではない」と反論。「我々は戦後70年にわたり子どもを育ててきた自負がある。新ビジョンにはそうしたベースがないのが衝撃だ」との認識を示した。

自治体も慎重
 自治体からも慎重な声が相次いだ。
 全国知事会の立場で、山本倫嗣・高知県児童家庭課長は、里親委託率や原則新規措置入所停止などを推進計画に入れることに反対の立場を表明。「地域の実情を反映してほしい」と述べた。
 また、江口晋・大阪府岸和田子ども家庭センター所長は、被虐待児が多いため里親の質的向上が不可欠と指摘。「高い目標なら現場のモチベーションが上がるわけではない」と数値目標を盛り込むことに反対した。
 竹中雪与・東京都育成支援課長はたった3回の議論で見直し要領を作ることに疑問を呈し、「区市町村の体制整備をし、都道府県が一体的に支援するのが大事だ」と語った。
 学識者の立場からも、宮島清・日本社会事業大大学院准教授が「まずは里親の支援体制の目標を作るべき。高い目標を掲げれば、家庭養護の質が下がり危険」と警鐘を鳴らした。
 こうした意見に対し、奥山委員は「数値目標には全部反対だという人もいるが、数値を入れずして、子どもが22歳までずっと施設にいることをどう防ぐのか。アイデアを出すべき」と発言。すぐに桑原委員が「子どもの育ちを数字で分断してはいけない。柔軟に選択肢を持ちながら、関係性の中で自立支援すべき」とけん制するなど、議論は平行線をたどった。

インフルエンザ、ノロウイルス 最新の傾向、効果的な予防は…

@S[アットエス] by 静岡新聞SBS 2017年12月10日

 ノロウイルス(感染性胃腸炎)やインフルエンザウイルスなどの感染症が広がりやすい冬場。静岡県は1日、県内でインフルエンザの流行が始まったと発表した。ことしの傾向や効果的な予防について、静岡市葵区のJA静岡厚生連静岡厚生病院小児科診療部長の田中敏博医師に聞いた。

インフルエンザ ことしはB型が先行
 インフルエンザウイルスの主な感染経路はくしゃみやせきなどによる飛沫(ひまつ)感染で、学校や繁華街、公共交通機関など人が密集している場所で感染しやすい。12~1月はイベントが多く人混みへ行く機会が増えがちだが、田中医師は「不要不急の外出を控え、うがい手洗いを徹底することがまず大切」と強調する。
 インフルエンザワクチンの接種は、発症をある程度抑えたり重症化を防いだりする効果がある。製造の遅れなどにより県内でもワクチンが不足しているが、厚生労働省によると12月中旬以降に行き渡る見通しという。例年はA型が先行し、徐々にB型が増える傾向にあるが、県によるとことしはB型が先行していて、流行開始の時期は例年よりやや早い。

正しいマスクの着け方
 ノロウイルス 食前など手洗いの徹底を
 ノロウイルスは非常に強い感染力を持ち、ウイルスに汚染された飲食物や、排せつ物、吐しゃ物の処理の過程で経口感染する。感染した乳幼児の汚物の処理をする場合は、直接触れないように素早く片付けることが望ましい。ノロウイルスのワクチンは存在しないため、食前やトイレ後、帰宅後の手洗いの徹底が予防になる。
 県によると、例年12月中旬ごろに流行が始まるが、ことしはまだ患者数は増えていない。
 田中医師は「誤ったマスクの着け方をすると感染予防効果が不十分になる可能性がある」と指摘する。まず顔の大きさに合ったマスクを選び、上下と裏表をしっかり確認する。顔とマスクの隙間がなくなるように装着すれば、ウイルスなどの進入を防げる。

熊本地震避難所でも流行 緊急時に備える体制重要
 住民が集団で生活する避難所も、感染症の広がるリスクが非常に高い。県立総合病院などは2日、静岡市で災害感染症に関するセミナーを開いた。
 2016年の熊本地震でもインフルエンザやノロウイルスがまん延した避難所があり、問題視された。国立感染症研究所感染症疫学センターの松井珠乃室長によると、「東日本大震災以降、清潔なトイレやアルコール消毒、手洗いなどの環境整備は進んできた」。
 しかし、発症した患者やその家族の隔離をどう行うか、スペースの確保をどうするかなど、避難所によって対応が変わる問題もある。松井室長は「行政と感染症専門家が日頃から連携を取り、緊急時に即座に対応できる体制をつくっておくことが重要」と指摘した。